パナソニックBS1Hメイン画像

■パナソニック BS1H
価格:オープン。市場想定価格は税込404,000円
問い合わせ先:パナソニック

この2週間ほど先行的にLUMIX BS1Hを試用させて頂いた。このカメラは端的に言えばフルサイズカメラLUMIX S1HをマイクロフォーサーズカメラLUMIX BGH1同様のボックス(キューブ)型の筐体に詰め込んだカメラである。

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BS1Hの概要

BS1Hの概略スペックは下記の通りである。

  • 撮像素子:24.2MPフルサイズCMOS デュアルネイティブISOテクノロジー搭載
  • マウント:Lマウント
  • ダイナミックレンジ:14+ストップ
  • 記録フォーマット:6K24P10bit/5.9K30P10bit/4K60P10bit(Super35mm)/4K30P10bit他
  • HDMI RAW出力対応(ProRes RAW/Blackmagic RAW)
  • 記録時間無制限
  • SDダブルスロット

撮像・記録に関する点はS1Hと同じだがBS1Hについて詳細を書く前にS1H、BGH1について触れておきたい。

S1Hは広いダイナイックレンジ、正確な色再現、無制限記録、DCI4K撮影、優れた高感度耐性、Blackmagic RAW/ProResRAW外部収録対応など単なる動画も撮れるミラーレスカメラとは一線を画す存在であり、Netflixの認定を受けている唯一のフルサイズミラーレスカメラである。BS1Hの映像品質はこのS1Hそのものである(なお、BGH1もNetflixの認定を受けている唯一のマイクロフォーサーズカメラである)。

BGH1はボックス型のカメラであり、スチル機能を省き、動画撮影・配信に特化したカメラであり2020年11月に発売された。長距離の映像伝送や外部コトントロールができるようLAN端子やSDI出力端子などを搭載しておりミラーレスカメラとは異なる機能を搭載している。BS1Hの筐体はこのBGH1そのものである(BGH1は高感度に定評があるLUMIX GH5Sと同じ画質である)。

S1H×BGH1=BS1H

先にも述べたようにBS1HはLUMIX S1Hのボックス型カメラである。ミラーレスカメラ(と表現するにはかなり動画に特化した)S1HとGH5S、ボックス型のBGH1のマトリクスを埋めるパーツがBS1Hである。BGH1の撮影、配信の利便性をフルサイズカメラにしたものがBS1Hだ。

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左上:S1H、右上:BS1H、左下:GH5S、右下:BGH1

BS1Hの見た目はほとんどBGH1である。外装的にはロックボタンやファンクションボタンの追加、レンズのリリースボタンの位置変更など細かい部分が異なるが、マウントが異なる事を除けばぱっと見で違いは分かりにくい。

ところがボディキャップを開けるとその違いは歴然である。

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左:BGH1 右:BS1H

マイクロフォーサーズのBGH1とLマウント(フルサイズ)機の比較なのでセンサーサイズが違うのは当然としても、同じボディサイズなのは不思議な感覚である。これで6Kを含む無制限記録ができるというから驚きである。

S1Hと何が違うのか

見た目からして違うのは当然だが、基本性能の多くはS1Hから踏襲されているが、いくつか機能的な側面でS1Hと異なる点がある。

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BS1H左とS1H右

S1HにあってBS1Hにないもの

見ての通りステータス表示系に関するものは一切なく、電源、ネットワークの状態はLEDの点灯で判断することになる。PCを使ってコントロールを行うのでなければ外部モニターは必須となる。

全面にはカスタマイズが可能なボタンが4つ配置されているため、これらを自分好みにカスタマイズすることになるがミラーレス一眼のわかりやすい操作系に比べると操作系が体に染み付くまでには少々時間がかかるかと思う。

また、EVFやメカシャッター、手ぶれ補正の類ももちろん搭載されていない。「全部載せ」のLUMIX S1Hに比べるとかなり思い切った仕様である。屋外での手持ち撮影をしたいのであれば、ハンドルやジンバル場合によっては外付けEVFなどそれなりの周辺機器を用意する必要がある。

S1HにあってBS1Hにないものという少々意地悪な書き方をしたが、BS1HはRun&Gun Shootが得意なS1Hの代わりになるカメラではない。映像の品質自体はS1Hそのものなのだが、S1Hとは使われる用途が根本的に異なっていることを念頭においた方が良い。

