ソニーは、東京・品川の本社ビルにて、内見会「Creative Solution Showcase 2024」を開催した。ソニーは昨年まで、映像・音響ソリューションを紹介する「ビジネスソリューション内見会」と放送業務用ビジネスの説明と商品を紹介する「映像ソリューション内見会」と分けていたが、今年は1回の内見会としてBtoBの最新ソリューションを一堂に集結させて開催した。
技術製品を掛け合わせたバーチャルプロダクション、次世代放送システムに向けたソリューション、オートフレーミング対応カメラの強化拡充、ディスプレイやサイネージソリューションの強化など、見どころ満載の展示会だった。その中から撮影にまつわるソリューションや製品をピックアップして紹介しよう。
最大4台までのコントロールに対応する「Monitor & Control」
広い展示会場の中で最初に目を引いたのはCreators’ Cloudのワイヤレス映像モニタリング・リモートコントロールアプリ「Monitor & Control」だ。動画のリモート撮影に特化した無料のアプリである。
バージョン1では1台のカメラと接続して色のコントロールや録画への対応を特徴としていたが、2024年5月28日公開の2.0.0では最大4台までのコントロールと異なるカメラにも対応。プロフェッショナルカムコーダーFX3とデジタル一眼カメラα7S IIなど、異なる組み合わせでも同時にコントロールが可能だ。
さらに、波形モニター/フォルスカラー/ヒストグラム/ゼブラで映像信号を確認できたり、フォーカスをアサインすることができるコントロールバーのほか、タッチフォーカスも可能。有線接続と無線接続の両方に対応する。
有線接続はケーブルの長さに依存するが、高速転送かつ安定動作が可能で無線接続による転送時間の長さや安定性に悩まされるという問題を解消できる。モニター描画の遅延は少なく使い勝手に優れていて、撮影現場で有効なアプリケーションになりそうだ。
国内でも提供開始間近の「カスタムグリッドラインライセンス」
参考出品の「カスタムグリッドラインライセンス」も興味深いサービスだ。米国では2024年4月から提供を開始しており、国内では夏ごろから提供予定としている。
文教の現場では、卒業写真の個別撮影をサポートしてくれる機能だ。人の形にくり抜いたラインをガイドとして設定すれば、同じアングルの写真を繰り返して撮影する際に撮りやすくなる。デモ機では液晶モニターに赤いガイドのラインが表示されていたが、そのガイドラインは写真には写らない。ラインは液晶モニター上のみで確認可能。
640×480のPNGファイルを4つまでインポートが可能で、シーンに合わせて切り替えて使用可能。YouTube用16:9とインスタグラム用3:2を同じカメラで撮りたい場合に、グリッドラインの活用で効率よく撮影できるようになりそうだ。
直感的なGUIを特徴とする「M2 Live」
放送局やプロダクション向け「Creators’ Cloud for Enterprise」のゾーンでは、クラウドスイッチャーの「M2 Live」のデモが気になった。クラウド完結のスイッチャーサービスで、ユーザーは自分のパソコンのブラウザからサービスにアクセスして操作可能。UIにプレビュー画面やプログラム画面を備えて、最大6入力まで可能だ。
SRTやRTMPなどの汎用プロトコルにも入出力対応しているため、クラウド出力の映像はデコーダーを経由することでHDMIやSDIの出力をモニター上で確認可能。直感的なUIを採用しており、短時間で操作を習得できそうだ。ソニー独自のQoS技術をサポートしており、回線環境の厳しい条件でも安定した映像を配信可能としている。
AIとの連携も可能で、ためた映像をAIが自動解析を行い、サッカーのゴールシーンを手動で操作することなく繋いでハイライト映像を生成なんてことも可能だ。
クラウドスイッチャー自体の魅力も紹介しておくと、これまでスイッチャーはハードウェアを購入してセットアップを行い、配信を行うのが当たり前だった。クラウドスイッチャーは、新たな機材追加やハードを用意することなく、クラウドサービスの契約を申し込めば翌日から使用できる。同時多発の配信で機材が足りないといった場合でも、クラウドサービスであれば対応が容易だ。
また、常にバージョンアップが行われ、新しい機能が追加される。機材の入れ替えが必要なく、AIを活用した新機能など新しい機能を享受できるのも特徴である。
素材の共有や共同作業が実現できる「Ci Media Cloud」
「Creators’ Cloud for Enterprise」コーナーでもう1つ気になったのは、Ci Media Cloudだ。もともとソニーピクチャーズのフィルムの時代の内製ツールとしてスタートしたもので、2013年頃からスタートしたかなり老舗のサービスだ。
Ciは、インジェストした素材のプレビューやレビューから、その後のアーカイブまで可能。ここまでオールインワンで対応可能なのは他社にはない特徴だ。Frame.ioはカメラからクラウドへの転送は得意だが、アーカイブとして残しておくことやメタを作っての素材管理は得意ではないといえるだろう。さらに、共有する場合は別にアップロードしなければいけないのも面倒な点だ。その点、Ciは1本で完結できるのが大きな特徴だ。
