txt:松本敦 構成:編集部
シングルハンドのエントリージンバルがDJIから登場!
ドローンでおなじみのDJI社からシングルハンドのブラシレスジンバル「Ronin-S」がついに登場しました。DJI社と言えばドローンが一番有名かと思われますが、「ジンバル」がコンシューマー向けに普及したきっかけは記憶にある限りでは2014年に発売されたDJI製の「Ronin」だったと思います。
当時はMoVIが一番メジャーだったものの、価格帯は確か100万円近くで、コンシューマー向けとしてはとても手が出るような価格ではありませんでした。その中で登場した「Ronin」は価格は約3分の1で同等の機能を備えたことで、一気に普及したように思われます。そこからさらにお求めやすい「Ronin-M」が登場し、アップグレード版の「Ronin-MX」「Ronin 2」とラインナップを拡大してきました。
筆者自身も「Ronin-M」を保有して活用していましたが、大勢のクルーの場合は良いのですが、プロジェクト内容によっては一人で動くこともあり、その中でスタンドなどが同梱されているRonin-Mでは撮影効率に支障がある場面もあり、もうちょっと手軽に扱える製品を求めていました。
Ronin-Sはどんな人に向いているのか
「動画制作」のハードルはここ数年で非常に下がってきています。YouTuberという言葉が一般的に定着したように、スマホが一台あれば動画が作れてしまうくらいに一人で出来ることは増えています。以前であれば全て分業だったものが「一人でどれだけ多くのパフォーマンスを発揮できるか」という領域が非常に増えているように感じます。筆者の友人でもバックパックに撮影機材を入れて旅の映像を発信している方がいます。
kei/旅するクリエイター
今回発売になった「Ronin-S」はまさにこのようなスタイルの方にぴったりなのではないでしょうか。DJIオフィシャルでもアップされているこちらの映像もまさに旅での活用方法を提案しています。
CMや映画のような場面ではもちろん専門の機材や分業が必要になりますが、このように旅の映像を一人で撮るような方に非常におすすめの撮影アイテムであると言えるでしょう。
旅映像に必要な機材選び「3つのポイント」
筆者自身もプライベートで旅映像を作ることはありますが、その中でアイテム選びにおいて3つのポイントがあるので紹介いたします。
1.コンパクトさ
旅映像を作る上で一番大事なポイントになります。旅を楽しむ上でも移動が苦痛になってはそもそもの楽しさも半減してしまうので、どれだけ軽く運搬できるのかということが重要です。2.レスポンスの早さ
旅ではいつどこでいい場面に遭遇するか分かりません。撮りたいと思った場面に出会った時に撮影するまでに時間がかかってしまってはせっかくのシーンを取り逃がすことにもなるので、どれだけ早く撮影までいけるのかということが大事です。3.撮影のバリエーション
例えばスライダーであれば横に移動するのみになりますが、それだけでは全体の映像としても単調になりがちなので、できれば多くのバリエーションに富んだシーンを撮れる機材を優先してしまいます。
上記3つのポイントが自分なりに選ぶ「旅映像アイテム」の優先順位になります。
江ノ島散策でRonin-Sのポテンシャルを試してみる
今回Ronin-Sを旅映像アイテムとして江ノ島にて半日ほど散策してそのポテンシャルを確かめてきました。
- 使用カメラ:Panasonic GH5
- レンズ:メインOlympus 12mm(一部30mm Macro)
外観ならびに大きな特長
■本体の下には3/8と1/4サイズの2種類の穴があり、同梱されているスタンドを装着することができる
このスタンドがあることで自立するこができるのがありがたいです。Ronin-Mの場合ですと、このスタンドが非常に大きく移動が面倒であったのがこれだけでも非常にサイズ的にもありがたいです。さらにスタンドは開閉可能なので、移動中は折りたたんで持つことができます。
■別売りカメラプレートで脱着を容易にするカスタマイズ
バッテリーの交換をするために今回の撮影ではマンフロットの長方形プレートを装着して使用しました。こういう些細な工夫も旅映像では重宝します。
■シンプルながら分かりやすい操作ボタン
操作ボタンは非常にシンプルで、ジョイスティックと録画ボタンそして割り当ての切り替えをするためのボタンのみ。カメラの向きをリセットしたりするためのトリガーは反対側に配置されています。
■ケーブル接続することでジンバルからカメラの操作が可能に
同梱のケーブルをつなぐことで、ジンバル側の録画ボタンでカメラの操作が可能になっている。さらにフォーカスリングとも連動しているので、マニュアルで直感的にフォーカスを合わせることができる。
■アプリでお気に入り設定を保存できる
あらかじめアプリ上でUSER1-3まで事前に設定を割り振ることができます。これは例えばレンズを変えた場合や、歩く時、走る時などに応じて事前に撮りかたを決めている時に設定しておけば現場ですばやく対応できる優れものです。
さらに、いままでなんとなくでバランスを取っていた方も乗せたバランスがあっているかどうかという機能も入っているので自分のセッティングを確認することもできるようになっています。
