DaVinci Resolveのクラウドコラボレーション機能が国内でも利用可能に
筆者は、アーティスト系ミュージックビデオや企業、地方のプロモーションビデオの制作、ライブ配信の案件を中心に取り組んでいるビデオグラファーである。ツールはDaVinci Resolveが中心で、Editページ、 Colorページ、Fairlightページをメインで使用し、ワンストップのサービスを提供している。特に編集ツールに関しては3年前からDaVinci Resolveに完全移行している。ノンリニア編集ツールは、Final Cut Pro、Adobe Premiere、DaVinci Resolveの順番に経験をしてきて、オフライン編集に関しては断トツでDaVinci Resolveの操作性を評価している。
DaVinci Resolve 18に関しては、ベータ版で受注案件を作業するのは怖くて避けていたのだが、2022年7月の正式リリースを機に完全移行した。実はDaVinci Resolve 18はDaVinci Resolve 17からインターフェースの変更はなく、機能的にも大きな差を感じていない。DaVinci Resolve 17で機能は十分というのが本音なのだが、DaVinci Resolve 18の共有編集を実現する「Blackmagic Cloud」に関してはちょっと気になる存在だった。そこで本稿では国内でも2022年8月からスタートしたDaVinci Resolve 18のクラウドコラボレーション機能に焦点を当てて紹介をしよう。
Blackmagic Cloudで共同作業を実現
新しく登場したBlackmagic Cloudはクラウド上にプロジェクトがあり、プロジェクト単位の共有やエディターやカラリストの作業をリアルタイムに確認が可能になる。プロジェクトファイルの共有が可能で10人まで共同作業に対応する。しかも、プロダクションにクリエイターが一箇所に集まらなくても、各地からプロジェクトにシームレスにアクセスできるようになる。同時作業した変更内容は他のユーザーにも連動するという、夢のようなコラボレーションを実現するサービスだ。
Blackmagic Cloudは、公式サイトから「Blackmagic Cloud ID」を取得することで使用可能になる。Blackmagic Design Webページの右上にあるクラウドマークから簡単に取得できる。プロジェクトを立ち上げる管理者には月額764円の費用がかかるが、そこに招待される10人までのユーザーは無料で使用可能だ。
繰り返しになるが、Blackmagic Cloudは共同作業者とリアルタイムで編集や確認ができるのを大きな特徴としており、プロダクションの場合は制作会社の社内に集まらなくても仕事が可能になる。これはコロナ禍でのリモートワークにはうってつけの機能となるはずだ。
筆者のような普段から共同編集をしていないビデオグラファーだとメリットは多くないが、事務所のLAN内であればDaVinci Resolveが稼働する他のPCで続きの作業が可能なのは便利だ。
また筆者が手掛けるプロジェクトは、巨大な素材の書き出しの場合に1〜2時間ほどかかることがある。その待機時間に対して、プロデューサーから「謎の時間が生まれる」と以前から指摘を受けていた。待てないプロデューサーから、30分に一回ぐらいのペースで電話がかかってきて、しびれを切らして「Zoomで画面共有しろ」と言われてチェックを行った経験もある。そんな問題も、Blackmagic Cloudでプロジェクトを共有することで、プロデューサーは映像をライブで確認可能になる。タイムラインのルーラー上にマーカーを配置して、そこにコメントを残すことも可能だ。これは使い方によっては革命的だと思った。
Blackmagic Cloud Storeを使って素材共有を実現
ところでBlackmagic Cloudを試し始めた当初、月額764円という価格でクラウドサービスを利用できることに違和感があった。筆者はAdobeのクラウドサービスのように素材共有にも対応すると勘違いしていた。
ただ面白いのは、Blackmagic Design自身が3種類の「Blackmagic Cloud Store」(以下:Cloud Store)を使った素材共有を提供している点だ。そこで今回はCloud Storeシリーズのもっとも安い「Blackmagic Cloud Pod」(以下: Cloud Pod)を試した。
Cloud Podは容量を搭載しないストレージだ。背面には10G Ethernet、電源端子、USB-Cポートを2基、デバイスをモニタリングするためのHDMIポートを装備し、USB-Cの2基は、様々な5TBまでのストレージに対応する。サンディスクのポータブルSSDをCloud Podに接続したところ、自動的にネットワーク上のストレージとしてアクセスできるようになった。さらにもう1基のUSB-CにSSDを接続することで容量拡張を可能としている。動作音に関してはかなり静かで、他のHDDの動作音が気になるくらいだ。
Cloud Podを事務所内に設置しSSDを共有することで、別の部屋のPCから素材を含めたプロジェクトの読み込みが可能になる。ローカルディスクの素材読み込みよりも若干レスポンスは劣るが、10G Ethernetによってイライラする感覚はない感じだ。
さらに、Cloud Podの共有素材はDropboxまたはGoogleドライブに対応した「Cloud Sync」機能で、遠隔地とのファイル同期が可能だ。月々のサブスクリプション契約費をかけずに、クラウドストレージ的なやり取りが可能になる。この機能を使えば、地方の撮影現場で撮った素材をすぐに遠隔地の事務所に渡すことができそうだ。
ツッコミどころのないクラウドソリューションを実現
実は当初、Blackmagic Designのクラウド対応デバイスはBlackmagic CloudとCloud Podで構成するソリューションだと思い込んでいた。たまたま情報交換をした友人から、「DaVinci Resolve 18にはBlackmagic Proxy Generatorという新搭載もある」と指摘を受けた。実際に確認してみると、Blackmagic Proxy Generator(以下:Proxy Generator)は非常によくできたプロキシツールだ。使用レポートなどの公開はまだ少ないが、クラウド対応デバイスの中でも影のヒーローといって差し支えのないツールだ。
簡単なインターフェースだが設定に従ってプロキシを一括変換が可能で、Cloud Storeを通じて快適なやり取りが可能になる。Proxy Generatorを使えば、Blackmagic URSA Mini Pro 12Kなどの高画素シネマカメラであっても撮影素材は最適なリファレンスとして共有可能になりそうだ。Blackmagic Designは絶対に突っ込まれるプロキシワークフローに関してもさっそく手を打ってきた。そのあたりはさすがBlackmagic Designだと思った。
つい先日まで夢だと思っていたクラウド編集ワークフローはもう夢ではなくなってきている。しかも、それが特殊なネットワークの知識がなくても扱えるのも優れている点だと思った。興味のある方はぜひ体験してみてほしい。
Ren Takeuchi|プロフィール
映像ディレクター。主にカラーグレーディングを得意とし、DaVinci Resolve公認トレーナーを務める。企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。TVCM、WebCM、PV、ライブ配信、MVなど様々な制作を手掛ける。