Blackmagic Designによると、SFミュージックビデオ「Cozey」の制作にBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kデジタルフィルムカメラと、編集、グレーディング、VFX、オーディオポストプロダクション・ソフトウェアであるDaVinci Resolve Studioが使用されたという。エアロゾル・ヘスス(Aerosol Jezus)の音楽プロジェクトのクリエイティブ・ブレーンであり、映像制作者、音楽アーティストでもあるミッチェル・エイブラハム氏は、シングル「Cozey」のために、ユニークで説得力のあるミュージックビデオを作成したいと考えていた。通常、限られた予算の中では、コンセプトが単純化され、単なるアーティストのパフォーマンスになってしまうことが多いが、エイブラハム氏はその轍を踏まないように検討したという。そこでシネマトグラファーのザック・オスタプチェンコ氏とタッグを組み、この世界にない物を作ることにしたのだという。
ジャングル、雪山の山頂、広大な砂漠など、様々なロケーションで撮影が行われたが、これらはいずれもVFX技術で制作されたものではないという。ミュージックビデオのコンセプト、驚異的なビジュアルの実現、DaVinci Resolve Studioを使ったフィニッシングの価値について、エイブラハム氏に話を聞いた。
――このビデオのアイデアはどこから生まれたのでしょう?
エイブラハム氏:
このストーリーの原案は、私の弟であり、彼自身も非常に優れた作家・映画監督であるロバート・エイブラハムによるものです。ロバートが私に提案したのは、宇宙飛行士が浮遊する赤いダイヤにジャングルへと誘われ、催眠術でスーツを脱がされ、そして最後には蜘蛛の巣に巻き取られながら歌うというアイデアでした。このコンセプトは、誘惑と誘惑されたいという気持ちをテーマにした「Cozy」と見事にマッチしています。
――撮影のために様々な現場を訪れておられますね?
エイブラハム氏:
正直なところ、自分の車で移動し、安いモーテルに泊まり、私とシネマトグラファーのザック・オスタプチェンコという2人体制のチームで撮影を行いました。ザックは当初撮影監督として参加したのですが、各ショットのセッティングを行った後、私がカメラの前に立たなければならないので、すぐに複数の役割を担うことになりました。
撮影に適した天候を待つ時間が長かったので、スタッフを増やしたら予算が尽きてしまったことでしょう。大変でしたが、その分色々と試す時間はありましたね。マジックアワーの時間帯に撮影することが多かったので、実験が必要だったんです。
世界中を訪れることは、当初の計画には含まれていなかったんですけどね。撮影を始めた最初の週に、私とザックは、主人公やストーリーの重要な部分が欠けていることに気づきました。この主人公には、誘惑され、最終的に破滅にいたるような欠点が必要でした。その欠点は、視覚的に伝えられるものでなければなりません。そこで、"執着"というアイデアを採用しました。薄汚れたモーテルの一室でストーリーの要点を練って、最終的な映像にかなり近いものになりました。
もちろん、今にして思えば、私たちのソリューション(主人公が衝動的に銀河を放浪し、荒涼とした惑星で幻の宝石を探し回って、ジャングルで鉱脈を見つける)は完全にクレイジーなものでした。その理由が野心なのか、純粋さなのか、それとも単に寝不足だったからなのか、どうであれ、私たちは1本のミュージックビデオを作成するために、歴史を通じて映画監督たちを悩ませてきたほぼすべての環境に挑むことにしたんです。
――Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kを選んだ理由を教えてください。
エイブラハム氏:
このプロジェクトでは、18輪トラックではなく、バイクが必要でした。山を登ったり、ジャングルの中を何キロも歩くので、大掛かりな機材では無理な場所でも撮影できるような、軽量で使い勝手の良い機材が必要でした。Pocket 4Kは優れたセンサー、素晴らしいカラーサイエンスに対応しており、低照明条件での撮影で威力を発揮します。これだけの価値に対してこの価格ですから、高価なシステムを毎日レンタルして、資金が不足してしまうようなことはありません。素晴らしいカメラを購入しただけでなく、スケジュールの日数に余裕ができたんです。
大事なのは、カメラの前にあるものです。カメラが大きければ、その分、三脚やジンバルも重くなります。ザックはほとんどの撮影を一人で行っているので、Pocket 4Kは最適なソリューションでした。さらに、私はメニューが複雑だとイライラしてしまうのですが、その点Blackmagic Designのオペレーティングシステムは素晴らしいですね。毎日、迅速に移動して、できるだけ多くのショットを撮影する必要があったので、自信を持ってすばやく設定を切り替えられる性能が重要でした。
――このプロジェクトはBlackmagic RAWで撮影したのですか?そうであれば、そのメリットは?
