Blackmagic Designによると、「Avatar」の続編である最新作「Avatar:The Way of Water」がDaVinci Resolve Studioでグレーディングされたという。
カラリストのタシ・トゥリュー氏は、長年に渡りジェームズ・キャメロン監督のLightstorm EntertainmentでDIエディターとして活躍しており、「Terminator 2」のリマスター版や「Alita:Battle Angel」などを手掛けてきた。「Avatar:The Way of Water」では、同氏はカラリストとして、ジェームズ・キャメロン監督とタッグを組んだ。
トゥリュー氏に、「Avatar:The Way of Water」での同氏の役割と、DaVinci Resolve Studioを使用したグレーディングについて話を聞いた。
――制作を開始する前からジェームズ・キャメロン監督と緊密に連携してルックを準備していたそうですね。このプロセスに関して聞かせていただけますか?
トゥリュー氏:
2019年の初頭に「Alita:Battle Angel」が完成してから、プリプロダクションにゆるく関わっていました。撮影監督のラッセル・カーペンターと、初期のステレオ(立体視)テストを見たのですが、それらテストの精度と特異性の高さには圧倒されましたね。立体視における偏光反射は非常に難しく、左右の目で明るさのレベルや質感が異なるため、立体効果が低下してしまいます。スタッフが何種類もの黒いペイントのサンプルを試して、偏光量が最も少ないものを探していたことを覚えています。これほど詳細なカメラテストに参加するのは初めてでした。
ルックの作成は、主にWetaFXで行いました。ジム(キャメロン監督)は、彼らと非常に親しく、プロジェクトの主要な視覚効果の提供者としての彼らの芸術性は、実写の撮影からフルCGIショットまで徹底しています。彼らのアプローチのおかげで、DIに多くのクリエイティブな余地が生じました。この作品のLUTは、SGamut3.CineからP3D65へストレートに色域マッピングした、エレガントでシンプルなSカーブです。そのため自由度が高まり、映像の特定のシーンをパステル調にしたり、写真のようにリアルな表現にすることができました。
この映画は、多くの場面が水中で展開されているので、大量の水のリアルさを維持することも、優先事項のひとつでした。つまり、グレーディングによって体積密度とスケール感を表現する必要がありました。クローズアップシーンは、クリアでコントラストが高く色鮮やかですが、被写体が遠ざかるにつれ、水の透明度が高くてもスペクトルは青にフェードしていきます。これは、DIですばやくインタラクティブに調整できました。水の深さを表現したい場合は、青を強くして、赤と緑を抑えます。
――マスタリング処理でのキャメロン監督との作業はどうでしたか?
トゥリュー氏:
クリエイティブな意図をこれほどすばやく正確に伝えられる監督は初めてでしたね。彼の細部へのこだわりと、非常に思慮深くクリエイティブな決断を直感的に下す能力に圧倒されました。彼は、単純なグレーディングやフレーム構成でも、その判断の根拠を言葉にしてくれるのです。作品が革新的であればあるほど、彼はキャラクターやストーリー、そしてそれらと観客との繋がりを優先しており、その点がブレることはありません。
――DaVinci Resolve Studioでグレーディングされていましたが、使用したのはカラーページだけですか?それともFusionページやエディットページなども使いましたか?
