NIKON ZR

はじめに

2024年のニコンによる米国REDの買収は、近年の動画シネマ業界の大きな変革として強く印象に残るものでした。それからはREDのフラッグシップカメラであるV-Raptor/KOMODOのニコンZマウント仕様の発売や、Nikon N-Rawに対応したRED監修LUTの発表と、少しずつシナジーを高めてきた両ブランドが、ついに初めてのダブルブランドを冠した「シネマカメラ」を発表することになりました。名前はそのまま、ニコンのミラーレスのブランドネーム「Z」とREDの「R」を合わせた「ニコンZR」!

果たしてどんなカメラに仕上がっているのか、発売前の商品をお借りすることができましたのでご紹介させていただきたいと思います。なお、こちらの商品は発売前につき画質面が最終版となっていないとのことでしたので、テスト撮影というよりは使用感についてレビューしつつ、ニコンの考えるシネマカメラとは?について、掘り下げて考察してみたいと思います。

NIKON ZR

驚くほどの小ささを実現。しかしそのサイズを実現するためには…

ボディを手に取って見ると上下の高さはマウントサイズギリギリ、左右も手でしっかり持てるサイズがギリギリ保たれています。シグマfpシリーズなど小ささに全振りしたミラーレスには及ばないものの、フルフレームカメラとしてまずはそのコンパクトさに驚かされます。特に近年のカメラにありがちな大きなグリップがなく、ボディそのものの薄さが保たれているのが個人的には非常に好印象で、レンズを外した厚みはライバルと目されるソニーFX3よりも圧倒的に薄くなっています。

シネマカメラというカテゴリーではありますが、フルフレームでこのコンパクトさはスチルのユーザーもきっと興味を持つのではないかと思います。また手に取った時に感じるのはニコンらしいボディのがっしりとした剛性感。シネマカメラとしては驚くべきことに、ファンを使わずにボディ全体をヒートシンク的に使うことでシネマクオリティの排熱性能を実現しており、表面を構成するメタルの硬さ、冷たさが指に伝わります。しかしながら、この構造では真夏の加熱などが心配になるので、今後のレビューを注視したいところです。

NIKON ZR
NIKON ZR
SmallRigから発売されるリグを組んだ状態。上部には5インチのNinja V+を置いているが、それと比べても本体モニターは十分な大きさ

液晶モニタはこのボディサイズとしては異例の4インチのものが採用されており、精彩感、輝度共に非常にクオリティが高いものになっています。単体での構図、露出の確認としてもかなり有用なサイズです。

ひっくり返すと裏面には「NIKON | RED」のロゴマークがあり、ニコンのカメラに初めて刻印されたREDの文字はしっかり馴染んでいます。背面はモニターの収納のためにほとんどの面積が使われており、操作系は小さなジョグボタンとメニュー、再生の2つのボタン、それにコマンドダイヤルだけとなっています。

NIKON ZR
背面の操作系。「NIKON | RED」が象徴的
NIKON ZR
カメラ上面。モードダイヤルなどはなく、非常にシンプル

また上面を見ると左側は電源ボタンのみ、細長い2箇所のスリットはマイク(後述)、中央にクイックシュー、右側はPHOTO/VIDEO切り替えスイッチにアサインボタンが3つ、ズームレバーと一体化したシャッター(RECボタン)と、これまでのニコンのカメラと比較しても異例のシンプルさとなっています。特に上面にモードダイヤルや露出補正のダイヤルが一切なく、カスタムできそうなのは3つ並んだアサインボタンだけなので人によっては物足りなく感じるかもしれません。

RECボタンの周囲に配置されたズームレバーは独特の形状をしており、人差し指だけでなく、上から構えた時に親指でも操作できるように形状が工夫されています。前面にはRECボタンの直下にコマンドダイヤル、マウント向かって右側に着脱ボタン、斜め下にもRECボタンがありますが、操作系はこれだけ。とにかく最低限のボタンだけに絞り込んだスタイルは明らかにこれまでの静止画機とは一線を画しています。

