ソニーが放つドローン「Airpeak S1」がついに登場!
いま、ドローン空撮業界をもっとも賑わせているニュースのひとつが、ソニーが発表したAirpeak S1だ。今年のCESで吉田憲一郎CEOにより発表されたこのドローンは、業界内外で大きな反響を呼び、この半年間、人々の注目を集め続けてきた。
そして2021年6月10日、ついにそのスペックが明らかにされ、Airpeak S1という商品名とコンセプトムービーが公開となった。ソニーはいつだって、革新的で、洗練され、私たちの日常をワクワクさせてくれるプロダクトを世に送り出してきた。そのソニーがつくるドローンに、世界中が期待しないわけにはいかないだろう。
2021年6月14日〜16日の間に開催されたJapan Drone展において、ソニーグループ 執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西泉氏は、講演の中で「AI」「ロボティクス」「センシング」「イメージング」、そして「通信」、ソニーが持つこれら5つのテクノロジーを結集させた出口がこのAirpeak S1だと語った。
Airpeak S1は、フライトコントローラー、IMU、ESC、モーター、プロペラ、そしてバッテリーに至るまでソニーの自社開発だ。言わずもがなだが、これを成し遂げることは並大抵のことではない。ここに、長年積み重ねてきた技術に支えられた、ソニーの本気のこだわりを強く感じる。今回は発表と同時に幾つかのコンセプトムービーやイメージムービーも合わせてリリースされた。「Airpeak S1」の空撮を担当した古賀心太郎氏に実際の使用感などファーストインプレションを語ってもらった。
撮影で感じたAirpeak S1の特長
txt:古賀心太郎 構成:編集部
筆者は幸運にもCESで公開された動画に続く、Airpeak S1のコンセプトムービーや機能訴求動画の撮影を担当するという貴重な機会をいただいた。今回、撮影の中で感じたAirpeak S1のレビューをお届けしたいと思う。
西表島や富士山周辺など、様々なロケーション、天候、シチュエーションで撮影を敢行したが、その撮影の中で感じたAirpeak S1の運動性能は、ひとことで言えば「ワクワク感」だ。
例えば、最大速度90km/h、最大傾斜角度55°で飛行できるこの機体の初速は、まるで風を肌で感じるかのような、気持ちのいいダイナミックな映像をもたらしてくれる。マルチコプターは、機体を傾けることで推力の水平成分を発生させて前進などの水平移動を行うが、Airpeak S1は、この機体の最大傾斜角をアプリ上で自由に設定することができるため、傾斜角の設定値を大きくすれば一気にトップスピードで飛行することが可能だ。
また、機体の回転角速度が最大180°/sという驚異的な旋回性能を持っているので、感覚的には不可能かと思われる小さい旋回半径で軽々とUターンしてしまうことに、きっと誰もが驚くだろう。Airpeak S1が持つ加速性能と旋回性能は、空撮で表現したい手法のひとつである躍動感や疾走感を十分に満たしてくれるのだ。
ドローンの飛行に影響するものとして、もっとも注意が必要な要因のひとつに強風が挙げられるが、Airpeak S1の耐風性能は注目に値する。JAXAでの風洞実験の様子が公開されているが、実際に自然のフィールドで操縦をしてみても、高高度における風の影響をほとんど感じさせない安定感のある飛行・ホバリングを見せてくれるため、パイロットは安心して空撮に専念できた。
個人的には、最大速度の値をアプリ上で自由に設定できる機能が、空撮現場ではとても便利だと感じている。例えば、風の影響を受けつつ、マニュアル操作で揺らぎのない一定速度をキープするのは想像以上に難しいので(熟練パイロットには笑われてしまうかもしれないが)、スピードを保持して安定した映像を空撮するのにとても重宝する。
今回の撮影では、ドローンをドローンで空撮するカットが大半を占めており、通常、両機をマニュアル操作で同じ速度にすることは困難なのだが、最大速度を同じ値に設定することができるため、現場では大いに助けられた。もちろん、一般的な空撮でも一定速度を保つことによって、滑らかで安定感のある気持ちのいい映像を撮影することができる。
■Airpeak S1主なスペック
外形寸法 | 約526.8mm(高さ)x591.9mm(幅)x511.8mm(奥行) |
対角寸法 | 約644.6mm(モーター対角、プロペラは除く) |
機体質量 | 約3.1kg(バッテリーパックは除く) |
最大積載可能質量 | 約2.5kg |
最大離陸質量 | 約7.0kg |
最大速度 | 25m/s(90km/h)(ペイロード無し、障害物ブレーキ無効時) |
加速時間 | 約3.5秒(停止から80km/hまでの時間、ペイロード無し時) |
最大角速度 | ピッチ:180°/s、ヨー:180°/s、ロール:180°/s(ビジョンポジション無効時) |
最大傾斜角度 | 55°(障害物ブレーキ機能無効時)、35°(障害物ブレーキ機能有効時) |
最大風圧抵抗 | 20m/s(ペイロード無し時) |
動作環境温度 | -10 – 40℃ |
最大飛行時間 | 約22分(ペイロード無し時) 約12分(a7SIII+SEL24F14GM搭載時) |
