ソニーは、Cinema Lineの新製品「FX2」を2025年8月1日に発売する。希望小売価格は税込416,900円。

ソニーのCinema Line FXシリーズは、プロフェッショナルな映像制作を志向するカメララインナップである。かつてFXシリーズの頂点として話題となったFX9に続き、2020年12月にはシネマティックな映像表現を追求するフルサイズセンサー搭載カメラFX6が市場に投入され、ソニーのαシリーズにおけるプロフェッショナル向け動画機の先駆けとなった。

FXシリーズのFX6、FX3、FX30のラインナップにFX2が加わる

その翌年の2021年にはFX3が登場し、さらに2022年には、より幅広い映像クリエイターがCinema Lineの世界に足を踏み入れられるよう、APS-Cセンサーを搭載したFX30が発売されている。

映像表現に欠かせない高画質

そして、ソニーが新たに投入するFX2は、35mmフルサイズセンサーを搭載した新鋭機であり、Cinema Lineのさらなる進化を示す存在である。本機は、これから映像制作を始めるクリエイターにとっての最初の動画専用機としての位置づけを強く意識している。そのため、限られた予算や少人数での撮影環境においても最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、多岐にわたる機能が搭載された。

静止画時:有効約3300万画素動、画時:有効約2760万画素のフルサイズイメージセンサー搭載

このモデルの特筆すべき機能は、オーバーサンプリングによる映像収録である。これにより、モアレやジャギーの発生リスクを抑え、極めて高品質な映像記録が可能となった。具体的には、4K30Pおよび4K24P撮影時には7Kのオーバーサンプリングが適用される。4Kのスーパー35mmフォーマットでは60Pの収録が可能である。4K120P撮影には対応しないものの、4K60P撮影時には4.6Kのオーバーサンプリングが行われるため、高精細かつ滑らかな映像を余すことなく捉えることができる。これらの技術は、FX2が次世代の映像制作を強力に支える一台であることを物語っている。

FX2の記録設定は多岐にわたる。「XAVC HS 4K」をはじめ、「XAVC S 4K」、「XAVC S HD」、そしてそれぞれのイントラ4KおよびHD形式にも対応しており、これまでのCinema Line製品と同様に、多彩な選択肢を提供する。

多彩な記録設定に対応する

FX2の最大撮影設定は4K60Pであるため、2.5倍のスローモーション撮影が可能となる。一方、HD収録時には120P撮影に対応しており、5倍のスローモーション映像を生成できる。これにより、映像表現の幅が大きく広がりそうだ。

さらに、FX2ではスローモーションの設定メニューが一部変更されている。これまでのFX3やFX30に搭載されていた「スロー&クイックモード」は独立した設定であったため、通常撮影とスロー&クイックモードの切り替え時に記録設定が異なるリスクがあった。

しかし、FX2では新たにFPS設定というメニューが導入された。これは、撮影モード自体を変更することなく、FPS値のみを変更することを可能にする。これにより、記録のFPSを容易に調整できるため、設定ミスのリスクを低減し、よりスムーズな撮影ワークフローを実現する。

「Fixed」は、撮影FPSは動画設定の記録フレームレートと同じに固定。「Variable」は撮影FPSを変更可能
撮影モード変更をせずにFPSだけ変更可能。設定がシンプルになることで、ワークフローをスムーズ化

スロー&クイックモード自体は廃止されるが、これまで通りスローモーション撮影は継続して利用できる。使い方のイメージとしては、スローモーションの設定を「Fixed」または「Variable」として選択し、これをカスタムボタンに割り当てることで、ボタン一つで実質的にスロー&クイック撮影を実行できる。これにより、これまで以上にシームレスな撮影ワークフローが実現されたと言える。

クリエイティブルックにおいては、従来の10種類のプリセットに加え、新たにFL2とFL3の2種類が追加され、合計12種類のルックが利用可能となった。

また、これまでのCinema Line製品と同様に、Log撮影を使用せずに印象的な動画を作成できるS-Cinetoneを引き続き使用できる。さらに、ピクチャープロファイルとして利用可能なPPLUTを1から4に割り当てたり、LUTを動画にベイク処理したりすることも可能であり、映像表現の自由度が大幅に向上している。

