Blackmagic Designの発表によると、2025年9月にKアリーナ横浜で開催されたトラックメイカー/音楽プロデューサー/MPCプレイヤーであるSTUTSのコンサート「Odyssey」の会場に設置された巨大ビジョンに投影する映像の制作に、URSA Cine 12K LFおよびDaVinci Resolve Studioが使用されたという。

「Odyssey」は、STUTSのキャリア最大規模となるライブで、これまでSTUTSがサウンドを手がけてきた多くのラッパーやシンガーがゲストとして参加し、大成功を収めたという。会場に設置された巨大ビジョンを使った映像演出も圧巻で、STUTSの作り出す音楽が、映像と照明と調和し観客のボルテージは最高潮となった。

同公演の演出を務めたのは、STUTSのミュージックビデオを多数手掛けてきたSpikey John氏。ライブ演出は今回が初となる。Spikey氏は、撮影は村中海斗氏、グレーディングは上原晴也氏が担当。屋久島や長野の自然、東京のストリート、そして過去のミュージックビデオが楽曲に合わせて展開された。巨大ビジョンでの上映に耐えうる解像度と階調表現を実現するため、URSA Cine 12K LFが採用された。

巨大ビジョン用の映像制作についてSpikey氏、村中氏、上原氏に話を伺った。

STUTS側からはビジョン用について細かいリクエストはありましたか?

Spikey氏:

STUTSさんとは今までに何度も一緒にお仕事をしているので、ビジョンの映像演出についても「いつもの感覚でお願いします」と一任してもらえました。

初めてURSA Cine 12K LFで撮影して、どのような感想を持たれましたか?

村中氏:

URSA Cine 12Kでの撮影は中判カメラで写真を撮っているような感覚で、なにげない景色を撮影していてもテンションが上がりました。長期ロケでもそのテンションをキープできたんです。ラージフォーマットなので空気感がすごいんです。現実をそのまま投影しているような感覚がありました。ダイナミックレンジも高く、見たことのないような解像感でした。撮影の旅の空気感をそのまま観客にも共有したいと思っていたので、今回の撮影に本当にマッチしたカメラでした。

操作感についてはいかがでしたか?

村中氏:

解像度が高いのでピント(合わせ)はシビアですが、ズームしてピントを合わせる機能もあるので助けられました。リグなども装着せず最小限のセットアップで撮影して、外部モニターも使用せずにカメラ横のビューファインダーのみで撮影しましたが、これだけで全部いけると感じました。過去のBlackmagicのカメラと比べて、筐体も進化していますし、内蔵NDフィルターも使いましたが色転びもなく、すべてにおいて優秀なカメラだと思いました。

12K解像度での撮影ということで、データの扱いに苦労しましたか?

村中氏:

日々の撮影も長時間に及び、過酷な撮影スケジュールでしたが、Blackmagic Media Dockを使用することで12K素材でも高速でバックアップができました。

上原氏:

DaVinci Resolveのタイムラインは書き出しサイズのままでグレーディングしていたんですが、Blackmagic RAWは軽くて、ストレスなく作業できました。

色作りではどのような点にこだわりましたか?

上原氏:

撮影素材は、海や森などの自然のショットが多く。初めはパンチのある色も試しましたが、人間が普段見慣れている風景だからこそ、色が少しでも不自然だと違和感が出てしまいます。カットの尺もゆったりしていて、大画面で見せるので色に粗があるとすぐに分かってしまう。映像がSTUTSさんの有機的な音楽と自然に絡み合うよう、できるだけナチュラルなトーンを意識しました。12Kで撮影されたこともあり、現地の空気感をそのまま伝える方向性が最適だと感じたんです。他のカメラで撮っていたら、もう少しクセをつけていたかもしれません。

村中氏:

URSA Cine 12Kはナチュラルなトーンでもすごく綺麗な画作りができるカメラです。12Kだと解像度が高いのでシャープになりすぎて生っぽくなる印象がありますが、逆にリアル過ぎて生っぽくないんです。
セットリストの「99 Steps」では、当日参加できなかったボーカリストのHana Hopeをフィーチャーしています。ボーカルパートが始まると同時に、巨大ビジョン中央からワイプでHanaのクローズアップが現れるというサプライズ演出で、ライブでもかなり盛り上がっていましたね。

Spikey氏:

STUTSさんから、この映像だけはミュージックビデオみたいに撮って欲しいとリクエストがありました。曲の印象から、空が近い広大な草原でHanaさんが歌うというイメージが浮かびました。観客をびっくりさせたくて、ああいう登場の演出にしました。撮影直前までは雨でしたが、奇跡的に晴れ出して、光もちょうどいい感じで入って神秘的なシーンになりましたね。

村中氏:

今回唯一、人物を撮ったのがこのシーンでした。URSA Cine 12Kはスキントーンも非常に綺麗で、人物撮影にもすごくいいカメラだと感じました。

上原氏:

このシーンは、ススキのような茶色い植物がたくさん生えていて、その色がスキントーンに反射していたので、それをどうセパレートしていくか気をつかいました。また、このシーンに限らず、会場のビジョンでの色の出方がスタジオのモニターと違っていて、肌がすごくピンクになったりしてしまったんです。そのビジョンの癖を前日のリハーサルで覚えて、スタジオに戻って再調整しました。ビジョンでの色を確認できない中、すべてリハーサルで見たときの感覚を頼りに作業したので、本番の日に確認するまでドキドキでした。

特殊なアスペクト比でのグレーディングですが、どのように作業されましたか?

上原氏:

画角が6:1なのでモニターに出すとものすごく細長くなってしまうため、たまにモニター上で16:9の画角になるまでズームして作業していました。このプロジェクトでは、普段のグレーディングよりも、色々な箇所にズームして細かいところを調整しています。中判カメラの写真をレタッチするような感覚でグレーディングしました。どんなに拡大しても画質が破綻しないことに驚きました。

今回のプロジェクトを振り返って感じることは?

村中氏:

あれだけ実景ばかりを撮り続ける経験は初めてでしたし、あそこまで大きな媒体で自分の映像を見せることも初めてでした。自然と対話するのを繰り返しながら撮影して、言葉以上に語れるものがあると思いました。

上原氏:

ありのままの色を出すことが逆に一番難しい。色に向き合う姿勢について改めて考えさせられました。スマホの小さい画面であれば、パンチのある色の方がインパクトがあるかもしれないですが、スクリーンが大きくなるほど自然な色の方がパンチが出る。ライブ会場で音楽と照明が合わさった時は特にそれを実感しました。

Spikey氏:

フィルターなどで加工された映像がありふれている今だからこそ、ありのままのビジュアルに人は感動するんだと思いました。