260519_NHK_topeDEtpyjP

NHK放送技術研究所(以下:技研)は、東京科学大学と共同で、透明なガラス基板越しに「フルカラー3次元像」を表示する新たなホログラムの作製手法を開発した。

本技術の最大の特徴は、「高い透明性」と「鮮明なフルカラー3D」の両立である。今回開発した技術は、ホログラム作製手法のひとつである「表面レリーフ型ホログラム」と呼ばれる手法を応用したものだ。従来、この手法を用いる際の課題となっていた光の散乱(基板の白濁)を抑えることで、観察者はガラス越しの景色をクリアに見ながら、その手前に浮かび上がる高精細な3次元像を同時に楽しむことが可能になった。

※ 表面レリーフ型:基板表面の微細な凹凸によって光の進むタイミング(位相)を変調する構造のこと。

260519_NHK_01VJmwmPnO
開発したホログラムで表示したフルカラー3次元像

開発の背景:透明化とフルカラー化の壁

技研では、特別な眼鏡を必要としない高精細な3次元ディスプレーの実現を目指し、光の性質を忠実に再現する「ホログラフィー」による3次元像表示技術の研究を進めてきた。基板の表面に微細な凹凸構造を作ることで光を曲げる「表面レリーフ型ホログラム」は、比較的大きな静止画の3次元像を広い視域で表示できる。しかし、これまでは以下の2つの大きな課題があった。

  • 光の散乱(基板の白濁):従来の設計では、透明な基板表面に「深い段差」や「鋭いギザギザ」の凹凸構造を作る必要があり、これが光を散乱させて背景が白く濁って見えていた。
  • フルカラー化の複雑さ:フルカラー化には赤、緑、青の基板を重ねるなどの複雑な構造が必要で、さらに透過度が低下する要因となっていた。

表面レリーフ型ホログラムで実現した3つの革新

今回の研究では、ホログラムの設計手法を根本から見直すことで、これらの課題を解決した。

「浅く滑らかな凹凸」で高い透過性を実現

表面レリーフ型ホログラムの設計には光の位相(波のズレ)を用いることが一般的であったが、新たに光の「振幅(波の大きさ)」も活用する設計手法を導入した。これにより、従来は深さ約1μm(約0.001mm)だった基板表面の凹凸を約0.5μm(約0.0005mm)という「浅い段差」かつ「滑らかに連続する形状」にすることが可能となった。その結果、余計な光の散乱が大幅に抑えられ、ガラスのような高い透明性を維持することに成功した。

単一のホログラムで「フルカラー化」に成功

1枚のホログラムで、赤・緑・青の各色に対応した光を別々の方向から照射し、各色の3次元像を同じ位置に重ね合わせる技術を確立した。複数のホログラムやカラーフィルターを重ねることなく、1枚の薄い加工面だけで鮮明なカラー3次元像を表示できる、シンプルで高透過な構造を実現した。

計算負荷を抑えた「高画質化」

新しい設計手法は、従来と比べて計算負荷がほとんど増えない一方で、これまで利用されていなかった光の振幅分布も利用するため、3次元像の画質向上にも成功した。

260519_NHK_02GK8Oe23Q
ホログラムの透過性の比較(奥に文字を印刷した紙を配置)
260519_NHK_03PCJuQqxH
表示した3次元像の比較
260519_NHK_04t5eyQnxd
システム全体像

試作したホログラムの詳細

本技術に基づき、半導体微細加工技術を用いて試作したホログラムは、非常に高精細なスペックを有している。

超高精細な画素構造

約12cm角のサイズに、約600億ピクセル(245,760×245,760)を配置。ピクセルの間隔は0.5μm(約0.0005mm、1mmの2000分の1)という細かさだ。また、凹凸構造の高さを32段階で細かく調節することで段差の不連続性を抑え、より精密に光の情報を再現できるようにしている。

自然な立体感

透明化とカラー化の新設計に伴い視域(見える範囲)は制限されるが、観察に十分な視域を確保している。視点移動に伴って像が滑らかに変化する、ホログラフィーならではの自然な立体感を実現した。

試作したホログラムの主な仕様

ホログラムサイズ 約123 mm×123 mm
ピクセル数 245,760 × 245,760
ピクセルピッチ 0.5μm(約0.0005mm)
視域(見える範囲) 水平19° × 垂直28°

今後の展望

これまでNHKと東京科学大学は、表示デバイス開発の進展を目指し、高精細なホログラムのデータ生成技術と基板表面への形成技術の研究を共同で進めてきた。

今回、透明なホログラムでフルカラー3次元像を表示することに成功し、店舗のショーウィンドウ越しに商品の立体解説を表示したり、博物館の展示ケースで展示物に重ねて案内を表示したりするなど、将来のホログラフィーによる透過型3次元像表示システムの応用の道が開けた。今後も、大きく、広い視域で高精細な3次元像表示の実現に向けて研究開発を進めていくとしている。

展示・発表予定

この技術は、2026年5月28日(木)〜31日(日)に開催する「技研公開2026」で展示する。また、この技術に関する論文が、コンピューターグラフィックスとインタラクティブ技術に関する国際会議「SIGGRAPH 2026」のTechnical Papers部門にJournal paperとして採択された。7月にロサンゼルスで本成果に関する発表を行う予定だ。

技研公開2026 「拓く、支える、これからも」

  • 開催期間:5月28日(木)〜31日(日) 10:00〜17:00(入場は終了30分前まで)
  • 会場:NHK放送技術研究所(東京都世田谷区砧1丁目10-11)
  • 入場:無料(事前予約不要)
  • ホームページ:https://www.nhk.or.jp/strl/open2026/