NIKON ZR
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独特な形状のズームレバーは人差し指、親指両方で操作することを念頭に置いている
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カメラ左側の端子を見てみましょう。ゴムの蓋が上下に別れており、上にはイヤホンとマイクのステレオミニジャック。下にはmicro HDMIとUSB-C端子という構成。動画専用機を謳いながらmicro HDMIというのはちょっと残念といえば残念なポイントですが、そこまでしてでも小型化へという強い意志を感じるチョイスといえばそうなのかも。ヘッドホン端子はリモコンも兼ねています。

またUSB-C端子はPCとの接続の他給電撮影にも対応しており、モバイルバッテリー等と繋ぐことでバッテリーの残量を心配せず撮影し続けることができます。また今回借りたキットでは充電器の付属がないため別売りでチャージャーを買わないと充電は本体で行うことになります。最近のデジカメではしばしば見る仕様ですが、少し寂しいと思ってしまいます。

底面とバッテリー、メディアの収納

NIKON ZR
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NIKON ZR

底面を見てみましょう。三脚穴と固定用のピン穴がありますが、ピン穴が横並びなのはやや珍しいパターン。バッテリー蓋はメディアスロットと共通になっており、バッテリーはZ6IIIとも共通のEN-EL15c。そしてメディアはCFexpress Type BとXQDに対応したスロットとmicro SDXCのダブルスロットという構成になっています。micro SDXCというメディアのチョイス、またバッテリーとメディアのスロットを共有させるという設計は「アクションカムかよ!」と思わず突っ込みたくなるほどの割り切ったシンプルさです。

外観の大きなトピックはそのコンパクトさ。しかしそれを実現するためのmicro HDMI、micro SDXCという選択、バッテリーとメディアを共通化した設計、これまでと比べて極端に少ないボタン類と、とにかく徹底した「割り切り」と「取捨選択」を感じるボティデザインになっており、かなり好みが分かれるんじゃないかと思いました。とにかく端子類は最低限の利便性を確保した上でボディをコンパクトにしようという、強い思想を感じるものになっています。

REDクオリティをAFでサクサク撮れる?電源を入れてチェック!

電源を入れてみます。電源は物理スイッチではなくボタンを押し込む方式で、オンにした瞬間はグリーンに点灯しますが、以降はオンとオフで見た目の違いがないものになっています。

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センサーや画像エンジンは2024年7月に発売されたZ6IIIを継承しつつ、動画仕様に全体を再設計、ブラッシュアップしたものという説明がありました。

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メニューに入り、動画撮影メニューから「動画記録ファイル形式」に入ると、今回の最も大きなトピックの一つである「R3D NE 12-bit」の文字があります。REDのカメラに採用されている圧縮RAW形式「R3D」をニコンのセンサー、映像エンジンに最適化してアレンジしたものであり、RED基準で15stop+のダイナミックレンジを持つとの説明。ニコンとREDのコラボレーションの最も大きな成果の一つと言えるのではないでしょうか。

もっとも、V-RaptorやKOMODOが搭載するR3Dが16bitなのに対してこちらは12bitとなっており、また圧縮率を選んだりという細かなカスタムもできないものとなっていますが、これだけコンパクトで持ち運びを前提にしたミラーレスのボディでR3D NEとしてRAWで動画が撮影できるというのはこれまでにない撮影体験だといえます。

画質の評価について言及するのは最低限にとどめますが、少し触ってみて感じたのはまずローリングシャッターの少なさ。V-RaptorやKOMODOにはグローバルシャッターのモデルもありますからそれと比べることはできませんが、非常に優秀と感じました。また動画撮影時のAFもニコン機として標準的な水準であり、シネマカメラのAFにがっかりした経験のある人も安心して使えるものになっていると感じました。R3DをAFでサクサク撮れるカメラというだけですごいことだと思います。

NIKON ZR
NIKON ZR

ハイスピードに関しては、4Kで119.88fps、HDでは239.76fpsに対応していますが、R3D NEを選択時は4Kで119.88fpsがマックス。その場合はクロップされるようです。

ちなみにRAWはR3D NEの他にN-Raw、ProRes RAWも選択可能。一つのカメラにRAWが3種類搭載されているというのは冗長で、今後整理されていくのではと思います。N-RawはISO感度などの面でR3D NEよりも柔軟な設定が可能ですが、センサーの持つダイナミックレンジを最大限に活かしたいのであればR3D NEをチョイスするのが最良の選択だと言えるでしょう。

