Blackmagic Designによると、国内外で数々の映画賞を受賞している濱口竜介監督の長編映画「ドライブ・マイ・カー」のグレーディングに、DaVinci Resolve Studio編集/グレーディング/VFX/オーディオポスト・ソフトウェアが使用されているという。グレーディングは株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのカラリスト、北山夢人氏が行った。
映画「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹の同名短編小説を原作に、濱口監督自らが、共同脚本の大江崇允氏と共に脚本も書き上げ映画化された。妻を失った俳優兼演出家の家福が、映画祭で出会った寡黙な専属ドライバー、みさきとの出会いを通して自分自身の気持ちと正面から向き合い、新たな一歩を踏み出す。
愛するものを失った人々の喪失と希望を綴った同作品は、国内の映画賞はもとより、カンヌ国際映画祭などの海外の映画賞でも数々の賞を受賞しており、米国アカデミー賞でも作品賞を含む4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した。同作のカラリストである北山氏は次のようにコメントしている。北山氏:撮影前にカメラマンの四宮さん(四宮秀俊氏)と一緒にDaVinci ResolveでLUTを作って、それを撮影現場でのモニタリングに使用しました。四宮さんからのリクエストは日本映画というよりは、ヨーロッパ映画の雰囲気の青みがかったトーンでした。あまり極端なビジュアルにせず、自然なルックの中に微かにそういったブルートーンが感じられるように心がけました。
3時間以上にわたる長尺作品だったため、グレーディングにも時間がかかることが予想されましたが、事前に作ったLUTが作品の雰囲気とかなりマッチしていたことで、そこから大きく色を変える必要はあまりありませんでした。ラッシュを見た時の感想は、基本的にいいトーンが出ていて、どこかを直さなければいけないと言うよりは、もうひと回り、二回り良くできるんじゃないかと思いました。
また、同作品で象徴的な役割を果たすのが、主人公、家福の赤いサーブだ。さまざまなシーンで登場するその車の真っ赤な色は、ひときわ印象的だ。
北山氏:全体的にブルー寄りのトーンの中で、サーブの赤やフェイストーンがそのブルーと対比するように見せました。
同作では、東京、広島、そして北海道と、さまざまな地域が舞台となっている。異なる3ヶ所のロケーションの持つ温度感、空気感を出すことに注力したと北山氏は言う。
北山氏:たとえば、東京と北海道は冷たいイメージでブルーとシアンが強めです。それに対して広島は若干暖かみがあるようなトーンにしています。映像の持つ「匂い」や「温度」を伝えることはすごく大切です。
優れた監督と撮影監督がいるといい画が撮れますが、その画に対して、さらに匂いや温度のような感覚をどれだけ伝えられるようにするかが、グレーディングの果たす大きな役割だと思っています。今回、濱口監督と四宮さんの撮られた画はどのシーンも素晴らしく、それをさらに良く見せられるように、その感覚的な部分を伝えるようなグレーディングを心がけました。
同作のグレーディングで苦労した点について北山氏は次のように説明する。
北山氏:バーのシーンではブルーの照明とタングステン系の照明の2トーンになっていたので、それぞれの照明の強弱のバランスを取るのが少し大変でした。リハーサル室で台本を読むシーンも撮る角度で微妙に背景の色や明るさが変わるので、見ていて違和感がないように色を揃えるのに苦労しました。DaVinci Resolveはレイヤーノードのオパシティ(不透明度)を調整することで、グレーディングの微妙な調整ができるのでよく使いましたね。
作品を仕上げる上でお客様とのコミュニケーションは重要です。相手の狙いや意図の本質を理解する事が極めて大切です。コミュニケーションにウエイトを置きたい場合、肝心なのは私自身の作業環境にストレスがないことです。DaVinci Resolveは長年使っているので、使っていてストレスがなく、クオリティに集中する事ができました。
「ドライブ・マイ・カー」は全国ロングラン上映中。