はじめに
ソニーは今から遡ること6年半前の2016年3月に、α6300というAPS-C機を発売した。2500万画素のイメージセンサーを搭載したコンパクトなボディに4K映像を撮れるスペックとして当時、一眼動画界隈ではパナソニックのLUMIX GH4と並んで人気のあった機種である。
その後にソニーはボディ内手振れ補正を搭載したα6500やα6600などを含む複数の機種を展開してきた。そして昨年2021年9月にはVLOGCAMとしてZV-E10を発売している。ところがそれら機種は全て(基本設計は同じと思われる)2500万画素のセンサーが搭載されており、4K映像はフル画角全画素読み出しでは24fpsに留まっていた。つまり6年半もの間、APS-Cミラーレスカメラとして基本的な動画スペックには変更がなかったのである。
思えば動画の基本フォーマットはSuper35mm。そのSuper35mmに近いAPS-Cセンサーフォーマットを積んだ最新のカメラで動画を撮りたいと思っていたユーザーは多いはずだ。私もフルサイズミラーレスカメラのα7S IIIがいつ発売されるのかよりも、むしろいつソニーがAPS-C機を刷新するのかが気になっていた。
今回ソニーからようやく発表・発売になったのが「FX30」である。予想しなかったことにソニーの新APS-C機はスチル撮影ベースのミラーレス一眼カメラとしてではなく、「Cinema Line」カメラとして登場することになった。
今後同センサーを搭載したミラーレス一眼カメラが出る可能性は高いと思うが、それにしてもCinema Lineのカメラから新センサーを投入したというのがなんとも意外かつ印象的だ。
振り返れば筆者はα7Sやα6300、古くはNEX-5Nを愛用してきたカメラマンであり、それらで多くの動画を撮影してきた。今でこそメインのシステムは他のマウントに移行したが、ソニーのボディはいつでも気になる存在である。今回は限られた試用期間のため深堀りしきれない部分はあるのだが、このカメラについての私なりのレビューを行っていきたい。
FX30概要
- 撮像素子:新開発2600万画素裏面照射型APS-C
動画:約2010万画素、静止画:約2600万画素 - ラティチュード:14+ストップ(S-Log3)
- フォーカス方式:ファストハイブリッドAF(位相差検出方式/コントラスト検出方式)
- 記録フォーマット:H.264/H.265
- 記録解像度:最大4K(3840×2160)H.264/H.265
- 4K撮影時フレームレート:
59.94p、29.97p、23.98p(4Kクロップなし)
119.88p(クロップあり) - その他:空冷ファン搭載、メカシャッター非搭載
- CFexpress Type A/SDカード(x2)
- 646 g(電池、メモリーカード含む)、562g(本体のみ)
- 希望小売価格:
ボディのみ 税込273,900円
XLRハンドルユニット同梱モデル 税込328,900円
スペックから見るFX30の印象
このFX30はFX3とは異なり、メカシャッターを搭載していない。一応電子シャッターを使用したスチル撮影をすることも可能であるが、Cinema Lineの製品なので当然と言えば当然なのだがその点はFX3とは大きく異なる。またFX3同様にEVFは非搭載。
FX30はスチルと動画のハイブリッド機ではなく動画撮影に特化したカメラと考えた方が良い。
外装から見るFX30の印象
外装はすでにこちらの記事で触れられていた通り、フラットデザインであるフルサイズシネマラインFX3とぱっと見は区別がつかない。フル規格のHDMI端子を備え、空冷ファン、タリーランプなど定評のあるFX3をそのまま踏襲した形となっている。つまり、すでにFX3を使用している人にとってはほぼ使い勝手は変わらないため、FX3のサブ機として最適であるのは言うまでもない。
ボディには上面と側面に1/4インチネジ穴がきっているため、ケージを付けずとも簡易的なパーツであれば取り付けることが可能だ。少々乱暴ではあるが、NATOレールを本体に取り付ければ下記のようなハンドルを取り付けることも可能である。筆者は本機を手持ち撮影する場合はこのスタイルでの撮影が多かった。
