txt:泉悠斗 構成:編集部
外出先からスマートフォン中継が可能な「LU-Smart」
プロの中継現場御用達のLiveUから、出先で簡単にスマートフォンで生中継が可能なソリューション「LU-Smart」がリリースされた。LiveUのサービスについて簡単に説明すると、インターネット回線(光回線など)がない場所から中継をする際に、複数の携帯回線を束ねて(通称:ボンディングと呼ばれる技術)遠隔地から映像配信を行う拠点に対して映像伝送する装置である。
通常スマートフォンでは携帯電話回線かWi-Fiのどちらか1回線しか選択して使うことしかできないが、LU-Smartでは専用アプリケーションを使うことで、回線とWi-Fiを束ねて使うことができる。スマートフォンを使用して出先から安定した高画質な映像中継を行うことが可能だ。
これまでスマートフォンで高画質の配信を行うには、YouTubeの場合はチャンネル登録者数が1000人以上の条件をクリアする必要があった。また、Facebook LiveやInstagram、Twitterでもライブ配信は可能だが、ライブ配信で送る映像はブロックノイズが入り、キレイに送ることができないと筆者は感じていた。そこでLU-Smartを使ってボンディングをした場合、どのように挙動するのかが気になっていた。LU-Smartのセッティングから配信までを紹介しよう。
■ビデオ
- エンコード:Adaptive Rate Videoエンコード
- 解像度:4:3 SD/16:9 HD(720)/16:9 FullHD(1080)
■オーディオ
- エンコード:Advanced Audio Coding (AAC)
- サンプリングレート:48Khz
- チャンネル数:2(mono duplicated to stereo)
- ビットレート:64Kbps
LU-Smartのサーバーとスマートフォンをセットアップ
LU-Smartは、App Storeからソフトをダウロードしてスマートフォンにインストールすれば使用できえうというツールではない。LU-Smartを使用するためには、LiveUサーバを設置する必要がある。LU-Smartが使用可能な受信サーバーとして、LU2000サーバ等を併せてお借りした。
(01)今回お借りした専用サーバはUbuntu OSで動作している。ルーター側でポート開放等のネットワーク設定を行った上で、LiveU Centralにアクセスすると詳細なセッティングが行える。インターネットルーターのポートを開ける作業は、社内のネットワーク管理者と協力をして作業を進めた。
(02)スマートフォン側での設定を行う。LU-Smartは、日本国内ではiOS向けに提供されているアプリケーションで、iPhone 6s以降のモデルであれば問題なく動作する。ちなみに筆者の会社は以前、全社員のスマートフォンをiPhone 6sに変更したことがあり、テスト用iPhoneを用意するのに困ることはなかった。
■LUSmart HDの対応機種
- iPhone 5S・iPhone 6/iPhone 6 plus・iPhone 6S/iPhone 6S plus
- iPhone 7/iPhone 7 plus・iPhone SE
- iPhone 8/iPhone 8 Plus・iPhone X
- iPhone XS/iPhone XS Max/iPhone XR
- iPhone 11/iPhone 11 Pro/iPhone 11 Pro Max
- iPad Air/iPad Air2/iPad mini2/iPad mini 3/iPad mini 4 iPad mini第5世代
- iPad(第5世代)/iPad第6世代)/iPad第7世代)
- 12.9インチiPad Pro/9.7インチiPad Pro/10.5インチiPad Pro
(03)アプリーケーションをインストール後、専用ライセンスコードとスマートフォン側に割当する名前を入力してライセンス認証を行うことで、即時に映像送出が可能となる。
LTEとWi-Fiネットワークを同時通信やiPhoneのカメラ映像をSDI出力可能
LU-Smart最大の特徴は、LTEとWi-Fiネットワークを同時に通信できることだ。これにより、通信が安定し、高画質な映像を安定して送出することができる。送出映像の解像度も、LU-Smartアプリ側で簡単に変更することが可能。iPhone側の性能にもよるが、1080/60Pでの映像を安定して送出することができる。
LTEとWi-Fiネットワークを同時に通信可能
1080/60Pや1msec遅延の設定項目は、メニューの深い階層にあるのでは?と思ったが、画面上をタッチするだけで解像度が選べる位置にあるのは便利だと感じた。標準のアプリと違って、ホワイトバランスやISO感度の簡単に変更可能だ。
出力設定がワンタッチで可能
LU-Smartのもう1つの大きな特徴は、送出された映像はLiveUサーバで受信し、SDI出力された上で、スイッチャーに入力して映像演出が可能なところだ。これまでiPhoneからSDI出力したい場合は、Apple TVを使ってHDMIに変換することでローカル状態の範囲であれば可能であった。しかし、遠隔地から中継の場合は、LU-Smart一択となるだろう。