ちなみにRAW以外にもProRes422HQやH-265 10bitといった汎用性の高いフォーマットも選択可能。ただしLogはRED準拠のLog3G10ではなくN-Log、もしくはSDR画質となります。ちなみにもう一つのポイントとして、SDR画質を選択時にピクチャーコントロール画面から「CineBias_RED」というピクチャーコントロールを選択することで、REDが監修したシネマチックなカラーモードで撮影することが可能になります。

NIKON ZR
CineBias_RED。今後もRED仕様のピクチャーコントロールが追加されるとか

細かい部分ですが、撮影中の画面にLUTを当てることができ、またHDMIでモニタリングする際に本体モニターとHDMIで異なる表示スタイルを選べる(本体にはメニューを表示するが、HDMIからはクリーン出力のみ)などは、このサイズでできるカメラが意外と限られるため嬉しいポイントと思います。

NIKON ZR
LUTの選択が可能
NIKON ZR
HDMIからの出力をクリーンにできるのは嬉しい

ミラーレス離れした、充実した音声機能

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クイックシュー両脇の細長いスリットがマイク
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もう一つ、ぜひ取り上げておきたいポイントが音声収録で32bit Float収録に対応している点。最近のフィールドレコーダーで普及してきた収録方式ですが、極端にダイナミックレンジを大きく取ることで音割れをほとんど心配することなく収録することが可能となります。動画の収録中は音の細かなゲイン調整まで気を使うのが難しいことも多いので、録りっぱなしの精度が上がるというのは歓迎したいポイントと感じました。

NIKON ZR
NIKON ZR

また、Nokiaが開発した「OZO Audio」に対応しており、臨場感あふれる空間音響の収録も可能。本体上部のクイックシューの両側に細長く配置されたマイクの指向感度を変化させることができ、前方、全方位、後方、バイノーラル(自分の耳で聞いたような自然なステレオ感)と凝った設定が可能。

また、今回からクイックシューがアクセサリーと通信可能なインテリジェントシューとなり、外付けマイクのME-D10を使用することでより精度の高い収録にも対応。これらの音声機能の充実っぷりは、FX3がグリップ一体型のフルサイズXLR入力とマニュアルコントロールを搭載しているのと比べ、よりカメラ本体で完結させようという設計思想を感じるものになっています。反面、拡張性という点ではステレオミニジャックの入力のみなので、録音部との協業においては工夫が必要だと感じました。

※画像をクリックして拡大
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NIKON ZR

他部署との協業という意味では、タイムコードはBluetoothを使ったATOMOS Air Gluタイムコードシステムに対応していますが、有線でのタイムコード同期にも対応してほしいと感じました。

まとめ ニコンが放った「忖度なし」ミラーレス動画機の決定版か

ニコン注目の新商品ZRを紹介させていただきました。ニコンとREDがコラボレーションすることによって生まれた最初のカメラは、「ニコンクオリティのボディにREDクオリティのRAW動画を搭載しちゃった」という、現時点で考えうる最も贅沢なパッケージングになっており、大注目間違いなしのカメラではないかと思います。

フルサイズでありながらコンパクトさと扱いやすさのギリギリを攻めたボディサイズと操作系も、シンプルなのが好きな自分としては歓迎したいポイントだと思いました。しかし、micro HDMIの採用とmicro SDXCの採用、バッテリーとメディアを同じ蓋で共存させる構成ははっきりいって賛否両論になるのは否めない「攻めまくった」ポイントと感じます。特にmicro HDMIについては「動画を志向したカメラで」選ぶべきではないと思うんですよね。USB-Cに動画出力を兼ねさせるようなやり方もあったのではないかと思ってしまうのです。

とは言え、動画に大きくフューチャーした専用機を出すのがほとんど初というニコンにおいて、変に既存機の焼き直しではなく全く新しいデザインのカメラが出たというのは、ニコンの本気を大いに感じます。このカメラの登場によって日本のコンシューマー動画にも「REDのトーン」がどんどん取り入れられていくという事態になれば大歓迎。ぜひそうなってほしいと思うのでした。

WRITER PROFILE

湯越慶太

湯越慶太

東北新社OND°所属のシネマトグラファー。福岡出身。新しいカメラ、レンズはとりあえず試さずにはいられない性格です。