txt:小林基己 構成:編集部

APS-Cの最高機種へ進化したX-T4

FUJIFILM X-T4を数日間お借りし、機体評価も兼ねて、いわゆるCinamatic Vlog的なものを撮ってみた。もともとX-T3を所有していて、ミュージックビデオなどの撮影ではX-T3を使うことも多い自分としては、このセンサーとF-Logはかなり評価している。

実はX-T3の段階で地味に凄かったのだが、ボディ内手振れ補正が付き、HD240fps(X-T3は120fpsまで)撮影ができて、バリアングル液晶モニターになり、バッテリーも強化されスペック的にも誰にも文句言わせないAPS-Cの最高機種へ進化した。このX-T3からX-T4への進化は動画撮影における恩恵はかなり大きいのでは?という期待のもと実機を迎え入れることになった。

ともかく、実際に仕上がった映像を見てほしい。花岡咲さん(ミシェルエンターテイメント)に協力してもらって、外出自粛が強まる前の三部咲きの桜を背景に撮影することができた。YouTubeに4Kでアップしているので、ぜひ、Chromeなどの4K対応ブラウザで見てほしい(240fpsのシーンはHDからのアップコンバートになる)。

この動画、「自分でもかなり気に入っている」と、堂々と言える仕上がりになった(笑)。天気に恵まれたこともあり、暗部からハイライトまで豊かな階調を見せるF-Logはグレーディングでかなり弄っても破綻せず、画質を気にして作りたい画を妥協するということもなくイメージを追及できた。今回は4K59.94p収録ということもあって最高画質からひとつ落としたH.265 Long GOP 200Mbpsで撮影している。

この4K59.94pもX-T3から実現しているので真新しさはないが、APS-Cクラス以上のカメラで4K59.94pを実現できているメーカーは富士フイルム、パナソニック、Blackmagic Designの3社だけ。29.97p収録までならALL-Intraで400Mbpsの収録ができる(ただ、実際にその差は合成用のグリーンバックや森林とかでもない限りわかりづらいと自分では思っている)。

Ronin-SC+XF23mmF1.4 Rをオートフォーカス開放値で撮影

ミラーレス一眼はボディの小ささ故にジンバルに乗せて気軽に撮影できるのが利点。今回はRonin-SCに載せて全てオートフォーカスに頼っての撮影になった。レンズはXF23mmF1.4 RとXF56mmF1.2 R、XF16-80mmF4 R OIS WRをお借りしていたので、まずは23mmで撮影を開始。

この組み合わせが実に良かった。4K59.94pで電子式手ぶれ補正も入れていたので1.29倍のクロップがかかっている。スーパー35mmの感覚で言うと30mmくらいか(フルサイズだと50mmくらい、自分にとってはフルサイズ換算よりも映画用フィルム標準の方が感覚的に馴染める)。Ronin-SCでも問題なくバランスが取れて、画角もちょうど良い。ほとんどf1.4の開放値での撮影だったのだが、オートフォーカスも頑張ってくれて肝心なところではシャキっと合わせてくれた。

Blackmagic Video Assistで画面表示ありの状態で収録したものを並べた映像があるので見てほしい。瞳AFを使用しているが、顔の向きや光によって瞳が追えなくなったときは通常のAFに自動的に移行させての撮影になる。

使用した画とディスプレイを出した画をリンクした映像

ムービー一眼で240fps撮影を実現

この映像は基本は4K59.94pで撮影し、編集時に23.98fpsに合わせて40%のスローをかけるという方法で使っているが、一部、準速で使ってるところと240fpsで撮影しているところがある。曲のサビの部分は大抵240fpsなのだが、違和感ないくらいに馴染んでいたとしたらカメラの開発者も本望だろう。なにしろムービー⼀眼で240fps撮影を実現しているのはX-T4のみだと記憶している(パナソニックDC-S1Hでも最⾼180fps)。

