Blackmagic Designによると、ジリアン・ベル、ナタリー・モラレスらが出演する劇場映画「I’m Totally Fine」が、RKM Studios所属のライアン・マクニール氏によって、編集、グレーディング、VFX、オーディオプロダクション・ソフトウェアであるDaVinci Resolve Studioを使ってグレーディングされたという。
「I’m Totally Fine」は、親友ジェニファーを亡くしたヴァネッサという名の女性が、一人旅に出る姿を追う。しかし、ヴァネッサはキッチンに立つジェニファーを発見。ジェニファーが自分は地球外生命体であると主張したことから、ヴァネッサは計画の変更を余儀なくされる。同作は、ブランドン・ダーマー氏が監督、そしてヴォイチェフ・キエラー氏が撮影監督を務め、Hulu配信サービスで現在視聴可能。
低予算で制作された同作は、コロナのパンデミックの最中に10日間で撮影され、制作者たちは制作が困難になることが分かっていた。早い段階からルックの作成を開始したことで、撮影に先駆けて準備することができたという。
ダーマー監督:脚本のアリーシャ・ケトライと、プロデューサーのカイル・ニューアチェック、そして私でストーリーの大筋を考え始めた瞬間から、ヴォイ(キエラー撮影監督)と私は、ルックの作成を始めました。私たちが求めるビジュアルスタイルと、それを実現する方法について何度も話し合いました。カイルは、私たちに対して、すべてのシーンをビジュアル的に考察し、各シーンと登場人物たちの感情的な横糸との関係について考えるよう求めました。
ダーマー監督とキエラー撮影監督は、過去10年ほどマクニール氏と様々なプロジェクトを手掛けてきたので、マクニール氏のスキルを理解していた。過去にトップクラスのクライアントに対して幅広いルックを提供してきた3人であるが、今回のプロジェクトは新たなチャレンジであったという。
ダーマー監督:撮影現場では、物流上の都合で、「ここはライアンになんとかしてもらうしかないな」と思うことが何度かありました。
キエラー氏:映画の中で、10~15分程度のシーンが2つあるのですが、実はこれらのシーンは丸一日かけて撮影しています。このシーン全体をビジュアル的に成立させるためには、グリップチームや電気機器のスタッフ、そしてRKM Studiosのカラーチームも相当な苦労をしたようです。太陽は一日中動いていて、雲も断続的に出ていました。完璧なコンディションを待ったり、コンディションが揃う時間帯に何日もかけて撮影したりする余裕はなかったので、これらのショットが1日掛かりではなく15分で撮影したように見せるためには、ライアンに頼るしかなかったんです。
マクニール氏は少しでも役に立てればと、キエラー氏を助けるためのツールを予め用意していたという。
マクニール氏:DaVinci Resolveで、CMのルック寄りとシネマルック寄りのLUTパッケージを作成しました。またヴォイチェフは、私がIPP2カラースペース用に作成したフィルムプリント・エミュレーションLUTも使用しました。
マクニール氏は長年DaVinci Resolve Studioを使用しており、様々な映画監督やアーティストの長編映画やミュージックビデオのコンテンツをグレーディングしてきた豊富な経験がある。「I’m Totally Fine」では、ショット間やシーン間のクリエイティブなバランスを取りつつ、ルックやスタイルを追求したので、マクニール氏もまた、撮影の後が正念場であったと語る。
マクニール氏:一部のルックでは、Resolveのハレーションとグローを使っています。どちらもスピーディで優れたFXプラグインで、素晴らしい仕事をしてくれました。カメラフィルターやフィルムのエミュレーションを模倣する場合、私は3つのグローノードと1つのハレーションノードをパラレルに配置し、これらを使って、タイトブルーム、ミディアムブルーム、そして大きくソフトな拡散ブルームを作成しています。これらは、シーン内のルックの一部としてそれぞれ調整しています。ハレーションもシーンごとに調整していますが、視聴者の注意が逸れてしまうような場合は、取り除くこともあります。
マクニール氏はシーンごとにノード化したグループを使ったワークフローを構築した。各グループには複数のクリエイティブなルックが含まれており、その中にはプロジェクト全体の共有ノードもある。
キエラー氏が予想したように、15分のシーンを刻々と状況が変化する1日の中で撮影することは、最大の難関であった。
マクニール氏:このシーンでは、登場人物たちが、15分間途切れることなく話し続けるのですが、実際には、数日間にわたって、光が当たっている時、つまり晴れだったり、ゴールデンアワーだったり、雲がかかっている状態の時に撮影しています。カラーリストにとって最も厄介なのは、時間の連続性がないシーンで光をマッチさせることです。ゴールデンアワーの素材はゴールドのトーンを選択的に少し落としてクールな色味にする一方、昼間に撮影したものは温かみを少し上げて、2つの照明環境を近づけるようにしました。雲がかかっている時に撮影した素材に関しては、人物の顔に直接光を当てることはできません。そこで私が考えたのが、フレームの端からイメージに温かみを加えるグラデーションを追加することでした。この効果は、レンズに光が直接斜めに当たっているときにだけ発生するベールフレアに似ています。カラーを調整する際は、写真のようにリアルな真実よりも、心理的な真実を見つけなければならないことがあります。すべてのイメージには信憑性が求められますが、必ずしもリアルである必要はありません。ベールフレア効果により、昼間の明るさに対する心理的な反応が引き出されています。
ダーマー監督は、マクニール氏のようなアーティストが手にするDaVinci Resolve Studioを理解している。
ダーマー監督:Resolveは非常に効率的で、イメージや情報を大幅に調整して、自分が望む正確なルックを見つけられます。しかし結局のところ、ライアンがツールを操る真のアーティストなので、どんなプロジェクトにおいても、彼の芸術性を起用したいですね。いつも彼の実力を頼りにしています。