txt:牧一世 構成:編集部

待望の開放値1.0がやってきた

開放F値1.0の明るさを実現したAFレンズ「XF50mmF1.0 R WR」。価格は税別200,000円

富士フイルムのミラーレスを愛用するビデオグラファーにとって、待ちに待ったレンズが発売された。焦点距離50mm(35mm判換算76mm)開放F1.0のハイスピードレンズでありながら最新のオートフォーカス機能や防塵防滴性能を持つ「XF50mmF1.0 R WR」である。

長らくの待望論に袖振る形で、仕様の変更など紆余曲折ありつつの発売。当初の33mm(35mm判換算50mm)から50mmに仕様変更となった際、正直すごく残念な気持ちがしたことも記憶に新しい。冷静に考えると、APS-Cミラーレスの軽量コンパクトなメリットを完全に削除するようなサイズ感で発売すれば、フォーマット自体の持つ優位性が揺らぎかねず、難しい選択を迫られながらの開発であったろうことは容易に想像がつく。

ともあれ、写真家として「夢の開放 F1.0」をオートフォーカスでコントロールできるレンズを、実売20万円弱の価格で発売してくれたことは万歳手放しで評価したい。久しぶりに開封の儀で心躍るレンズであることが、本レンズの価値を物語っているように思う。

第一印象は大きくて重い

大きさは、同社の標準ズームレンズ「XF16-55mmF2.8 R LM WR」とほぼ同じであるが、質量は約200gほど重い845g。X-T4のボディ単体に装着した場合のバランスはレンズが勝る感じで、長時間の手持ちを気軽にとはいかない。バッテリーグリップを装着した方が、重量は増えるものの全体のバランスが最適となり、グリップのホールド感も増すので取り回しは楽に感じる。

三脚プレートの装着では、レンズ底面がカメラボディ底面よりハミ出すため、スペーサーを利用してのかさ上げやバッテリーグリップとの併用が良さそう。ハードな使用にも耐えるべく、鏡筒の11か所にシーリングが施されており、防塵・防滴・−10℃の耐低温構造となっているのは心強い。

AF性能は期待以上の速度と正確さ

比較対象となる「XF56mmF1.2 R」(2014年発売)と比べると、6年分の進化をはっきりと体感でき、速度と正確さ、そのどちらも大変満足できる仕上がり。AFモーター駆動の振動は抑えられ、駆動音も和らいでいる。56mmに見られた、カクカクと階段をのぼるような段階的な駆動でフォーカスが合う様子はなく、坂道をくだるようにスムーズにフォーカスが合うのには驚いた。

XF56mmF1.2 R

また、56mmは被写体に食いつかず迷子になるといった様子もあったが、それもない。AFC時においてもスムーズに駆動する様子はたいへん気持ちよく、AFの速度と正確さに定評のある16-55mmと遜色ない印象である。マニュアルフォーカスにおいては、回転域が狭くセッティングされており、最短距離から無限遠まで、それほど回転させることなくフォーカスを取ることができるが、当然回転幅が狭く、リングの回転も粘り軽めのセッティングなので、なかなか繊細な操作が求められる。

やはりオートとマニュアルを併用してフォローしていく運用が最適なのは他レンズと変わらない。ビデオグラファーとして嬉しかったのは、ブリージングの発生がかなり抑えられており動画撮影もしっかり意識した作りとなっていた点である。

肝心の映りに関しては3つのレンズを比較してみた(※すべてにND16フィルターを装着)。

■XF50mmF1.0 R WRの描画の違い
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XF50mmF1.0 R WR F1.0
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XF50mmF1.0 R WR F1.3
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XF50mmF1.0 R WR F2
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XF50mmF1.0 R WR F4
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XF50mmF1.0 R WR F8
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■XF56mmF1.2 Rの描画の違い
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XF56mmF1.2 R F1.2
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XF56mmF1.2 R F4
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XF56mmF1.2 R F8
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■MKX18-55mmT2.9の描画の違い
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MKX18-55mmT2.9/50mm T2.9
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MKX18-55mmT2.9/50mm T4
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MKX18-55mmT2.9/50mm T8
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50mmF1.0の特筆すべき特徴は、前ボケと後ボケのなめらかで落ち着いた描写である。ピント面のキレは56mmと大差ない印象だが、前後のボケには両者の個性が表れており、56mmが賑やかな印象であるのに対して50mmは穏やかなやさしい印象。ふわりと滲んだ中に線ボケが少ないことが柔らかさの要因と思われる。

