2026年8月17日、神奈川県川崎市のCLUB CITTA’で、プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」による「KADOKAWA DREAMS ONEMAN SHOW 2026」が開催された。KADOKAWA DREAMSは、日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」に参画するプロダンスチームだ。

D.LEAGUEは、プロのダンサーによるチームが、ダンスの技術だけでなく、振り付け、音楽、フォーメーション、衣装、照明、映像などを組み合わせたショーを披露し、その作品で競い合うプロダンスリーグである。いわば競技としての勝負と、ライブエンターテインメントとしての表現を組み合わせた舞台だ。

そのD.LEAGUEで戦うKADOKAWA DREAMSが、リーグ戦とは異なる形で自分たちのステージを作り上げたのが今回のワンマン公演である。次々と変化するダンサーのフォーメーションやパフォーマンスに、音楽、照明、映像が連動する。ダンスに詳しくなくても、ステージ全体がひとつの作品として変化していくところに、この公演の面白さがある。

さらに今回、その舞台空間そのものを動かす新たな要素が加わった。PRONEWSが注目したのが、ソニーが開発するエンタテインメント向け群ロボットシステム「groovots」だ。

「KADOKAWA DREAMS ONEMAN SHOW 2026」の会場となった神奈川県川崎市のCLUB CITTA’
多くの観客で盛り上がりを見せた「KADOKAWA DREAMS ONEMAN SHOW 2026」の会場

LEDディスプレイを載せたロボットと聞けば、「動くビジョン」を想像する。ところが実際にステージを見ると、それだけではない。groovotsはKADOKAWA DREAMSのダンサーと同じエリアへ入り、フォーメーションの一部として動いていた。

最初にgroovotsが登場したのは、「11街区13号棟」から「SUTRA」へと続くパートだ。groovotsはステージの端を移動するだけではなく、ダンサーの動きに合わせてフォーメーションの内側へ入り込んでいた。

groovotsが左右や前後へ位置を変えることで、ダンサーが見える範囲やステージ上の空間そのものが次々と変化していく。ある場面ではgroovotsの間にダンサーが入り、別の場面ではその後ろからダンサーが現れる。固定された背景の前で踊るのではなく、背景側が動くことでダンサーを囲む空間まで組み替えていくような演出だ。

「SUTRA」のパフォーマンスでは、groovotsがダンサーと同じステージ上を移動し、フォーメーションの一部として演出に加わった

ダンサーが前へ展開するとgroovotsが後方へ移り、groovotsが前へ出るとダンサーがその周囲へ配置を変える。ダンサーとgroovotsが前後に重なることで、ステージに奥行きが生まれる。ロボットがダンスの横で動いているのではなく、両者の位置関係そのものが振り付けの一部として組まれている。

「11街区13号棟」では、groovotsがディスプレイに映像を表示しながらダンサーとともにステージを構成した

実際に見ていると、「ロボットが踊っている」というより、ステージ上の構図そのものが動いている感覚に近い。LEDに表示された映像まで含めて、背景、舞台装置、演者という従来の役割分担が曖昧になっていく。groovotsが単なる「動くビジョン」ではないことが見えてきた。

2回目の登場となった「Sky’s The Limit (Live ver)」では、その関係がさらに進んで見えた。1回目ではgroovotsが空間を組み替えていく動きが中心だったが、こちらでは最初からダンサーのフォーメーションの一員として存在しているように感じられた。

ポイントは、LEDの映像がステージ奥に固定されていないことだ。groovotsが前後へ移動することで、映像そのものがダンサーへ近づいたり離れたりする。さらに、その間からダンサーが前へ出ることで、映像、ロボット、人間という複数のレイヤーがステージ上で入れ替わっていく。

ダンサーのフォーメーションに加わるgroovots。ディスプレイに表示されたキャラクターも演者のようにステージへ参加

その結果、ダンサーだけでなくLED側も位置を変え、舞台セットの転換そのものがダンスと同時進行しているように見える。

事前の取材で、KADOKAWA DREAMSのエグゼクティブプロデューサーを務めるKEITA TANAKA氏は、groovotsについて「0.5人増えたような感じ」と話していた。完全なダンサーではないが、背景や舞台装置とも異なる。その中間に位置する存在として、groovotsをフォーメーションへ組み込んでいるという。

公演に投入されたのは「7D」1台と「5D」4台。7Dは、如月千早の日本武道館単独公演などで使用された「6D」をベースに、台車部分を改良したモデルで、今回がイベントでの初使用となったという。

