「不適切にもほどがある!」に採用された適切な撮影カメラとは?
2024年1月クールで最大の話題作となったTBSのドラマ「不適切にもほどがある!」。昭和に生きる教師が、現代にタイムスリップするストーリーが大人気だ。
本編はTBSグループ会社の総合プロダクション、TBSアクトが番組の技術・美術を担当した。同社はドラマ撮影用のカメラとして、ソニー「VENICE」や「F55」を所有しているが、今回は、 REDのV-RAPTOR 8K VV、Komodo-XとRAID・PROTECH・TBSアクトで共同開発した「POLARIS」を選定して撮影収録に臨んだという。
「POLARIS」は、映像信号とIRIS・カメラコントロール信号、電源などをケーブル1本で伝送できる光伝送システムだ。なぜ REDとPOLARISが選ばれたのか、どのような課題を解決できたのか、運用状況を詳しく聞いてみた。
REDとPOLARISでVEがすべて現場で色を作る工程を実現
――TBSアクトではテレビドラマ撮影用として、これまでどのようなカメラを導入されていましたか?
伊澤氏:
最近はソニーの「VENICE」が中心で、その前は「PMW-F55」をドラマ制作で運用していました。
ソニーやARRIを使うことは多いのですが、REDはこれまで撮影に使ったことがありませんでした。
REDで撮られた作品を見ると、柔らかい印象の映像で、色のトーンが素晴らしく、興味を持っていました。
RAIDさんと弊社の担当部署の開発案件の流れで、REDを使う機会をご提案いただいたので、「ぜひ使ってみたい」と思いました。
――なぜREDを選定されたのでしょうか?
伊澤氏:
REDでブロードキャストシステムを可能にする光伝送『POLARIS』が登場しまして、シネマカメラでは難しかったVEが色を現場で構築するフローが可能になりました。
これは弊社の担当部署がRAIDさんとPROTECHさんと共同開発したもので、現場でぜひ使ってみようということになりました。
沖田氏:
ドラマのワークフローは、VEがすべて現場で色を作り、編集室では少し修正する程度が一般的です。一方、映画のワークフローは、グレーディングありきです。現場では撮るけどモニターLUTを当て確認し、最終的な仕上がりは別ものとなります。
それを今回、REDと「POLARIS」を使用することで、VEがモニターを見ながら現場で色を作ることができます。ベースでLUTを当てて、それをオンセットグレーディングの状態で編集室に入れ、さらに編集しオンエアとなります。REDとPOLARISで、昔ながらのブロードキャスト的なワークフローの撮り方を実現可能になったことが大きな違いです。
例えば、カメラコントローラーを接続できて、アイリスコントロールや色温度など、ドラマ制作で必須な機能を備えているのも特徴でした。その点も、POLARISでは、カメラ操作機能やアイリスをリモートコントロールすることが可能です。
――テレビドラマはLogやRAWで撮ることはあまりなかったのですか?
沖田氏:
テレビドラマのワークフローも大きく変わってきて、ドラマも映画の撮影監督が入ってくることが増えています。
その場合はやはりグレーディングを取り入れたワークフローで行われます。
伊澤氏:
ただ連続ドラマの場合、どうしても限られた予算や完パケまでのタイトなスケジュールでグレーディングには十分な時間を割けません。
グレーディングにまる1日にかけることはできず、現場で可能な限りLUTを適用して、Rec.709収録で行っています。
どうしても現場で色味が間に合わない場合や、後で手を加えたいなという場合は、RAWを使用して、その部分のみをグレーディングするという形で行っています。
――つまり、ドラマ撮影でブロードキャストカメラのようなワークフローがREDでも可能になったということですね。
伊澤氏:
はい、そうですね。ワークフローに変化はありません。REDを使用してもシネマワークフローではなくテレビワークフローでの撮影が可能で、今までのワークフローと同じでありながらも、今までより高いクオリティーの映像が撮影できるという点を評価して採用しました。
沖田氏:
今回のワークフローでは、費用と時間のコストをかけず効率的に行える。その上でREDというカメラが使えるということがメリットですね。
「不適切にもほどがある!」はこうして撮られた
――「不適切にもほどがある!」の撮影について詳細を教えてください。
伊澤氏:
カメラは、Aカメ、BカメがRED V-RAPTOR 8K VV。Cカメラは、RED KOMODO-Xの 3式使用しました。KOMODO-Xは、ジンバルとPLマウントのシネマレンズで使用しました。
沖田氏:
収録解像度は、4Kを中心に5K、6Kなどカットごとに変えることがありました。カメラの引きじりに合わせる必要もありました。
撮影映像を光伝送でベースに送り、LUTを載せ、グレーディングしたものをAJAのKi Proで収録し、HDと4Kの両方を納品しました。基本的には、Ki Proの素材を使って編集をしました。
ライブグレーディングでハイライトや暗部の調整をしました。どうしてもカメラのカラーテンプチャーの中では収まらない部分は、LUTBOXで調整しました。
また、オンセットグレーディングをしたものですと、直しきれない場合もありました。例えば、第7話に江ノ島で夕陽シーンでは、R3D収録を行いグレーディングして納品しています。
――ライブグレーディングとRAWグレーディングの割合はどれくらいでしょうか?
沖田氏:
ほぼ全部ライブグレーディングです。グレーディングをしたのは、全体10話を通して、3シーンぐらいです。
ポスプロには、ライブグレーディングをしたものとR3Dデータの両方を渡します。CGセクションでは、色飛び部分や潰れている部分を、R3DのRAW素材を使うことで正しく抜くことが可能とのことでした。
REDとPOLARISの運用。テレビ局での広がりに期待
――REDのシネマカメラで高評価の部分を教えてください。
伊澤氏:
カメラに関しては、それぞれの好みだと思います。REDは、大変スキントーンが綺麗に出ると思っています。感覚的な話になりますが、REDが持つ柔らかい感じとスキントーンの印象は大変気に入っています。
また、REDのバリアブルNDは非常によかったです。PLマウントソリューションに統合された機能で、細かく設定が可能です。1/4、1/3、またはフルストップ増分の制御が可能です。
サイズ感はPROTECHの光伝送の他機種は少し横に幅が広かったモデルが多いですが、 POLARISはRED本体の形に合わせて作ってくれているところは嬉しいですね。
沖田氏:
今回の初運用では、いろいろ問題もありましたが、メーカー対応と運用のやり方で最終的には安定して使用できました。細かいアクセサリーの相性などもありましたが、こちらも解決して問題なく使用できました。
製品に関して、機能として気になったところなどは、メーカーにフィードバックしています。さらなる進化を期待しています。
ドラマ撮影以外の話になりますが、中継などのパブリックビューイングでは、収録と現場配信系が別物であったりと、パブリックビューだと8Kや4Kの解像度が必要になることもあると思います。
V-Raptorは8K収録が可能です。また、12D-SDIの出力があり、4K60PをSDIで出力できます。これを、POLARISで伝送することで、4K60P LIVEが可能となり、 POLARISはIRIS制御やREDのコントロールが単独で可能なので、LIVEには非常に向いています。
TBSアクトはドラマ以外にも、中継や配信、スタジオも手がけています。様々な案件でREDを活用することで、稼働率はもちろんのこと、映像表現の幅が大きく広がっていくことに期待しています。