重量は思ったよりも軽い。これがFX30を箱から取り出した私のファーストインプレッションだ。同じ外装のFX3はメモリーカードを含む重量が715gに対して、FX30の重量は646gとなっている。加えてFX30はAPS-Cフォーマットであるため、APS-C専用レンズを使用すればFX3に比べてFX30のトータルシステムはかなり軽量になる。よって、電動ジンバルなどは小型のものが使えるのである。これに関しては後述する。
見やすいタリーランプ
ここもFX3のままであるが、背面のタリーランプはかなり主張のある視認性が高いものが採用されており、一般的なミラーレスカメラの録画状態表示に比べて格段に逆タリーの発生を抑制する効果がある。モニター側が赤枠表示、RECボタン、背面上部、前面と複数の赤色ランプによってREC状態を確認することができる。
なお、作例撮影では頻繁にRun&Gun撮影を行ったが、筆者は今回の試用期間中には逆タリーを一度も経験しなかった。
これらのランプ点灯は「全て点灯」「前面のみ点灯」「全て消灯」の3状態を選択することができる。
機能面から見るFX30の印象
動画撮影フォーマット
FX30では記録解像度自体は最大4K(3840×2160)となっている。撮像素子自体は水平解像度は6.2Kあるので超解像ズームを使用しない60p/30p/24p撮影では高品質な6.2Kオーバーサンプリングによる記録が可能だ。
ソニーのユーザーにはお馴染みの記録フォーマットかもしれないが、他社のカメラに慣れている人はまず記録方式であるXAVC S-I/XAVC S/XAVC HSが何を意味しているかを理解する必要がある。なお、各フォーマットは大まかには下記のコーデックを意味している。
- XAVC S-I→H.264 ALL-Iフレーム
- XAVC S→H.264 LongGOP
- XAVC HS→H.265 LongGOP
感心するのはそれぞれのフォーマットに対してビット深度やクロマ・サブサンプリングの項目が掛け算的に選択できるところである。つまりXAVC Sであっても4:2:2 10bitと4:2:0 8bitを選択できるので階層的な思考で撮影フォーマットを選択できるようにメニューが工夫されている。
なお、4K120pに関しては先に触れたようにクロップファクターが1.6倍と大きく、ピクセルバイピクセルの状態となる。4K解像度が必要がないのであればFHD 120pを使うのがよいかもしれない。現に解像感がそれほど必要でない超広角などでのスロー撮影を行う際には筆者はFHD120p撮影を多用した。
また、FHDでは240fps撮影が可能だが、4K120pと同様のクロップ倍率となる。使いどころに注意するべきであろう。
超解像ズーム
「あと一歩寄りたい」といったときに便利なのが超解像ズーム。筆者が愛用しているカメラでは動画撮影時にクロップをさせることができるが、ソニーは以前からデジタル処理で連続的にズームを行う「超解像ズーム」を採用してきた。FX30では6.2Kの撮像素子を持つことから例えば4K動画撮影においては1.5倍まで、FHD動画撮影においては2倍までの超解像ズームを使用することが可能となっている。
もともと望遠撮影に強いAPS-Cカメラだが、同機能を使うとよりその強みを活かすことができる。
ブリージング補正
FX30ではレンズのピント位置による画角変化を電子的に補正するブリージング補正機能を持っている。これはカメラボディ側もしくはレンズ側に記録されたピント位置毎のブリージング量を元に、リアルタイムに画角補正を行うといった処理を行っているものと思われるが、補正に対応したレンズであればこの機能をONすることができる。
使用した3本のレンズ
今回はEマウントのレンズ3本をお借りしてFX30の撮影を試させていただいた。この3本のレンズは下記の通り。
- E PZ 10-20mm F4 G SELP1020G
- E PZ 18-105mm F4 G OSS SELP18105G
- FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS SEL200600G
E PZ 10-20mm F4 Gは2022年6月に発売になった最新のパワーズーム超広角レンズ。ジンバル撮影との相性が良い一本である。コンパクトでありながら、隅までしっかりした描写であり、(電子補正をせずとも)ブリージングも少ない。最短撮影距離も短くFX30のために作られたレンズではと?思わせるレンズである。
E PZ 18-105mm F4 G OSSは2013年12月に発売になった標準ズームレンズ。少々古いレンズではあるが、このレンズは筆者が以前ブライダル撮影などでも多用していたレンズでもある。久々に使用したが、このレンズ一本で撮れる領域は広く、その便利さを改めて痛感した次第である。動画撮影ではAFの動作も全く問題なく使用することができた。
以上の2本のレンズはいずれもパワーズームレンズであり、FX30本体操作、レンズのズームリング、ズームスイッチによるズーミングの3つのいずれかを使用してズームを行うことができる。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは2019年7月に発売になったフルサイズ対応の望遠ズームレンズ。今回は航空機などの望遠撮影も行う都合上、同レンズをお借りした。
上記3本はいずれもズームレンズであるため極端に暗い中での撮影は不向きな側面はあるものの、夕刻や明かりのある、市街地での撮影くらいまでであればなんら問題はない。
FX30の作例動画
前述3本のレンズを使って撮影したものが、下記の動画である。
使用頻度としては汎用性の高いE PZ 18-105mm F4 G OSSを中心に、ジンバル撮影ではE PZ 10-20mm F4 Gを多用した。なお、超望遠撮影も含め、全てのカットはAFを使用したものになっている。
FX30はラフに撮っても外さないAFと、フルサイズには及ばないまでも夜間にF4でも耐えられる十分な高感度性能を有しており、とにかくボタンを押せば撮れる感があるのはソニーのカメラを使う利点だろう。
実際の運用に関して
ここでは試用期間中に行った私の運用方法や、気づいたことに関して記載したい。
ジンバルとの相性
先にも述べたようにFX30はAPS-Cフォーマットということもあり、使用するレンズによってはかなり軽量なシステムとなる。例えばE PZ 10-20mm F4 Gを取り付けたFX30の総重量は830g以下となる。
試しに筆者の所有するZHIYUN CRANE M3に搭載してみたところ、これが抜群にマッチすることが分かった。
ピッチ、ロールは当然としてパン(ヨー)軸のバランスまで見事に取れる。また、NDフィルタをつけた状態であってもカメラがアームと干渉するようなことはない。
この組み合わせであればジンバルを含めた総重量は1560g程度となり、片手で長時間撮影しても全く苦にならない。
メモリーカード
最近のソニーのカメラと同様にFX3では2つのカードスロットがCFexpress Type AとSDカードの両方に対応する形となっている。ほとんどの動画フォーマットにおいてV90での記録が可能であるがALL-IフレームであるXAVC S-I 4Kをハイフレームレート撮影を行うにはCFexpress TYPE Aが必要となる。
なお、V90のSDカードを使えばXAVC S/XAVC HS での4Kのハイフレームレートも可能である(V60の場合はXAVC HSでの4Kハイフレームレート撮影が可能)。
ゆえにCFexpress Type Aが必要なのはハイフレームレートのALL-I撮影の時のみで、LogGOPでのみ撮影を行うのであればV90のSDカードでも構わない。
FHD HFR画質
FX30の4Kハイフレームレート撮影はクロップファクターが大きいことは前述の通りである。ゆえにクロップのない120pを撮影する場合はFHDに解像度を下げる必要がある。この画質に関してだが、想像していた以上に4KとFHDの差は大きいと感じた。逆に表現すると6.2Kオーバーサンプリングによる4K解像度がそれだけ高いと言うべきだろう。
