txt:井上晃 構成:編集部

ライブ・プロダクションに新たに3つの新製品

Blackmagic Designは日本時間の2月6日午前5時にプレス発表を行い、ライブ・プロダクション分野の3製品を発表し、ワールドワイドで即日発売を開始した。その3製品とは、ATEM Television Studioの後継にあたる「ATEM Television Studio HD」、SDカードに記録出来るレコーダー「HyperDeck Studio mini」、WEBプレゼンテーションという新しい分野向けの「Blackmagic Web Presenter」の3機種だ。

筆者も発表日の午前中に注文し、翌日には製品が到着し評価を開始した。今回はその3機種のうちATEM Television Studio HDにハイライトを当てて、試用レポートをお届けしたい。

本機の概要

2011年4月のNAB Show2014で発表されるやいなや、その低価格でHD映像のスイッチング、ライブストリーミングといった新しい映像製作のあり方を身近にしてくれて大ヒットしたATEM Television Studioは、4K化され、ちょっぴり値段の上がったATEM Production Studio 4Kを経て、HD解像度専用版のATEM Television Studio HDとしてリニューアルされた(4K版は併売される)。

こうしたリニューアルの背景として、市場の変化があるという。Ultra HD化で4K製品の発表を推し進めてきたBlackmagic Designだが、ここ数年放送局やポスプロなどのハイエンド映像製作市場向け以外に、ライブプロダクション製作、ストリーミング、デジタルサイネージなど様々な映像製作市場からの要望が大きくなり、そのような市場からの要望に答えるために企画されたのが本製品、ATEM Television Studio HDである。

旧モデルであるATEM Television Studioは操作部を持たずに、外部PCによるソフトウェアや別売りハードウェアによるコントロールに徹することで衝撃的な低価格を実現していたが、その後にユーザーから寄せられた入力数が6入力と少ない、コントローラーが別途必要で単体で使えない、AUXアウトが無い、などの要望点を汲み取って、入力は4系統のSDIに4系統のHDMI入力を搭載するなどして拡張。

そしてAUXも1系統を用意した上に主にカメラリターン用だがプログラムアウトも4系統増設。その上特筆すべきことにフロント操作パネル及びLCDディスプレイを搭載して、これまで別コントローラーが必要だったスイッチングや細かいパラメーター設定が本体の操作で行えるなど操作性の大幅改善を行った。この他にもXLRでのアナログオーディオ入力が加わった他、トークバック用のヘッドセット入出力端子をフロントパネルに設けた。

基本性能

それでは基本性能から確認していこう。

旧モデルの対応フォーマットは、1080i/59.94、720p/59.94、525i/59.94 NTSCといった基本的なフォーマットのみであったが、Television Studio HDでは、上記に加えて1080p/23.98、1080p/29.97、1080p/59.94など、フルHD解像度のプレグレッシブフォーマットが多数搭載された。これはストリーミングやデジタルサイネージ用など最初からプログレッシブで製作した方がよい分野においては、とても使いやすいフォーマットだ。作業工程においてIP変換がない分、全体としての処理負荷の軽減や高画質化が期待できる。

ただATEMシリーズの伝統に則って、入力信号のスケーリング機能は相変わらず搭載されていない。入力信号はIPの別を含めて、本機のシステムフォーマットに忠実である必要がある。同社では本機とサイズ的にマッチした、Teranex Miniコンバーター等が用意されているので、そちらを使ってくれということであろう。

入力は4系統の3G-SDIを搭載して1080p/59.94の入力が可能。同じく1080p/59.94対応のHDMIも4系統搭載。そしてAUX出力も1系統を用意した上で、主にカメラリターン用だがSDI出力も4系統増設された。なお本体サイズは、1Uラックの高さ(44mm)に2/3の横幅(280mm)、奥行きは端子部を含めて175mm。重量は1.46Kgと小さめのノートPC程度と大幅に小型化された。

