今年で6回目、映画のまち調布 シネマフェスティバル
今年で開催6回目を迎える、映画の技術スタッフにスポットを当てた全国的にも珍しい映画祭「映画のまち調布」シネマフェスティバルが、今年も1月26日(金)~2月18日(日)の期間で、東京・調布駅前の文化会館施設「たづくり」、調布市グリーンホールを中心に開催。2017年9月にオープンした駅前のシネマコンプレックス「シアタス調布」では、この映画祭に合わせて過去のスタジオジブリ作品(本年度は「紅の豚」)の特別上映が行われるなど、同地域をあげての映画祭となっているのが特徴だ。
映画製作の盛んだった昭和初期の1933年(昭和8年)、現在の角川大映スタジオの前身である、日本映画多摩川撮影所が同地にできてから、調布市内には映画・映像関連企業、団体が集積していたことに由来し、「映画のまち調布」とする街おこし事業の一環として、この映画祭が2019年から開催された。
今回の開催も、角川大映スタジオ、ジャンゴフィルム、日活調布撮影所、日映装飾美術、アーク・システムなど調布由来の映画関連会社と連携し、映画・映像制作の街ならではの独自性のあるイベントを展開している。
映画祭のメインイベントでもある表彰式「映画のまち調布賞」は、映画製作の現場を支えるスタッフや制作会社といった「映画のつくり手」に贈られる賞で、映画・映像関連企業の集積する「映画のまち調布」にふさわしい映画賞として、映画文化、芸術、産業の振興に寄与した映画・映像作品及びその製作に貢献した人を顕彰している。
スタッフ技術部門では、撮影賞、照明賞、録音賞、美術賞、編集賞の5部門と日本映画人気投票の結果、作品賞が選出される。これらは本映画祭で上映可能な人気投票上位10作品の実写映画をノミネート作品とし、映画・映像製作において実績のある技術スタッフで構成する選考委員会で討議の上、各賞の受賞者を決定している。
また特別賞は、「映画のまち調布」の映画文化、芸術、産業の振興に多大なる貢献と顕著な実績を残した個人もしくは団体、または近年にめざましい活躍をした映画・映像関係者に贈られる。今年の受賞は下記の通り。
- 作品賞:「すずめの戸締まり」(新海誠監督)
- 撮影賞:水口智之「月の満ち欠け」
- 照明賞:佐藤浩太「銀河鉄道の父」
- 録音賞:湯脇房雄「劇場版 TOKYO MER 走る緊急救命室」
- 美術賞:相馬直樹「耳をすませば」
- 編集賞:菅野詩織「劇場版 TOKYO MER 走る緊急救命室」
- 特別賞:株式会社東京現像所、新藤次郎(プロデューサー)
人気の実践参加型 みんなのワークショップ
この映画祭では、毎年調布文化会館たづくりの1階むらさきホールを利用して、本格的な映画セットを使った実習型の映画制作を体験できる、みんなのワークショップが2019年から開催されている。今年は映画・映像業界のプロが作成した短編映像作品の台本・セットに沿って、撮影準備から本番撮影までを「撮影」「照明」「録音」「美術」「演出」に分かれて、実際に制作スタッフとして体験できるもの。毎回公募で希望者を募り、抽選で当選した20名のメンバーが実際の映画スタッフとして参加できる。
このワークショップには一流のカメラ/レンズメーカーの協力サポートがあり、プロと同様の機材を使用して映画制作が行われる。また日本映画撮影監督協会、日本映画・テレビ照明協会、日本映画・テレビ録音協会などの業界団体と、調布付近の映画関係のプロダクションや機材レンタル会社等の支援を受けて、協会メンバーが現場で機材やセット作りなどを教えながら撮影できるのも大きな魅力だ。
ちなみに今年のワークショップでは、ちょうど開催同時期に発売されたソニーの新たなシネマカメラBURANOと、レンズはシグマのFF High Speed Prime Lineシリーズのセットが投入された。
このようなプロの現場と同等の実践的なセット撮影を使ったワークショップを行っている映画祭や学校はほとんどなく、開催回数を追って応募人数も増えているという。受講生は毎年、前年の12月から1月に募集している。映画・映像業界に興味を持っている高校生以上の一般の人を対象に、今年も20名の受講生が選ばれた。撮影部、照明部、録音部、美術部、演出部の各部署に配属され、オリエンテーションを経て、本番ではそれぞれのパートを担当して撮影現場に臨む。