Creative Solution Showcase 2026に展示された際の中央が「7D」、左右が「5D」

さらに今回の取り組みでは、KADOKAWA DREAMSのダンスをモーションデータとして扱い、映像やキャラクターなど別の表現へ展開している。プロダンサー、モーションデータ、映像、そして自ら移動するgroovots。それらをどのようにひとつのステージへ組み込んだのか。まずはKADOKAWA DREAMS側に聞いた。

KADOKAWA DREAMSが考える「0.5人の演者」

KEITA TANAKA氏によれば、今回の取り組みでは、ダンスそのものを「モーションデータ」として残し、新たな表現につなげることもテーマのひとつになっている。

これまでダンスは、生で披露するか、映像として記録することが中心だった。しかし、振り付けやダンサー固有の動きをモーションデータとして残せば、映像やキャラクターなど別の表現へ展開できる。今回のソニーとの取り組みも、そこがひとつの出発点になっているという。

KADOKAWA DREAMS エグゼクティブプロデューサーのKEITA TANAKA氏

通常、ステージ上のLEDビジョンは背景やセットとして固定されている。しかしgroovotsはダンサーとともに動く。今回の演出では、人間とロボットをまとめてひとつのフォーメーションとして作り込んだ。

ダンサーとロボットを同じ空間で動かすには、ダンスや振り付けを担当するKADOKAWA DREAMS側と、groovotsの技術を持つソニー側との連携が必要になる。「何をしたいのか」「何ができるのか」を共有しながら、演出を組み立てていったという。

制作ではダンスの動画をソニー側へ送り、それをもとにgroovotsの動きをプログラミング。リハーサルで両者を合わせ、ステージの広さなどに制約があれば、振り付けやフォーメーションを組み替えた。

もうひとつの狙いが、ダンサーの身体表現を視覚的に拡張することだ。会場が大きくなれば、客席から細かな身体の動きは見えにくくなる。そこでモーションと連動した映像やエフェクトをLEDへ表示し、さらにそのLED自体を動かす。

今回の映像も、単にダンサーを映したものではない。あらかじめモーションを収録し、デザインとして加工したうえでLED用の映像へ展開している。モーションデータを活用すれば、動きに連動したエフェクトを表示したり、収録した動きをキャラクターへ反映したりするなど、身体の動きそのものを新たなコンテンツへ展開できる。

会場では、キャラクターの「ミニKELO」「ミニSATSU」を踊らせたコンテンツを、ポストカード購入者が視聴できる企画も展開されていた

一方、KEITA TANAKA氏はgroovotsについて、さらに発展の余地があるとみる。現在は一定の設置面積が必要で、台数が増えればダンサーが使用できるエリアも狭くなる。よりコンパクトになれば、演出の自由度はさらに高まるという。

また、将来的にダンサー自身がgroovotsの動きを作れるようになることにも期待を寄せる。現在は専門スタッフによるプログラミングが必要だが、アプリ上で「このタイミングで前進」「4拍後にここへ移動」といった指定ができれば、振り付けに近い感覚でgroovotsを動かせる。

そうなれば、groovotsは技術者が動かすロボットから、振付師やダンサーが直接扱う演出ツールへ変わる。さらに将来的に床面だけでなく上下方向にも動かせるようになれば、ステージそのものを3D空間として使う発想まで広がるとKEITA TANAKA氏は期待する。

ダンサーの動きをデータ化し、それを映像やキャラクターへ展開する一方、groovotsそのものもフォーメーションへ組み込む。生身のダンスとデジタル技術を、ひとつの演出として結び付けようとする取り組みだ。

では、そのgroovotsをどうやって狙った位置へ動かしているのか。ここからは、ソニーグループ株式会社でgroovotsの開発に携わるエンジニアとデザイナー、ソニー株式会社で今回のイベントを担当したスタッフに仕組みを聞いた。

7Dで何が変わったのか。groovots開発側に聞く

groovotsの開発および今回のイベントに携わったソニーグループ、ソニーの担当者。左からソニーグループ クリエイティブセンターの酒井光太氏、ソニーグループ フィジカルエクスペリエンス開発部の塩田晋氏、ソニー 事業インキュベーション1部の臼井純一氏