わかりやすいように双方の素材を4Kタイムライン上で300%に中央部を切り出したが、中央のビルの格子模様をご覧いただければ、4KとFHDの撮影データの違いは認識いただけるのではないかと思う。
上記のようにサイドバイサイドで比べてしまうとFHDの解像度の低さが目立ってしまうのだが、FHD120pはFHDとしては十分な解像度が得られている(ピクセルビニングによる3.1Kからのオーバーサンプリングを行っているものと筆者は推測している)。視聴環境にも寄るが、FHD素材をポスト処理でアップコンをすれば4K映像と混在させて使用しても大きな違和感は生じないと思う。
ダイナミックレンジ
ソニーのHP上にはFX30のダイナミックレンジが14+STOPとある。実際にこのレンジが0STOPを基準にどのくらいのレンジがあるのかを計測した結果が下記である。ダイナミックレンジの計測はS-Log3 ベース感度ISO800にて行った。
上記からFX30は0STOPを基準にハイライト側は6STOPを少し超えたところでクリップすることが分かった。シャドー側のレンジはSNR=1のポイントを算出するにはいたっていないが、少なくとも-8STOPではデータはクリップしていないように見える。+側に6+STOPのレンジがあることからフルサイズに近いダイナミックレンジを有していると言える。
ただし、このレンジを活かし映像品質を追い込んだ撮影を行うには外部モニターなどの波形モニター表示ができる環境が欲しくなる。現状FX30のハイライトを監視するための表示アシスト機能はゼブラのみであるため他の表示系があるとより高品質な映像を得やすい環境になると思う。
今回の作例撮影時にはS-Log3を主に使用し、ハイライト側が飛ばない(or飛ばし過ぎない)範囲で明るめの露出で撮影(ETTR撮影)を行い、ポスト処理で露出を戻すという手法を取っている。
手振れ補正
手振れ補正に関してはE PZ 18-105mm F4 G OSSを中心に行ったが、他社製のカメラに比べて揺り戻しの挙動が急激な印象を受ける。また、いくつかのメーカーが採用している疑似固定撮影の設定を行うことはできない点も少し残念ではある。
なお、手振れ補正モードには「スタンダード」と「アクティブ」の二つから選択することができるが、後者はいわゆる電子手振れ補正の類であるため画角が制限されてしまう(クロップされる)ので注意が必要である。今回の作例では「アクティブ」はなるべく使用せずに撮影を行ったが、クロップによる画質低下や画角変化を気にしない手持ち撮影であれば「アクティブ」を選択したほうが良い結果が得られるように思う。
ノイズ感と粒径
FX30のノイズ耐性はS-Log3を使った感想としては被写体の照度にもよるが、概ね上限6400まで常用できる実力であると感じた。明るいレンズがあれば暗いシチュエーションであっても問題なく撮影を行うことが可能と思う。
また、粒径に関してだがオーバーサンプリングによる超解像ズームを使わない撮影においてはノイズの粒径は細かくポスト処理によるノイズリダクションとの相性も良い。ノイズ感に関してはサイドバイサイドで比べていないので官能評価となるがα6300を使っていた感覚とそれほど違いはないといった印象である。
ローリングシャッター歪み
以前α6300を使っていた時にはローリング速度(幕速)が遅く、撮影には気を使う必要があった。FX30では4K60pを実現していることからわかる通り比較的速いローリング速度を実現している。下記はフル画角4K24pと1.6倍クロップの4K120pのそれぞれ2種類のモードで幕速を計測した結果である。なお、4K24pと4K30p、4K60pは同等の結果となっていた。
500Hzの高速点滅光源を使用した計測では、
4K24p/30p/60pの幕速は16msec
4K120p(1.6倍クロップ)の幕速は8msec
となっている。幕速に関しては、高速読み出しを実現しているカメラと比較して、決して速いわけではないが、通常撮影において問題となるケースは少ないと言える。
