txt:SUMIZOON 構成:編集部
希望小売価格:
24mm F3.5 DG DN | Contemporary:税込73,700円
35mm F2 DG DN | Contemporary:税込85,800円円
65mm F2 DG DN | Contemporary:税込97,900円
問い合わせ先:シグマ
今回はシグマの新しい「Iシリーズレンズ」3本をお借りして映像を撮影する機会をいただいた。今回お借りしたのは「24mm F3.5 DG DN | Contemporary」(以下:24mm F3.5)「35mm F2 DG DN | Contemporary」(以下:35mm F2)「65mm F2 DG DN | Contemporary」(以下:65mm F2)の3本。
昨年シグマが発表したミラーレスカメラシステムに新たな価値を提供するという、フルサイズ対応の新たなレンズシリーズ、それが「Iシリーズレンズ」だ。
この「Iシリーズレンズ」は昨今のミラーレスカメラによる小型化にマッチした非常にコンパクトなレンズであり、試用させていただいたのはLマウント仕様のものになる。このレンズはスチルユーザーの注目を多く集めていると思うが、今回は同レンズを動画で試すべく、筆者の愛機LUMIX S1HとS5で撮影を行った。
一方で、スチルの実力も探るべく、筆者の古くからの友人に協力してもらいLeica SL2(47Mピクセル)のスチル撮影も併せて行った。スチルの作例の方も紹介したい。
シグマレンズとの出会い
私が子供の頃に初めて手にしたシグマのレンズは叔父から譲り受けた安いレンズ。当時はサードバーティのレンズなんてのは写りも作りもイマイチなイメージがつきまとっていたわけだが時が流れ、社会人になり自分の働いたお金で初めて手にしたシグマのレンズが「50mm F1.4 EX DG HSM」である。
これが私を写真と映像を撮る楽しさに誘ったレンズであり、どんなことがあってもこのレンズだけは手離すまいと誓っている思い入れの深いレンズである。当時は少なくとも私はこのレンズで撮った写真が鳥肌が立つほど美しいと思っていたし、これで撮ることが至福の時であったのである。
偉そうなことを書ける立場にはないのは承知だが、後から思えば、この頃からシグマという会社のレンズは単なるマウント互換のレンズを作るのではなく、純正とは違う一味違う価値や面白さを提供するアイデンティティを確立するために着実に歩み始めたのだと思う。
さらに十数年時は流れ、時代はミラーレス一眼一色に。独自のアイデンティティを確立したシグマが放つ小型単焦点のIシリーズを今回は3本一気に試させて頂いた。
作例
まずはいつもの様に動画作例をご覧いただきたいと思う。
SIGMA Iシリーズ3本を一気に試す
全てのカットに撮影時のカメラ、レンズの種類とF値、ISO感度、クロップ(35mmフル画角/APS-C)、周辺光量補正のON/OFFの状態を記載している。撮影は全て10bitフォーマットかつLogプロファイルにて行った。周辺減光をリカバーしたりシャープネスを変更するなどの処理は行わず素材として素性がなるべく分かる様に極端なグレーディングは避けたつもりだ。なお、3:36から5:52までのシーンの中で一部スタビライザを使用したカットはあるが、それ以外は全て手持ち撮影である。
結論を先に書くと、この三本のレンズともコンパクトなのによく映る。スタビライザとのマッチングもよくLUMIX Sシリーズで使う限り手持ちで十分動画撮影が可能。特に24mmは単焦点として控えめな明るさではあるものの、今時のカメラであれば夜の撮影においても全く問題なく撮影ができる。ボケの柔らかさも筆者の好むところであり、開放でも躊躇なく使えるレンズだと感じた。
各レンズ概要
今回試用したレンズの仕様概要は下記の通りだ。いずれのレンズも筆者の愛機S5と組み合わせた状態のものを写真に載せているがその姿形は素直に「かっこいい」と思わせるものだ。俄然その気にさせる外観である。
■24mm F3.5 DG DN | Contemporary
特殊低分散ガラス一枚を含む8群10枚構成、絞り羽根7枚(円形絞り)、最短撮影距離10.8cm、フィルタ径55mm、重量225g(Lマウント仕様)230g(Eマウント仕様)
■35mm F2 DG DN | Contemporary
特殊低分散ガラス一枚を含む9群10枚構成、絞り羽根9枚(円形絞り)、最短撮影距離27cm、フィルタ径58mm、重量325g(L/Eマウント仕様)
■65m F2 DG DN | Contemporary
特殊低分散ガラス一枚を含む9群12枚構成、絞り羽根9枚(円形絞り)、最短撮影距離55cm、フィルタ径62mm、重量405g(L/Eマウント仕様)
フードを含めてメタル外装を採用
まずは外観から見てみると先に発売されている45mmF2.8 DG DNと共通した外観となっている。フードを含めてメタル外装であり非常に質感が高く所有欲を沸き立たせる作りとなっている。
