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ソニーは、メディア向けの展示イベントを開催した。システムカメラのような放送局用カメラといったハードウェアだけでなく、豊富な映像ソリューションも提供している。ソニーでは、こうした業務用映像ソリューションを紹介するイベントをメディア向けに開催。映画「トップガン マーヴェリック」でコックピット内の撮影にも使われたVENICEや、IP技術、クラウド、AIといった技術を組み合わせたソリューションが展示されていた。

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映画などでの利用が拡大しているVENICE。分離することでさらに撮影の幅が広がる
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「トップガン」でコックピット内に複数台のVENICEを設置

ソニーの業務用カメラはフルサイズセンサーを搭載する例が増えている。最近ではCineAltaカメラ「VENICE」「VENICE 2」や、「FX9」「FX6」「FX3」の3兄弟などをラインナップ。VENICE 2に加えて、スーパー35mmセンサーを搭載した「HDC-F5500」のように、システムカメラでも大判センサーを搭載するカメラが登場している。

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フルサイズセンサーを搭載したFX9
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FXシリーズはコンパクトかつ遠隔撮影も可能。FX3では定点カメラのようにして、タブレット端末から遠隔で操作して撮影する方法もあるという。VENICEは映像を撮影するカメラヘッドと本体を分離させることができ、狭い場所でも撮影しやすいなど、従来にはない撮影体験を実現しているという。

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FX3はコンパクトなボディながらフルサイズセンサーを搭載。固定カメラのように使われることも増えているという
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遠隔からタブレットで撮影設定の変更やAF、撮影が可能
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映画「トップガン マーヴェリック」では、主演のトム・クルーズが乗るコックピット内にカメラヘッドを分離したVENICE 2を4台設置。本体と分離したことで狭いコックピット内でも複数台のカメラで撮影できたそうだ。ほかにも邦画「キングダム2 遥かなる大地へ」でVENICEが使われるなど、導入が増えている。

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VENICE 2
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エクステンションシステムを使ってカメラヘッドを分離させることができる。これはVENICEだが、VENICE 2でも同様
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シネマカメラやショルダーカムコーダーも、スマートフォンと接続して通信を利用する例も増えている。例えば「PXW-Z750」は、2022年10月にリリース予定のVer.3.10を導入することで、クラウドとの連携が強化される。背面にはスマートフォンを取り付けるアダプターも用意され、撮影データをすぐさまクラウドに送信できる。

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後部にスマートフォンを設置できるPXW-Z750。HDMI対応スマートフォンなら、有線でさらに安定した接続を実現
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こうしたシステムカメラでは比較的安価な「HDC-3200」も発表しており、ラインナップが拡充されている。ハンディのカメラを装着して大型レンズを接続できるアダプター「HDLA-3500」シリーズも用意。ケーブルも使わず、簡単に接続してスタジオカメラとして活用することもできる。

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手持ちできるHDC-3200が、アダプターを介することでスタジオカメラになる
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操作パネルのディスプレイはモニターとの同期も可能
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遠隔でも番組制作ができるクラウドサービス

ソニーのソリューションで注力されているクラウド連携。「Ci Media Cloud」は映像制作において複数拠点でのコラボレーションを行うためのソリューションだ。クラウド上に映像を置いて、編集作業を遠隔で同時に行うことができる。

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Ci Media Cloud。映像の編集、管理ができる。遠隔地との映像の再生同期、シーン編集、EDL出力、レンダリング出力などが可能で、遠隔地とコラボレーションして映像を完成可能
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ドラマやバラエティなどの番組制作での利用を想定。例えば地方ロケをして、撮影後にすぐに編集したい、撮れ高をチェックしたいといったときに、Ciにアップロードしておけば、地方と東京で同時に作業を行って、最終的に制作会社に納品する際も、Ci経由で渡すことができるので、一貫してクラウドでデータをやり取りできる。