エイブラハム氏:
Blackmagic RAWはすばらしいの一言ですね。すべて固定ビットレート3:1で撮影しました。やり過ぎだったかもしれませんが、撮影のほとんどが低照明条件だったので、VFXをサポートするために、できるだけ多くの情報が欲しかったんです。また、カラーカードを撮影する時間がほとんどなかったため、ポストプロダクションでISOや色温度、ティントの設定を調整できることは、特にプレートのマッチングや、ショットを繋ぐために微調整する際に非常に便利でしたね。
さらに、ハイライトリカバリー機能は最高でした。仕組みは分かりませんが、とにかく素晴らしい機能です。安価のヘッドランプを使って赤いダイヤモンドを内側から照らしたことが原因で、ISOレベルを上げると強烈なホットスポットができてしまったのですが、ハイライトリカバリー機能を使ってホットスポットを除去できました。
――撮影でユニークなチャンレンジをしたシーンがあれば、教えてください。
エイブラハム氏:
蜘蛛の巣のシーンは難しかったですね。このショットだけはスタジオで撮影したんです。ロケ撮影するには複雑過ぎたし、私が落ちて首の骨を折らないように、安全策も必要でした。また、その日は発注したのとは違うジンバルが届いたので、私が吊り下げられているシーンでは、ステディカムのリグを回転させることで、カメラの180°の回転を手動で実現しなければならなかったんです。
ザックと私がそれぞれの場所で安全に撮影できるよう、徹底的に調べました。それまで無傷で撮影を乗り切っていたので、最後の見せ場で命を落としたくなかったんです。自信がなければ、優秀なスタント・コーディネーターを雇ったら良いんです。その点は、エリック・オードに感謝しています。
――同作のポストプロダクションについて教えてください。
エイブラハム氏:
ロケ撮影では照明条件が多様だったので、ポスプロではカラーやVFXの作業に多くの時間を費やしました。選択した各ショットが、他のシーケンスとシームレスにブレンドすることを確認し、さらにロトスコープやVFXの作業が必要な場合、最後まで待つのではなく、自分でできるかどうか確認する必要がありました。
多くの人が、それは本末転倒だと言うかもしれません。しかしこれがDaVinci Resolveのユニークな点であり、1つのプログラムで、あらゆる作業(編集、VFX、カラー)を行えるんです。DaVinci Resolveは非常にパワフルです。私はFusionページとカラーページの両方で膨大な量のビジュアルの作業を行っていたのですが、頻繁にクラッシュすることがなかったのがありがたかったですね。今回初めてResolveとFusionを使用したのですが、その機能・性能に圧倒され続けていました。
――今回のユニークなルックを実現するために使用したカラーノード・ワークフローについて教えてください。
エイブラハム氏:
標準的なワークフローは、まずプライマリー調整を行い、次にカラースペース変換、セカンダリー、そしてフィルムエミュレーションを行います。また、セパレーションを作成したり、問題点を解決するためにロトスコープを多用しました。当初はカラーマネージメントについて何も知らなかったので、プロジェクトはカラーマネージメントされていない状態でした。
このミュージックビデオでは撮影場所がコロコロ変わるので、砂丘のオレンジ、雪の青、ジャングルの緑など、それぞれの"惑星"を区別する支配的なカラーを設定する必要がありました。全体に統一感を出すのが非常に難しく、Magic MaskやカラーワーパーなどのResolveの機能が不可欠でしたね。カラーの作業は、ストーリーを伝えるためのサポートだと思います。
――今回のプロジェクトでFusionの使い方を覚えたのでしょうか?
エイブラハム氏:
大学で、少しだけ3Dと合成について勉強しました。VFXを多用する素材に挑むなら、合成の基礎を理解しておくことはとても重要です。撮影前にネットでいろいろな情報を読み、Fusionページで複雑なショットを作成するために必要なスキルを身につけるようにしました。私は、VFXに携わる人たちを本当にリスペクトしています。
音楽では、私はモジュラー合成はあまり好きではありませんが、コンポーネントモジュールを組み合わせて様々な音を作ることの基本的な理解は、Fusionのノードベース構成に慣れるのに役立ったかもしれません。Fusionは威圧的に見えるかもしれませんが、脳の配線を少し変えてみると、Fusionページがいかにパワフルで自由度が高いか分かります。もちろん、YouTubeやフォーラムには素晴らしい情報がたくさんありますし、Fusionのコミュニティはとても参考になります。チャットで誰と話せるか、驚くでしょう。
――このプロジェクトをユニークなものにしたキーポイントは何でしょうか?
エイブラハム氏:
撮影に関しては、ストーリーの軸となる場面を強調するために、特定のカメラテクニックを意図的に抑制することに注力しました。主人公が赤いダイヤに行き着くまでスローモーションを使わず、その瞬間の催眠状態を強調しました。また、手持ち撮影は避け(序盤の雪の中の撮影を除く)、主人公が走るシーンが混沌とした感覚になるようにしました。最終的には、非常に安定したアプローチで始めて、映像後半でサイケデリックに変化することを目指しました。
このプロジェクトはザックなしでは成り立たなかったので、彼について話したいと思います。彼は素晴らしい視点だけでなく、ストーリーに対する驚異的なマインドを持っています。私を信じて、この冒険に付き合ってくれたザックに対して、いくら称賛しても足りません。すべての過程が我慢比べのようなもので、彼は騎兵のようなものでした。
――次はどのようなプロジェクトを計画していますか?
私のデビューアルバム「Imprint」が2023年にリリースされました。そして現在、初の長編映画であるSF強盗映画のプリプロダクションを行っており、とてもワクワクしています。特に「Cozy」のミュージックビデオを作成したことで、様々な媒体で制作する自信がつきました。Blackmagicのおかげで、あらゆることを実現できるようになりました。でも、次回はもう少しエキゾチックでない場所を旅することになるでしょう。