txt:井上晃 構成:編集部
ATEM Miniに想定外の「Pro」登場!
2020年4月4日未明、Blackmagic DesignはATEM Miniの姉妹製品「ATEM Mini Pro」を発表し、その発表直後から発売を開始した。
Blackmagic Design ATEM Mini Pro Operation&Streaming Sample
通常なら米国で行われるNAB Show前のこの時期には、各社から新製品の発表が溢れる。しかし今年は新型コロナウイルス感染症騒ぎでNAB Showは延期となり、Blackmagic DesignもWEBライブ配信による新製品発表となったが、昨秋発売されたばかりのATEM Miniに、姉妹機として「ATEM Mini Pro」が追加発表されるとは、誰が思ったであろうか?
もちろん筆者もまったくの想定外であり、当初はファームウェアのアップデートによるMiniの機能追加かな?と思っていたのだが、思いもよらぬ機能強化版ATEM Mini Proの登場には大いに驚いた。
この機能強化版のATEM Mini Proは、ATEM Miniの弱点をしっかり補強したその上に、大変魅力的な機能強化が施されていた。
その魅力に、ATEM Miniの時は動かなかったマウスを握る指が、発表直後の公式ストア再開時にオーダーボタンを迷わずポチっとさせた。オーダーからたった4日間で届いた自腹ATEM Mini Proを前に、早速レビューを始めよう。
魅惑の追加機能を俯瞰する
ATEM Mini Proが持つ基本的な機能は、オリジナルのATEM Miniに準拠する。基本的な機能については、筆者がレビューした記事をご参照頂きたい。
ATEM Mini ProはATEM Miniの持つ機能以外に、大変魅力的な機能追加が施された。
- マルチビューで全ソースのモニタリングが可能に
フロントパネルに装備されたビデオ出力ボタンでHDMI出力を選択可能- イーサネット経由での直接ライブ配信をサポート
- H.264でUSBフラッシュディスクに収録可能
- 配信ボタン・収録ボタンをフロントパネルに装備・入力HDMI経由でのカメラコントロール
(ATEM MiniもATEMソフトウェア8.2で可能になった)
この3点の機能追加で、ATEM Mini Proは小型ライブスイッチャーの大本命へと躍り出た。今回のレビューではこの3点をじっくりと見てみよう。
待望のマルチビュー出力と、HDMI出力切り替えボタンを装備!
ATEM MiniはHDMI出力が1系統しか無いところに、マルチビュー(画面分割によって複数の画面を同時に見る機能だ)を装備していなかったため、プログラム出力以外の他ソースの確認が出来ず、マルチカム時のスイッチングがやりづらい点が最大の弱点であった。
ATEM Mini Proは待望のマルチビュー出力が追加されただけでなく、1系統しかないHDMI出力をプログラム出力にもプレビュー出力にも、更に1〜4までのソースを送出するAUX出力も可能となった。また、フロントパネルに対応するボタンが新規装備され、実に簡単に切り替え可能になったのも、今までのATEMシリーズとは異なる新しい機能追加だ(プレビューはATEMソフトウェアコントロールからのみ切り替えが可能)。
マルチビューの画面は、従来のATEMシリーズで見慣れた10分割のマルチビューだが、4入力のATEM Mini Proに合わせた最適化が施されている。
マルチビュー全体の割り当ては固定されており、下半分の入力ビューの上段部分にソースの1〜4が割り当てられている。下段部分は左端にメディアプレーヤービューが割り当てられ、その右の3箇所には見慣れぬビューが割り当てられた。メディアプレーヤービューの右隣から、「配信ビュー」「収録ビュー」「オーディオビュー」の3ビューである。
「配信ビュー」では、ライブ配信のON AIR、OFFの状況表示の他、配信データレート、キャッシュステータスなどを表示する。「収録ビュー」では、収録のREC・STOPの他、継続時間やドライブの空き状況などのステータスを表示する。「オーディオビュー」では、ソースのオーディオレベルやプログラム出力のレベルをモニタリング可能だ。
HDMI出力がマルチビューの出力だけでなく、切り替え式でソースやプレビューが出力可能になったことは、各ソースの詳細な確認や、クロマキーのセットアップも容易に出来るようになったことを意味している。
このHDMI出力切り替えが出来るようになったこと1点を持ってしても、Proと銘打った価値があると言えよう。
出力タブの装備で様々な出力に対応!
