Blackmagic Designの発表によると、ロサンゼルスを拠点とするエミー賞受賞歴のあるスタジオ「Light Sail VR」が、最新のBlackmagic URSA Cine ImmersiveデジタルフィルムカメラおよびDaVinci Resolve Studioを導入し、イマーシブメディア制作の新たな可能性を切り開いているという。
Light Sail VRは、イマーシブメディアにおけるストーリーテリングの限界を押し広げる最先端のクリエイティブスタジオで、包括的なサービスを提供している。共同設立者・クリエイティブディレクターのマシュー・シーリア氏と共同設立者・製作総指揮のロバート・ワッツ氏が指揮を取っている。同スタジオは、先日「SNL 50th The Anniversary Special: Immersive Experience」で2025年エミー賞の新興メディア番組部門の受賞を果たした。
シーリア氏は2015年に同社を設立した理由について、次のようにコメントしている。
シーリア氏:ロバートと私はイマーシブビデオの分野に強い興味を持っていましたが、当時のコンテンツのほとんどは物語性に欠けているように思えました。そこで、素晴らしいストーリーを伝え、イマーシブビデオに最適だと感じられるプロジェクトに焦点を当てることで、このメディアに価値を加える大きなチャンスがあると感じました。
イマーシブで10年の経験を積んだ同氏はその成長を次のように語る。
シーリア氏:当初はバブルが起き、多くのコンテンツが作られたものの、当時の技術には制限があり、敬遠されるようになりました。しかし、そのうちの少数がイマーシブに関わり続け、現在も強い熱意を持って、この新しい媒体におけるストーリーテリングの可能性を探求しています。
Apple Vision Proのリリースにより、新たに関心が高まっており、パイプライン全体の技術も向上しました。10年前のイマーシブビデオとは異なります。ストーリーテリングが向上し、撮影とポストプロダクションはURSA Cine ImmersiveやDaVinci Resolve Studioなどのツールで改善され、視聴者の関心も高まっています。
イマーシブの撮影からポストプロダクションまで
Blackmagic URSA Cine Immersiveデジタルフィルムカメラを導入するまでは、同氏は過去10年に渡ってイマーシブの映像を他のカメラと同様に撮影していたという。シーリア氏:以前は、すべてのカメラに妥協点がありました。必要なダイナミックレンジ、解像度、3Dのサポートなどが得られず、圧縮により画質にも問題がありました。
ツールは現代の映画セットやワークフローに適していなかったり、カスタムビルドだったりすることが良くありました。それはそれで良いのですが、弊社がコンサートで行うように、複数のカメラによるマルチカムでの撮影は難しいのが事実です。
優れたイマーシブ体験は、優れた映像から始まります。弊社では映像に極めて多くの調整を行っているため、変換のたびに品質がわずかに低下し、それらのピクセルが拡大されて、視聴者にとっては巨大に見えてしまいます。そういった点で、弊社のニーズは非常に明確です。1°あたりで十分なピクセル数が得られる、極めて高い解像度が必要です。幅広いダイナミックレンジと優れたカラーサイエンスも必要です。
機器を既存のパイプラインにつなげるために、従来型の映画と同じ規格が必要であり、イマーシブビデオの制作ですでに大きな問題となっている知識不足を解消したいと考えています。URSA Cine Immersiveは、これらすべての条件を満たしています。イマーシブカメラとして特別に設計されたシネマカメラであり、カメラからDaVinci Resolve Studioによるポストプロダクションまでのワークフローがシームレスに行えます。
テスト1、2、3
同社は、最も見栄えの良いイマーシブコンテンツを作成する方法を割り出すために、様々なシナリオでURSA Cine Immersiveのテストを行っている。
シーリア氏:何度も嬉しい驚きがありました。
長い間、低光量は問題となってきましたが、このカメラは90fpsで撮影するため、特に困難になることは分かっていました。テストで撮影したファイヤーダンサーのフッテージでは、ある程度のノイズは避けられないけれども、デノイズでかなりきれいに仕上がり、Apple Vision ProのHDRでは炎が際立つことが分かりました。技術の進化には本当に驚かされます。

被写体に近づいた撮影も同社にとって重要なテストだった
シーリア氏:登場人物に近づいて撮影することで、これまでにないつながりを感じさせることがイマーシブコンテンツ制作の強みだとすれば、次の疑問は「どこまで近づけるか?」ということになります。3Dで作業するには物理的な制限があるため、カメラの設計は重要な要素となります。
カメラを車の後部座席に取り付けて走行したところ、非常に近い距離でも、快適に視聴できるステレオスコピックの映像が得られました。車内に比べて車外が遥かに明るかったため、カメラのダイナミックレンジも同時に試されました。ハイライトとシャドウのディテールを保持し、美しいフォールオフが得られるカメラの性能には驚かされました。極めてシネマライクなイメージが得られ、Apple Vision Pro用にHDRでグレーディングすると、特にそれが顕著です。
