txt:新田みのる 構成:編集部

初代X1Dの不満を解消したX1D IIが登場

デジカメ時代到来前から長年デザイン業界に身を置いている筆者だが、ハッセルブラッドという名前は自分にとって特別な響きをもっている。中判カメラのバシャリという音と、立体に見えるベリースタイルで構えたときのファインダーの中に映る世界、なにか35mmクラスにはない独特な世界がそこにはあった。

そんなハッセルブラッドは、2016年には世界初の中判ミラーレスカメラ「X1D」、2019年には驚きの価格と様々な機能アップデートを図った「X1D II 50C」(以下:X1D II)を発売してきた。

しかし、X1Dはミラーレスカメラのために、電子ビューファインダーという宿命がつきまとう。初代X1Dの電子ビューファインダーで眺める風景にどうしても気持ちが乗らなくて購入に踏み切れなかった。また、初代X1Dは、電源を入れて使えるようになるまで長く待たされるなど、スピードの面でも劣っていた。

それがX1D IIになって大幅改善。値段も大きく下がり、背面ディスプレイも3.6インチと大型となった。その改善内容を知って、筆者はHシステムのユーザーでありながらも半ば衝動的に購入してしまった。ここでは2020年6月5日公開の新ファームウェア1.2で搭載された動画撮影機能も含めて、X1D IIの魅力を紹介しよう。

左からファームウェアアップデート1.2.0が公開されたX1D II。交換レンズのXCD3,5/30、XCD 3,5/45

筆者が所有する1億画素フルフォーマット(40.0×53.4mm)CMOSセンサー搭載のH6D-100c(左)。32.9×43.8mm CMOSセンサー搭載のX1D II(右)

X1D IIの魅力

ハッセルブラッドといえば、ユニークなフィルムサイズでユニークな撮影スタイル。かつては音楽業界で多く使われ、シンガーソングライターのジミ・ヘンドリックスやジム・モリソンなど、伝説的ミュージシャンのポートレートを数々記録してきたカメラであり、アポロ11号とともに月の写真を撮影してきたのもハッセルブラッドだった。

そんなハッセルブラッドは、デジタル時代になってもモンスターデジタルカメラとして知られている。Hシステムは、中判サイズのイメージセンサー、カラーテクノロジー、大きいながらも意外に小回りのきくボディ、相変わらずのモジュラーコンセプトのレンズ、ボディ、感光部。

しかしなんと言っても肌色の再現力は他のカメラシステムにはない特徴だと思う。どんなシチュエーションでも、違和感のない肌感を残してくれる。ハッセルブラッドのスタッフによると、肌色の再現力には相当のエネルギーを費やして開発をしているようだ。もちろんX1Dもこだわり抜いて開発されていると思うし、その後発のX1D IIですから期待も高まる。ボディの完成度、インターフェイスデザイン、どれをとってもこれ以上のカメラは見たことない。

センサーサイズの比較。左からX1D II、H6D-100C

また、筆者はキヤノン「EOS 5Ds R」、ソニー「α7 III」、「H6D-100C」ユーザーでもあるが、カメラボディの質感でもダントツでX1D IIがトップだ。選択肢の少ない中判ミラーレスカメラの中からボディデザインを理由にX1D IIを選ぶというのもアリだと思う。中判ミラーレスでは富士フイルムの「GFX100」も人気だが、XHレンズアダプターを使えば筆者が以前から使用している120mmを除くそのほかのHシステム用のレンズがすべてオートフォーカスで使えるというのも大きな理由だ。

HシステムのHC/HCDレンズは、XHレンズアダプターを使うことによりX1Dでも利用可能

ちなみに、筆者は毎年ロサンゼルスで開催されているビバリーヒルズ映画祭の公式カメラマンを務めている。映画関係者の集まりで皆さんカメラに詳しく、ハッセルを持ち込むと一瞬にして皆さんのテンションが変わる。中には「ちゃんとしたカメラだ!撮ってくれ!」と言いよってくる方もチラホラ。そういったオーラはHシステムにはある。