従来のスイッチャーによるライブ配信では、映像スイッチャーの後ろに、スイッチャー映像を取り込むビデオキャプチャー機器、そして取り込んだ映像を配信する配信エンコーダーと、2段階の機器構成が必要であり、様々な機材・ソフトウェアを組み合わせる必要があった。
ATEM Miniでは、このうちビデオキャプチャ機能を装備し、USB接続と簡単な接続でPCなど配信エンコーダーへ映像を直接受け渡す機能(UVC対応機能)を持っていたところに大ヒットの理由があった。ATEM Mini Proでは、上記のビデオキャプチャ機能だけでなく、配信エンコーダーの機能まで内蔵したことが大きなトピックである。強力なH.264エンコーダーを装備したことで、特定の配信プラットフォームに対しては他機器を必要とせず、ATEM Mini Proから直接ライブ配信が可能になった。
この事からATEM Mini ProはRJ45LAN端子を使用し単独でインターネットに接続している必要がある。このため本機にはDHCPクライアント機能が備わり、DHCPサーバーが動いているネットワークでは、自動的にIPアドレスを取得し設定する。
通常は固定の静的IPアドレスで動作させるべきATEM機器ではあるが、動的なIPアドレスが設定されることから、PCによるATEMソフトウェアでも本機の検索機能がついた。ハードウェアコントロールパネルなど、固定のIPアドレスを前提として運用を行ってる方は注意して欲しい。本機のIPアドレスはATEM Setupユーティリティで、DHCPサーバーを使用するか、スタティックな静的IPアドレスを使用するか等の設定が出来る。
。そしてライブ配信は、ATEMソフトウェアの出力タブ中の「Live Stream」で設定する。ここの設定を簡単に紹介しよう。まずは、「Platform:」でライブ配信先のプラットフォームを選択する。現状のソフトウェアで設定出来る配信プラットフォームは「Facebook Live」「Twitch」「YouTube Live」の3つだ。
配信プラットフォームを選択すると配信先サーバーは自動的にセットされるので入力の必要は無い。あとはストリーミングキーを配信先から取得し、「Key:」ダイヤログ内に入力する。後に「Quality:」をセットすれば配信可能となり「ON AIR」ボタンでATEM Mini Proからストリームの送出が始まるので、送出先のステータスを確認しよう。
ここで「Quality:」についてATEM Mini Proの設定値(保存された設定xmlファイルから読み取った値)と実効値(送出中の実際のビットレートを読み取った)を確認してみよう。
ビットレート設定値 | ビットレート実効値 | |
HyperDeck High | low=45 to high=70Mb/s | 30.05Mb/s |
HyperDeck Medium | low=25 to high=45Mb/s | 19.82Mb/s |
HyperDeck Low | low=12 to high=20Mb/s | 10.30Mb/s |
Streaming High | low=6.0 to high=9.0Mb/s | 6.2Mb/s |
Streaming Medium | low=4.5 to high=7.0Mb/s | 4.7Mb/s |
Streaming Low | low=3.0 to high=4.5Mb/s | 3.2Mb/s |
※ビットレート設定値のlowはフレームレートが23.98、24、25、29.97、30時。highは、50、59.94、60時
配信の解像度とフレームレートはATEM Mini Proのシステム設定に準拠する。つまりATEMのシステムが1080/30pなら配信も1080/30pとなる。配信するなら配信に向いたフレームレートを選ぶ必要があるということだ。
ライブ配信の設定はこれだけであり、簡単ではあるが詳細な設定は現状では出来ない。RMTPサーバーを指定して送出できると汎用性が上がるのだが、ファームウェアのアップデートで可能になるよう期待したい。ビットレートを見ると通常の配信は「Streaming Medium」で十分であろう。ただ有線LANなど十分な帯域が確保される時に使いたいビットレートであるため、ネットが無線や4G接続など帯域が厳しい場合には使いにくいことも考えられる。低ビットレートでの配信が必要な場合は、PCとUSB接続し、PC側のエンコーダーで解像度を落として配信するなど工夫した方が良いだろう。
画質はそれほど悪くはない。これもスイッチャー内部で直接配信エンコードが行われているということだからであろうか、スッキリくっきりとした配信画は好印象だ。ただ、全画面がフェードする部分はやや破綻が見える。まだまだ改善の余地はあるように思うので、これもアップデートに期待したいところだ。
ATEM Mini Proでは、HDMI出力はマルチビューを使用し、ライブ配信にはRJ45LAN端子が使用すれば、USB-C端子が空いていることになる。これを利用しUSB-Cに外部ディスク/フラッシュドライブを接続すれば直接H.264ファイルに配信を収録することが可能となった。
ドライブはHFS+またはexFATで予めフォーマットしてあることが必要で、しかもUSB-Cでの接続が必須となるのでケーブルなど予め用意しておきたい。今回のレビューではUSB-C接続のSDカードリーダーを用意し、高速タイプのSDカードを接続して検証してみた。