今年は、映画祭の最終日となる2月17、18日の土日2日間で本番撮影が行われ、八木順一朗監督・脚本・編集による「オレオレ・オブ・ザ・デッド」というショート作品が製作された。
調布市でも近年、オレオレ詐欺などの特殊詐欺被害が多発しており、高齢者へ向けての注意喚起と詐欺犯罪防止がテーマの作品。タイトルからも想像できるように「○○・オブ・ザ・デッド」といった海外のゾンビ作品をパロディ要素に盛り込んだものになっている。
今回の作品の監督であり、脚本と編集を務めた八木順一朗氏は、次のようにコメントしている。
八木氏:こうした映画制作の実習って堅苦しくなりがちですが、自分が関わるのであればやはりエンタメ作品として、後から観ても楽しめる作品にしたいと思いました。今回お話を頂いた時も、台本も撮影も演出も全てエンタメに振り切って、みんなが笑いながら撮れるものにしたいと思ったのが最初でしたね。
実際の現場では、今回は受講生の皆さんの技術が想像以上に高かったので、撮影では思った以上の画も音も撮れたので、僕が理想としていた作品になるという感触があります。受講生にも自分で撮ったこの作品の完成版を見たときに驚いでもらいたいですね。
やはり本物のカメラを覗いた時の感情とか、実際の照明を見た感じや録音した時の現場の音の感触とかは、実際に体験しないとわからないものなので、そうしたものを少しでも感じてもらえるという意味でもこのワークショップはとても有意義だと思います。ぜひ続けていってもらいたいですね。
みんなのワークショップの企画に当初から関わっている、日本映画撮影監督協会(JSC)の磯貝昇利氏は、次のようにコメントしている。
磯貝氏:年々受講者の質も向上しています。当初は高校生などの映画制作を目指す学生などが多かったのですが、現在はすでに映像制作を自分で手掛けていたりする方も増えました。
昨年セミナー形式の座学にも取り組んだのですが、そうした講義はすでに様々なところで行われていて、彼らの求めているのはやはり実践の現場体験なのです。しかも個人レベルの制作ではできないようなプロの現場を経験してみたいというのが彼らの望んでいるところです。
プロが実際の撮影を行うような本格的な現場セットに入って、カメラや照明、録音やその他の機材、そして美術セットも、全て本物の映画撮影と同様の環境の中で、自分で機材を触って撮影できるというのは他ではなかなか出来ない経験なので、このワークショップは人気があるんだと思いますよ。
調布という街だからこそできる実践的なワークショップ、しかもプロからの直接指導と映画機材でその現場を体験できるのは、いま最も足りないリアルな経験を積める稀有な映像制作の現場なのだ。
「映画のまち調布」みんなのワークショップ 2024
―オレオレ・オブ・ザ・デッド―
出演:ぐんぴぃ(春とヒコーキ)、竜のり子、清水誠(キュウ)ほか
- 企画:映画のまち調布 シネマフィスティバル 「映画のまち調布」みんなのワークショップ
- 製作:調布市
- 協力:(公財)調布市文化・コミュニティ振興財団
- 制作プロダクション:ジャンゴフィルム
- 監督・脚本・編集:八木順一朗
- 撮影:磯貝昇利・岩倉具輝
- 照明:吉角荘介・野口益登・西野哲雄
- 録音:湯脇房雄
- 美術:磯田典宏
- 美術プロデューサー:久保埜孝
- 大道具:浅見建士
- 装飾:庄島毅
- 衣装:宮本まさ江・野本美貴
- ヘアメイク:徳田芳昌
- 助監督:川口結
- 制作担当:長島紗知
- プロデューサー:山本章
- アソシエイトプロデューサー:久保田哲司
- 制作協力:アーク・システム、ソニーマーケティング、シグマ、ナックイメージテクノロジー、ファーマ、NKL、角川大映スタジオ、日映装飾美術、高津装飾美術、日本映画撮影監督協会、日本映画・テレビ照明協会、日本映画・テレビ録音協会、日本映画・テレビ美術監督協会、タイタン、ワード・ローブ、style玄庵、IMAGICAエンタテインメントメディアサービス、ソニーPCL、アルファスタント、アルカブース、トイロミュージック、サバタイトル、ファンテック、日活調布撮影所、ジャンゴフィルム
- 問い合わせ先:
- 映画まち調布 シネマフェスティバル2024
- 公益財団法人調布市文化・コミュニティ振興財団
(映画まち調布 シネマフェスティバル2024に関すること) - 調布市生活文化スポーツ部産業振興課
(「映画のまち調布」みんなのワークショップに関すること)