txt:稲田出 構成:編集部
Teranexシリーズの上位機種「Teranex AV」
Blackmagic Designは小型コンバーターを得意としたメーカーだが、2011年にビデオコンバーターのメーカーTeranex Systems Inc.を買収し、ラインナップの拡大を果たした。解像度やフレームレートの変換にはいくつかの方法があり、コンバーターのメーカーは独自の技術でクオリティの高い変換を実現しており、Teranexはそうした技術をもつメーカーの一つであった。
Teranex Systems Inc.のコンバーターVC100。Blackmagic DesignのStandards Converterシリーズの原型ともいえるモデルで、全体のデザインやボタンなどの配置もよく似ている。2011年にBlackmagic Designに買収されてからもしばらくはこのモデルは販売されていた
現在Blackmagic Designでは創業当初からのミニコンバーターシリーズのほか、Teranexブランドシリーズがあるが、Blackmagic Designのシリーズはミニコンバーターと必要な基板を選択することで様々なインターフェースに対応できるOpenGear Converterタイプが用意されている。一方Teranexシリーズは1UラックマウントタイプのStandards Converterシリーズのほか、1/3UサイズのTeranex Miniシリーズがラインナップされているが、いずれもAC電源に対応したモデルとなっている。
Teranex Standards ConverterのラインナップにはTeranex Express、Teranex AV、Teranex 3D Processor、Teranex 2D Processorの4つのモデルがあり、Teranex 3D Processorは3D対応、Teranex AVはSDIのほかHDMIにも対応しているところが主な違いとなっている。
コンバーターやオーディオモニター、ルーティングスイッチャーなどBlackmagic Designでは1Uサイズの機材が揃っている
今回は昨年発売となったTeranex AVを中心に同社のコンバーターを取り上げてみよう。Blackmagic Designではいくつかのコンバーターシリーズが存在するが、Teranex AVは1UサイズのTeranex Standards Converterシリーズの1つになっている。スタンダードコンバーターというと一般的には放送方式変換を行う(あるいは行うことができる)コンバーターということで、インターフェースのほか、変換時の画質や機能なども上位機種といえるだろう。価格も約20万円と、同社のコンバースシリーズの中では高価な方だ。
すべてのSD、HD、Ultra HDフォーマットおよびフレームレートのアップ/ダウン/クロス/スタンダードコンバージョンなど1089種類の変換が可能。12G-SDIおよびHDMI2.0入出力のほかオプションでオプチカル入出力にも対応
コンバーターで重要なのは変換時の画質劣化が挙げられると思う。初期のコンバーターはCRTに表示した画像をカメラで撮影する方法がとられていたが、その後デジタル化され変換後の画質は飛躍的に向上した。もっともビデオ信号がアナログの時代はこの部分がネックになっていてコストのかかる部分でもあった。信号処理もビデオ信号もデジタル化した現在では劣化の余地はなさそうに思うかもしれないが、変換の方法というかアルゴリズムによって特に動画での画質には差が出てくる。
変換時の画質劣化の要素としてはレゾリューション、フレームレート、IP変換が主なものといえ、その中でもフレームレートとそれに付随したIP変換は画質に大きな影響を与える要素の一つといえるだろう。Teranexは独自の特許技術であるPixelMotionデインターレースアルゴリズムにより、高品質な変換を実現している。
インターレースの偶数フィールドと奇数フィールドを単に1つにしてしまうと動きのある被写体の場合写真のようになってしまう
Teranex独自のPixelMotionデインターレースアルゴリズムではこうした現象をなくしきれいな画像として再現することができる
偶数奇数フィールドを1つにまとめてしまうと動きのある部分は偶数奇数フィールドのズレにより画像が破綻してしまう。そこで動きのある部分だけをピクセル単位で抽出してどちらか1つのフィールドを基にもう片方のフィールドの前後や上下のピクセルから演算によりピクセル単位で補完するという方法がPixelMotionデインターレースアルゴリズムである。
偶数フィールドと奇数フィールドを1つにまとめてしまうと動きのある部分は偶数奇数フィールドのズレにより画像が破綻してしまう。中央の丸部分が動きのある部分
動きのある部分をピクセル単位で抽出し、どちらか一方のフィールドを基にする
赤く囲った部分を拡大したところ。前後のフィールドと上下のピクセルを基に補完演算することでボケやズレのない画像を作ることができる
変換を行うためにはフレームメモリーが必須だが、PixelMotionデインターレースアルゴリズムでは4フィールド/2フレームのメモリーが必要で、当然一般のコンバーターより遅延が多く発生する。ただ、PixelMotionデインターレースアルゴリズムを必要としない変換もあり、Teranex AVにはこうした遅延を生じさせないための切り替えができるようになっている。
Teranex AVのメニューからProcessingを選択するとLowest LatencyとHighest Qualityを選択可能。Lowest Latencyは一般のコンバーターと同様2フレームの遅延。Highest QualityはPixelMotionデインターレースアルゴリズムを適用した高画質モード
