ソニーは、大型センサー搭載高性能ズーム「RX10」シリーズの新モデル「RX10 V」を発売する。2013年の初代登場以来、高倍率ズームと高画質を1台にまとめた独自の立ち位置を築いてきたRX10シリーズ。その前モデル「RX10 IV」が登場したのは2017年だった。以来、長い空白期間を経て、ついに後継モデルが姿を現した。
RX10 IVは長期間販売が続いたロングセラーモデルである。それだけ完成度が高く、多くのユーザーに支持されてきたということでもある。だからこそ、約9年ぶりとなるRX10 Vの登場に、「ようやく来たか」という感覚が自然と湧いてきた。
受注開始は2026年7月16日10時、発売日は同年7月31日を予定している。価格はオープンで、店頭予想価格は税込360,000円前後だ。決して気軽に手を出せる価格帯ではない。しかし、長期間モデルチェンジがなかったシリーズの最新機が、現行αシリーズで培われた技術を取り込み、どのような進化を遂げたのか。その真価を、実機取材を通して確認していく。
継承された「完成形」の光学系と刷新された内部デバイス
実際に触ってみるとまず気になったのは、レンズが前モデルと同じZEISS Vario-Sonnar T* 24-600mm F2.4-4.0の大口径ズームレンズを継承している点である。広角24mmから超望遠600mmまでを1本でカバーし、望遠端でも開放F4を維持する。これだけの焦点域をレンズ交換なしで扱えること自体、改めて見るとRX10シリーズならではの個性である。
一見すると、レンズが変わっていないことは停滞のようにも見える。しかし説明を聞くと、その判断には明確な理由があった。このレンズは前モデルで高く評価されてきた完成度の高い光学系であり、単純に新設計へ置き換えるのではなく、その価値を継承することが選ばれたのである。
レンズ構成は13群18枚。高度非球面AAレンズやEDガラス、ED非球面レンズなどを組み合わせ、色収差を抑えながら高解像度と高コントラストを実現する設計となっている。光学式手ブレ補正OSSも内蔵し、広角での風景撮影から、鳥や野生動物、スポーツの超望遠撮影まで、この1本で幅広い撮影シーンに対応する。
進化の中心は、むしろ内部にある。RX10 Vでは最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」とAIプロセッシングユニットを搭載し、画像処理系やAFシステムを大きく刷新した。レンズの基本スペックを継承しながら、処理性能や被写体認識、描写の精度を新世代へ引き上げるという考え方だ。
会場で提示された作例を見ると、その狙いはよく伝わってきた。野鳥の羽毛は細かく描写され、背景のボケも自然で、被写体がしっかり浮かび上がる。人物のクローズアップでは肌の質感や目元の細かな表現まで確認できた。さらに画面周辺部の解像感や暗部のディテール再現にも改善が見られた。同じレンズを使いながら、BIONZ XRによる色再現性や画像処理の進化によって画質を押し上げていることが分かる展示だった。
4.3kgのシステムを約1.1kgへ凝縮する価値
RX10 Vの魅力を語るうえで、最も分かりやすいのは機動力である。フルサイズ機で24mmから600mmの焦点域をカバーしようとすれば、24-70mm、70-200mm、200-600mmといった複数の交換レンズが必要になる。会場では約4.3kgと紹介されていた。
一方、RX10 Vは約1,111gのボディ1台で同じ焦点域をカバーする。もちろんセンサーサイズが異なるため単純比較はできない。それでも、約3kg強の軽量化は非常に大きい。実際に手に取ると、数値以上に軽快に感じられた。グリップ形状が見直されたことでホールド感も向上しており、長時間の撮影でも扱いやすそうだ。
この機動力は、旅行、登山、航空祭、スポーツ撮影、野鳥撮影などで大きな武器になる。レンズ交換の暇がない現場、持ち込める機材に制限がある場所、できるだけ荷物を減らしたい撮影では、24-600mmを1台で使える安心感が際立つ。
