txt:猿田守一 構成:編集部
SIRUIよりアナモフィックレンズが発売
スチル系のプロ用三脚や雲台、クイックシューなどを製作しているSIRUIよりアナモフィックレンズが発売された。三脚や雲台を作っているメーカーがレンズを?と驚いたのだが、なんとなく納得してしまった。何故かと言うと筆者は数年前にSIRUIのK-30Xという自由雲台を、とある展示会で手に取り、その精巧な作りと堅牢さに惚れ込みその場で購入してしまった事があったからだ。
当初SIRUI社の事を知らなかった筆者は、この作りの良さは日本のメーカーなのだろうと思っていたところ、中国で設計から加工まで行っていると知りまた驚いてしまった。中々の高品質な製品を低価格で製造できてしまう中国の凄さに思い知らされてしまった。そのSIRUIの加工技術からすると今回発売されたアナモフィックレンズの鏡筒設計などは問題ないのでは?という安心感と安さが購入理由となった。
また光学部分はドイツのショット社が担当している。ショット社はカール・ツァイス社との関係が深く、ショット社製の光学ガラスをカール・ツァイス社に納入している。実際の光学設計から加工まで全てショット社が行っているのかどうか詳細は不明である。
実はこのレンズの購入動機は、SIRUIがクラウドファンディングで資金集めをしている事をネット上の広告で知ったのがきっかけだ。早速1月に注文を入れ、およそ3か月後に無事届いたという流れだ。今回は早速、自前のGH5Sを使用したレポートを行いたいと思う。
Anamorphic Lens(アナモフィック・レンズ)という名前を聞いたことある方は多いと思うのだが、ざっくりとおさらいしたいと思う。既にPRONEWSでもおなじみのマリモレコーズ江夏由洋氏がたいへん詳しくレポートをされているのでこちらを参考にしていただきたい。
今回発売されたアナモフィック・レンズは以下の仕様となっている。
- レンズ構成:8群11枚
- 焦点距離:50mm
- 絞り:F1.8~F16
- 絞り羽根:10枚
- 対応センサー:APS-Cまで
- MOD:0.85m
- フォーカス:手動のみ
- フィルターサイズ:M67
- 重量:560g
- レンズマウント:FUJI Xマウント、M4/3マウント、SONY Eマウント
こちらのレンズは自前のGH5S用として購入したのでマイクロ・フォーサーズ・マウント仕様となっている。上記仕様表にもある通りAPS-Cセンサーまでのイメージサークルのようなのでマウントさえ合えば使用可能となっている。シリーズ的には富士フイルムのXマウントとSonyのEマウント、マイクロ4/3ならば利用可能だ。残念ながらマウントが適合していてもAPS-Cセンサー以上のサイズのフルサイズセンサーではケラレてしまうので注意が必要だ。
こちらのレンズの焦点距離は50mmなのだが横方向には1.33倍の広角で撮影できるので、おおよそ横幅の画角的には38mm相当の広さで撮影できる感覚となる。手に取るとずっしりとした重さ(560g)である。鏡筒は航空アルミと銅を使用した造りとなっているようだ。表面処理もなかなか高級感のある触り心地がする。撮影に関して気になる部分のフォーカス、アイリスリングとも適度な粘度をもった、とても滑らかな動きをする。アイリスリングはクリックのないリニアな動きとなっている。
UHD 4K 3840×2160モードと、DCIシネマ4K 4096×2160モード
実際に撮影して画角確認を行ってみた。GH5SはUHD 4K 3840×2160モードと、DCIシネマ4K 4096×2160モードでの比較を行った。GH5・5Sには4:3アナモフィックモードが搭載されているのだが、こちらのモードは縦横比2倍のアナモフィックレンズに対応した仕様となっているため詳しい検証は割愛する。
今回使用したNLEはGrass Valley社のEDIUS8.53。収録したデータは収録フォーマットに合わせEDIUS上でUHD 4K 3840×2160とDCIシネマ4K 4096×2160のプロジェクトを作り、各素材のプロパティを開きビデオ情報→ピクセル比→1.33を選択し横方向に圧縮された映像を正しい縦横比の映像に戻す作業を行う。