しかもセンタークロップなどされずに通常の画⾓のまま使えて、F-Logで⼿振れ補正もAFも同様に作動する。しかもセンタークロップなどされずに通常の画角のまま使えて、F-Logで手振れ補正もAFも同様に作動する。23.98pの10倍スローで撮影できることは大きくて、この10倍くらいからスーパースローと言える領域に突入する。

確かにダイナミックレンジや解像度は少し犠牲にしている気がするが、4Kの素材に混じっても問題なく使えるのはかなりのメリットだ。

オートフォーカスに関してはX-T3よりも良くなったという話だが、逆光はデビュー戦には酷だったかも知れない。順光の状況だと瞳認識も的確に作用してるが、逆光に関しては探り探りの感じだ。でも、自分がマニュアルで送るよりは上手いかな。これに関してはコンテュ二ティAFの「ねばり」と「すばやさ」をカスタマイズできるので、実際に使いながら掴んでいくしかない。

この反応はスタンバイ時とREC時では違うので撮影素材を見ながら掴んでいかなければならない。このムービーではボケているとこも雰囲気が良ければ使っているが、ボケているところから合うまでも含めてエモーショナルな映像になるかどうかは、このAFのカスタマイズが必要かな。

ワンカットまるまるOnScreenで出してみた。AFと会話しながら画角を作っていく感覚が必要だ

バリアングル液晶モニター採用で干渉せずに見やすい角度で構えられる

今回、全編でジンバルを使用している。このジンバルに載せているときにバリアングル式は効力を発揮してくれた。今までのチルトモニターだとロール制御のモーターの位置が干渉してしまい良い位置に収まらなかったり、邪魔して見え難くなるのだが、バリアングル式は横に張り出す分、干渉せずに見やすい角度で構えられた。しかもX-T3の液晶モニターの104万ドットから162万ドットと解像度も向上しているので、これってフォーカス来てるのかな?という不安から少し改善できた気はする。

ここでバリアングルの利点をもう一つ書くと、使っていない時に液晶モニターを内側にした状態でしまえることだろう。これは液晶モニター保護という視点ではかなり良い。閉じた状態はフィルムカメラを彷彿とさせるエンボス加工でX-Pro3を彷彿させて好感度も高い。

ただ、液晶モニターを横に出した撮影時のスタイルは、まだ慣れなくてあまり好きじゃない。あと、HDMIやUSBのケーブルを繋いだ時に干渉するので液晶モニターの角度も限られるというのが難点か。

次に試したのは56mm。ジンバルに載せるにはちょっとタイト過ぎたかなという印象だが、仕上がりの画は素晴らしく良い。顔のクローズアップと距離を取ったフルショットで使用しているが、開放f1.2の浅い深度で立体感のある画が撮れた。

夜の撮影で気付いたことだが、スーパー35mm換算70mmくらいの状況でもジンバルだけで三脚に載せたような画が撮れるのは、ボディ内手振れ補正との合わせ技だったからかもしれない(これはナイターのシーンで光源のゴーストが不規則な動きをするので⼿ぶれ補正がかなり抗⼒を発揮しているのに気付いた)。このムービーでも無意識に選んだラスト2カットは56mmで撮った画だった。

そしてチルトモニターではできないバリアングルの利点はなんといっても自撮りだ。23mmでも試したが、手を伸ばして顔を収めようとするなら16mmクラスが必要。今回は16-80mm f4.0の16mm域でやってみた。ただ、16mmでf4.0はフォーカスの深度が深く表現力が弱くなってしまう。ただ、自撮りできる画角から中望遠まで一気にいけて、浅い深度を必要としないVlogerにとってはこのレンズはベストチョイスになるだろう。

自分的なオススメは、クロップされない4K29.97pとかにしてXF18mm f2.0あたりのコンパクトなレンズとの組み合わせで瞳認識AFを使えば、品質も維持した最強の自撮りカメラになると思う(写真は横着してジンバルのまま撮ってしまったが、手振れ補正があればグリップを持つか通常のハンドルでも問題ないだろう)。