興味深いのは4K120pの1.6倍クロップ時における幕速はフル画角4K24p/30p/60p相当で動作させた時よりも1ラインの速度を上げて読み出しを行っている点である。このことが4K120pの画質に与える影響を与えているようだが、これに関しては機会があれば別の場で検証してみたいと思う。
なお、超解像ズームを使った場合では実効的には読み出しを行うライン数が減るため見かけ上のローリング速度は向上する。故に、少しでもローリング速度を抑えた撮影をしたいという場合は超解像ズームを最大設定にしつつ被写体との距離を広げて画角を揃えればローリングシャッター歪を減らすことは可能である(とはいえ、そこまでしてローリングシャッター歪を減らしたい撮影ニーズはないとは思う)。
排熱性
FX30に関しては試用期間中に熱停止を起こしたケースはなかった。涼しい季節での撮影ということも関係している可能性はあるが、空冷ファンを搭載していることもあり、通常の撮影において熱停止するリスクはかなり低いのではないかと思われる。
また、FX30は初回起動時に下記のような表示がされる。
一部の動画ユーザーの間ではお馴染みになった感のある「自動電源OFF温度」の設定であるが、この設定を行わないために熱停止するといった話も未だ良く耳にする。「自動電源OFF温度」を「高」に設定するとユーザーは低温やけどのリスクがあるため、あくまで手持ちしないことを前提にした機能ではあるが、それでも暑い日の長時間の撮影でない限りは手持ちできないほどは熱くはならない印象だ。
あくまで自己責任だが長時間の撮影を行うのであれば、上記リスクを理解したうえで設定を「高」に設定することをお勧めしたい。
FX30を導入するメリット
改めてFX30を導入するメリットについて考えてみたい。
優秀で背景に抜けないオートフォーカス
ソニーのオートフォーカスに関しては今さら説明不要なくらいに優秀であることは、ここの読者はご存じだろう。とにかく通常の照度範囲内での人物撮影ではほぼAFに頼った撮影ができる。飛行機撮影などにおいても撮影者が気を遣うのはパンヘッドをいかにスムーズに動かすかだけであり、あっけないほどに撮影が可能である。
グレーディング耐性
ソニーのフルサイズカメラは10bit撮影が可能になってしばらく経つ。しかしソニーのAPS-C機で10bit撮影ができるようになったのはFX30が初であるという認識だ。グレーディング耐性も8bit機とは比べ物にならないのでAPC-C機を使ってグレーディング時のバンディングに悩まされていたクリエーターにとってFX30はまさに福音だろう。
FX3のサブ機としての選択
フルサイズシネマラインFX3とは一部Log撮影の設定メニューの違いなどはあるものの、見た目にもFX3とほぼ同じであることから分かるように、基本的にその操作系はFX3を踏襲している。
つまり、すでにFX3を使っている人が「より被写体に寄りたい」という必要があるのであればFX30はFX3の最適なサブ機になり得るだろう。そもそもFX3は画素数が少ないことから高い高感度耐性を有している。その反面、4Kの解像度を保ったままの望遠撮影は苦手と言える。FX30はAPS-Cフォーマットで6.2Kの解像度を有していることもあり、FX3に比べて遥かに望遠撮影に向くカメラだと言える。ボケや高感度を望むならFX3、小型のシステムで望遠を行うのであればFX30は良い選択肢となるであろう。
FX30の検討・導入の注意点
FX30はコンパクトにまとめられた良いカメラであるが、一方で他社性のカメラを使っている私にとって少し使いにくい点が見受けられた。それらについて触れていこう。
EVFレスな点
動画を撮影するカメラマンにとってEVFは不要と思われがちではあるが、近年の手振れ補正の性能向上に伴って手持ち撮影の機会が増えてきた。手持ち撮影の場合はスチルと同じようにファインダーでの撮影をしたほうが構図が確認しやすく、かつしっかりとした構えで安定した撮影が可能になる。筆者は普段、手持ち撮影の場合においてEVFを使った撮影を行っているのだが、今回のFX30の試用ではEVFがないことによる撮影のしにくさを感じる場面があった。