なお、実勢価格は税込404,000円となっている。S1Hよりも安い価格設定ではあるが上記の様に省かれている機能も多い。この価格を安いと感じるか高いと感じるかは以降の「S1HになくてBS1Hにあるもの」に価値を見出せるか次第だと思う。

S1HになくてBS1Hにあるもの

背面の端子類を見るとLAN端子、SDI出力端子、Genlock端子、TC IN/OUT端子、大容量バッテリーと、いわゆるミラーレスカメラには搭載されていないものがBS1Hには搭載されている。

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端子類は業務用そのもの

LAN端子はPoE+対応のネットワーク機器に接続すればLAN経由で電源の供給が可能となる。

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TP-LinkのPoE+対応5ポートスイッチングハブ

電源供給はスイッチングハブの電力供給能力次第だが、40W対応のスイッチングハブではBS1HとBGH1の2台を接続しても電源警告は一切出なかった。

なお、筆者が気に入っている機能の一つがRTP/RTSPでの配信機能だ。これはLAN経由での各種配信が可能となる機能である。同機能に近いものがGH5 IIで搭載されているが、こちらはLANを使用してRTP/RTSPのサーバとして機能する。つまり複数台のBS1HやBGH1をPC上のRTP/RTSPに対応したソフトからアクセスすることでカメラの映像を高画質に配信できるものだ。

    テキスト
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Genlock、TC IN/OUTがあるため複数台のカメラの同期が取りやすいのもこのカメラの特徴である。

PoE+対応の有線LAN接続を行えばそもそもバッテリー駆動自体が不要であるが、LANを使用しないバッテリー駆動時の収録では大容量バッテリーによる長時間記録が可能である。

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大型のバッテリーを使用することが可能

SDI出力はFHDまでの解像度となっているがHDMI出力と併せて2系統の映像が出力できるようになっている。

LANケーブル同様に長距離伝送が可能であるためカメラから離れた位置でのモニタリングやコントロールを行うのに最適なソリューションであると言える。

つまり、このカメラはカメラ本体を触って操作をするというよりも、PCを使って複数台のBGH1/BS1Hをコントロールし撮影、配信することに主眼が置かれているカメラだと思う。この1年半で急激に需要が高まった映像配信だが、おそらくこの需要は今後もさらに伸びていく分野だ。個人でさえ複数台のカメラをライブ配信で使用する時代において複数台のカメラを一か所でコントロールできることの意義は大きいと思う。

LAN一本で電源供給&PCでの複数台コントロール

LUMIX Tether for Multicamを使用して複数台(最大12台)のBS1HやBGH1をコントロールすることができる。このソフトウェアを使用するとGUIを使用したコントロールが可能なほか、接続されたカメラを一括で設定変更するなどの機能を持つ。

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このソフトウェアの最大接続台数は12台でありそれらのカメラに一切触れることなく操作が可能である。接続は有線/無線LANもしくはUSBでの接続となるが、LANの場合は最大100mまでの引き回しが可能である。筆者は試用期間中は主に有線LANでの接続を行った。

    テキスト
左下の「CAMERA」を選択すると接続されているカメラを選択することができる
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このソフト上ではREC開始、停止、露出/WB/AF設定などが設定できるほか、カメラ内のメニューに直接アクセスすることができる。カメラのメニューがそのまま表示され、マウスクリックでカメラの各種設定を行うことが可能になっている。

    テキスト

余談だが、このスクリーンショットも自宅の1階に設置されたカメラを2階の書斎で撮影している。

ネットワーク接続のみで配信が可能

    テキスト
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BGH1でも可能な機能だが、BS1HではLANケーブル一本でネットワークを介してPC上のOBS(Open Broadcaster Software)などのRTP/RTSPに対応したソフトウェアと接続すればHDMIやSDIなどの映像出力を使うことなくライブ配信を行うことが可能である。

配信中、LUMIX Tether for Multicamで撮影パラメータなどの簡易的な設定変更は可能だが、メニューに入って操作する等の細かなコントロールを行うことができない。