本機にはディスクステータス・インジケーターが用意されており、収録メディアの状態を確認できる。フォーマット済みのメディアが検出され収録準備が出来れば、緑に点灯するので、あとは本機の「収録ボタン」を押すだけだ。
収録のQualityは配信Qualityと共通であり、個別にQualityを設定することは出来ないが、逆に配信Qualityで収録したH.264ファイルは、そのままYouTubeなどのサービスにアップロードが可能であることが嬉しい。ネットワーク設備がない場所でのライブで、配信が不可能だったら選択肢の一つとして、収録、即座にネットワークのある場所でアップロードというワークフローはアリと考えられる。
配信を行わない場合には、Qualityに「HyperDeck」を選択すれば、HyperDeckで録画するのと同じ高いビットレートによる録画が可能だ。プロ品質の高画質が保証される。
この出力タブの2つの機能、「Live Stream」と「Record Stream」は、マルチビューの「配信ビュー」「収録ビュー」でステータスが確認出来る。このマルチビューとの連動は非常にありがたい機能追加だ。
HDMI入力経由でのカメラコントロール
以前からATEMの従来機種ではスイッチャー側からリターン映像をカメラ側に返すことによって、対応カメラのコントロールや、タリー、トークバック、リターンなどを実現していたが、これにはHD-SDIケーブルが上り下りと2本必須であった。
新しく登場したATEM Mini Pro(ソフトウェアを8.2にアップデートしたATEM Miniを含む)では、Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kおよび6Kの両モデル(Blackmagic Camera 6.9 アップデートが必須)を組み合わせると、カメラパラメーター、レンズ、タリーライト、内蔵DaVinciカラーコレクターのリモートコントロールなど、各カメラをスタジオカメラとして使用できる機能が追加された。
以前のソリューションと大きく違うのは、このカメラコントロールをHDMIケーブル1本で出来るようになったことだ。このHDMIケーブル1本でカメラコントロールと入力が出来るようになったのは、かなり画期的と言っていい。
ただ良い事ばかりではなく、その接続に苦労する事もある。それはHDMIという相性問題が纏わる機器ならではの話しなのだが、通常はHDMI接続するだけでPocket Cinema Cameraたちは外部コントロールを受け付けるようになる。
だが、これが時に接続しないときがある。筆者は何回も接続を仕直してみたり、ケーブルを交換したりと苦労することになった。
だが法則性は発見した。意外な事にPocket Cinema Cameraたちと接続しているHDMIケーブルなどが問題なのではなく、ソフトウェア確認用に他の入力にHDMI接続したMacbook Proが問題だったのだ。恐らくだがHDCPとかホストと煩雑に交信するタイプのHDMI機器がカメラ以外にある場合、カメラコントロールが不能になるような事態が起きるようだ。
今回はMacbook ProをHDMIーHDMIコンバーターを通して接続すれば、問題が起きない、というところまでは確認した。
もしATEM Mini Proと Pocket Cinema Camera で接続上の問題が生じた場合には、他に接続した機器を疑う、という事を思い出して欲しい。
このカメラコントロールは、ATEMソフトウェアコントロールの「Camera」タブで直接操作することも可能だが、より本格的な操作が必要ならば、ATEM Camera Control Panelを接続すればこの魅力的なハードウェアサーフェイスによる素早い操作も可能となる。
もちろんATEM 1 M/E Advanced Panelを使用することで、ATEM Mini Proの全機能を本格的なサーフェイスで操ることさえ可能なのだ。
総括
ATEM MiniからProに追加された機能に的を絞ってレビューしてきたが、ATEM Miniが持つ
- 全入力に備わったスケーラーコンバータによる自由なビデオ入力
- Advanced Chroma Keyerなど高機能で多彩なアップストリームキー
- USBウェブカム出力
等々の機能はは未だに明るく光を放っており、ATEM Mini Proはその魅力を全て引き継いでいる。
今回、本機に追加された機能は、昨今のライブ配信需要の高まりを真正面から受け止める機能追加であり、まさしく今の時代を正しくキャッチアップした機能追加だ。この機能追加されたATEM Mini Proは、プロ、アマを問わず多くの映像製作者をライブ配信という新しい映像制作の世界へと誘うことになるだろう。願わくばライブ配信だけでなく、このライブでコンテンツを作成してしまうというライブプロダクションの世界が、よりプロフェッショナルな映像制作のスタイルとして定着することを望みたい。
ATEM Mini Proは新たな映像制作のジャンルを切り開く刀となる。ぜひBlackmagic Designさんには頑張ってたくさん製造して頂き、多くのクリエイターに届けて欲しい。さあクリエーター諸君よ、勇んでポチろう!希望小売価格は税別67,980円!お値段以上の新しい映像制作の世界が待っているぞ!