特に素材の共有は特徴で、出来上がった完パケを世界各国の動画配信サービスと共有することも対応可能。1つの素材をいろいろ共有するのに、細かいアクセス権の設定やセキュリティ条件の設定、電子透かしを入れることも可能だ。
もっとも安いサービス価格は、オンライン決済プランのプロバージョンで月額2,480円。アクティブストレージは250GB、アーカイブ・ストレージは500GB利用可能。例えば、ブライダルの撮影現場で撮影素材をいち早く受け取り、共有をしてレビューをしたいといった場合に候補となりそうなサービスだ。
マルチカメラのバーチャルプロダクションを実現
バーチャルプロダクションの展示にも、かなり力が入っていた。見どころはマルチカメラ対応のバーチャルプロダクションだ。LEDによるインカメラVFXは基本的にカメラ1台の撮影が当たり前だと思われがちだが、ここのデモでは2台のカメラをスイッチャーで切り替えが可能。LEDへの映し出しは、カメラのトラッキングに合わせたイメージに切り替わる。バーチャルプロダクションは映画やドラマの撮影に使われるのが一般的だが、今後ライブ配信の現場でも利用が増えていくかもしれない。
もう1つの見どころは、本線用と背景のグリーン用との同時収録だ。Crystal LED VERONAの120Hz駆動とカメラの性能によって実現可能になる。グリーンも同時に撮れることによって、後からCGで後処理するなんてことも対応できそうだ。
インカメラVFXの質を向上させる「Virtual Production Tool Set」
Virtual Production Tool Setの次期バージョンのプレビューも見どころの1つだ。Virtual Production Tool Setのバージョン1は2024年11月に公開を開始して、現在バージョン2を開発中だ。その開発中の次期バージョンを先行展示していた。
すでに公開を開始しているVirtual Production Tool Set自体を紹介すると、バーチャルプロダクションをやるうえでの課題を解決するツールだ。バーチャルプロダクションの大きな課題の1つは、カメラをLEDで撮影すると色がずれてしまうという問題だ。この問題を解決するカラーキャリブレーションの機能搭載が大きな目玉だ。
また、カメラでLEDを撮影するとモワレが発生する。その問題を予測して、避けるように撮影をアシストしてくれる。
もう1つは、現場に入る前に事前にバーチャルカメラでアセットを撮影する機能だ。「こういう画角で撮ればこう撮れるはずだね」というものを事前にシュミレーションする機能を搭載する。画面の中でVENICEのモニターアウトから出力する映像を一目で確認できる。
次期バージョンではCinema LineのFR7、BURANO、システムカメラのHDC-F5500に対応する。放送業界でも使用できるツールになりつつあるのもポイントだ。
バーチャルプロダクション向けのCrystal LED「VERONA」
会場のバーチャルプロダクションに使用されたLEDディスプレイは、2023年9月のIBC 2023で発表されたCrystal LED VERONAだ。50台組み合わせてウォールを実現していた。深い黒の映像表現や反射防止技術、高リフレッシュレートを特徴としており、さまざまなスタジオに採用されていきそうだ。
すでに現在、イギリスのロンドン芸術大学、アメリカ・コネティカット州のメディア総合組織「WWE」のスタジオ「The Studios at WWE」、日本の角川大映スタジオにバーチャルプロダクションスタジオなど世界の大手スタジオに導入されており、稼働を開始している。
AI搭載新モデルやアップデートによる機能強化を控えたPTZカメラを一堂に展示
PTZカメラのコーナーもかなり賑わっていた。その中でももっとも注目を浴びていたのは、2025年1月に発売予定の新製品「BRC-AM7」だ。AI搭載のほかにパン、チルト機構を刷新し、滑らかで静音動作の実現。さらに4K60P対応のセンサーと光学20倍ズームレンズの搭載も大きな特徴だ。
FR7は、ハイエンドのPTZカメラの中では世界最小で最軽量のフルフレームのレンズ交換式の旋回式PTZカメラだ。いままで、PTZフレーミングには対応していなかったが、2025年4月以降のバーションアップのファームアップを提供予定。こちらのアップデートで、ついに自動追尾に対応する。
SRG-Aシリーズは、2024年9月にファームウェアVer.2.00のバージョンアップで人物の顔を登録できる「"顔"登録機能」を新しく搭載する。事前にビデオカメラで撮影した人を登録することで、その人だけを追いかける、あるいはその人を優先的に追いかけることが可能になる。
さらに、「複数人フレーミング」に対応する。今まで1人しか追尾できなかったのを、最大8名まで最適なフレーミングで捉え続ける。2人の被写体をちょうどいい構図で捉えるのだが、例えば2人が離れてもきちんと調整して捉えてくれる。違う人物が前を交差する場合でも狙った被写体を外さないというのも特徴だ。