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後述するC3 Portalアプリと連携し、カメラからスマートフォン経由で映像データをアップロードできる
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Adobe Premiereのプラグインも用意され、Ci上のデータを検索してダウンロード。そのまま編集したうえでアップロードする、という作業も行える。物理メディアで納品していたものをネットワーク経由で行えるし、データを直接やり取りするのではなく、クラウド上で共有することで簡単に複数との共有もできる。

利用シーンを広げようとしているのも面白い点で、Apple TV用アプリも提供。これを使うと、Ci上の動画をApple TV経由で試聴することができる。試写室のテレビで見る、自宅の大画面テレビでチェックする、といった用途に使えるという。なお、ここで表示されるのはオリジナルデータではなくプロキシデータなので、最終的な色チェックなどはオリジナルデータを使ってマスターモニターなどで確認した方がいいという。

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Apple TVと接続して、大画面テレビなどで映像をチェックできる
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同様のサービスは、直接同等というものはあまり見かけないというが、業界ではアドビのFrame.ioと比較する声を聞くそうだ。Ci自体は10年近いサービスの歴史があり、14万人ほどのユーザーを抱えている。Sony Picturesが利用しているため、関連するユーザー企業が多いそうだが、ようやく日本語化されたばかりで、今後日本でのさらなる利用拡大を目指す。テレビ局であれば制作会社などで利用されることを想定する。

報道の現場をクラウドでより効率的に

カメラとスマートフォンを使ってクラウドを連携させるデータ転送、素材管理ソリューションが「C3 Portal」。さらに、これと放送局側の報道支援システムなどと組み合わせる「ハイブリッドクラウド報道ソリューション」も提供されている。

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カメラからスマートフォン経由で映像をアップロードして管理できるC3 Portal
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そうしてアップロードされた映像など、素材をクラウドで管理、共有し、素早くニュース制作を可能にするハイブリッドクラウド報道ソリューション
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このソリューションはすでに静岡第一テレビが採用。カメラにスマートフォンを接続しておくと、あらかじめカメラ側に取材内容や取材項目などのメタデータが送信され、実際の撮影の段階ですでに必要なメタデータが記録される。

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C3 Portalの映像管理画面
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こうして撮影された映像データは、専用アプリをインストールしたスマートフォンをカメラに繋いでおくことで、撮影後には自動でC3 Portalにアップロードできる。あとはクラウド上で簡易編集や文字起こし、クラウド収録といった機能が利用できる。

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カメラにスマートフォンを接続することで、撮影時にタグを挿入し、撮影後は映像が転送される
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ハイブリッドクラウド報道ソリューションでは、自動的に文字起こしが行われるので、確認したい映像をすぐにチェックできる
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このC3 Portalは、放送局などが持つ報道支援システムなどと接続する「C3 Portal Gatewayシステム」と連携する。この報道支援システムや素材管理・編集システムと接続することで、放送局やプロダクションの既存システムを使った制作が可能。

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カメラマンや記者などはあらかじめタグとして登録できる
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導入した静岡第一テレビの事例。C3 Portal Gateway経由で報道支援などのシステムと連携する
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遠隔からもC3 Portalにアクセスできるので、放送局にいない状態であらかじめ利用する素材を選別するなどの作業が行える。Ci Media Cloudはどちらかというとバラエティやドラマなどの番組制作用だったが、こちらは報道部門の利用を想定したソリューションで、「報道のワークフローの効率化が可能」と同社は話している。

高速で4K映像も転送できる「マルチモバイルリンク転送」

C3 Portalのように、映像データをスマートフォン経由で直接転送するには、高速・大容量の回線が必要となる。5G SAの時代になってミリ波を使えば高速伝送は容易になるが、現状ではまだLTEで送る場合が多く、4Kを超えるような映像の伝送には時間がかかる。