さすがにX1D IIでは瞬時にそうはならないと思うが、それでも何か他メーカーとは違った雰囲気をもっている。大きいながらも握り心地は非常に良好で、それほど大きくない自分の手にもちゃんと馴染んでくれる。独特のソリッドな質感は、他にはない満足感を感じられるカメラだ。

ファームウェアアップデートで2.7Kの動画撮影機能に対応

今回は、XCD 3,5/45とXCD3,5/30の2本をもって、近所を撮影してみた。X1D IIは発売当初から動画機能に対応していたが、後日アップデートにて利用可能という形で発売された。そして、先日公開された1.2.0ファームウェアにて、待望の動画機能に対応するようになった。

ファームウェア1.2.0のアップデート内容

  • 動画撮影機能
  • フォーカスブラケット機能
  • 画像レーティング
  • ホワイトバランスピッカーツール
  • EVF アイセンサー設定

最大4:2:0 8ビットカラー2.7K/29.97で、動画撮影が可能。Log撮影などはなく、あくまで中判センサーの横方向に最大44mmの16:9で動画撮影できるアドバンテージ。2.7KとHDの2モードで撮影が可能だ。

動画撮影時AF機能はキャンセルされて、マニュアルフォーカスのみとなる。しかし、フォーカスピーキングを設定すれば設定した色の線で知らせてくれる。動きの激しい被写体でなければ、意外に困ることはない。撮影した映像はmp4ファイルとして保存され、そのファイルをAdobe After Effectsに読み込むと、32bitで認識される。音声もオンマイク、ラインマイクで録音可能だ。

ちなみに、手持ちのRonin-Sにマウントしてみたところ、そのボディサイズの存在感を改めて認識することになった。ただし、DJIの(Ronin-S Camera Compatibility List)にはX1Dが装着可能な機種としてリストアップされているが、フォーカスリングやシャッターボタンには対応していないと明記されいる。実際にセットアップしても、Ronin-Sのフォーカスリングやシャッターボタンは残念ながら対応していなかった。

湘南・江の島エリアで写真撮影レポート

X1D IIのデビューは、2020年4月のビバリーヒルズ映画祭で公式写真撮影を予定していたが、新型コロナウイルスの影響のためキャンセルになってしまった。さらに、そのあとも撮影の仕事が減ったために使いこなせていない状態だが、アシスタントの長男と次男を連れて撮影をしてみた。筆者のアトリエは神奈川県藤沢の海沿いにある。徒歩だったが、中判カメラを持ち歩いているとは思えない、ひと昔前のコンパクトデジタルカメラとそのアクセサリーを持ち歩いているように感じた。とにかく邪魔になるものがない。

結論からいうと、基本的に普段メインで使っているHシステムとなんら変わらない使い方ができた。レンズシャッターという特徴を持つハッセルブラッドは、ストロボ使用時にシャッタースピードの制限がない。ストレスなく表現の幅を広げることができるこのスタイルは、環境光と被写体の光のバランスが自由自在だ。X1D IIもストロボ使用時のシャッタースピードは自由自在で、屋外の撮影でもアンビエントの明暗を決めて、被写体はオフカメラストロボで調節というスタイルで素早く思った通りの撮影が可能だった。

ただし、ミラーレスカメラなので、中判の「バシャ」っという感覚はない。「カチッ」みたいな軽い音がカメラからする。これは少し慣れが必要かもしれない。AFは背面ディスプレイをタッチしてポイントを動かし、シャッターレリーズボタンの半押しで行える。AFポイントは最大117点。数は十分だし、実際にAFを利用するときはフォーカスしたい部分を画面でタッチするだけなので非常に使いやすい。

■XCD 30 F9.5 1/500 ISO100
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まずは近所の歩道橋から、鵠沼海岸と空を撮影してみた。空の描写や暗部の再現力が見事。小さく写っている遠景のサーファーたちの再現力もつぶれたドットという感じではなく、きちんと遠くにいる人にみえる。

■XCD 30 F19.0 1/350 ISO100
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フレアが派手に写っているが、雲の立体感はさすがだ。