今回使用されたのは「7D」1台と「5D」4台。名称の数字は開発バージョンに応じて付けられ、「D」は搭載するDisplay(ディスプレイ)に由来するという。

groovotsのコアはLEDディスプレイではなく、その下にある台車部分だ。上部は取り外せる構造で、ディスプレイは活用方法のひとつにすぎない。

7Dで大きく変わったのが移動方式だ。従来の6Dは差動二輪方式で移動方向に制約があったが、7Dではオムニホイールを採用し、全方向への移動に対応した。その場での回転や斜め移動も可能で、ディスプレイを観客側へ向けたまま移動できる。この違いが、ダンサーのフォーメーションへgroovotsを組み込む際の自由度につながっている。

では、groovotsは自分がステージのどこにいるのか、どのように把握しているのか。

基本となるのは、タイヤの回転量から移動量を推定するオドメトリだ。ただし、それだけでは走行するほど誤差が蓄積する。そこで床にマーカーを置き、機体下部のカメラで読み取ることで自己位置を補正する。

開発担当者は、オドメトリだけで走る状態を「人間が目を閉じて歩くようなもの」と表現する。床のマーカーを読むたびに現在位置を確認し、蓄積したずれを補正する仕組みだ。カメラは下向きに設置され、舞台照明の影響を受けにくいよう、機体側から照明を当ててマーカーを認識する。

動きそのものは基本的に事前に作成する。設定した経路と映像データを用意し、タイムコードを受けて動作を開始。3D空間上で作った移動データをgroovots用に変換し、音楽や映像と同期させる。

ここで、KADOKAWA DREAMS側が話していた「フォーメーション」と、開発側の技術がつながる。

これまではリハーサル時間や安全面などから、演者とロボットのエリアを分けることが多かったという。しかし今回は、groovotsとダンサーが同じアクティングエリアへ入り、互いに近い位置ですれ違う演出を行った。

そのため、groovotsだけが正確に動けばよいわけではない。ダンサーも音楽に合わせて予定された場所へ動き、双方が時間と位置を高い精度で合わせる必要がある。開発側も「ロボットがひとつのダンサーになって踊っているようなステージ」を目指したという。

ソニー側によれば、実機を使ったリハーサルは1日だった。KADOKAWA DREAMSは普段から動く小道具に対応しながら踊る経験があり、限られたリハーサル時間でもgroovotsと同じ空間で動く演出を組み上げたという。

開発担当者は、自分たちの役割を「決められた通りに動かすこと」と話していた。アイデアを作るのは演出側で、それを繰り返し同じように再現できるところまで技術で仕上げるのが開発側の役割となる。

複数のgroovotsがお互いの位置を確認しながら動いているわけではない。各機体はタイムコードを起点に事前設定された動きを実行し、中央の制御PCには現在位置やバッテリー残量などのステータスを集約する。緊急停止に加え、機体や制御PCのバックアップも用意している。

ライブではバッテリー運用も重要になる。途中で舞台袖へ戻して交換できるよう、演出側とセットリストまで事前に調整する。ロボットをライブへ導入するには、移動制御だけでなく、公演全体の運用まで含めた設計が必要になる。

さらに、groovotsの上に載せるものはLEDディスプレイである必要はないという。

groovotsのコアは、自己位置を認識し、指定した経路を走行し、タイムコードに同期する台車部分だ。立体オブジェクトやモチーフを載せて動かす構想もあるという。

そう考えると、groovotsは「移動型LEDロボット」という説明だけでは捉えきれない。演出家がステージ上へ配置できる「動く舞台装置」に近く、キャラクターを表示すれば演者となり、上部を変更すれば照明やオブジェクトを動かすプラットフォームにもなり得る。

7Dの全方向移動も、単なるスペックアップではない。観客へディスプレイを向けたまま前後左右や斜め方向へ移動できるからこそ、ダンサーのフォーメーションへ入り込める。実際のステージでは、その移動性能が演出そのものにつながっていた。

「0.5人の演者」としてステージに立つgroovots

取材前は、LEDディスプレイを載せたロボットが動くという点に目が向いていた。しかし、話を聞き、実際のステージを見ると、groovotsの特徴はダンサー、映像、音楽と同期し、その「動き」自体が演出の一部になることにある。

「11街区13号棟」から「SUTRA」へと続くパートでは、groovotsが移動することでダンサーを囲む空間そのものが変化した。「Sky’s The Limit (Live ver)」では、LEDを載せたgroovotsまでダンサーとともにフォーメーションを変えていく。固定された背景を前提とするステージとは、空間の作り方そのものが異なる。

技術を見せるためにgroovotsがステージへ出てくるのではない。演出を成立させるために、そこにいる。KEITA TANAKA氏が表現した「0.5人増えたような感じ」という言葉は、公演を通して見ることで、その意味が明確になった。