FX2のLog撮影モードは、これまでのFX3やFX30などのCinema Line製品と同様に、3種類が用意されている。柔軟なISO感度設定が可能なフレキシブルISOに加え、デュアルベースISOにも対応しており、「CINE-EI Quick」と「CINE-EI Mode」の選択が可能である。

今回、特に注目すべき点はCINE-EI撮影時のデュアルベースISO感度である。従来のFX3では上位感度がISO 12800であったが、FX2では下限がISO 800、上限がISO 4000に設定された。

FX3のISO 12800は非常に高い感度性能を誇っていたものの、夜間撮影などで蛍光灯などの局所的な強い光源がある場合、ISO感度が上がりすぎてNDフィルターによる減光が必要となる運用があったという。FX2で上限が4000になったことで、このような切り替えが容易になり、撮影シーンによっては格段に使いやすくなったと言える。S-Log3撮影のISO800と4000の両設定において、15+ストップのワイドラチチュードを実現している。

Cine EIおよびCine EI Quick時、Hi/Loの2種類からベースISO感度が選択可能。High/dark scenesはISO 4000に設定されている

コンパクトで軽量なボディデザイン

ハードウェア面では、FX2は小型軽量ボディを追求し、本体のみで約594gという重量を実現した。これはFX3の約630gと比較して軽量化されており、FX30の約562gに近い数値である。この軽量化は、機動性を重視するクリエイターにとって大きなメリットとなるだろう。

大きさ(W×H×D)[mm] 重量(本体のみ)[g]
FX2 129.7×77.8×103.7 約594g
FX3 129.7×77.8×84.5 約630g
FX30 約562g

FX2は、FXシリーズの設計コンセプトを継承し、動画ユーザーに特化したフラットトップの筐体を採用している。これにより、本体上面での操作性が向上している。

三脚穴は、底面に一つから二つに増設された。また、リグやケージを取り付ける際に使用する穴に関して、上面はファインダー搭載により、FX3で左端に設けられていた穴が削除された。左側面にはケーブルクランプ用の穴が一つ追加されており、FX3に存在した左側面側の拡張用ネジ穴は削除された。本体右側面は、筐体設計に変更はない。

中央奥の三脚用ネジ穴はFX3からあったが、中央手前は新設だ
FX2上面のネジ穴は2箇所になった
左側面にはケーブルクランプ用の穴が一つ追加されFX3に存在した左側面側の拡張用ネジ穴は削除された
右側は変更なし

動画撮影に優れたAF性能

今回、FXシリーズとして初めてAIプロセッシングユニットが搭載された点が非常に魅力的だ。これによりリアルタイム認識AFが利用可能となり、特にワンオペレーションで撮影を行うクリエイターにとって、ピントと露出をカメラに任せ、構図に集中できるという大きなメリットが生まれる。これはワンオペのクリエイターだけでなく、映像制作の現場全体において撮影の歩留まりを大幅に向上させる、画期的な機能であると言えるだろう。

AIプロセッシングユニットの搭載により、FX2は被写体認識能力を飛躍的に向上させた。特に人物においては、骨格情報を用いて高精度な認識が可能である。FX3およびFX30と比較しても、人物の瞳認識精度は約30%向上しており、より確実なフォーカスを実現する。

FX2は、人物や動物に加え、鳥、昆虫、車、列車、飛行機といった多様な被写体を認識対象として追加した。これにより、様々な撮影シーンで強力な被写体追従性能を発揮する。また、これまでのモデルと同様に、リアルタイムトラッキング機能も引き続き利用可能だ。