なお、筆者はBGH1とBS1Hの2台を使用して仮想的にライブストリーミングスイッチャーとして機能するかどうかを試した。

設定した2台のカメラをOBS上のシーンとして設定しスイッチングするというもの。

    ELニッコール63mmをF16に絞り、左上に太陽
BS1Hの設定
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    同、中心に太陽
BGH1の設定画面
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入力として割り振られたIPアドレスを「rtsp://[IP Address]/stream」

のように設定すればBS1Hの映像が出力される。

    テキスト
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BGH1側でも同じ様に設定を行えば二台のカメラのスイッチング環境の出来上がりである。

また、配信画質に関しては最大4K60Pまでが可能である。

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最大は4K60Pの50Mbps
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高価4K対応のスイッチャーを使わずとも、4Kライブ配信できてしまう(ただしPCは高負荷に耐えられるスペックが必要)。

有線LANケーブル一本だけでライブ配信を試みた。もちろんバッテリーも使用していない

BS1Hの映りはS1Hと全く同じ感覚

先にBS1Hは屋外での手持ち撮影などが行いやすいS1Hや他のフルサイズミラーレスのように利便性の高いカメラの代わりになるものではない。とはいえ、その映像のポテンシャルを確かめずにはいられなかった。

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横幅が小さいため意外とジンバルとの相性は良い

画質に関するポテンシャルに関して言えば先にも述べたようにS1Hそのものである。

正確にダイナミックレンジやS/Nを測定したわけでないがダイナミックレンジが広く、グレーディング耐性もS1Hで撮影した素材と全く同じ感覚である。その画はフルサイズLUMIXそのものだ。

RAW動画収録カメラとしても使えるが

試用期間中はBlackmagic Video Assist側のファームウェアが未対応であったため、残念ながらBS1HでのBlackmagic RAW収録を試すことができなかったが、同機種はBlackmagic RAWおよびProRes RAWの外部収録が可能とのことだ

なお、Blackmagic RAWやProRes RAW収録を気軽に行いたいという用途にはあまり向かないと思った。大前提としてBS1Hはステータスモニターがない。このことが少々RAW撮影での運用を難しくしている。

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運用には注意が必要な組み合わせ

ProRes RAWなりApple ProRes RAW収録を行う際には外部レコーダーが必須であるが、外部レコーダーではRAW出力中はISO感度やSS/絞り/AFなどの設定確認用には使うことが出来ない。つまりRAW収録中はWi-Fi接続でのモニタリングを行うか、SDI経由で設定情報をモニターするしか方法はない。

RAW出力中は外部レコーダーのOSD(オン・スクリーン・ディスプレイ)表示がされない状態になるため、気軽にBS1Hと外部モニターだけでRAW収録をしたいという考えの方は注意が必要である。

対策としてRAW出力のON/OFFをファンクションボタンで割り当てる事により撮影前の設定の確認は可能となっているが、外部レコーダー一台での運用をする場合はこういった工夫が必要だ。

よって、気軽にRAW収録撮影したいならばミラーレス一眼タイプ(LUMIX S1/S1H/S5)を使う方が利便性が高いというのが筆者の意見だ(余談だが、BGH1/BS1Hでは[MENU]+[Q.MENU]+[Fn3]の多重押しで、HDMI/SDIの表示リセットができる。この操作は覚えておいた方がよいだろう)。

どんな所で活躍するカメラなのか

しばらくこのカメラを使用した感想としてはラフに屋外に持ち出してRun&Gunシュートするカメラとしては利便性に欠けるというのが正直な感想だ。フルサイズミラーレスカメラS1H/S1/S5は操作性に富み、それ単体で撮影が行える便利な機材である。BS1Hはそもそも液晶モニターの接続やタッチパネルが搭載されていないこと、そしてEVFがないことなどを考えると単体ではなにもできないカメラである。

もちろん、独自にリグを組んだりすればS1Hに近いスタイルでの撮影が可能ではあるのだが、ボディ内手ブレ補正やタッチパネルやボタン類の多さからくる操作性は補うことができない。ミニマルに撮れ高を上げる撮影方法であれば、私は迷わずS1Hを使用するだろう。

