LEDディスプレイそのものがステージを動き回る
Creative Solution Showcase 2026では、映像制作やライブプロダクションに加え、エンタテインメント体験を拡張するソニーの取り組みも紹介されていた。
中でも注目を集めたのが、LEDディスプレイを搭載した複数のロボットを連携させるエンタテインメント向けシステム「groovots(グルーボッツ)」である。一般的なステージ用LEDディスプレイは舞台後方や両脇に固定されるが、groovotsはディスプレイ自体が移動し、映像や音楽、照明と同期しながら演出の一部として機能する。
会場では、開発上「5D」と呼ぶ中型モデルと、「7D」と呼ぶ大型モデルを展示。従来の大型モデル「6D」がLED面に対して横方向の移動を中心としていたのに対し、7Dは全方向への移動と回転に対応し、演出の自由度を高めた。担当者によると、全方向へ移動できる大型モデルを対外的に公開するのは今回が初めてだという。
LEDディスプレイは、映像を表示する装置から、ステージ上を動きながら演出へ参加する存在へと進化しつつある。
「アイドルマスター」の公演で示した実在感
groovotsが注目を集める契機となったのが、2026年1月24日・25日に日本武道館で開催された、「アイドルマスター」シリーズの如月千早による単独公演「OathONE」である。同公演では、幅約0.3m、高さ約1.3mのgroovotsがステージや花道を移動したほか、約2m四方の大型モデルにキャラクターの姿を映し、花道を移動する演出が行われた。
筆者も以前、ソニーPCLの取材で公演映像を見たが、人型ではない四角いLEDディスプレイであっても、映像と移動が組み合わさることで、キャラクターが実際にステージへ現れたような実在感が生まれていた。映像、移動、音楽、照明を組み合わせ、造形ではなく動きと演出によってキャラクターの存在を感じさせる。それがgroovotsの特徴である。
新しい演出装置をライブへ導入する際に課題となるのが、既存の制作フローとの連携である。groovotsは音響や照明機器と同様にタイムコードを受け取り、事前に制作したコンテンツとモーションを同期させて動作する。

groovots専用のコンテンツやモーションを制作する必要はあるものの、ライブ本番で専用のキューや新たな技術システムを用意する必要はない。既存の照明・音響システムに近い考え方で運用でき、従来のライブ制作フローへ組み込みやすい点が強みである。
groovotsは、車輪の回転量や角度から、どれだけ進み、どこにいるかを推定する。床面には位置補正用のマーカーを設置し、数メートルごとに設置したマーカーを本体底面のカメラで読み取ることで、走行中のずれを補正する。
マーカーを走行経路全体に敷き詰める必要がないため、照明機材やケーブルなどを避けた経路を設計できる。さまざまな機材が配置されるライブ現場を考慮した仕組みである。
制御信号の伝送にはWi-Fiを利用する。多数の観客がスマートフォンを持ち込み、さまざまな無線機器が使われるライブ会場は、無線制御にとって厳しい環境だ。
担当者によると、ソニーがドローンなどのロボティクス分野で培ってきた無線技術が生かされている。多数の来場者と機器が集まる「SusHi Tech Tokyo 2026」の会場でも、停止することなく安定して動作した実績があるという。
ライブ用途では、1台の停止が演出全体へ影響する。groovotsでは、移動機構やWi-Fiによる無線制御、バッテリー、位置推定、LED表示など、複数分野の技術を組み合わせて安定運用を実現している。
担当者は、ドローンやバッテリーなどで蓄積してきた技術に加え、エンタテインメント分野で実地検証できることがソニーグループの強みだと説明する。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)をはじめとするグループ企業や、バンダイナムコグループなどと取り組むことで、現場で得た知見を開発へ反映し、改良を進めているという。

生身の出演者とキャラクターが同じステージに立つ
groovotsの活用は、バーチャルキャラクターだけを主役とするライブに限られない。担当者によると、アイドルグループ「22/7(ナナブンノニジュウニ)」のライブでも活用されたという。
22/7は、キャラクターと生身のメンバーの双方で活動するアイドルグループである。ライブでは、groovotsにキャラクターを映し、生身のメンバーと一緒に踊らせることで、リアルとバーチャルが同じステージで共演する演出を実現した。
ミニキャラクターを映したgroovotsに出演者が触れたり、撫でたりすると、その場にいる存在同士がコミュニケーションしているように見える。固定されたスクリーンとは異なり、キャラクター側も移動できるため、出演者との距離や位置関係を演出へ取り込める。
今回展示された7Dは、全方向への移動と回転に対応し、LEDディスプレイごとステージ前方へ進んで観客へ近づく演出を可能にする。担当者は、これまでLEDディスプレイの枠の中に収まっていたキャラクターが、その枠ごと前方へ出て観客へ近づく演出にも今後挑戦したいと話していた。
通常は舞台背景となる大型LEDディスプレイが、groovotsではステージ外から登場し、観客へ近づくことができる。ステージ上に何もない状態からキャラクターが現れることで、画面の中の存在が現実の空間へ登場したような驚きを生み出す。
暗さと床面の反射が生み出す一体感
groovotsの演出では、ステージ照明との組み合わせも重要である。暗い環境ではLEDディスプレイと機構部分の輪郭が目立ちにくくなり、キャラクターが空間を移動している印象が強まる。会場のデモでも、映像を表示して動き始めると、装置よりも映し出された存在へ意識が向いた。
ディスプレイの光が床面へ反射することで、キャラクターとステージの一体感も高まる。映像、移動、照明、床面への反射を組み合わせることで、人型ではないキューブ型の装置でありながら、「そこに誰かがいる」と感じさせる演出を生み出している。

現在のgroovotsは、タイムコードをきっかけに、事前に制作したコンテンツとモーションを同期させて動作する。
担当者によれば、開発段階では映像とモーションを無線経由でリアルタイムに送出できる一方、現在の運用にはまだ採用していないという。安定したタイムコード運用を基本としながら、無線によるリアルタイム送出の実用化に向けた開発も進めているという。
キャラクターに「居場所」を与えるgroovots
groovotsがライブ演出にもたらす変化は、ディスプレイを動かせることだけではない。これまで画面の奥に存在していたキャラクターに、ステージ上の位置と移動の軌跡を与えられることである。
キャラクターはステージへ現れ、出演者と並び、観客との距離を縮めていく。人型の身体を再現しなくても、画面そのものが動けば、観客はその存在が近づいてきたように感じる。groovotsが生み出しているのは、ロボットを見る体験ではなく、キャラクターと空間を共有する体験である。
今回公開された7Dによって、その移動は横方向から全方向へ広がった。どこに現れ、誰と向き合い、観客へどこまで近づくのか。ディスプレイの位置や向きそのものが、ライブの物語を構成する要素になろうとしている。
映像を見せるためのスクリーンから、キャラクターの居場所をつくるためのステージ装置へ。groovotsは、リアルとバーチャルを隔ててきた画面の役割を書き換えようとしている。