EVFによるファインダー撮影を普段から行っているカメラマンはこの点を注意いただきたいと思う。どうしてもEVFが必要という方はHDMI経由の外付けEVFを検討するのも一つの手だろう。
4K120pのクロップファクター
4K120pは先にも述べているようにクロップファクターが大きく、1インチセンサーに近い画家での撮影となる。故にボケを使った表現はややしにくいものがある。また、センサー全域を使った4K24p/30p/60pに比べてノイズ感は悪い印象だ。
4K120pがクロップながら撮れる意味は大きいのだが、使いどころをしっかり見極めて撮影を行う必要がある。
撮影フォーマットの切り替えはワンアクションでできない
筆者は普段各カスタムダイヤルに異なるフレームレートを割り振る撮影スタイルで、ワンアクションで撮影フォーマットを切り替えるような撮影を行っている。そのカスタムダイヤルはそれぞれが最後に設定した露出やWB設定を自動更新し続けるような設定が行えるため、照度条件が変化し続ける状況下においてもダイヤルを回すだけで撮影フォーマットを行き来するような使い方をしている。
これだと照度が急激に変化する夕刻の時間においても異なるフォーマットを瞬時に切り替えてまた元のフォーマットに戻るといったことができるため、非常に撮れ高が上がるのだ。
今回試用したFX30でも同様な設定ができるかを調べてみたのだが、当該カメラでは同じような使い方をすることができないようだ。例えば24pと60p、120pなど異なるシャッタースピードを設定する必要があった場合、フォーマット選択をした後にシャッタースピードとISO感度を再設定し直すというような使い方を余儀なくされる。
ゆっくり設定を変更できるような状況では問題ないのだが、このフォーマット変更に関してはうまいやり方がないか、次の機会があれば模索してみたいと思う。
まとめ
最後には少し辛口な記載もしているが、コンパクトなパッケージに機能をバランス良く詰め込んだFX30は多くのユーザーに受け入れられる機種となるだろう。
ざっと上記で書いてきたものを箇条書きすると下記のようになる。
- AFは流石にソニーのカメラといった印象(人物撮影ではこれ以上望むところがない)
- 高いグレーディング耐性を有する
- 動画の入門機として、FX3のサブカメラとして適している
- 逆タリーを起こしにくいタリーランプ
- 用上問題ない高感度耐性
- フルサイズに近いダイナミックレンジ
- 手振れ補正の補正量・挙動は他社に比べて秀でているものではない
- 真夏に試せていないが(設定次第で)熱には強い印象
- 4K120pクロップは少し残念
- 操作系はソニー特有のもので露出以外の設定を頻繁に変更する人にとっては慣れが必要
フルサイズにはフルサイズの良さ(高感度性能、浅い被写界深度)がある一方で、APS-CやMFTなどで映像を撮影するメリット(望遠撮影、深い被写界深度、トータルシステムが小型軽量)もまた大きいものである。要は適材適所なのだ。
とにかくフルサイズだけがカメラではないが、この数年YouTubeを見ているとフルサイズで撮影する必要のないコンテンツまでもが(ある種意味なく)フルサイズで撮影されるようになってきたと思う。そんな中で、FX30の登場でガチで使える(フルサイズ以外の)カメラの選択肢がまた一つ増えたわけである。
このカメラが市場でどういった評価を受けるのかは興味が湧くと同時に、FX30はフルサイズ一辺倒な一眼動画界隈に一石を投じる機種になるのかもしれないと感じている。
SUMIZOON|プロフィール
2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行う。機材メーカーへの映像提供、レビュー執筆等。現在YouTube「STUDIO SUMIZOON」チャンネル登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。