■XCD 30 F11 1/180 ISO 800
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次は細部の再現力を試すために松林へ。このカットはISO800で撮影しているが、松の細い葉もきちんと再現できている。フリンジも思ったほど見えていない。

■XCD 30 f11 1/250 ISO100
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■XCD 45 f11 1/350 ISO 100
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やはり肌は他のカメラシステムにはない表現力だ。ストロボ使用時にシャッタースピードを自由にできるのもハッセルブラッドの特徴。空のテクスチャを残しながら、人物もキチンと撮影するにはストロボは不可欠だが、シャッタースピードが自由になると表現の幅もぐんと広がる。

今回のストロボはProfoto B2 250Wを1灯にビューティーディッシュをつけて撮影した。間違いなくHシステムに、この機動力はない。ハッセルブラッド本来の哲学、どこにでもカメラをもっていって最良の写真を残すが見事に具現化されていることを実感した。

スタジオで写真撮影レポート

ではスタジオ使いはどんな感じになるのか?と、いうことで今回は実際の案件となる、藤沢のイタリアンレストランラバレーナのECサイト用写真撮影にX1D IIを使ってみた。ECサイト用のカタログカットということで、雰囲気というより内容がわかりやすい明瞭な写真を目的とした。ストロボはProfoto D2 1000Wを1台。

プロダクト写真ということで、手持ちのXCD 3,5/30やXCD 3,5/45の広角レンズでは画角が適していない。XHレンズアダプターを使ってHシステムのHC MACRO 4/120を使うことにした。筆者の持っているHC MACRO 4/120は、高速シャッター対応印であるオレンジマークのないタイプとなる。仮にオレンジマークがある場合もMACRO 4/120はアダプター使用時はAFを使うことができない。しかし、被写体は動かないものだし、やはりフォーカスピークのオレンジの囲みはきちんと表示されるので、撮影にストレスはなかった。ただ気になるのは、撮影は2時間ほどで、バックモニター常時オンの状態が長く続いたためか、バッテリーあたりを中心に非常に熱くなった。熱が理由で故障する話は聞いたことはないため想定内だとは思うが、使っていて不安になった。

■HC120 f27.0 1/500 ISO200
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/06/ong88_X1DII_30-r.jpg

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白バックに白いパッケージでなかなか表現の難しい条件だが、非常に上品な仕上がりになった。アトリエに撮影機材をセットアップしたので、条件も良好だったが、ここまで撮影できるのであれば、Hシステムを使う必要もない。さらに使用用途がWebサイトなので、解像度も十分だ。

■HC120 f27.0 1/250 ISO200
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/06/ong88_X1DII_31-r.jpg

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■HC120 f27.0 1/250 ISO200
https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/06/ong88_X1DII_33-r.jpg

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ボケ方も非常になめらか。X1D IIにXHレンズアダプタをつけHC120を装着すると、相当な大きさになる。ボディ側を三脚に載せると、かなり不安定な感じになるので、手持ちで撮影した。HC120が巨大なので重量もそれなりになるが、仕上がりに間違いはない。満足のいく再現力だ。

X1D IIがどんなカメラか、少しは伝えることができただろうか?このカメラの購入を考えている人は、ある程度撮影の経験を持っていて35mmフルサイズから中判へのステージチェンジを考えている、メインの中判のサブとして考えている、ハッセルブラッドのファン、といった感じだと思う。また、ハッセルブラッドストア東京では、アフターサービスのスタッフが在中しているので、センサークリーニングなどのメンテンナンスも任せることが可能だ。

いずれの人にも、このカメラは非常にお勧めだ。かつてMacintoshがコンピュータの常識を覆したように、カメラはこうでなくちゃだめというのを、真っ向から否定している感じも憎めない部分だ。目的は、あくまできれいな写真を撮影するための道具である。そんな揺るぎない哲学を1mm単位で体感できる名機だと思う。

■ハッセルブラッド X1D II 50C
価格:税別650,000円
ハッセルブラッド・ジャパン
新田みのる
株式会社ジェットセット代表。グラフィックデザイン・フォトグラフィー・モーショングラフィックを主な業務として広告、テレビ番組、Webサイトなどの創作を30年ほど続けている。
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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。