フォーカスリングはバイワイヤ方式ながら適度にトルク感があり感触が良い。絞りリングはクリック感があるものなので、動画撮影で使いにくいと感じる人もいるかも知れないが、筆者の撮影スタイルでは特に問題はない。それどころかクリック感が心地よく無駄に絞り操作をさせてしまいたくなる一面がある。
シグマのHPを見てもレンズボディのつくりに関しては山木CEOの「正直、やり過ぎました」という文言が記載されている。フォーカスリングも絞りの作りもまさにその通り。この文言をみて「なるほどな」と感じずにはいられない。
3本のレンズともほぼ同じ色味を実現
一般には複数のレンズを使用して撮影した際、レンズごとの微妙な色の違いがあるとカットの繋ぎで違和感が生じるケースがあると思う。それを極力なくすためにカット毎にいったんニュートラルにするカラーコレクションを行うのが一般であるが、これは重要な作業であるものの非常に地味であり面倒だ。
一方で、今回の作例では3つのパートに分けてカラーコレクション、カラーグレーディングを行っているが、パート内の同じシチュエーションではレンズが異なっても、基本的に同じパラメータを適用してカラーコレクション&グレーディングを行っている。
これが意図するところは今回の3本のレンズともほぼ同じ色が出るということである。若干NDフィルタ起因と思われる色転びを補正したカットはあるものの、基本的にそれぞれが共通した発色傾向にあると思う。
これは定量的な計測を行っているわけではないので筆者の感覚的な話だが、3本のレンズを取っ替え引っ替えして撮影をしても、ポスト処理に手間をかけることなく楽にグレーディング作業が行える点は非常にありがたい。
また、全体の色味に関しては基本的にニュートラルで色には癖がなく、適正なホワイトバランスで撮影してさえいれば、いきなりカラーグレーディングを初めても何ら問題はないと感じた。
逆光耐性
3本のレンズ共に太陽の位置を気にせず撮れる安心感がある。作例をご覧いただいた方はご納得いただけると思うが、意図的に太陽を構図に入れて撮影しているカットが多い。嫌なゴーストが発生することなくむしろ太陽を入れるような構図で撮影することが楽しくなるレンズである。
また、ゴーストが出にくい特性と併せて逆光で撮影した際の光が柔らかく映る傾向にあると感じた。適度に光が拡散されて美しいトーンを醸し出す。この光の柔らかさはS5/S1Hの10bit Logの階調性の高さも相まってより豊かなトーンを醸し出している。このレンズで動画を撮影するなら是非10bitで撮るべきだと思わせるカットだ。
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24mmの逆光シーン
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35mmの逆光シーン
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65mmの逆光シーン
ただし、使用しているNDフィルタなどの使用によってはゴーストが発生することがあるのでその点は注意してほしい。
美しいボケ
3本は焦点距離も開放F値も異なるため当然ボケの大きさは異なる。だが、それぞれ共通したボケの柔らかさを感じる。ボケのエッジが滑らかであり非常に美しいと感じる。
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65mm開放のボケ
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24mm開放のボケ
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35mm開放のボケ
逆説的だがボケの美しさはピント面のシャープさを表現する立役者の様な働きをしていると思う。特にボケを必要としないシーンでも開放を無意識に多用してしまっているのは撮影しているうちに、この美しいボケに魅了されてしまっていたからかも知れない。
十分な解像力
解像力に関しては3本の中で65mmは際立って高いものを感じた。65mmに比べると35mm/24mmは若干線が太いと感じる面もあるがそれでも4K映像を撮影する上において解像度が問題になることは全くないと感じた。下の写真は友人に協力してもらい撮ってもらったLeica SL2(4700万画素)での写真であるが四隅まで解像感が高い。昔のレンズの様に絞ると共に急激に解像力が立ち上がってくる印象はなく、開放から解像力は高いと感じた。
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24mmのスチル/絞りF10
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24mmのスチル/絞りF10
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65mmのスチル/絞りF5.6
いずれも遠景よりも近景描写の方が得意な印象を受けたが3本とも4K撮影において遠景も近景も十分な解像力で映像を映し出すことが可能だと感じた。