フロントパネル

フロントパネルには、自発光ボタン、LCDディスプレイ、ロータリーエンコーダーなどが搭載され、スイッチャーとしての基本的な操作が、無理なくコントロールできるようになった。赤・緑・白と自発光式の各ソースボタンでは、プログラム・プレビュー、そしてAUX出力が一目で確認出来る他、オーディオのオンオフ、AFV(Audio Follow Video)ボタンも各ソースそれぞれに搭載され、4セグメントではあるが、オーディオレベルメーターも搭載されている。各入力ソースを選択後ロータリーエンコーダーを回せば、ソース毎のオーディオレベル調整さえもワンタッチで可能だ。

LCDディスプレイとロータリーエンコーダーでは、本機で使用出来るほぼ全ての機能にアクセスが可能で、詳細な設定まで行える。これはメディアプールの切り替えやトランジションの設定は言うに及ばず、1系統のアップストリームキー、2系統のダウンストリームキーの詳細な設定まで行える。

この設定はロータリーエンコーダーとMENU、SETの2つのボタンだけで行うのだが、このロータリーエンコーダーのタッチがヌルヌルとしてとても心地よい。スピーディなセッティングが可能である点は、本機の大きな美点であると言えよう。

トークバック機能

この他にもフロントパネルには、トークバック用のヘッドセット入出力端子も搭載された。このヘッドセット端子は、航空機用ヘッドセットで良く使われているGA(General Aviation)2プラグ仕様というものだ。この仕様はヘッドフォン側は通常の標準Phone端子であるが、マイク側がPJ-068というあまり一般的でない端子の形式で、ややヘッドセット自体が入手しづらい。このヘッドセット端子仕様は同社のStudio Cameraなどでも共通でその仕様に沿った選択とは思うが、同社のCamera Converterなどでは、3.5mmのiPhone用ヘッドセットなども使えるので、同じように一般的に入手しやすいヘッドセットにも対応出来るようになって欲しいものだ。

あと細かい事だが、ミックスマイナスにも対応しており、特定のソースの音声をミュートした状態で送り返すことが出来る。遅延オーディオのエコーに煩わされることがないなど現実的で気の利いた機能だ。

内蔵キーヤーに2D DVEが搭載

旧Television Studio、そして4K版のProduction Studio 4Kでは、ピクチャー・イン・ピクチャーエフェクトなどのDVE機能は搭載されていなかった。ATEM Television Studio HDでは、2Dではあるがデジタルビデオエフェクト(DVE)プロセッサーが搭載され、スイッチャーとしての表現力が大幅に強化された。

調整可能なボーダーおよび、ライティングを使ったドロップシャドウを伴った、ピクチャー・イン・ピクチャーエフェクトの使用が可能となった。DVEの搭載の恩恵はこれだけでなく、スクイーズ、スウッシュ、グラフィック使ったグラフィックワイプ・トランジションといった、17種類のDVEトランジションも使用でき、番組製作に洒落た印象を付ける事が可能になった。リアルタイムキーヤーは、クロマ、パターン、シェイプ、リニアキーイングと、上記DVEに対応したアップストリームキーヤーが1系統と、ダウンストリームキーヤーが2系統など、合計4レイヤーの重ね合わせが可能なのは従来機と同じだ。

メディアプール

20個までの静止画像を本体内に保存でき、そこから2系統のメディアプレイヤーで再生できるのは、従来機種と同じだ。静止画像でサポートするフォーマットは、PNG、TGA、BMP、GIF、JPEG、TIFFで、アルファをサポートするフォーマット(PNG、TGA、TIFF等)を使用するとアルファチャンネルをキーとして使用できる。1M/E、2M/Eといった上位機種では連番ファイルによる動画も使用出来るが、本機では従来機種と同じく動画の使用ができないところが惜しい。

