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2022年4月にBlackmagic Designより発売された、ライブプロダクションスイッチャー「ATEM Constellation HD」シリーズ。2019年発売の最上位機種「ATEM Constellation 8K」の流れを汲みつつも、手の届きやすい下位互換のシリーズとしてローンチされた。発表アナウンス(例によってBlackmagic Designは突然の告知がお馴染み)の際は、数年振りの後継機発売の知らせに、満を持してようやく来たなという印象だった。

「ATEM Constellation HD」シリーズは10系統の入力を搭載した1M/Eモデル、20系統の2M/Eモデル、40系統の4M/Eモデルの3モデルをラインナップしている。今回はその中の2M/Eモデルを拝借する機会に恵まれたので、諸々の使用感をまとめてみた。

私事で恐縮だが、筆者は映像制作とネット配信を生業としている。主に音楽ライブ番組や生放送番組、ウェビナーといった配信案件にて活動しており、弊社事務所を配信スタジオとしても運営している。

普段筆者が受注する案件の際は、旧型の「ATEM Television Studio HD」(生産完了)をメイン機として使用している(コントロールパネルは「ATEM 1 M/E Advanced Panel」を常用)。

2017年発売とかなり時間が経っているが、実質10万円前後(当時)とは思えない、多機能さと汎用性の高さで評判の機材だ。旧型との違いを上げていこうと思う(そもそも比較対象のモデル自体が1M/Eと2M/Eで異なるというツッコミは置いておいて…)。

「ATEM 2 M/E Constellation HD」の使用感、旧型との違い

フロントパネルを見てみると、旧型と比べすっきりとした印象を受ける。LCDディスプレイや円形ノブといった基本構造は同じだが、オーディオメーターのLED表示とヘッドフォンアウトはオミットされていた。サウンドチェックしたい際には便利だったので、残して欲しかったという気持ちもある。

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リアパネルを見てみると、構造が大胆にアップデートされていた。旧型機は4系統の3G-SDI入力および4系統のHDMI入力の計8系統の入力があり、業務用カメラと民生用カメラ、どちらにも対応できる守備範囲の広いモデルになっている。

一方、新型機は(1M/Eモデルも含め)映像入力端子が全てSDIに統一されている。HDMI端子を廃止したことにより、製造コストを下げ、SDI入力数の増加を優先させるという考えなのだろう。逆に、民生用カメラをメインにするユーザー向けには「ATEM Mini」シリーズをという感じで、差別化を図っているように思われる。

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HDMI入力は使用できるカメラやソースの選択肢の幅を広げてはくれるが、ロック機構がないため、現場での不安要素の一つではあった。担当する配信案件では主にSDI出力できる業務用カメラが基本なので、この思い切りの良さはさすがといったところだろう。

当然だが、HDMI出力のカメラやPCを使う場合は、「HDMI to SDI」といったコンバーターを間に挟む必要があるので、その分を手間と考えるかは人それぞれだが…。

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HDMI入出力の際はコンバーターが必須

それに伴って映像出力端子もSDIに統一され、出力数も大幅に増加。それまでのシリーズにあった、マルチビュー出力もSDI端子に統一されている。SDI入力対応のマルチフォーマットモニターか、コンバーターによるHDMI変換が必要である。

一番の変更はオーディオ入力端子である。これまでのシリーズでは、アナログオーディオ入力がXLRだったのに対して、本シリーズからは1/4インチアナログオーディオに変更されている(これは上位機種のATEM Constellation 8Kも同様。また、4M/E以上のモデルには32ステレオチャンネルのMADI入力も完備)。背面部の面積の関係なのか、コスト削減のためなのかは不明だが、ミキサーからのオーディオ入力の際はフォンケーブル(TRS)が必要になる。XLR端子と違い、ロック機構がないのが懸念点ではある。あくまでも映像の入出力数を優先するという考えなのだろう。

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マルチビュー出力がSDI、オーディオ入力が1/4フォンに変更

背面構成一つ取っても、清々しいほどの一点集中型の設計思想はBlackmagic Designらしいと言えばらしい。

現場投入!画面合成機能「SuperSource」を使ってみた

ちょうど弊社スタジオにて、生配信番組の案件があったため、さっそく現場投入をしてみた。

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マルチビュー画面。2画面マルチビュー出力が可能

普段は人気俳優の2人がゆったりとトークをするという番組なのだが、今回はゲスト1名参加のため、計3名での出演になった。

そのためソースは計4台。ソニー「FS7」3台で演者をそれぞれヨリで押さえておき、ソニー「FX3」で全体の引き画を押さえることにした。いつもなら個々の演者をスイッチングで切るのだが、せっかくなのでSuperSourceを使ってみることに。

SuperSourceは最大4系統の映像を一つの画面に合成できる機能である。2M/E以上の上位モデルか「ATEM Mini Extreme」に搭載されており、当然ながら筆者の使用しているATEM Television Studio HDではモデルの仕様上オミットされているので、個人的には正直使ってみたかった機能である。

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SuperSource画面。左半分、右上、右下の3分割の画を合成した形の例

SuperSourceの設定は、PCをATEM本体と接続したうえで、専用ソフト「ATEM Software Control」にて行えるが、コントロールパネル上でも操作は可能だ。合成用の小画面でソース入力を直感的に設定できる。

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SuperSource設定はコントロールノブとジョイスティックでも操作可能

ON AIR上では3名の演者を一画面に同時に表示できたので、普段の番組と比べて、幾分新鮮な画作りとして写っていた。従来通り、演者のリアクションをタイミングでスイッチングしていくのもいいが、視聴しているファンの方が、それぞれの推しの俳優さんを一画面同時に視聴したいという要望もあるのではと思った次第だ。想定通りであれば嬉しい。

余談だが筆者は上記のようなトーク配信番組とは別に、有観客の音楽ライブ配信番組の技術協力を毎月担当している。その時は6、7台のカメラを用いているので、現状のATEM Television Studio HDでは入力数の制限とケーブル類の取り回しについて、限界があるとちょうど考えていた。

手応え十分、高機能でパワフル

ATEM 2 M/E Constellation HDは現状を打破してくれる非常に手応えのあるスイッチャー機材だと感じ、今後の導入を前向きに検討したいと思う。

残念ながら、今回の番組の使用だけではスペックをフルに活用できたとは言い難い。しかし、その分探れば探るほど、その高機能さとパワフルさに舌を巻く、とても楽しみなスイッチャーであることは間違いないだろう。

海老名芳明|プロフィール

アサカヤデジタルポート代表取締役。
企業VPから政治家関係映像、ロケDVD、MV、イベントムービーといった、守備範囲の広い映像制作を担当。2019年より配信スタジオ「アサカヤ要町スタジオ」を運営。トーク番組や音楽ライブ番組、イベントやウェブセミナーといった配信案件の技術協力を担当。趣味はフィルム撮影(スチールから8mm、16mmなど)。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。