Adobe Premiere Proも素材のピクセル比を変更する事で同じように変更可能となる。Premiere Proの場合はクリップ→変更→フッテージを変換→ピクセルの縦横比→アナモルフィック1.33を選択する。
EDIUSの場合、複数の映像ファイルに対しこのピクセル比をファイル毎にプロパティで設定するのはとても煩雑で時間の無駄となる。そこで映像ファイルのプロパティでのピクセル比変更をせず、レイアウターを利用しサイズ変更を行う。レイアウターの設定画面でストレッチ部分の「フレームアスペクトを保持する」のチェックボックスのチェックをはずし、Yの値を75%に設定する事で前述の「ピクセル比を1.33に変更」と同じ結果が得られる。後は他の映像ファイルに対してコピー&置き換えAlt+Rを行う。このレイアウターの設定で変更する事により他のファイルに対してコピー&置き換え(フィルター) Alt+Rで簡単に他のファイルに適用する事ができる。
画角の違い
UHD 4KとDCIシネマ4Kの画角の違いを確認していただきたい。UHD 4KよりDCI 4Kの方が若干広く撮影出来ている事が確認できる。
UHD 3840×2160 2.35:1
DCI 4K 4096×2160 2.52:1UHDに比べ若干広く収録されている
ちなみにGH5Sで4:3モードで撮影するとほぼ16:9のアスペクト比になる。この場合縦方向の映る範囲が広くなっている事が分かる。また横方向は写っている範囲が狭くなっている事が分かる。
絞りによる画質の違い
開放F1.8 F5.6 F16の結果は以上のとおり。さすがに開放F1.8は全体的に甘い感じがする。またF16でも小絞りボケが起きている様でF5.6ほどの解像感は感じられない。
アナモフィックレンズの独特な表現
アナモフィックレンズを使用する大きな理由として、点光源に対して発生する独特の青白いフレアやゴーストがあげられる。通常のレンズと比較すると特殊な光学系のため、フレアやゴースト、縦横のフォーカスのズレや楕円形のボケ、横方向の収差など通常レンズではお目にかかれない絵が出てくる。これがまさにアナモフィックレンズの味として映画の世界では「味」として活用されている。
今回の点光源テストでは絞り値の違いによるフレアやゴーストの違いを検証してみた。流石に絞り込んでいくと色が分離したフレアが盛大に出てくるなど面白い特徴を見ることが出来る。昼間の撮影とは随分と違う印象になる。
動画でのフレアとゴーストの出方も検証してみたのでご参考にしていただきたい。
SIRUI ANAMORPHIC TEST
機能を越えて魅了させるアナモフィックレンズの可能性
フィルム時代の本来のアナモフィックレンズの使い方は横長映像を高画質で投影するためにフィルムの有効面積いっぱいに横長映像をギュッとスクイーズ記録し、上映時には映写機に装着したアナモフィックレンズにより横方向に伸張し横長映像を得るという方式であった。しかしシネコンが一般的になってきた現在は、上映タイトル毎にシネスコやビスタなど複数のアスペクト比の作品を次から次へと上映するため、投影用のレンズにはアナモフィックレンズを使わずプロジェクター側で画面サイズを決定している。
そのため家庭のテレビで見る映画と同じようにシネスコ映像の場合上下の余白部分の黒は解像度的には無駄になってしまい、縦方向の解像度は落ちてしまう事になる。とはいえ、HDやUHDではそこまで縦解像度が落ちたという感覚になる人はほとんどいないのではないだろうか。そう考えてみると通常レンズで撮影し編集時に上下をクロップするという事と同じ結果になるのである。
しかしこの特殊なレンズの持ち味をエッセンスとして映像表現に盛り込むことは、今までの映画界の巨匠が好んで利用している事で既に証明されている。実際の映画の撮影現場では今回使用したレンズとは価格も性能も段違いの物を使用しているので見え方はだいぶ違う物となっているのではないかと思う。
今回レポートしたSIRUI ANAMORPHIC LENS 1.33×はフレアやゴーストの出方が絞り値により大きく変わる事が今回のテストでよくわかった。これらの光学特性とうまく折り合いのつく設定を探りながら撮影を楽しんでもらいたい。今後発売されるであろう50mm以外の焦点距離のラインナップに大いに期待したいと思う。