txt:小寺信良 構成:編集部

マルチフォーマットAVミキサー「VR-50HD MK II」がついに発売!

今でこそローランドは我々プロの間でも映像機器メーカーとして知られるところとなったが、最初に認知されたのは2011年1月に発売された、スイッチャーとミキサーが一体となった「VR-5」だった。当時WEBカメラ1つでダラダラやっていたネット中継の中にあって、マルチソースをまとめてキチッとした番組構成を可能にしたインパクトは大きかった。以降VRシリーズは時代に合わせてラインアップを増やしながら、ネット中継やイベントの現場で活躍しているのはご承知のとおりである。

2013年発売の「VR-50HD」は、映像4系統、音声12chが扱えるVRシリーズの最高峰として登場した。コントロールパネルの真ん中あたりから手前に立ちあがってくるフォルムは、大型スイッチャーの使い勝手を意識したスタイルで、AVミキサーのスタンダードたる地位を獲得した。

豊富な入出力端子を供え、機能的には今だ現役でやれる機器ではあるのだが、以降に発売された新モデルにはソフトウェアとして面白い機能がどんどん搭載されており、その点でVR-50HDは若干置いて行かれている感もあったのは事実だ。

しかしこの9月に発売されるVR-50HD MK IIは、その部分を払拭するスペックで登場した。前モデルのコンセプトを継承しつつ、多くの新機能が追加されている。

フラッグシップ交代の瞬間に、我々は立ち会うことになる。

9月26日発売予定「VR-50HD MK II」

ブラックフェイスでスマートなオペレーション

まずコントロールパネルを見てみよう。VR-50HD MK IIではV-60HDやVR-4HDなどと同じく、艶消しブラックを基調とした落ち着いたデザインを継承する事となった。映像用4入力+静止画のスイッチも、一般的なスイッチャーと同じカラーLED対応のスイッチとなり、他のモデルとスイッチングの感覚が共通となった。

前モデルから大きくイメージが変わったコントロールパネル

右上には8インチのタッチパネルディスプレイがある。4入力+4静止画の十字分割モニターとPVW/PGM、メニュー操作を担当する。右端にはメニュー操作用のVALUEノブがあるが、一部のVシリーズのように押し込んで回すとパラメータが大きく動くといった2段階操作は提供されていない。その代わり、ENTERキーを押しながらノブを回すと、パラメータが大きく動く仕様になっている。

映像入力は4系統。HDMIとSDIは4入力ともに切り換え可能で、さらに1、2番はコンポジットとRGB/コンポーネントにも切り換え可能だ。入力切り換えは、コントロールパネルのSELECTを押して緑を点灯させ、横のカラーボタンを押すと、入力端子が順次切り替わる。いちいちメニューに入らなくても切り換えできるため、4ソースに限らずもっと多くのソースを扱える事になる。メニューで操作したい場合は、その横のINPUT ASSIGNボタンがショートカットだ。

入力端子切り換えも瞬時に可能

なお本機は、静止画のスチルストアが4つある。ここはUSBメモリーからロードできるほか、プログラム出力からもキャプチャできる。クロージングに企業ロゴ入れてくれ、だけど静止画ファイルとかないよ、PVの最後に付いてるから、みたいな話が急に来ても、に対応できる。

USBメモリーからBMPで4枚取り込める

スチルストアは4つあるが、4つが同時に出せるわけではなく、どれか1つを選択して使う仕様だ。SELECTボタンを赤に点灯させると、4つの静止画の切り換えとなる。なお4つのスチルストアは、電源を切ると消滅する。バックアップとして、ストアした静止画をUSBメモリーに書き出す機能も欲しかったところだ。

SELECTボタンを赤にすると、スチルストアの切り換え

映像出力はHDMI、SDI、RGB/コンポーネントを備えている。今回の特徴として、各出力にはAUXが必ず装備してあるところだ。つまり本線とは別映像を、もう1系統出せる。ソースからメインスクリーンへという単純なシステムではなく、演者用モニターや楽屋モニター、アイソレーション収録といった裏送り回線も1台でオペレーションできるという事になる。AUXに何を出力するかは、コントロールパネルのAUX列で選択できる。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/09/ong60_VR-50HD_MK-II_1130615.jpg

出力にAUXを標準装備
※画像をクリックすると拡大します

音声入力は、VR-50HDから全面的に回路を見直し、音質も向上。ファンタム電源が出せるXLRを4系統搭載している。5~12までは基本的にはステレオペアとなっており、5/6、7/8が標準ジャック、9/10、11/12がRCAだ。標準ジャックにマイクを接続するときのみ、5と7を単独で使用する。マイク入力に関しては、VR-4HDで初めて搭載され、好評を博した「オート・ミキシング」機能も搭載されている。入力された音声の大きさを関知して、自動的にバランスを取ってくれる機能だ。