もう一つのテストでは、屋外のトレイルで撮影を行いました。カメラに内蔵されたNDフィルターは露出を制御するのに最適です。この撮影では、圧縮によって木や背の高い草などの細かいディテールがどのように処理されるかをテストしたいと考えていました。普段行うようなポストプロダクションの処理を一切しなくても、映像は鮮明です。
プロセス全体を通して、イマーシブワークフローはURSA Cine Immersiveにより大きく簡素化されたと同氏は説明する。
シーリア氏:レンズ空間で作業することで、編集作業をより迅速に始められ、イマーシブコンテンツを「現像」するという、これまでのステップを省けます。
以前のワークフローとツールの使用で若干の問題が生じているものの、DaVinci Resolve Studioでは作業が円滑に行えているという。
シーリア氏:レンズ空間での作業は非常に新しいため、タイトル、VFX、スタビライゼーション、ノイズ除去パイプライン用の従来のプラグインとツールを少し更新する必要があります。しかし、DaVinci Resolve Studioに精通しているスタジオのおかげで、遥かに楽になっています。
イマーシブ・ポストプロダクション
シーリア氏:高解像度・高フレームレートのメディアを再生できる、堅牢な基盤を備えたソフトウェアが必要だったので、数年前にDaVinci Resolve Studioに移行しました。3Dのサポートも必要でした。視聴者が切望しているシネマライクな感覚を弊社の作品に加えるためには、最も優れたカラーサイエンスが必要でした。それら全てがDaVinci Resolve Studioで得られることには本当に驚かされました。
過去数年、Fusionを活用して、独自のイマーシブツールを数多く公開しましたが、URSA Cine Immersiveのネイティブサポートにより、これらのツールはネイティブ統合されています。これは業界にとってとても良いことです。極めて高品質な作品の制作が、これまでにないほど簡単に行えるようになります。
同社のポストプロダクション・ワークフローにおける中心的な役割を果たしているDaVinci Resolve Studioは、編集、VFX、カラーグレーディングに長年使用されてきた。
シーリア氏:コラボレーション機能のおかげで、時間を大幅に節約できています。高解像度かつ高フレームレートのコンテンツを扱う弊社のパイプラインは、ほとんどの場合、複雑で時間がかかるものですが、コラボレーション機能によって作業時間を短縮できています。複数のアーティストが同じプロジェクトで共同作業するのは、とても近代的な働き方だと思います。
また、キャプチャー時にヘッドセットでライブプレビューもできるようになりました。
編集中にヘッドセットでフッテージを確認でき、書き出しに数時間待つ必要がありません。カット割りを行って、保存したら、弊社のツールであるScreening Roomでヘッドセットを使用してフィードバックを残します。さらに、多くのプラットフォームで、片目あたり4Kで90fpsのコンテンツをほぼ遅延なしでストリーミングできるようになりました。こういった驚くべきテクノロジーとワークフローの改善により、工学面ではなく、クリエイティブな流れに集中できます。

今後の期待
同氏にとってイマーシブコンテンツの制作においては、以下が最も重要視している考慮事項だという。
コンセプトが、イマーシブのストーリーテリングに適していることを確認してください。2Dで制作した方がよいアイデアをクリエイターが持ち込んでくるのをよく見かけます。イマーシブに最も適しているのは、物語の中にいるような感覚を味わえるプロジェクトです。真実味のある登場人物と環境によって、さらに引き立てられ、イマーシブでのみ伝えることのできる親密感が得られるものが適しています。
一にも二にも計画してください。プリプロダクションは極めて重要です。
自分の能力以上のことはやらないでください。イマーシブは感覚に負担をかけるものなので、視聴者が圧倒感を受けない、よく練られたシンプルなコンセプトの方が成功する可能性が高くなります。テクノロジー自体が極めてパワフルなので、物語が素晴らしければ、視聴者を引き込むために派手なカメラワークは必要ありません。
チームの全員が知識が足りない状態で作業している可能性が高く、この新しいメディアには未知の部分が多いことを理解することが重要です。何も決めつけず、たくさん質問してください。
何をすべきか分かっている人たちを雇い、彼らの意見に耳を傾けてください。イマーシブをしばらく扱っている人は、おそらく以前に同じ問題に遭遇したことがあるはずです。また、誰もが互いに協力してより良いコンテンツを作りたいと考えています。無駄な努力に時間を投じることなく、専門家に頼ってください。
同氏によると、現在イマーシブにおけるストーリーテリングの次の章が始まりつつあり、それは極めて大きな変化が伴う、多くの期待が持てるものだという。
シーリア氏:没入感は物理的なものですが、このメディアにおいて本当に強力なのは感情的なつながりです。他人が決めた枠に縛られることなく、シーンを思い通りに見られるという小さな主体性が、素材との強いつながりを生み出します。ストーリーテラーとしての仕事を正しく遂行し、存在感と親密さを生み出せれば、その感情的なつながりは強固で記憶に残るものとなるでしょう。