写真用途、特にポートレート撮影などでは大活躍してくれそうなレンズ。もちろん動画でもイメージを重視した抽象的なシーンの撮影などで雰囲気創りに効果を発揮してくれそうだ。動画において積極的にF1.0の開放を使うにはNDフィルター(16~32)が必須となる。ズームレンズでありながら単焦点レンズと変わらない映りのMKXは、流石シネレンズの面目躍如といったところか。

富士フイルムのAPS-Cは「写りが違う」

他メーカーはフルサイズ機の下位互換としてAPS-C機をラインナップさせるが故に、ハイエンドレンズはフルサイズ機用に限定して開発製造されることが多い。APS-Cに最適化したハイエンドレンズを真剣に(充分なリソースを投下して)開発製造しているメーカーは富士フイルムだけと言っても良い。それが前出の違いを生む評価の理由だが、未だにこの開発リソースの背景を理解せずにフルサイズセンサーを盲信するカメラマンが多いのは残念だ。やはり安易にスペックでカメラを語らず、あくまで撮れた絵と向き合いたいものだ。自戒も込めて記しておきたい。

著者がフルサイズ一眼レフから富士フイルムミラーレスへマウントチェンジしてはや5年。今年の4月からは「X-T4」ですべての商業撮影を行なっているが、写真と動画を一瞬で切り替えられる使い勝手の良さ、魅力的な色再現とフイルムシュミレーションの多様性、プロ使用に応えるUI、バッテリーの増量、強力な手振れ補正など、T2、H1、T3とミラーレスムービーを着実に進化させてきた知見が確実にX-T4で実を結んでいると感じる。そこへ今回の開放値F1.0のやわらかいボケ表現を、最新のオートフォーカスで使える夢のようなレンズの登場。しかも実売で20万円を下回る、コストパフォーマンスも申し分ない。

ミラーレス新時代

ソニー先行で広まったミラーレスカメラ市場に、富士フイルムが幅を広げ、いよいよキヤノンが本格進出となり厳しい競争ながら緊張感のある面白いマーケットになってきた。カメラ市場全体が縮小傾向にあるなか、プロに高値少量で売っても、アマチュアに安値大量で売っても、そのどちらかだけではビジネスが成立しないのはもはや明らかであろう。アマチュアからプロフェッショナルまで幅広いターゲット層へアプローチできるミラーレスカメラの収益がメーカーの未来を決める。

やはりポイントは5G社会を目の前に、ますます注目が集まる「動画」要素へのアプローチであろう。若い世代が写真ではなく動画を入り口としてカメラマンとなる現状や、スチルカメラマンが続々と動画スキルを学ぶ現状を見れば、道具に求められる要素が見えてくる。動画クリエイティブの担い手達がワクワク胸躍るカメラやレンズの開発にこそ市場機会があり、当然その開発にはさらなる想像力と情熱が求められる。

今回の富士フイルム「XF50mmF1.0 R WR」には、そのワクワクが確かにあった。

■フジノンレンズ XF50mmF1.0 R WR
価格:税別200,000円
発売:2020年9月24日
富士フイルム ウェブサイト デジタルカメラ
牧一世
合同会社ニゴテン代表/やさしいきおく代表。1974年、熊本県生まれ。 日本映画学校(現:日本映画大学)卒業。 在学中からフランスの映画雑誌「プレミア」の記者として活動。その後、いくつかの職業を経て黒澤フィルムスタジオへ入社。2010年に独立し合同会社ニゴテンを設立。 Webコマーシャルやミュージックビデオなど多くの映像制作を行いながら、日本国内にいち早く一眼ムービーを使ったウェディング動画を広め、海外の手法とは異なるオリジナルのスタイルを提唱。現在ではミラーレスムービーを使用し、写真と動画の両方を駆使するハイブリッド・フォトグラファーとして作品づくりを行う。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。