接写性能も見逃せない。最短撮影距離は広角端で約3cm、望遠端で約72cm。最大撮影倍率は広角端で0.42倍、望遠端で0.49倍に達する。花や昆虫などのマクロ撮影にも対応でき、風景から野鳥、スポーツ、花や小物の接写まで、レンズ交換なしでシームレスにこなせる構成である。
ズームを支える実用機能
実機を触っていて実用性を強く感じたのが、ズームアシスト機能である。超望遠撮影では、被写体を一度フレームから外してしまうと再び捉えるのが難しい。RX10 Vでは、カスタムボタンを押すことで一時的に画角を広げ、被写体の位置を確認できる。フレーミングし直したあとにカスタムボタンを離せば、再び元の焦点距離まで自動で戻る仕組みだ。説明だけでも便利さは分かるが、実際に操作すると非常に直感的だった。
ステップズーム機能も印象に残った。ズームリングを操作すると、24mm、28mm、35mm、50mm、70mm、85mm、100mm、135mm、200mm、300mm、400mm、500mm、600mmといった代表的な焦点距離で自然に止まる。狙った画角へ素早く合わせやすく、「少し行き過ぎた」という場面を減らせる。細かな機能ではあるが、撮影のテンポを確実に向上させる工夫である。
さらに、光学24-600mmに加え、超解像ズームとデジタルズームを組み合わせることで、最大2400mm相当までの撮影も可能となる。実機で試すと、600mmを超えた先は倍率表示へ切り替わる仕様で、最初は少し戸惑った。しかし設定を確認しながら操作すると、さらに遠くの被写体へ寄れることが分かった。もちろんデジタルズーム時は解像度が低下するが、「どうしても寄りたい」場面で選択肢があることは心強い。
スポーツ観戦や航空機撮影、野鳥撮影など、物理的に被写体へ近づけない場面では、このズーム性能が大きな力を発揮するはずだ。
AIと高速連写が支えるスピード性能
RX10 Vは、ズーム性能だけのカメラではない。静止画性能にも最新世代のスピードが投入されている。最高約30コマ/秒のブラックアウトフリー連続撮影に対応し、AF/AE演算は最高毎秒60回を数える。高速連写中もピントと露出を追従させることで、決定的な瞬間を逃さない。
AFシステムも大きく進化した。最大575点の像面位相差AFを搭載し、画面の約70.6%をカバーする。小さな被写体や動きのある被写体でも、より正確にピントを合わせられる仕様だ。
AIプロセッシングユニットの搭載により、被写体認識や追従性能も強化された。人物では目、顔、頭、体を認識し、動物や鳥では目、頭、体に対応する。さらに車、電車、飛行機、虫など、認識できる被写体の種類も広がった。動画時にも被写体認識を使用できるようになり、静止画と動画の両面でAF性能の進化を実感できる。
会場で展示されていた飛行中の鳥やスポーツシーンの作例では、素早く動く被写体をしっかり捉えていた。サッカー選手の一瞬の動きやスケートボードのトリックなど、動体撮影における進化が作例からも伝わってきた。
RX10 IVも発売当時は高速性能が大きな魅力だったが、RX10 VではそこにAIによる認識性能と最新の処理能力が加わった。これにより、単に速く撮れるだけでなく、狙った被写体をより確実に捉えるカメラへ進化している。
電子シャッターによる連写最高速時の連続撮影枚数も向上している。JPEG(Lサイズファイン)では、RX10 IVの約249枚に対し、RX10 Vでは約546枚まで拡大。JPEG+圧縮RAWでも、約106枚から約141枚へと伸びている。高速連写を実用するうえで、バッファ性能の向上は大きな安心材料となる。
| 記録方式 | RX10 IV 24コマ/秒 |
RX10 V 30コマ/秒 |
|---|---|---|
| JPEG(Lサイズファイン) | 約249枚 | 約546枚 |
| JPEG+圧縮RAW | 約106枚 | 約141枚 |
※電子シャッター・連写最高速時。シャッター方式が電子シャッターに設定されている場合、ロスレス圧縮は選択できない
本格的な映像制作に応える動画性能