被写体 FX2 FX3 FX30
人物 瞳/顔/頭/胴体(姿勢推定技術) 瞳/顔 瞳/顔
その他 オート、動物、鳥、昆虫、車/列車、飛行機 動物 動物、鳥

単独撮影を容易にする機能

手ブレ補正機能には、新たにダイナミックアクティブモードが搭載された。これは、アクティブモードと比較して約30%の安定性向上を実現している。ジンバルが使用できない現場や、ジンバルの重量負担を避けたいユーザーにとって、この機能は大きな恩恵をもたらすだろう。

本体背面には、新しい切り替え機構が採用された。FXシリーズのユーザーであれば気づくであろうが、背面ボタンの配置が一部変更されている。その中でも特筆すべきは、新搭載の静止画動画切り替えスイッチだ。このレバーダイヤルを左右に操作することで、撮影モードを素早く切り替えることが可能となり、動画だけでなくスチル撮影へのスムーズな移行を実現する。

静止画/動画切換スイッチにより、撮影モードをすばやく簡単に切り換えることができる。EVFを通して見ているときでも、親指で簡単に撮影モードを切り換えることが可能

シネマラインとしての操作性・信頼性・拡張性

FX2は、誤った録画や録画忘れを防ぐため、タリーランプを搭載している。このランプはカメラ前面、上面、背面の3箇所に配置されており、撮影者と被写体の双方が録画状況を容易に確認できる。

カメラ前面(上面)にタリーランプ搭載
背面にもタリーランプを搭載する

カスタムボタンの配置は、従来のモデルと同様に本体上面に3つ、背面に2つ、前面に1つ設けられている。さらに、チルト式のビューファインダー(EVF)にも新たにC7というカスタムボタンが追加された。これにより、より多様な操作を迅速に行えるようになった。

上面には3つのカスタムボタン
背面には2つのカスタムボタン

FX2には、VENICEなどで採用されているBIG6という新しいホーム画面が導入された。この画面では、FPS値、EI値、シャッタースピード、ND設定、ホワイトバランスといった主要な機能をクイックに確認できる。

この画面へのアクセスは、本体背面にあるホームボタンを押すことで可能だ。これにより、現在の撮影設定を素早く確認できるため、リグやケージなどを装着して本体の操作がしにくい状況下でも、容易に設定確認や操作が行えるようになっている。

BIG6(ホーム画面)を採用。カメラの設定を簡単に確認し、すばやく設定できる

FX2の最も注目すべき点は、チルト式の電子ビューファインダー(EVF)の搭載である。このEVFは、水平位置から上方に90°までシームレスに可動する。これにより、屋外などの明るい場所での撮影時に、背面液晶が見づらいといった問題を解消し、視認性を大幅に向上させる。正確なフレーミングを容易に行えるようになったことで、撮影者はより集中してクリエイティブな作業に没頭できるだろう。

約368万ドットの高精細有機ELパネルを採用し、ファインダー倍率は0.7倍である。このEVFは取り外し不可能だが、付属のアイカップは左右反転が可能だ。

撮影スタイルに合わせてアングル変更可(約0°から+90°まで)
付属のアイカップは左右反転が可能。写真は逆につけた状態。右目、左目にも対応可能だ

FX2は、これまでのCinema Line製品と同様に、長時間の安定した録画性能を誇る。これは、内蔵された冷却ファンによって実現されており、効率的な放熱設計が施されている。吸気口と排気口の配置は一部変更されているが、雲台に装着した際にも適切な隙間が確保されるよう設計されており、熱が効果的に排出されるよう工夫されている。

コンパクトなボディに冷却ファンを内蔵し、長時間の録画が可能
撮影画面の縦表示にも対応

FX2には、XLRハンドルは別売りとなる。これを別途購入し装着することで、XLRアダプターを介した高音質な音声録音が可能となる。

2つのXLRポートを備えた専用XLRハンドルユニットを装着することで、デジタル オーディオインターフェース対応XLRアダプターによる高音質録音が可能

カードスロットはデュアル仕様だが、FX3やFX30とは一部異なる点がある。スロット1はSDXC、SDHCメモリーカード(UHS-II、UHS-I対応)、およびCFexpress Type Aメモリーカードに対応するが、スロット2はSDXC、SDHCメモリーカードのみに対応する。この点がFX2の変更点である。