そこで開発されたのが「マルチモバイルリンク転送(MMLT)」。これは複数のスマートフォンを用意して同じアプリをインストール。1台を親機として、それ以外のスマートフォンを子機として親機に対してWi-Fiで接続する。親機はカメラに接続するなどして映像データを取り込み、アプリがその映像を分割する。分割ファイルは親機と子機がそれぞれ伝送する。それをC3 Portal上で結合することで、元の映像データを復元するという形になる。

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マルチモバイルリンク転送(MMLT)では、スマートフォンアプリを導入することで、映像データを分割し、複数のスマートフォンで転送する。その結果、1台1台の負担が減り、高速な伝送が可能になる
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カメラに繋げば、撮影データをそのまま伝送できる
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分割して送信するため1台のスマートフォンが送るデータ量が削減され、複数のスマートフォンで同時送信することで転送時間を短縮できる。転送中に1台のスマートフォンが外れたり、別のスマートフォンが参加したりも自由で、増えれば増えるほど転送時間は短くなる。性能がいいスマートフォンだと9台程度までは増やせるので、その分転送速度を向上させられるという。

ストリーミングには使えないという弱点はあるが、C3 Portalと連携できるため、ひとつのソリューション内で完結できるメリットがある。対応スマートフォンはAndroidのみ。今後iOSにも対応するそうだ。

放送局を丸ごとIP化、中継もIP化で効率的に

従来、放送局などは映像データをSDIケーブル経由で転送していたが、これをIP経由でスタジオサブや中継車を接続しようというのが「IP Liveプロダクションシステム」で、国内でもすでに65の導入事例があるという。
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ソニーのIP Liveプロダクションシステム。複数のソリューションを組み合わせ、放送局全体をIP化する
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このIP化によって、放送局などが期待しているのは「スタジアムなどとのリモートプロダクション」や「拡張性」だ。ソニーは放送局の中の設備全てをIP化することで効率化が可能だとアピールしている。

IP Liveのトータルソリューションを活用した場合、例えば選挙特番を放送する場合、従来のSDIを使ったシステムだと準備に丸3日かかったという放送局が、IP Liveプロダクションシステムを導入したことにより3時間で準備でき、大幅な効率向上につながったそうだ。

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  <figcaption>IP化によって3日間かかった放送準備が、3時間に短縮できたという<br />※画像をクリックして拡大</figcaption>
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IP化された中継車
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カメラからの映像もIP伝送されている。なお、映像はJPEG XSでの伝送となっている。前方にあるのはリモートプロダクションを想定した素材モニターとPGM
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中継車とIPで接続するためのスイッチ。動的な障害制御技術を搭載しており、1系統が切断されても経路を制御して映像が途絶しない
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こうしたIP化のソリューションとしては、ライブ配信をIP化、クラウド化によって効率化する仕組みも提供。それがクラウド中継システム「M2 Live」だ。

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スイッチャーがソフトウェア化してクラウド上に存在するM2 Live
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会場には3台のカメラが配置され、全てWAN経由でクラウドに接続していた
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さらに別部屋にカメラが1台あり、5G経由で接続。M2 Liveに対応したスマートフォンアプリ「XDCAM Pocket」で撮影された映像もストリーミングされていた
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これをGUIベースのスイッチャー画面で切り替えて配信していた。今回は2秒程度の遅延だったが、通信速度とのバランスを見ながら調整できるという
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これは従来のスイッチャーの機能をそのままクラウド上に再現したもので、主に配信などの現場で利用されることを想定している。様々なカメラに対応しており、ストリーミング映像をクラウド上でスイッチングして出力する。YouTubeのような配信プラットフォームに直接出力できるという特徴がある。もちろん放送素材としてそのまま放送波にのせることも可能だ。

クラウドを経由するため、遅延は通常よりも大きくなるが、カメラとノートPCがあればスイッチング機能がどこでも利用できるというメリットがある。月額制のため、機材の導入コストなども不要になる点もメリットだろう。