運用面での感想
■3本とも持っても全く苦にならない重さと大きさ
先に示した通り、それぞれ24mm/35mm/65mmのそれぞれの重量は230g/325g/405gであり、合計でも960gである。3本持ち歩いたとしても1kg程度しかないのである。この感覚は筆者が愛用してきたマイクロフォーサーズのレンズ群を持ち歩く感覚に近いものがあり機動力高く撮影することができる。リグを組まない状態のミラーレスカメラ、そしてこの3本のレンズを気軽に小さなカメラバックに入れて一日中撮り歩く、ということができるのがありがたい。
■異なるフィルタ径
この3本のレンズのフィルタ径は異なっている。24mmF3.5/35mmF2/65mmF2のフィルタ径はそれぞれ55mm/58mm/62mmとなっている(なお、同じIシリーズの45mmF2.8 DG DNは24mmと同じ55mm)。当然焦点距離もF値も異なるためサイズが異なってしまうことは致し方ないと思うのだが、3本を同時に持ち歩くことを考えると、これらレンズのフィルタ径が同じだったら利便性が高いのに、と感じなくもない。
それぞれ異なるフィルタを用意するのも手ではあるが筆者の場合は使い慣れている77mmのフィルタに揃えるため全てのレンズ径に併せてステップアップリングを用意した。
これにマンフロットから発売されているXumeを使い簡単にフィルタを脱着できるようにして運用した。NDフィルタの径とレンズのフィルタにはかなりの差が出てしまい不恰好ではあるのだが、便利さには変えられない。
■マグネット式メタルキャップ
今回のIシリーズではマグネット式メタルキャップを付属している。このキャップはレンズ全面にピタッと磁力で収まる様になっている。
キャップ裏面には起毛加工が施されており、キャップ装着時にレンズ本体側に傷が付かないよう対策されている様だ。
また、専用のレンズキャップホルダ(CH-11)を使えばベルトやリュックなど自分の気に入った場所にキャップを装着することができる。
工業製品として美しく、そしてすごく面白いギミックではあるのだが、動画撮影の場合は日中撮影ではNDフィルタを使うことがほぼ必須である。スチルの際には便利と思われるが、日中の動画撮影ではこの恩恵を受けることはなかった。
一方、夜間の撮影やスチル撮影ではほぼフィルタが不要なので、このレンズキャップとホルダの組み合わせを運用した時の感想を述べたいと思う。
少々辛口になってしまうが、このキャップはメタルフードをした状態での取り外しは難しく利便性という意味では改善を望む点が多い。表面に取手部があればフードを取り付けた状態でのキャップ取り外しが可能と思われるが、何らかの理由があってのことかそういった形状にはなっていない。
このスタイルは非常に魅力的なので利便性の向上を今後期待したい。
まとめ
■どこかノスタルジックな描写に惹かれる
シグマといえばとにかくシャープに映る印象のレンズが多い。もちろんこのレンズも例に漏れずピント面はシャープに映るのだが、前述の様にボケが非常に柔かい印象を受けた。個人的な感覚的な感想を書かせていただくなら、柔らかい逆光描写も相まって、どことなくノスタルジックに映るレンズという印象を受けた。今までのシグマのイメージだと有機質というよりはどことなく無機質、人間的よりは少し機械的なイメージを持っていたのだが、このレンズは有機質、人間的なイメージを感じる。
■スローに撮りたくなる
仕事での撮影の場合は限られた時間の中で撮れ高を優先する必要がある。そのためズームレンズ(バリフォーカルレンズ)を使うことがなんだかんだ便利である。だが、そういった利便性を置いておきゆっくりと美しいボケと柔らかい光を感じる描写に身を任せ、身も心も軽くスローに撮りたいと感じさせるレンズの魔力がこのIシリーズの3本にはあると感じた次第である。
■最後に
今回は24mmF3.5/35mmF2/65mmF2の3本全てを贅沢にも同時に試させていただいたが、実際には、この3本のレンズを同時に揃えることを考えている方は少ないと思う。撮影用途に応じてレンズを選ぶのが当然といえば当然であるし、撮影機材を揃えるための優先順位もあるだろう。広角の24mm、汎用性の高い35mm、ポートレートや被写体を引き寄せたい場合に便利な65mm、いずれも映りも作りも満足度の高いレンズであり導入すればきっと満足いく結果になると思う。
だが、このIシリーズをいずれか一本手にすると、他の焦点距離のレンズもきっと欲しくなってしまう「Iシリーズ沼」が待ち受けていると思うのだ。これだけ作りが良くてコンパクトなIシリーズをコンプリートしてしまう人は少なくないだろう。
SUMIZOON
2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行う。機材メーカーへの映像提供、レビュー執筆等。現在Youtube「STUDIO SUMIZOON」チャンネル登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。