動画機能の進化も大きい。RX10 Vは4K120pのハイフレームレート撮影に対応し、S&Q撮影機能を使えば最大5倍のスローモーション表現が可能となる。フルHD記録時には最大240fpsにも対応し、最大10倍のスローモーション再生も可能だ。動きの速い被写体を滑らかに表現できるため、スポーツや野鳥、アクション系の撮影で活躍する場面は多いだろう。
4K60p撮影時に画角のクロップが発生しない点も重要である。画素加算を行わない全画素読み出しにより、5.4Kオーバーサンプリングから高精細な4K映像を生成する。広角側の画角をそのまま活かせるため、撮影時の自由度が高い。
一方で、4K 120p撮影時やアクティブモード使用時には画角が狭くなる。4K120p設定時はアクティブモードが利用できない点も、実際の撮影では把握しておきたいポイントである。
階調表現ではS-CinetoneやS-Log3に対応し、撮影後のカラーグレーディングを前提としたワークフローにも組み込みやすい。ユーザーLUTやLUTモニタリングにも対応し、登録したLUTを撮影時の確認や映像表現に活用できる。静止画だけでなく、映像制作を本格的に楽しみたいユーザーにも十分応えられる内容だ。
クリエイティブルックは12種類を搭載し、撮って出しの色味にこだわるユーザーにも対応する。さらにタイムラプス動画撮影やショットマーク、動画からの静止画自動生成機能など、撮影後の選別や編集を意識した機能も備えている。
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音声面ではデジタルオーディオインターフェースに対応したマルチインターフェースシューを装備している。対応アクセサリーを組み合わせることで、よりクリーンでクリアな音声収録環境を構築できる。映像だけでなく音まで含めて作品づくりを考えられる点は、単なる「全部入りカメラ」を超えた魅力である。
また、AIベースの被写体認識を活用するオートフレーミング機能も搭載する。動画撮影やストリーミング中に認識した被写体を自動的に追跡・トリミングし、構図を最適化する機能であり、ワンマンオペレーションでの撮影にも役立つはずだ。
現行αシリーズに近づいた操作性
筐体デザインは、前モデルから大きく印象を変えている。これまでの丸みを帯びたデザインから、現行αシリーズに近いシャープなデザインへ刷新された。前モデルと並べて見ると、ぱっと見では似ているようで、細部の違いは多い。ダイヤル類の配置、モニター周辺、グリップ形状などが見直され、全体として「今どきのソニー機」という印象が強まっている。
操作系では、フォーカス、ズーム、絞りを独立して操作できる3連リングを採用した。フォーカスリングとズームリングの位置入れ替えや、ズーム方向、フォーカス方向の変更にも対応し、直感的なマニュアル操作を可能にしている。フォーカスホールドボタンやフォーカスレンジリミッターの位置も見直され、操作しやすくなった。
操作系も現行αシリーズに合わせて整理されている。リアダイヤルやボタン配置、マルチセレクター、AF-ONボタンなどは、αシリーズを使い慣れている人なら違和感なく操作できそうだ。最新のユーザーインターフェースを採用し、メニュー画面は縦位置表示にも対応する。タッチ操作やスワイプ操作による操作アイコン、ファンクションメニューの呼び出しにも対応しており、撮影現場での使い勝手が高められている。
USB Type-Cによる充電と給電に対応した点も実用的である。USB PDにも対応し、モバイルバッテリーを活用しながら長時間撮影しやすくなった。屋外での撮影や動画収録でも扱いやすい。接続端子はSuperSpeed USB 10Gbpsに対応したUSB Type-Cとなり、データ転送面でも現代的な仕様へ更新されている。
バッテリーは大容量のNP-FZ100へ変更された。撮影枚数は液晶モニター使用時で約630枚、ビューファインダー使用時で約570枚となり、前モデルから大幅に向上している。高速規格のSD UHS-IIカードにも対応し、撮影後のデータ管理や連写撮影時の安心感も高まった。
