全国規模の選挙特番は、放送業界において最も高い信頼性が求められる番組の一つである。本事例では、韓国主要3局の選挙特番を支えたVisual Research Inc.(以下:VRi)とMatrox Videoの導入事例を通じて、ライブ制作を支える映像技術を紹介する。
VRiは、1995年に設立された韓国・ソウルに本社を置く放送向けグラフィックス技術企業である。30年以上にわたり、テロップ生成システム、バーチャルスタジオ、ARグラフィックス、LEDウォール制御システムなど、ライブ放送制作向けのリアルタイムグラフィックスソリューションを専門に提供してきた。
現在、VRiの技術は30か国以上・5,000件を超える導入実績を誇り、放送局、制作施設、eスポーツ会場、テレビショッピングチャンネル、企業向けスタジオなどで活用されている。VRiは、全国ネット放送局から地方局、専門チャンネルまで幅広い顧客を持ち、制作チームがリアルタイムデータを活用した魅力的な映像演出を世界中の視聴者に届けられるよう支援している。
課題
2026年6月3日に実施された韓国全国同時地方選挙では、放送局は2,335選挙区・7,782名の候補者に関する開票結果をリアルタイムで可視化しながら、10時間以上にわたり途切れることのない放送を維持するという課題に直面した。わずかな中断や遅延であっても視聴者の信頼を損なう可能性がある。
放送局には、視聴者の期待に応えるため以下が求められた。
- 選挙データとのリアルタイム連携
- グラフィックスとライブ映像の低遅延同期
- 長時間放送における安定した運用
- 放送品質のビジュアル表現
- プレッシャーのかかる環境でも効率的に運用できる使い慣れたワークフロー
ソリューション
「Karisma Illuzon(カリスマ・イルーゾン)」は、VRiが開発したライブテレビ制作向けのAR・バーチャルスタジオプラットフォームである。韓国全国同時地方選挙において、VRiは同プラットフォームをSBS、YTN、MBNの韓国主要3放送局に導入し、選挙特番をサポートした。
VRi独自のリアルタイムグラフィックスエンジンをベースに構築された「Karisma Illuzon」は、以下のような表現を可能にした。
- 開票状況のリアルタイム可視化
- インタラクティブな3D地域マップ
- 候補者比較グラフィックス
- 動的インフォグラフィックス
- 放送品質のARスタジオ演出
さらに、PBR(Physically Based Rendering:物理ベースレンダリング)技術により、リアルな照明、影、反射表現を実現し、高品質なライブ放送に求められる映像表現を提供した。
Matrox Videoとの連携
このようなミッションクリティカルな環境で安定した運用を実現するため、VRiは各「Karisma Illuzon」システムに「Matrox DSX LE4 SDI I/Oカード」を組み込みこんだ。
ライブAR制作では、カメラ映像、グラフィックスレンダリング、オンエア出力を正確に同期させることが不可欠である。
カナダMatrox Video社のSDI I/O技術は、低遅延かつ放送業界で実績のある映像入出力基盤として機能し、高性能なARグラフィックスの実現と信頼性の高い信号処理、放送局の制作ワークフローへのスムーズな統合を支えた。
Matrox Videoの役割
今回のシステムの中核を担ったのは、Matrox VideoのSDI I/O技術である。この技術は、ライブカメラ映像、ARグラフィックス処理、オンエア出力を接続する放送品質の映像入出力基盤として機能した。
VRiがMatrox Video SDI I/O技術を採用した理由
VRiとMatrox Videoの協力関係は25年以上に及び、VRiの初期の放送グラフィックスシステムにまでさかのぼる。今回の選挙特番向けシステムでMatrox VideoのI/Oカードが採用された理由は次のとおりである。
- 放送業界で実証された高い安定性と信頼性
- 低遅延な映像処理性能
- ライブ制作ワークフローへの安定した統合
- SDIインフラへの対応
- 世界中のテレビ局で信頼される放送向けアーキテクチャ
- 25年以上にわたりVRiのライブ制作ソリューションを支えてきた実績
導入成果
導入は参加したすべての放送局で成功し、6台の「Karisma Illuzon」システムが選挙特番の全期間を通じて連続稼働した。同プラットフォームは長時間のライブ放送中も安定したリアルタイムARグラフィックス性能を発揮し、選挙データをオンエア映像へシームレスに反映したのである。また、事前検証済みの構成により、ハードウェア設置後約80分で放送可能な状態に到達。迅速な導入を実現した。
さらに、「Karisma Illuzon」は既存製品である「KarismaCG3」と共通の操作体系を採用しているため、オペレーターは最小限の追加トレーニングでAR制作ワークフローを習得できた。その結果、高度なグラフィックスを選挙特番へ導入しながら、運用負荷の増加を抑えることができた。
特筆すべき点として、一部の放送局はすでにAR制作環境を保有していたにもかかわらず、選挙特番向けに追加プラットフォームとして「Karisma Illuzon」を採用した。これは、同製品が高負荷なライブ制作環境において実用的なソリューションであることを示している。
今回の成功事例は、「Karisma Illuzon」が全国規模のライブ制作を支えられることを証明する重要な実績となった。また、韓国を代表する3放送局が国内最大級の注目イベントで同製品を採用したことで、VRiのリアルタイムARグラフィックスおよびライブ制作ソリューションプロバイダーとしての地位がさらに強化された。
Visual Research Inc. CEOのCharles Kim氏は、次のようにコメントしている。
Kim氏:Matrox Videoは、25年以上にわたりVRiの放送技術のDNAの一部であり続けています。Karisma Illuzonを開発する際、私たちは放送局が絶対的な信頼を寄せられる映像I/O基盤が必要だと考えました。そして、その答えがMatrox Videoであることは明確でした。
25年に及ぶライブ放送システムの導入実績の中で、その信頼が裏切られたことは一度もありません。
今後の展望
今回の選挙特番での成功を基盤として、VRiは今後もMatrox Video技術を中核コンポーネントとして活用しながら、「Karisma Illuzon」の導入拡大を進めていく予定である。ARやバーチャルスタジオの需要が高まる中、VRiは引き続きMatrox Videoの技術を活用し、信頼性・低遅延性・放送品質を兼ね備えた制作環境を提供していく。
Matrox Video OEM
3G(3Gbps) SDI/12G(12Gbps) SDI、ST 2110に対応するI/OボードやH.264エンコーダーなど開発用のOEM製品。Matrox社独自のソフトウェアライブラリにより様々な映像・放送機器の開発をサポートする。
Karisma Illuzon
ライブ番組制作向けのAR・バーチャルスタジオ・ソリューション。30年以上にわたり世界中の放送現場で実績を重ねてきたグラフィックスエンジン技術を基盤に、高い安定性と信頼性を備えたバーチャルスタジオ環境を提供する。