加えて5~12は、映像にエンベデッドされている音声の入力チャンネルと共用になる。映像からの音声も使いたい場合は、標準及びRCAの入力は制限されることになる。ただXLRがコンボジャックなので、標準ジャックはそっちを使うという手もある。

入力ソースの操作は、フェーダー列上にあるSELECTボタンを押すと、そのチャンネルのソースやEQなどの設定にジャンプする。フェーダーのストロークは約6cm。これぐらいあれば、よほど微妙な調整が求められる現場でない限りは問題ないだろう。SOLOやMUTEもあり、多くのソースが入ってきても混乱することなくオペレーションに集中できる。

充実のミキサー部

音声出力は、メインがXLRのステレオペア、そのほかAUXとしてRCAと標準ジャックが同じくペアで出せる。またパネル前面からは、モニター用としてヘッドホン出力が2系統出ている。

ヘッドホン端子はタイプ違いで2系統を装備

細かいニーズに応える作り

では実際にオペレーションしてみよう。基本操作としては、シンプルに4映像切り換えとなるわけだが、トランジションとしてはカット、ミックスのほか、ワイプパターンが9種類ある。トランジションタイムは横のノブで決められるが、ここで設定したタイムがPinPやKEYフェードのタイムと共通になる。

トランジション設定

ビデオソースのオーディオについては、スイッチングと連動して音声が出るFollow機能は引き続き搭載されている。音声付きのポン出しビデオがある場合に、フェーダーを上げっぱなしでもなんとかなる、便利な機能だ。

コンポジションは、映像の上に何かを乗っけるセクションと考えればいい。前作もそうだったが、本機でも3系統のソースが同時に合成できる。PinP専用が1系統、PinPとKEYERとの切り換えが1系統、静止画の専用のKEYERが1系統だ。3つのプライオリティも、Composition SetupのLayerで決められる。ただ、プライオリティ順序がTop、Middle、Bottomで表示されるのは、英語話者ではない日本人にとっては直感的に把握しづらい。3つの重なり図の中に、KeyやPinPが表示されるようなUIのほうが分かりやすかっただろう。

レイヤーの設定が直感性に欠ける

要望としてはもう一つ。真ん中のPinP/KEYERは、PinPとKeyの両方をONにすることができる。これはこれでメリットもあるのだが、単純にPinPからKeyに切り換えたい場合、SOURCEから設定画面に入ってDitailに行き、まずPinPをOFFにして次のページに行き、KeyをONにするという手順の多さとなる。

PinPとKeyが別ページになっている都合で、切り換えがめんどくさい

ここは頻繁に切り換えて使う事が予想されるので、もっとUIの手前のほうで簡単に切り換えできるようにしておかないと、オペレーションが間に合わない可能性がある。

またDitailボタンは設定変更で非常に重要なのだが、ボタンサイズが小さくて目立たない。現場でトラブルがあったりしてアツくなってる時は、本当の実力の6~7割しか出せない事があるものだ。そんなときに機能が目立たないと見つけられない可能性もあるので、もう少しはっきり目立つようなサイズなり色で表示して欲しいところだ。

なぜかDitailボタンが小さい

まとめ

VRシリーズは、映像に加えて音声も面倒を見るマシンであるがゆえに、オペレーションする側の負担も大きい。したがっていかにいろんなことを自動化したり簡易化したりすることがポイントになってくる。

特に本機は多数の音声入力が扱えるが、他機種でも好評のAudio Followやオート・ミキシングを搭載したことで、音声に関してはほぼ自動化が完了と言えるだろう。映像系のオペレータは音声処理が苦手な人も多いが、機器に任せることができれば、かなり負担は減るだろう。また、LANポート経由でパナソニックやJVCケンウッドのPTZカメラを最大6台まで制御できる点も負担を軽減する機能の1つだ。

映像に関しても、ソース変更ボタンがコントロールパネルのあちこちに出ているので、4ソース以上の映像ソースを扱う事も難しくない。加えてスケーラーも内蔵しているので、解像度やフレームレートが合わないソースも扱う事ができる。

何も考えず、繋げばとりあえず絵が出るというのは、ローランド製品ならではの強みだ。かつてはビデオ信号に対する知識の無いネットユーザーでも扱えるとして紹介された機能だが、今は知識があるユーザーでも楽ができる、早くセットアップが終わるという機能に変化している。

価格は前モデルからあまり変わらず、希望小売価格はオープン、市場想定価格は税込80万円程度となっている。発売は9月26日だ。前モデルからの買い換え、買い足しなら、消費税が上がる前にサクッと行っとこう。

WRITER PROFILE

小寺信良

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。