ナイトシーンをISO640~2500で撮影

この映像でもナイトシーンが登場するが、ISO640~2500くらいまでを使用している(もうちょっと高感度まで使うべきだったんだろうけど、単玉で開放使いだとそれでも明る過ぎてNDを使用するくらいだった)。ISO2500くらいまでなら特にノイズが気になることはないが、暗部の多い画は感度に関係なく多少ノイジーに見える。昼のシーンとの兼ね合いで空間ノイズリダクションをかけたが、シルエット目の2カットだけはノイズリダクションなしの状態なので気になる人は4Kで見て欲しい。

吹雪の中を走るバイクを手持ちオートフォーカス、240fpsで撮影

ちょうどカメラの返却が東京に大雪が降った日だった。パッケージングする前に家の前に持ち出して自分が所有しているXF55-200mm f3.5-4.8 OISを付けて手持ちで撮影してみた。雪が吹きすさぶ中バイクがこちらに向かって来るのを手持ちのオートフォーカスで240fpsで撮影したが、これが一番、このカメラの醍醐味が味わえる映像になった。これは明らかにX-T3では撮ることができない映像だ。レンズとボディ併せての手振れ補正の安定感と雪の中のオートフォーカスの精度、10倍のハイスピード。X-T4だからこそ撮影できた映像が撮れた。

このとき初めて気付いたのは、手ぶれ補正が付いているレンズを装着した時はメニューの中にあるIBIS/OISのオフの項目がなくなるのだ。これは富士フイルムのカメラでよくあることだが、ダイヤルやスイッチで操作できるものはメニュー側で操作しないという配慮からきたものだろう。一瞬ドキッとしたがレンズの横のOISを切ったらオフになった。つまり、レンズのOISを入れてIBIS(ボディ内手ぶれ補正)をオンにすることはできないのだ。その逆もしかり。必ず連動して作動する。

今回のバージョンアップで大きな売りとなっているこの手振れ補正。ボディ内手振れ補正とレンズ内蔵手ぶれ補正に加えて電子式補正も備わっている。これに関してはどれだけ言葉で説明するより映像を見てもらう方が早い。X-T3とX-T4を横に並べて敢えてブレの多い映像を撮ってみたので、それを見て自身で判断して欲しい。

X-T4は55-200mmOISを、X-T3は16-55mmで55mmにした状態でテストした

そして最後に、今回X-T4と一緒にMKX18-55mmT2.9も借りることができた。かなり気になっていたレンズだが今まで使う機会に恵まれなかったので、このタイミングで試せるのは良かった。このレンズを付けて液晶モニターを被写体側に回すことは少ないと思うが、X-T4らしさのためにこんなスタイルで撮ってしまった。

Xマウントのレンズとしては大きく感じるかも知れないが、シネレンズとしては、かなりコンパクトな部類に入る。いつも使っているのがXF16-55mm f2.8なので、画⾓やフォーカス深度は感覚的に近い。レンズの描写力としてもXF16-55は素晴らしいレンズだ。そのXF16-55は実質12万円弱で買えるのに、MKX18-55は50万円以上してしまう。それはシネレンズゆえに求められるシビアさにあると思う。

XF16-55はズームを動かすと、マニュアルフォーカスにしていてもその都度、自動で合わせてしまったり、フォーカスリングの位置が同じでもピントの位置がズレたりすることがある。それは写真においては問題視されることは少ないが、ムービーに於いては使いづらさに通じる。MKXはフォーカスを送っても画角が変わらない。ズームしても中心軸がブレない。フォーカス、ズーム、アイリス、全てにおいて精緻で滑らか、そういった点においてMKX18-55mmは明らかにシネレンズだ。価格のことだけでいうと同じFUJINONでもARRI Alura Zoomsレンズにいたっては350万以上するんで、それに比べればかなりお得感あるのだが…。