トゥリュー氏:
私はもともとDIエディターなので、コンフォームと編集にこだわりがあります。エディットページでは、カラーページと同じくらいの時間を費やしました。今回はFusionページは使用しませんでしたが、その主な理由は、ResolveFXのツールセットが改善されたためです。グレーディングの他に必要な作業は、ほぼすべてカラーページにあるツールで行うことができました。これらのグレーディングを簡単にカラートレースし、複数のグレーディングに同時に適用して異なるアスペクト比や光量のバージョンを作成できたので、これは大きなメリットでしたね。
――今回採用したワークフローと、ステレオスコピックがそのワークフローに及ぼした影響について教えてください。
トゥリュー氏:
私は、物事をシンプルに保つことや、可能であれば自動化することを好みます。今回のプロジェクトでは、DaVinci Resolve StudioのPython APIを多用しました。VFXがDIに届いた後、それらにインデックスを付けるシステムを書きました。これにより、Park Road PostのDIエディターであるティム・ウィリスと私は、最新バージョンのショットをすばやくロードできました。特定のカットで現在手元にあるシーンのEDLを使うことで、数秒ですべての最新ショットのアップデートレイヤーを作成することができたので、シーンのコンテクストに沿って最終的な立体視のレビューができました。
この作品は、立体視(3D)であるだけでなく、48fpsという高フレームレートであったので、二重の挑戦でしたね。4つのA6000 GPUを搭載した最新のワークステーションでも、リアルタイムで動く保証はありませんでした。SANの帯域幅で持ちこたえられることと、システムをすばやくデコードできることのバランスが絶妙でした。私がグレーディングに使用したすべてのショットは、5つか6つのマットレイヤーを含むOpenEXRフレームとして納品されました。Park Road Postのイアン・ビドグッドが、WetaFXにRGBレイヤーを非圧縮データとして書き込ませ、同じファイル内でマットをZIP圧縮するという素晴らしいアイデアをくれました。これにより、確実な再生パフォーマンスと、ショットの高速レンダリングが実現し、ファイルサイズはマットを含まない場合とほとんど変わりませんでした。
――SDRとHDRのグレーディングで難しかったことはありますか?
トゥリュー氏:
私たちは、初日からDolby Vision 3Dで作業できるという、比較的ユニークで贅沢な環境にいました。最も重要なグレーディングは、拡張ダイナミックレンジの14fLのDolby 3Dバージョンでした。これは、すべてを詳細に確認できるので、作業には最適でしたね。立体視のレビューでは、合成が適切かどうか、あるいは微調整が必要かどうかを確認する必要があるので、これは非常に重要なポイントです。
Dolby Visionのグレーディングが出来たら、14fLの標準デジタルシネマ2Dは、わずかな調整だけで比較的簡単に変換できます。従来型のDLPプロジェクターでは、深みのある黒が失われますが、明るさはDolby 3Dと同じです。一番困難だったのは、3.5fLのグレーディングを作成することでした。残念なことに、これがほとんどの商業用3Dデジタルシネマの標準となっています。少ない光でコントラストと彩度のイリュージョンを生じさせることは、骨の折れる作業です。日中の野外など、ハイダイナミックレンジのシーンでは、コントラストを保つために背景のハイライトを早めにロールオフするといった判断が必要になります。夜のシーンの方がハードルが低いですね。
――DaVinci Resolve Studioで重宝しているツールを教えてください。
トゥリュー氏:
この作品では、ColorTrace機能が重要な役割を果たしました。映画の各リールは独自のResolveプロジェクトに収められています。それぞれのResolveプロジェクトには、様々な劇場への配給に応じて、最終的に11のタイムラインが含まれています。DIエディターのティム・ウィリスは、これらのプロジェクトにカットの変更やVFXのアップデートを適用して編集の一貫性を保ちました。一つのフォーマットでグレードをロックし、そのグレードを他のフォーマットにカラートレースして、さらに調整します。フレーム構成や合成を変更した場合は、グレーディングを上書きしなくても、これらの変更を簡単に他のフォーマットにも反映させられます。単純なことですが、この機能的なワークフローで時間を節約できたので、毎晩遅くまで仕事をしなくてもすむようになりました。
――映画の中で、グレーディングが楽しかったシーンや、ユニークな挑戦をしたシーンなど、お気に入りのシーンはありますか?
トゥリュー氏:
暴風雨の中で行われたサリー家とメトカイナ族の話し合いのシーンですね。レンブラントの絵画を彷彿とさせるような、魅力的なシーンです。登場人物たちは冷たい曇り空に囲まれていますが、ほのかに暖かいアクセントライトにより、このシーンに素晴らしいダイナミクスが生じています。登場人物全員が本当にリアルに見えるのです。「このショットはすべてアーティストが作ったもので、俳優の演技以外は、本質的には"リアル"ではない」ということを繰り返し思い出す必要があります。これはまさに、ビジュアルエフェクトの芸術性とテクノロジーの世代的な飛躍と言えます。本当にとんでもない作品になりました。
「Avatar:The Way of Water」は現在公開中。