ボディ内手ブレ補正のメリットとデメリット

動画撮影機能に力を入れたミラーレスカメラが各メーカーから数多く登場するようになり、大きなセンサーサイズでありながらフットワーク軽く振り回せるカメラの選択肢が増えた。ただ、個人的にこの「動画ミラーレス」というジャンルの中で問題だと思っているのは「強力なボディ内手ブレ補正」が搭載されている機種で広角レンズを使って手持ちで撮影する際に、周辺部に歪みが生じる現象が起きがちなことだ。

以下は富士フイルムX-T4(以下:X-T4)に同社のXF16mmF1.4をつけて、手持ちで左右にカメラを振った時の動画だ。真ん中のものをしっかりと止めることを重視しているためか、画面端の方がグワングワンと歪んでいると感じる。

この現象のことを「こんにゃく現象」と呼ぶ方もいるが、「こんにゃく現象」はローリングシャッターの読み出し速度の問題でパンした時に歪む現象のことを指すこともある。この手ブレ補正の歪みはローリングシャッターだけが原因ではないと私は思っているので、ここでは単に歪みという言葉で表現させていただこうと思う。ちなみに英語圏では「IBIS Wobble」と呼ばれているようだ。特に手持ちで自撮りをして歩くような場面で目立ちやすいと言われている。

現在、動画撮影機能を売りにした多くのミラーレスカメラにボディ内手ブレ補正機構が搭載されているが、28mmあたりよりワイドな広角レンズをつけると大なり小なりこの現象が確認できることが多かった。テストした中だとX-T4やキヤノンEOS R5(以下:R5)で起きやすく、パナソニックLUMIX S5/S1Hはそれらよりは少し感じにくく、ソニーα7S IIIはそもそもの補正量が少ないからかほとんど感じないという印象だった(あくまでも個人の主観によるものです)。

ボディ内手ブレ補正はどんなレンズをつけても手持ち撮影が快適にできるようになり、ほとんどの場合ではとても便利な機能だと思うが、機種やレンズとの組み合わせ、撮影環境によっては上記のようなデメリットが生じてしまう場面もある。そんな背景もあり、撮り直しのできないドキュメンタリー撮影などで手持ち撮影をしたい時は、個人的にはできるだけボディ内手ブレ補正はなしのカメラを使い、レンズの方に手ブレ補正がついているものを使いたい!という気持ちがあった。

RF24mm F1.8 MACRO IS STMの特徴

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そんな中で登場したのがキヤノン「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」だ。レンズに手ブレ補正機構が搭載されているものはズームレンズが多いが、これは広角単焦点でレンズ内に手ブレ補正機構がついているという貴重なレンズ。ボディ内にセンサーシフト式の手ブレ補正機構のないキヤノンEOS R5 C(以下:R5 C)と組み合わせれば、理想の手持ち広角フルサイズのカメラになる!!と思い、喜び勇んでテストを行ってみた。

上記の動画を見ていただくとわかるように、ボディ内手ブレ補正のあるR5やX-T4などでは、左右にカメラを振った時に画面中心のものを止めるような動きになり、その分周りが歪む印象だが、R5 CとRF24mm F1.8 MACRO IS STMの組み合わせでは無理に真ん中に止めずにカメラの動きに任せるような挙動になり、カメラが正面向きに止まると細かい揺れを消すような挙動になるイメージだった。

要らないブレと必要なブレ

私は手ブレには「要らないブレ」と「必要なブレ」の2種類あると思っている。要らないブレは手の細かい震えが伝わって収録した画にプルプルと細かい振動が入ってしまうようなブレで、歩きながら撮っている時の上下動やカメラを左右に振った時に起きる揺れは臨場感を演出するための大切な要素で必要なブレだと思っているので、そこは残っていてもらえるのがありがたい。

そういった観点から見ても、今回のR5 CとRF24mm F1.8 MACRO IS STMの組み合わせは、手ブレ補正に関してはまさにそうした適度な挙動を実現してくれる組み合わせだと感じた。レンズ自体が約270gという軽量でありながらF1.8の単焦点レンズでもあるので、フルサイズの被写界深度の浅さを活かしながら気軽に振り回せる手持ちカメラのセッティングとして面白い組み合わせのひとつになりそうだ。

レンズ内に手ブレ補正機構が搭載された単焦点は今回の24mm以外にも、キヤノンから「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」と「RF85mm F2 MACRO IS STM」がすでに発売されており、これらをセットで使ってもよいかなと思う。ぜひR5 Cユーザーの方や上記の現象に頭を悩ませている方にはチェックしていただきたい。

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以下の短い作品は、筆者が拠点にしている栃木県鹿沼市のスタジオの隣に新しくできた「Center」というアートスペース&ゲストハウスを撮影させていただいた映像だが、ほとんどR5 CとキヤノンRF 24mm F1.8 MACRO IS STMを使って手持ちで撮影している(インタビューシーンのみLeica SUMMICRON-R 50mm F2を使用。作中の作品映像や写真は別カメラ)。ぜひ実際の映像でどのように見えるのかの参考にご覧いただきたい。

R5 Cの動画カメラとしての魅力

ちなみにR5 C自体についても少し言及させていただくと、このカメラは真の動画と写真のハイブリッドカメラだと思う。非常に高精細で美しい映像を撮ることができ、動画と写真で分けられているメニュー構造も使いやすい。

唯一の欠点として挙げられるのが動画撮影時の電池の持ちが短いことで、4K24pを収録すると約1時間でバッテリーが空になる。しかし、同じく電池の持ちが短いことで有名なBlackmagic Design Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K/4K(以下:BMPCC 6K/4K)と違い、電池がなくなる直前まできちんと細かく残り容量が%で表示され、電池がなくなる直前にも警告が表示されるため、電池が空になるギリギリまで使うことができる。

BMPCC 6K/4Kのようにざっくりとしか残量が表示されず、「もう少し持つかな…?」と思っていたら突然電源が切れるというようなことはないため、安心してバッテリー交換ができ、私はそれほど大きな問題には感じなかった。そういった意味でも素晴らしいカメラだと感じた。

伊納達也(inaho Film代表/映像ディレクター)|プロフィール
1988年、愛知県春日井市生まれ。東映シーエム株式会社を経て、2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトの映像ディレクションを担当。その後、株式会社inahoを設立し、社会課題を解決するプロジェクトについての映像制作を行っている。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。