とにかくドラマを撮ることにおいては手振れ補正やオートフォーカスに頼らず、確実に同じ動きをトレースできることが重要になってくるので、X-T4とMKX16-55と50-135の二本があれば、これで映画が撮れるという野望を抱かせるレンズだ。

コントラストが高く暗部にブルーが乗るETERNAブリーチバイパスを新搭載

そしてそのレンズでX-T4になってフィルムシミュレーションに新たに加わったETERNAブリーチバイパスを使ってみた。ブリーチバイパス、いわゆる銀残しというやつだ。映画でいうと「セブン」や「マイノリティ・リポート」ほか多くの作品でみられる。

このブリーチバイパス、現像処理のひとつで文字通り、漂泊作業(最期にフィルムに残っている銀塩を落とす作業)をやらずに洗浄に回す現像方法で、コントラストが高く暗部にブルーが乗る傾向がある。フィルムの時代はこれをやると洗浄タンクを交換しなければならず、現像の最期の回にまわされ、オプション料金も必要という贅沢な処理だった。それがカーソル一個で選択することができるなんて!

ネットでも調べてみたら出てくる出てくる。いろいろなフィルムシミュレーションからカスタム設定することでオリジナルの銀残し調のルックを作っている人が少なからずいた。今まで良いと思っていたETERNAのルックもブリーチバイパス見た後だと物足りなく感じてしまう。ただの明治通りが「実録!明治通り!」という感じになる。

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しかし、ムービーで使用するとなると後で調整する幅がなくなる分、不安は感じる。たぶん最終仕上がりがこれ!って決められるんだったらF-Logから処理するより綺麗なんだろうが、仕上げにカラコレの時間がとれない時などは効力を発揮するだろう。

現在、富士フイルムから出ているLUTはETERNAのみだが、今後ETERNAブリーチバイパスのリリース予定もあるという。欲を言えば、PROVIA、Velviaなども出してほしい。有料でも買うと思う。

あと、バッテリー容量が変わったことが大きな違いだ。今回テストで借りたカメラに付いてきたバッテリーは1本と、かなり心細かった。X-T3用のバッテリーは6本持っているが、これを併用することはできない。明らかに形状も大型化している。そして容量も約1.5倍持つようになったという話も聞いている。

とりあえず、15時半くらいに撮影を初めて4K60pとHD240pで全て手ぶれ補正あり、オートフォーカスというバッテリーに負担がかかる撮影をしていたが、日没の18時くらいまで撮影してどうにか1本で足りた。その後はモバイルバッテリーで給電しながらの撮影で切り抜けたが、朝から晩までの撮影だとしたら4本くらい欲しいところだ。でも、明らかに今までに比べると持つようになったという実感はあった。

そして、シャッタースピードダイヤルのところにSTILLとMOVIEの切り替えボタンが付いたことからもムービーに力を入れていることが分かる。クイックメニューも静止画と動画で出てくる項目が違って、これは助かる部分も多い。

結論としてFUJIFILM X-T4は買いかどうかというと、自分がX-T3を持っていなかったら絶対買いだ。これだけのポテンシャルをこの価格で実現してしまうことに驚く。ただ、今のX-T3を売ってT4に乗り換えるかというと、そうはしないと思う。X-T4の機能は、240fpsを除いてはユーザーが頑張れば良い話だから。手振れ補正も、バリアングルも、バッテリーの高寿命化も、ブリーチバイパス(これはカラコレで頑張る)も…あぁ、こんなこと書いてたら、自分が痩せ我慢してるような気になってきた。

あ、全然痩せてないけど…。

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。その他にCM、映画、ドラマと幅広く活躍。noteで不定期にコラム掲載。映像に興味を持つ人のための技術共有と交流のオンラインコミニュティ「MKシネマコミュニティ」を開設した。

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、xRソリューションの会社Chapter9のCTOとしても活動。