PixelMotionデインターレースアルゴリズムではピクセル単位で前後のフィールドやフレーム間の相関を検出したり、演算を行う機能を搭載しており、こうした機能を利用してノイズリダクション機能を実現している。したがって、ノイズリダクション機能はLowest Latencyモードでは利用できない。
Teranex独自の時間的巡回型ノイズ除去機能を搭載しており、画面内に不規則に表れるノイズの除去が可能。ノイズの大きさはBiasのメニュー項目で-6から+6まで設定できるほか、画面を2分割して使用前使用後の比較が可能。また、Red Overlayをメニューから選択することで、ノイズ除去が適用している部分を赤色で表示することができるようになっている(ちなみに、フレーム変換を行っている場合は写真のようにノイズリダクションを選択することができない)。
映画フィルムを素材としてテレシネしたビデオでは一般に2-3プルダウンを利用して30p(29.97)や60i(59.94)になっている。こうした2-3プルダウンによるビデオ信号ではフィルムのコマがダブった部分が周期的に出てくる。これを基に、例えば元の24fpsに変換してしまうとダブりのコマがあるために画質が悪くなってしまう。そこでこうしたダブりのコマを検出して除去するのがケイデンス除去で、NTSCのフレームレートからフィルムのフレームレートに変換する場合にTeranex AVでは自動的に動作するようになっている。ちなみにTeranex 3Dではシーン検出などの設定ができるようになっているが、これはLRの画像をフィールドで交互に表示したり3D表示における必要性があるためといえよう。
上がフィルムのコマで24fps、中央に上下2段になっているのが偶数フィールドと奇数フィールドで上下組で1フィールド30フレームとなっている。下がケイデンス除去処理が行われた30フレームのコマ
コンバーターの中にはPCなどに対応したインターフェースを備えている物もなるが、Teranex AVはTeranex Standards Converterのラインナップの1機種ということもあり、入出力のインターフェースはSDIかHDMIのみだが、オプションで光入出力インターフェースを追加することができるようになっている。入力は2系統のSDIと1系統のHDMIでいずれもループアウト端子を備えている。出力も入力と同様SDIとHDMIを装備しているが、それ以外にQuad 3G-SDI出力として4つの端子があり、4つとも同じ出力およびUHDを4分割した出力に切り替えて使用可能。
また、オプションの光入出力インターフェース(SFPモジュール)を装着することで、光ファイバーを使いUHDまでの信号を長距離伝送に対応可能となっている。入力の切り替えはフロントパネルのスイッチで選択できる。フロントパネル右側は主に設定に利用するスイッチなどが並んでおり、中央のLCDモニターに表示されるメニューなどでルミナンスゲイン、黒レベル、クロマサチュレーション、クロマヒュー、R-Y/B-Y色差値、シャープネスなどの調整などを行うことが可能。
フロントパネルのスイッチは入力の切り替えや信号フォーマット、フレームレートなどわかりやすく配置されている
フロントパネル右側はメニューの設定や調節を行うダイヤル、オーディオのチャンネルステータス表示などがある
その他の機能としては、入力タイムコードのリジェネレートやエンベデッドオーディオのチャンネル選択、クローズドキャプション、カラーバーやマルチバーストなどのテスト信号などを搭載している。また、Teranex AVでは入力信号のほか内部BBや事前に保存したスチールフレームや入力した信号からキャプチャしたスチル画像を表示可能で、シンクジェネレーターとしても利用可能。
ルミナンスゲイン、黒レベル、クロマサチュレーション、クロマヒュー、R-Y/B-Y色差値、シャープネスなどの調整などを行うことが可能
タイムコードの設定。入力信号のタイムコードのほか、リジェネレートや新たにタイムコードを付加することも可能
クローズドキャプションにも対応しており、メニューで設定することができる
LCDには入力信号の画像表示のほかフォーマットやオーディオレベル、タイムコードの表示が可能
出力も入力同様にフォーマットやオーディオレベル、タイムコードの表示が可能
SDIやHDMIに対応した入出力コネクター
電源やUSBのほか、PCでコントロールするためのEthernetコネクターなどが装備されている。WindowsやMac用にBlackmagic Teranexセットアップソフトウェアが無償で提供されている
ビデオ信号の変換を行う場合は単純に信号を変換するだけででなく、どのような方法で変換しているかが変換後の画質に大きな影響があり、信号的に適合するフォーマットに変換できれば良いという場合を除きコンバーターにはこだわりたいところだ。こうしたフォーマットの変換はノンリニア編集時に目的のフォーマットで出力したりインジェストの時に変換することもあるが、変換の方法(アルゴリズム)によっては同様な問題が生じることがあり、場合によってはこうした機器を使った方が画質が良い場合もあるだろう。
以前はソフトメーカーやハードメーカーが例えばWhitepaperというかたちで、自社の技術を解説することを盛んに行っていたが、最近はブラックボックス化される傾向にあり、ユーザーが検証することが難しくなってしまったのは残念なことである。もっとも最近のビデオ機材は複雑化しており、自社の技術だけでなく他社のものも含んでいることも多くなってきている。特にデバイスレベルでの話になると供給を受けた側で技術公開できなかったりするので、仕方がない面もあるのかもしれない。