FX2にはズームレバーが搭載されており、特にパワーズームレンズを使用する際に便利な機構である。また、HDMIからの16bit RAW外部出力にも対応しており、外部レコーダーに接続すればスーパー35mmモードで4:2:2 16bitの映像を記録できる。さらに、これまでのモデルと同様にタイムコード機能も利用可能で、ライブストリーミングにも対応している。

ズームレバーを搭載する

プロから初心者まで対応する動画と静止画の新たな可能性

FX2は、発売から約2年半が経過したFX30と比較しても、その進化は顕著である。AIプロセッシングユニットの搭載、ダイナミックアクティブモードの導入、そしてチルト式の電子ビューファインダーといった機構を新たに採用し、そのスペックは非常に魅力的だ。ソニーは、このモデルをプロのクリエイターにも対応するだけでなく、これから映像制作を始める人々の「ニュースタンダード」として確立したいと考えている。

静止画性能にも注目すべき点がある。FX2はメカシャッターを搭載しており、FX3と同様に最大10コマ/秒の高速連写が可能だ。これにより、動画撮影だけでなく、静止画撮影においても高いパフォーマンスを発揮する。動画と静止画をシームレスに切り替えて運用できるハイブリッド性能は、FX2の大きな魅力の一つである。

機能比較

FX2 FX3 Ver 6.00 FX30 Ver 5.00
イメージセンサー
サイズ
35mm フルサイズ 35mm フルサイズ APS-C/super35mm
イメージセンサー
タイプ/ピクセル
裏面照射型 33M 裏面照射型 12M 裏面照射型 26M
画像処理エンジン BIONZ XR+AIプロセッシングユニット BIONZ XR BIONZ XR
動画性能 4K 最大記録フレームレート FF:29.97fps S35:59.94p FF:119.88p S35:119.88p
ISO感度 範囲 100~102400(拡張) 80~409600(拡張) 100-32000
ベースISO(Cine EI) 800/4000 800/12800 800/2500
ラティチュード 15+ストップ 15+ストップ 14+ストップ
AF 被写体認識 人物、動物、鳥、動物/
鳥、昆虫、車、電車、飛行機、オート/トラッキング
人物、動物、鳥/トラッキング 人物、動物、鳥/トラッキング
フォーカスマップ 非搭載
手ブレ補正 ボディ内手ブレ補正 動画:ダイナミックアクティブ/アクティブ/標準
静止画:中心5段/外周5段(CIPA2024)
動画:アクティブ/標準
静止画 5.5段(CIPA)
動画:アクティブ/標準
静止画 5.5段(CIPA)
操作性
拡張性
信頼性
ファインダー 368万ドットOLED 0.7倍 アングル可変 非搭載 非搭載
拡張ネジ穴/三脚穴 1/4-20 UNC×3、M 3×1/三脚穴×2 1/4-20 UNC×4/三脚穴×1 1/4-20 UNC×4/三脚穴×1
動画RAW出力 16bit RAW(S35) HDMI 16bit RAW HDMI 16bit RAW(S35未満) HDMI
メディア CFexpress Type-A/SD×1 + SD×1 CFexpress Type-A/SD×2 CFexpress Type-A/SD×2
静止画性能 シャッター方式 メカニカル / 電子 メカニカル / 電子 電子
連写速度 最大 約10コマ/秒 最大 約10コマ/秒 1枚撮影のみ
フラッシュシンクロ速度 1/160 1/250 フラッシュ非対応
サイズ・重量
(電池・メモリーカード含む)
129.7×77.8×103.7mm/679g
グリップからファインダーまで
129.7×77.8×84.5mm/714g 129.7×77.8×84.5mm/646g
【訂正】FX2のフラッシュシンクロ速度を「1/250秒」と記載しておりましたが、正しくは「1/160秒」です。お詫びして訂正させていただきます。