キヤノンから業務用4Kビデオカメラの新製品「XF605」登場
本機が発表される段階では、巷ではコロナが依然と猛威をふるい、なかなか撮影環境は整わず現場の皆さんからは撮影の延期や中止という話もまだまだ多く聞いている。早くこの災難は過ぎ去るよう願うばかりだ。
世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響なのか、2020年は各社ハンドヘルドカメラの新機種発表はなかったと記憶している。かろうじてCanonからシネマカメラ「EOS C70」とSonyから「FX6」が話題を博した程度であったが、これらの機種は基本的にハンドヘルドカメラとは住み分けるべきシネマ用カメラなので、去年から今年にかけてはビデオカメラ業界はまれに見る不作の時期であったことは否めない。
そんな中、Canonから4K小型ハンドヘルドカメラの新製品として「XF605」が発表された。久々の明るい話題だ。仕様をざっと見てみると高画質4K 4:2:2 10bit HDR収録、コネクティビティの強化、小型化など、ハイエンドなコンテンツ制作や報道などの機動力が必要な現場に十分対応できる。ざっとではあるが手にとったみたインプレッションを記していきたいと思う。
XF605は従来機種のXF705より10%以上小型化されたことで一回り小さくなり、およそ600g軽量化された。本体重量はおよそ2,000gとなっている。1.0型単板CMOS約829万画素センサーを搭載し、4K60P 4:2:2 10bit、FHD120P収録を可能としている。記録フォーマットはXF-AVC(H.246)Intra/LongGOPおよび、MP4(H.264/H.265HEVC)LongGOPが選択できる。
各記録モードによるビットレートの違い
XF-AVC 422 10bit | MP4(HEVC)422 10bit | MP4(H.264)420 8bit | |
3840×2160 29.97P | 410Mbps Intra | 135Mbps | 150Mbps |
3840×2160 59.94P | Non | 255Mbps | 150Mbps |
1920×1080 59.94P | 310Mbps Intra | 50Mbps | 35Mbps |
本機の大きな特徴として2スロットあるSDカードにはフォーマット・解像度などそれぞれ別々に任意に設定できる。4K60Pを記録しながら1080iを同時記録することも可能だ。取材の際には意外とこの機能は重宝する。
赤外線撮影もワンタッチで行える。報道の現場では重宝するのではないだろうか。
メニュー操作は上面とサイドグリップ部に付いている十字ボタンで行う。操作していて特にストレスは感じなかった。
光学系
本機はみんな大好き3本リングを搭載!ズームはUHDの場合35mm換算で25.5mm~382.5mmの15倍となっている。FHDの場合はアドバンストズームを使うことで30倍まで画質を落とすことなく撮影することができる。アドバンストズームは35mm換算で 25.5mm~765mmまでの超望遠までの撮影が可能。
アドバンストズームモード(HD)時のレンズの動きを見ていると、引きの25.5mmから最望遠まで滞りなく動いていた。という事は引きの状態では1インチ撮像素子に結像している全面の映像を使い、最望遠時の撮像素子中心部分の1920×1080の範囲までの間をリニアに切り取りながら30倍までのズームを可能にしている。今までは光学部分で最望遠まで行った後、その後のズームは撮像版の切り取り範囲を狭めていく方法だったので、光学系のズームからデジタルでの切り取りに移行するときのズームスピードが変わってしまうというショックが起きていた。しかし、XF605は光学系とデジタル系のズームを同時に行っているのでショックがまったく起こらない。とても良くできた機能だと思う。
ズームリングにはレンズミリ数が書き込まれており、電子サーボではあるが、リングの回転角に合わせたズーム量となっている。ENGレンズに近いズーム感覚だ。引きから寄りまではおよそ90°となっている。今回お借りしたデモ機のアイリスリングは他のリングよりちょっと重めに感じたが、製品版では軽くなっているかもしれない。
レンズ周りの操作ボタンは側面レンズ側に配置されており切り替えはなれてしまえばブラインドでも行えるだろう。 NDフィルターは1/4、1/16、1/64の3種類があり、側面に配置されたND FILTER±ボタンによりターレットのようにNON↔1/4↔1/16↔1/64↔NONとグルグル巡回する。三脚搭載時には問題ないが、ハンディー撮影時に右手でカメラハンドルを持ち左手でカメラ底部を支えて撮影するスタイルの場合、左手親指がこのNDボタンのへこみに丁度収まるような形になる。この時不用意にNDボタンを押してしまう事があったので撮影時には十分注意する必要がある。できればプラスとマイナスボタンの間にある出っ張りを大きくして指先じゃないとボタンが押せないような構造になれば事故を防げるのではないだろうか。
設定メニューからハイスピードズームを選択できる。ハイスピードを選択することにより、かなりクイックなズーム操作を得ることができる。しかしズームリングでのマニュアル操作の場合、停止から動かし始めを滑らかに動かくすことは他社カメラ同様難しかった。
繊細なズーム操作が必要な場合はノーマルモードまたはスローモードに切り替えズームレバーを使用することにより動き始めを滑らかにすることができる。
Custom Pictureの充実
CP Fileに新たに「EOS StandardとEOS Neutral」が加わり、Cinema EOS製品やEOS R5などとも色調を合わせることができるようになった。これによりCinema EOSなどを投入する現場でも、サブカメラ的な使い方に十分対応できるようになった。
またCanon Log 3に対しCinema Gamutを設定できるようになった。これによりBT.2020やDCI-3より広い色域での収録が可能となった。
深化(進化)したオートフォーカス
4K収録時マニュアルでフォーカスを合わせる場合、カメラのLCDやビューファインダー程度の解像度で、どこまで正確なフォーカスを合わせることができるのかという悩みは誰もが持っているのではないだろうか。撮影現場に4Kモニターを持ち込めるなら安心できるが、そうでない場合カメラマンの負担は大きくなる。ある程度カメラのオートフォーカスを利用して合わせたほうが、結果的に良い結果をもたらす場合もあるようだ。今回のXF605には一眼カメラ並みのフォーカス技術として、EOSシリーズでおなじみの瞳AF機能が搭載された。顔認識よりも一段上の技術と言って良いだろう。また、ディープラーニングを使用したEOS iTR AF Xに対応したことで、より確実に人の顔を認識できるようになった。被写体が横や後ろを向いても頭部を認識し続けることが可能だ。
今回瞳AFのテストをこのような感じで行ってみた。本来ならばモデルを被写体に実施したかったが、コロナ禍かつお盆休み期間ということもあり、被写体が見つからず苦肉の策としてこのような感じでテストすることとなった。
瞳AF検証動画
結果的にはアナウンス通り顔認識や瞳認識は問題なく行えた。またマニュアル操作の場合でもEOS C300 Mark IIから搭載されるようになったデュアルピクセルフォーカスガイドが本機にも搭載されているので、LCD画面上のフォーカスを合わせたいポイントを指でタッチすることでフォーカスマーカーがその部分に移動する。フォーカスガイドにより前ピンか後ピンかが簡単に把握できるのでかなり厳密なピント合わせが可能となる。
ざっとではあるが、カメラマン視点で気になる部分を触ってみたのだが、総じて扱いやすいカメラなのではないかと思う。特に各種オート機能の充実によりディレクターカメラとしても十分に事が足りるであろうことが想像できる。
また3本リングの光学系はカメラマンにとって直感的に操作できる部分としても良くできていると思われる。今回もまた同じような締めの言葉になってしまうが短い時間でチェックできなかった機能が搭載されているようなので、ご興味のある方は是非Canonサイトをチェックしていただきたい。