しかしその惜しいところを補って余りあるのが、内蔵フラッシュメディアだ。本機ではメディアプールに登録すると、内蔵のフラッシュメディアへ保存される。このため電源を切っても各画像は保存されており、電源を投入すると自動的にメディアプールが復元される。これにより本番前の仕込みが楽になっただけでなく、ピクチャー・イン・ピクチャーのセッティングサンプルを保存しておくとか、ちょっとした背景画像を用意しておくとか、運用面でも様々な使いこなしが考えられる。頭をひねって活用したいところだ。

総評

Blackmagic Designの伝統に沿って電源スイッチは無く、AC電源を接続すればそれで電源が投入される。電源端子はPCや大型電気機器でよく使用される接地付きの3P端子電源コードを使用するが、本機に電源コードは同梱されておらず、別に用意する必要がある。

ただ本機の使用電力は40Wと少なく、接地付きの3P端子ACコードは太く固いコードが多いので似合わない。筆者は極細タイプのACケーブルを用意したが、このように細く柔軟なケーブルでも十分であろう。またホームページなどではAC110V-240V対応との表記があるが、本体の表記ではAC100V-240Vの対応となっており、ステップアップトランスなども必要無いだろう。筆者も日本のAC100Vで1日中運用してみたが、動作に問題が起きることはなかった。

前モデルのProduction Studio 4Kなどでは、その爆音とも評された冷却ファンの動作音。本機ではまったくないわけではないが、現場で支障をきたすようなファン音では無かったことも報告しておきたい。このあたりは無理に4K化せずHD対応のみとしたことによって、ターゲットフォーマットに最適な発熱量とした設計が効いていると思う。ファンの回転数は可変のようだが、DVEなどを使用し続けてもファン音が大きくなることもなく、安心して生収録の現場に持って行ける。

本機は同社のStudio Cameraとの連携が深く考慮されており、SDI入力数と同じく4系統のSDI出力が増設されている。先に説明した各カメラとのトークバックやタリーといった機能もこのSDI出力を送り返すことで簡単に実現する。他にケーブルは不要なことから現場での仕込みも素早く行える。

またソフトウェアコントロールパネルを使用すれば、Studio Camera自体のリモートコントロールも可能になるので、小規模なスタジオ構築には最適であろう。ただ、このカメラ用のSDI出力は、惜しいことにプログラムアウトのみの固定だ。これがマルチビューに切り替えられたり、またAUX的に自由にソースをアサイン出来るようだったら、もっと活用の機会が多かったに違いない。もしファームウェアのアップデートで実現できたら更に嬉しいのだが…。

DVEが搭載され、本体が小型化された上にフロントパネルが搭載されたことで、旧機種からの代替を考える方は多いと思う。もちろん旧Television Studioから機能アップされた本機は旧Television Studioユーザーの方へは格好のアップグレードパスだ。

また、上位機種の1M/Eとの代替を考える方も多かろうと思う。1M/Eからの代替が可能かどうかは日常的に使うキーの数が足りるかどうかと、AUXの出力数との勘案であろう。1M/Eを保有する筆者としては、1M/Eの代替機ではなく、1M/Eにもう一段DVEを追加する拡張ボックスという位置づけが最適だと思っている。時には1M/Eにはない機動性も魅力で、1M/Eではなく本機を選択する現場もあるだろう。

そういう本機のお値段は税抜113,800円。旧Television Studioからお値段据え置きと、やはりブロックバスターだ。代替ではなく追加も気軽に考えられるのは、本機の最大の魅力であると思う。また本機だけで完結できるような操作性を持ったことから、導入も容易になった。1台持っておけば、様々な場面での活躍が期待できる。これまで以上に様々なユーザーと現場で、愛される機種となることは間違いない。

WRITER PROFILE

井上晃

井上晃

有限会社マキシメデイア代表。FacebookグループATEM Tech Labo、Grass Valley EDIUS UGで世話人をしてるでよ。