ホバリング精度 | 垂直±0.1m、水平±0.1m(GNSS有効, ビジョンポジション有効時) |
運動性能もさることながら、Airpeak S1が持つ空撮業界における最大のポイントは、やはりソニーが誇るαシリーズと豊富なレンズラインナップで撮影ができることだろう。産業用途も視野に入れているとは言え、Airpeak S1はハイエンドなクリエイティブにおける空撮ユースを、第一のターゲットとしている。そして、ここでソニーが提示してくれるのは、圧倒的な空撮映像の美しさである。
マーケットで一般化している、ドローンとカメラが一体型の機種の方が運用面では便利であり、さらに昨今の小型カメラの性能向上は目覚ましいものがある。正直、一眼レフカメラをジンバルに搭載するタイプのドローンが、今現在どれだけのコンシューマーに受け入れられるだろうかという懸念を個人的には持っていた。
しかし今回、α7S IIIやFX3、α7R IVなどによって映し出された美しい映像や写真は、ドローン空撮の素晴らしさを改めて、そして強烈に気付かせてくれた。やはり既存のコンシューマー向けドローンでは得がたい、フルサイズセンサーの圧倒的な描写力で空から撮影ができるということは、空撮クリエイターにとって、とても大きな魅力なのだ。
そしてもちろん、これらのカメラの露出設定は手元のアプリケーション「Airpeak Flight」やプロポのボタン等から遠隔で自由に変更することができる。自分が所有するカメラをドローンに搭載して撮影することができるのは、画作りにこだわりを持つクリエイターの可能性を大きく拡げてくれるはずだ。
西表島では、新しく発売されたFE 14mm F1.8 GMレンズも使用した。超広角レンズは、ドローンの最も得意とする広大な遠景の空撮に適している。その自然の広大さや美しさが一層引き立つ、ダイナミックな映像を撮影することができた。
また、マングローブの森の上空でホバリングし、α7R Ⅳを搭載して静止画撮影にも挑んだが、スタッフ一同で写真をプレイバックしながら、葉の一枚一枚が判別できるその解像感に思わず感嘆の声が漏れた。筆者の場合、空撮の仕事の中では動画撮影が圧倒的に多いのだが、もっと静止画の撮影もやってみたいという欲求が刺激されたほどだ。
空を飛んで、鳥の目で世界を見てみたいという、純粋な想いで始めたドローン空撮。自分がドローンの映像に魅了された初心を思い出させてくれる、そんな力を秘めているのがAirpeak S1なのだと感じた。
ソニーの文化とAirpeak
「人のやらないことをやる」というのが、創業当時からソニーに脈々を受け継がれている思想だと聞くが、このAirpeak S1は、まさにこの精神のもとに開発されたプロダクトである。確かにドローン市場においては、ソニーは完全な後発だ。しかし、王者DJIが君臨し、もはや誰も勝てないのではないかとも思われたこのマーケットに、彗星の如く現れ、そこに堂々と参入する姿勢こそ、ソニーの「人のやらないことをやる」スピリットであると感じた。
撮影の中で、Airpeak S1の企画担当者からは、開発における様々な想いを伺った。今ソニーは全社的に、コミュニティ形成をとても重要視しているという。ドローンは、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアと組み合わせて価値を生み出していくものだから、ソニーだけでビジネスを作り上げられるとは考えていない。
だからこそ、プロフェッショナルサポーターを募集したり、パートナー企業と力を合わせてビジネスを構築していきたいというメッセージを発信しているとのことだ。
「Airpeak」という名前の由来を尋ねると、「空(Air)の領域で、ユーザーを最高峰(Peak)へ連れて行きたいという願いが込められている」という答えが返ってきた。αシリーズで撮影したフルサイズ一眼の映像の美しさは、空撮クリエイターをさらなる高みに導いてくれる。クリエイティビティ溢れるユーザーたちがAirpeak S1を手にすることで、世の空撮表現のクオリティがまたひとつ上がるはずだ。
機体サイズや設定価格が、今後どのように市場やユーザーに受け取られるかまだわからない。バッテリー1セットあたりの飛行時間は、現場レベルでは十分とは言えないだろう(大容量バッテリーの販売を予定しているとのこと)。しかし、このソニーの挑戦が、ドローンの世界に大きな風を巻き起こしていることは揺るぎない事実だ。
ウォークマンも、プレイステーションも、AIBOも、いつだってソニー製品は新しいカルチャーを我々にもたらしてくれた。ソニーのプロダクトを愛する人々がコミュニティを形作り、カルチャーとなってゆく。開発者たちが願うように、これからAirpeak S1を手にするクリエイターたちが新たなコミュニティを形成し、空撮はさらに魅力的な映像表現になっていくだろう。
古賀心太郎
株式会社アマナのドローンソリューションairvisionのディレクター、プロデューサー。大学で航空宇宙工学を専攻し、卒業後に自動車メーカーで設計業務に携わった後、ドローン空撮の世界に飛び込む。大型ドローンを使ったTVCMやMVなどを多数手がけ、大手企業との実証実験やドローン導入のコンサルティングも行う。JUIDA認定のドローンスクール講師としての活動や、ドローン関連の法令について講演や執筆にも精力的に取り組んでいる。