バランスがずれているとメッセージで出るので、どこのバランスが崩れているのか見ると調整の精度も上がります。
Ronin-Sで広がる撮影の幅
基本的には手ブレ補正のアイテムになるので、追い撮りなどがメインになるかと思いますが、他にも使い方次第では面白いカットが撮れるのでいくつか紹介いたします。
■ミニスタンドを使用しての「ローアングル撮影」
普段見慣れている景色もローアングルで狙うことでまた違う表情を見せてくれることもあります。
■スライダー的使用
通常のスライダーを使用する場合は地面に置くか、三脚に固定して行う場合がほとんどかと思いますが、このようにちょっと高めのところを撮影しようと思うとかなり大がかりになってしまいますが、Ronin-Sであればこのように簡易に撮影も出来るので効率面でも非常に楽です。
■ジョイスティックを活用した回転ショット
ジョイスティックが横、縦、回転と使えるのを活用してこのように回転させながらのカットも撮ることが可能です。これを手動で行うと同じ速度で動かすのが非常に難しいところ、ジョイスティックを使うことで一定の速度で回転させることができるので、ちょっと目を引くショットが撮ることが可能になります。
■一脚を装着して高いところの撮影が可能に
底面にネジ穴があることで、一脚等をつけることが可能なので、このように延長アイテムとして使用することができます。高いところをクレーン的に撮影することが可能になります。ただし、非常に重量が増すために周囲に人がいない時に使用することをおすすめいたします。
■手持ち歩き+タイムラプスの簡易ハイパーラプス
移動しながらのタイムラプスのハイパーラプスですが、本格的に撮影しようと思うと三脚を少しずつ動かしながら長時間かかる撮影になりますが、手持ち撮影で簡易的に撮ることも可能です。
今回はタイムラプスの設定を1秒間隔で少しゆっくりめで歩いて撮影しました。ただ、中心点をずらさらないように歩くことが気をつけるポイントです。
また一応撮影はできますが、撮影したままの素材では多少のガクつきがあるので、今回はAfter EffectsのWarpStabilizer VFXを適用してブレを軽減させる加工をしております。
■アプリと連携で広がる撮影の可能性
Ronin-Sの特長としてアプリとの連携が挙げられます。
このように5種類の撮影方法があって、今回は「Motionlapse」を試してみました。タイムラプス撮影に動きを加える撮影方法になります。
アプリ上で、移動させたい地点を設定します(今回の例ではシンプルに2箇所の移動にしました)。次に間隔を決めて、合計何秒間の素材にするかを設定したらあとは画面下のシャッターボタンを押すと自動で動き始めます。
この自動で動いていく感じはハイテク感があって見ているだけでも楽しいです。通常であればタイムラプス専用にこのような撮影アイテムが売られているくらいのところ、ジンバルにこの機能が搭載されているのは非常にお得感があります。
ちなみに風の強いところで撮影をすると途中でかなりがたついてしまったので、撮影をする際は三脚で固定するか、安定したところでの撮影をおすすめいたします。
■カメラの動きをシミュレーションできる「Track」機能
今回の作例では使用しなかったものの、上記「Motionlapse」と似ていますがこれは動画撮影で使います。
上記写真のように、最大10箇所までカメラの動きを事前に決めることができます。さらに何秒間でその動きを完了するか、というところまで決められるのであらかじめ動きが分かっているようなものを撮影する際には自動で動きをコントロールしてくれるという優れものです。
旅映像アイテムに重要な3つの条件を見事にカバー
「旅映像アイテムに必要な条件」
- コンパクトさ
- レスポンスの早さ
- 撮影のバリエーション
Ronin-Sはこの3つを十分に満たしていました。さらに言うと撮影は半日であったものの、バッテリー残量は3/4以上残っており持続性に関しても全く問題ありませんでした。まさに旅映像にはぴったりのアイテムと言えるでしょう。ただ強いて改善点をあげるとすると、やはりシングルハンド使用なので長時間持っていると腕がかなり疲れます。願わくば追加アイテムで両手持ちのハンドルなどが追加になると、本格撮影をしたい場合の幅も広がるのではないかというこが挙げられます。
また撮影当日は日差しが非常に強かったため、カメラ本体のモニターではかなり見づらい場面が多かったです。その際に別モニターを装着するアイテムなどあればいいのかなと思いましたが、そのような使い方をする人はRonin-Mの方を使えばよく、おそらくRonin-Sは極限までシンプルに削ぎ落としたからこそ、その魅力があるのかもしれません。
あくまでも軽量でシンプルに撮影をしたい人は「Ronin-S」を、もうちょっと本格的に撮影をしたい人は「Ronin-M」以上のスペックを選択すれば間違いはないでしょう。
遊び心と繊細さを兼ね備えた「旅撮影アイテム」の決定版
サイズ的にはシンプルでありながら、フォーカスコントロールやアプリでの撮影な非常に繊細な部分まで作り込まれており、あらゆるシチュエーションで活用することが可能になっています。カメラ一台とこのRonin-Sというシンプルなアイテムであれば旅自体を楽しみながら「よりクリエイティブな映像」が作れる可能性が広がっていくことでしょう。