では、このカメラ利点はと言うと、スタジオやライブハウスその他配信設備など固定された状態で運用すると言うのがこのカメラが一番活かされる現場だと思う。

有線LAN/SDIはWiFi/HDMIを使ったコントロール/モニタリングとはその安定性は大きく異なる。

いつでも手元にカメラがあると言う状態での撮影ができるとは限らない。

広い収録現場で配信/撮影を安定した有線接続で遠隔コントロールすることは一般のミラーレスカメラには出来ない芸当である。

改善を臨む点

今でも十分実用に耐えるとは思うが、この製品はソフトウェア側の改善で今後大きく化ける可能性を秘めていると思う。配信初心者の私が書くのもおこがましい話ではあるが、ぜひ対応して頂きたい点を書きたいと思う。

LUMIX Tether for Multicamでの露出表示

マニュアル露出の際のLUMIX Tether for Multicamでの露出計のメーターは撮影している露出を反映した表示とならない。つまりPCから露出を一目で確認する場合はヒストグラムでの確認となる。露出メーターの連動はぜひ機能を追加して頂きたい点である。

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マニュアル露出の際はゲージで露出を確認できない

LUMIX Tether for Multicam上でのLUT表示

OBSなどは配信映像にLUTを適用して配信を行うことが可能であるので配信映像としては問題ないと思うが、Logガンマでの撮影を行っている場合LUMIX Tether for Multicamでの表示は素のLogガンマの映像となる。露出や絵の雰囲気を確認したい場合はLUTの適用ができるとありがたいと思う。

ライブストリーミング時のカメラコントロールができない

おそらくマシンリソース的に難しいと予想するが、有線LAN経由でライブストリーミングを行っている際は一部を除いてLUMIX Tether for Multicamによるカメラコントロールができない。

SDIやHDMIを使ったライブ配信ではカメラコントロールは可能だが、せっかくLANケーブル一本だけで高画質配信ができるのにこの部分は非常に惜しいと言わざるを得ない。

これが可能であれば、有線LAN経由でのライブ配信中にリモートでマニュアルフォーカスによるピントを合わが出来ることになる。今現在はオートフォーカスを使用するか配信前にピントを置く、もしくはカメラ側でのオペレーションを行うことが必要になる。また、先に述べたようにLAN経由でのライブ配信中にLUMIX Tether for Multicamを立ち上げているとカメラ側のハードウェアリソースが不足するため画質が劣化してしまうので実質LAN経由での配信中はLUMIX Tether for Multicamを使用は避けた方が良い。

この部分は使いこなしで対応は可能であるが、利便性を考えるとこの部分は改善して欲しいところだ。

現時点で外部コントロールが出来る点と長距離を安定して映像配信するのであればLANよりもSDIケーブルを使用することをおすすめするが、LAN接続のみを使った4K配信をしたいというニーズは多いと思われる。

専属オペレータ要らずの配信ビジネス展開への可能性

今現在ライブ配信業は需要が供給を上回っている状態で、品質の高い映像を配信できる業者が多忙を極めているという話をよく耳にする。カメラを使うビジネスはスチルから動画へ、動画から配信へその価値がシフトしつつあると感じる。スチルだけではビジネスが成り立たないというカメラマンの多くが動画(も撮れると言う業態)にシフトしたように、今後は配信もできる業態が差別化の一つのポイントになることは間違いないだろう。

だが、このカメラはその先を一歩進んで、そもそも専門の業者を必要としないで配信ができてしまう未来を見据えての製品であると感じる。

例えばの話だが、カラオケボックスのアルバイト店員が来店者のライブ配信を行うビジネス形態すらあり得ると思う。レジの前に置かれたノートPCが各部屋のカメラとLANで接続され、必要に応じてコントロールを行い配信をスタートする。この製品を使っているとそんな可能性さえ感じるのだ。

LANケーブル一本で電源を供給し、ライブストリーミングまでこなすこの小さな箱は、手軽に綺麗にフルサイズでの高画質配信をしたい配信者とそれをサポートする業者の間でビジネスが成り立つのではないかと思えてくる。

単に綺麗な動画が撮れるカメラではなく、「繋がる」ことに主眼を置いたこのカメラをどう使うかは使う人次第であり、ビジネスも含めその可能性は大きく広がっていると思うのだ。

SUMIZOON|プロフィール

2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行う。機材メーカーへの映像提供、レビュー執筆等。現在YouTube「STUDIO SUMIZOON」チャンネル登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。