約30万円で実現する「オールインワン」シネマカメラ
ニコンと、同社が子会社化したRED Digital Cinemaが共同で展開する「Zシネマ」カテゴリーに、新たなシネマカメラ「ZR」が登場する。発売は10月24日を予定しており、希望小売価格は、ボディ単体で税込299,200円、標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」を同梱したレンズキットが税込374,000円。
本機は、ニコン初の本格的なシネマカメラとして映像制作市場に投入される。静止画と動画のハイブリッド機ではなく、純粋なシネマカメラであり、ボディには「Nikon | RED」のロゴが刻印され、両社の協業を象徴するモデルとなる。「ZR」は、NikonとREDが共同で映画制作やハイエンドプロダクション市場に向けて開発するソリューション「Zシネマシリーズ」の新たなラインナップとして、すでに発表されているZマウント対応のV-RAPTOR XとKOMODO-Xに続くモデルとして位置づけられる。
市場における競合製品としてソニーのFX3が希望小売価格 税込581,900円で販売されているのに対し、「ZR」は約30万円という価格設定がされており、価格と性能のバランスに優れた、非常に高いコストパフォーマンスを実現したモデルとなる。

本機は、「オールインワン」、すなわちカメラ本体一台で撮影が完結することを目指すコンセプトに基づいて開発されたモデルである。32bitフロート録音への対応、RAW動画の収録能力、そして大型の背面モニターといった主要な機能は、すべてこの「オールインワン」というコンセプトを実現するために搭載されたものである。
実際の撮影現場では用途に応じて外部アクセサリーを追加して運用するケースも想定されるが、本機の開発における根本的な思想は、たとえアクセサリーが何もない状態であっても、この一台で高品質な映像制作が可能であるという、自己完結性の高いカメラを目指す点にある。幅広いユーザーがどのような撮影状況においても安心して使用できる性能を確保するため、そして、できる限りシンプルな機材構成で撮影に臨める自由度を提供するために、このコンセプトが掲げられている。

「Z6III」同等のセンサーでREDのワークフローを実現
そのコンセプトを実現するため、撮像素子にはニコンのミラーレスカメラZ6IIIと同等である、アスペクト比3:2、2450万画素のフルサイズ(FXフォーマット)部分積層型CMOSセンサーが採用された。このセンサーは、一部を積層構造とすることでデータ読み出し速度を飛躍的に向上させており、高速で動く被写体を撮影した際に発生しやすい映像の歪み(ローリングシャッター歪み)を効果的に抑制する。このセンサーからの情報を、画像処理エンジン「EXPEED 7」が高速に処理し、高い映像品質を実現する。


動画記録形式は、ポストプロダクションで最大限の柔軟性を発揮する3種類のRAWフォーマット(R3D NE、N-RAW、ProRes RAW HQ)のほか、編集時のコンピュータへの負荷が軽い「ProRes 422 HQ」、長時間の収録に適した「H.265」、再生互換性の高い「H.264」など、現場で求められる多様なフォーマットに幅広く対応している。感度性能においては、ISO 800とISO 6400の2つのベースISO感度を持つ「デュアルベースISO」に対応し、撮影シーンの明るさに応じて常にノイズの少ないクリアな映像を記録することが可能である。
ダイナミックレンジは、新開発のRAWフォーマット「R3D NE」で記録した場合に15+ストップという広大な範囲を誇る。この「R3D NE」は、REDのRAWコーデック「R3D」をニコンの画像処理エンジン「EXPEED 7」に最適化したものであり、REDの既存カメラシステムとの高い親和性を実現する。これにより、複数台のREDカメラが混在するプロの現場においても、一貫した露出管理とシームレスなワークフローが可能となる。これまで大型のシネマカメラでしか実現できなかったR3D形式での映像記録を、このコンパクトな筐体で手軽に行える点が、本機の大きな特徴である。
「オールインワン」を支えるハードウェア
本機が掲げる「オールインワン」コンセプトを象徴するのが、背面に搭載されたニコン史上最大となる4インチの大型タッチパネルモニターである。307万ドットの高精細パネルは広色域のDCI-P3に対応し、輝度は1000カンデラを誇る。これにより外部モニターを不要とし、撮影システム全体の小型化、軽量化に貢献する。

記録メディアには、高速なCFexpress Type Bカードと、ボディの小型化を最優先するために採用されたmicroSDカードのダブルスロットというユニークな組み合わせが採用されている。

また、筐体内に冷却ファンを搭載しないファンレス構造でありながら、ボディの前面、背面、天面の3面に採用した放熱性に優れたマグネシウム合金によって高い冷却性能を実現。ニコンの検証によれば、4K60P撮影において、特定の条件下でUSB給電時には仕様上の制限である125分まで、内蔵バッテリー使用時にはバッテリーが尽きるまでの135分間、熱によって撮影が停止することはなかったと報告されている。
ベースモデル「Z6III」との明確な差異点
本機は、そのベースとなったZ6IIIと同等の基本性能を有しながらも、特定の機能を省略・変更することで、異なるコンセプトと高いコストパフォーマンスを実現している。Z6IIIが搭載する電子ビューファインダー(EVF)とメカシャッターを「ZR」は搭載しておらず、これにより主に背面モニターを使用するスタイルが前提となる。
特にメカシャッター非搭載により、ストロボ同調速度はZ6IIIの1/200秒に対し「ZR」は1/60秒に制限されるため、本格的なストロボ撮影を行うユーザーにとっては注意が必要である。デザイン面においては、従来のシネマカメラに多いボックス型とは一線を画し、レンジファインダーカメラを彷彿とさせる洗練された外観を持つ。

ハイアマチュアと若手プロが主戦場
本機のメインターゲットは、映像制作に本格的に取り組むハイアマチュア層、そしてプロとしてのキャリアを歩み始めたばかりのフリーランスや小規模プロダクションに所属する新進の映像クリエイターである。約30万円という価格設定は、こうしたクリエイターが2台体制を60万円台で構築することを可能にする戦略的なものである。
同時に、撮って出しのスローモーション機能や、手軽に映画のような映像が撮影できる「シネマティック動画モード」、スマートフォンへの即時転送機能なども搭載しており、これから本格的に動画を始めたいエントリーユーザーにとっても門戸を広く開く存在となりそうだ。