SDIベースであれば、HDMIのように簡単に抜ける問題に悩まされる必要もなく、業務に安心して扱うことが可能だ。また、受信できる場所とスイッチングできる場所が必ずしも同じ部屋だとは限らず、ケーブルの距離を長くしたい場合は、HDMIからSDIに変換する必要もでてくる。そういう意味では、最初からSDI出力に対応しているLU-Smartは便利だと思った。
ちなみに筆者が使っているBlackmagic DesignのATEM Constellation 8KにはHDMI入力はないが、HDMIからSDIに変換する余計なコンバーターを入れる必要がないのは使いやすいところだ。
沖縄からLU-Smartを使って生中継を体験
LU-Smartの魅力は、遠隔地のカメラマンにライセンスを送ってライブ配信が可能なところだ。しかも、低コストなiPhoneをカメラとして使えるので、複数台のiPhoneを用意すればマルチアングルな配信が可能となる。そこで今回、株式会社プロ機材ドットコムの森下社長にご協力をいただき、遠隔地からの中継を実験してみた。
沖縄からの生中継映像を確認できるようになっている(画面右)
受信機環境の感想から紹介しよう。映像送出が始まると、LiveU Central上でiPhoneの電波状況や回線速度がチェックでき、遠隔地からの回線管理が安易に行える。
LiveU Centralで便利なのは、送り手側の様子がわかるところだ。1080/60Pなど、撮影者(送り手側)の解像度の設定なども、すべて確認可能。筆者の会社では、夏シーズンだと花火大会のライブ配信とかも多く、広島県福山の「福山あしだ川花火大会」などは毎年関わってきた。この配信はLiveU SoloUを使ってきたが、こちらはクラウドサーバーを使って映像を送信する。UIがそもそも違っていて、LiveU Central上ではどのように映像がきているのか、映像確認ができるのも含めて使いやすいと思った。
また、LiveU Centralから遅延の時間も変更でき、1msecや2msecなどの遅延を設定できる。複数台のカメラにつないだ際に、遅延が大きいものと少ないものがでてくる場合があるが、この遅延の設定を使って合わせることが可能になりそうだ。
ステータスエリアのインターフェイスタブの様子。LUが接続されている可能性のあるインターフェースのリストが表示される。NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIなど、どこのキャリアを使っているかを確認可能
チャートタブでは、各インターフェースの帯域幅関連の情報が表示される
沖縄と富山を中継した際の映像が下記のYouTube映像である。森下氏が中継に使ったスマートフォンはiPhone 11 Pro。出演者のiPhoneだけではなくて、現地の違う人のiPhoneにも予備としてインストールをした。予備機として用意できるのは便利だと思った。
今回は空港からの中継であったが、比較的安定した映像が送出されていることがわかる。iPhoneのカメラを使用している性質で、逆光の際の露出がすぐに操作できない点は致し方ないと思う。
実際に中継を体験して優れていると感じたところは、映像の収録停止でカラーバーが出るところだ。突然途切れてしまうのが心配だったが、安心して使えると思った。アップしたYouTubeにも写っているので、ぜひ見てほしい。
送信された映像に関しては、iPhoneで撮っていることがわからないぐらいに綺麗だ。当初、2015年発売のiPhone 6sでは720Pが限界では?と思っていた。しかし実際には、問題なくフルHD 60Pの映像を送ることが可能であった。普通にiPhone 6s単体でフルHD 30Pや60Pを撮るよりもきちんと撮れるのではないかと思うほどのクオリティだ。また、iPhone 6sは対応しているとはいえ旧機種重なので、重い処理をすると落ちてしまう可能性があると思ったが、LU-Smartはボンディングをしても軽快に動作しており優れていると思った。
撮影でご協力いただいた森下氏いわく、自分で自撮り棒を持っているだけだとカメラを並行にして撮影するのが難しい。しかしLU-Smartは、グリッドの表示が可能で水平が取れやすかったという。
コロナ時代の新スタイルとなるか
コロナ時代において、ライブハウスなどからの無観客ライブが流行しつつあるが、LU-Smartを使うことでiPhoneを4~5台集めて、あとはライセンスだけ渡せばライブ配信が可能になる。さらに遠隔地からのライブ映像をスタジオ等で受信してスイッチング、ライブ配信することがアフターコロナ時代の一つのスタイルとして使えるのではないかと感じた。
■LU-Smart
問い合わせ先:三信電気株式会社 03-5484-7270
泉悠斗
神成株式会社、AVC事業部 部長。マルチカムでの収録および配信をはじめとする映像制作全般を得意とし、最新の機材を取り入れた映像制作に取り組む。近年では、西日本一の長さを誇る水上スターマインを打ち上げる「福山あしだ川花火大会」の生中継をはじめ、「TOYAMA GAMERSDAY」などのe-Sports映像制作まで幅広く手掛ける。また、高校放送機器展事務局長として、学生の映像制作活動支援を行う。