ファインダーには0.5型約368.6万ドットの有機EL電子ビューファインダーを採用する。120fps表示にも対応し、ファインダー倍率は0.78倍相当。実際にのぞいてみると、細かな被写体も確認しやすく、超望遠撮影でも構図を決めやすい印象だった。液晶モニターも3型約162万ドットへ高解像度化されている。
独立した電源スライダースイッチも、触ってみると便利さが分かる部分だった。電源位置が直感的に分かりやすく、指先だけでも迷わず操作できる。こうした細かな改善はカタログスペックには表れにくいが、長く使う道具としては重要である。
信頼性と接続性の進化
RX10 Vでは、屋外撮影を意識した信頼性も高められている。主要な操作部やボディ周辺のシーリングを強化し、防塵・防滴性能はRX10 IVよりも向上した。100%の防塵・防滴を保証するものではないが、旅行や登山、航空祭、スポーツ撮影など、屋外での使用が多いカメラとしては重要な進化である。
接続性も現代的な仕様へ更新された。Wi-Fiは2.4GHzに加えて5GHz帯に対応し、Bluetooth 5.0にも対応する。純正Bluetoothリモコンの使用も可能になり、リモート撮影時の自由度が増した。
さらに、USB接続による最大4K30pのライブストリーミングに対応し、無線または有線LANネットワークを介したストリーミングもサポートする。4K30pのライブストリーミングとカメラ内録画を同時に行える点は、配信やイベント収録を意識するユーザーにとって魅力的だ。
一方で、RX10 IVから省かれた機能もある。HFR撮影、マルチショットノイズリダクション、内蔵フラッシュ、AF-Aモード、上面ディスプレイパネル、NFCなどは搭載されていない。これらは、現行αシリーズの思想に合わせ、機能や操作性を整理した結果と見ることもできる。従来機からの乗り換えでは、この違いを事前に把握しておきたい。
誰に向いているカメラなのか
実機の体験で見えてきたのは、RX10 Vが特定のジャンルだけを狙ったカメラではないということだ。野鳥、航空機、スポーツ、旅行、家族写真、運動会、動画撮影まで、幅広いシーンを1台でカバーすることを強く意識している。
野鳥や航空機だけを本格的に撮るなら、フルサイズ機と交換レンズの組み合わせも有力な選択肢になる。しかし、登山や旅行を楽しみながら、その途中で野鳥や風景も撮りたい人にとっては、機材を軽くまとめられることが大きなメリットになる。撮影も楽しみたいが、荷物はできるだけ減らしたい。そうした使い方には、RX10 Vは非常に相性が良い。
ファミリー層にも向いている。運動会や旅行、日常の記録まで幅広く対応できるため、1台で様々なシーンを撮影したい人には魅力的な選択肢になる。スマートフォンでは難しい望遠撮影も、RX10 Vなら遠くの被写体をしっかり引き寄せられる。子どもの運動会やスポーツ観戦、旅行先の風景などで、その違いは分かりやすく表れるはずだ。
RX10シリーズが帰ってきた

一通りの取材を終えて感じたのは、RX10 Vが単なるRX10 IVの後継機ではないということだ。長いブランクを経て登場した新モデルでありながら、RXシリーズが持っていた「1台で完結する」という価値をしっかり継承し、そのうえで現行αシリーズの技術や操作性を積極的に取り込んでいる。
レンズ交換の暇がない航空祭、機材を最小限にしたい登山や旅行、動画と静止画の両立が求められる現代のコンテンツ制作。RX10 Vは、そのすべてに高いレベルで応えるポテンシャルを秘めている。
センサーサイズを重視したシステムとは異なる価値を持つカメラである。しかし、機動力、撮影領域の広さ、AF性能、動画性能、操作性、信頼性まで含めて考えると、RX10 Vならではの立ち位置は今でも明確だ。実際に触れてみると、数字だけでは伝わらない魅力がいくつも見えてきた。
長い沈黙を破って登場したRX10 Vは、再び「これ1台でどこまで撮れるのか」という創作の喜びを思い出させてくれるカメラである。交換レンズを何本も持ち歩く撮影も楽しい。しかし、「今日はこれ1台だけ持って出かけよう」と思える気軽さも、写真や映像を楽しむ大きな魅力だ。RX10 Vは、その楽しさを現代の技術で磨き直した、久しぶりのRX10シリーズらしい1台である。