筆者は普段ポートレイトやイベントでの写真、映像を撮っている。メインはEOS R5(以下:R5)で、映像もR5で撮っている。映像で頂くご依頼の多くがイベントのバックステージのような記録を目的とした撮影なので、「どこで、何をしているか」がわかるようにすることが多く、そういう場合は浅い深度はあまり使わない。

そして、十分な照明がない場合も少なくないので、感度を上げすぎないためにも絞りは開けたい。そういった観点で言うと、センサーサイズが小さい方が有利だし、映像はやはり映像専用の機材の方が便利なのではないかという考えで、ビデオカメラには以前から興味はあった。

キヤノンの業務用ビデオカメラXF605についてもいろいろと調べていたが、筆者の用途ではオーバースペックかと思っていたところ、よりリーズナブルなXAシリーズがリニューアルするという発表があり、1.0型センサー搭載のXA55もXA70、XA75に更新された。

今回、XA70を試用する機会を頂いたので、XA55からの変更点や、普段スチル用カメラで撮影している立場での業務用ビデオカメラの使い勝手などをレポートしたいと思う。ちなみにXA70とXA75の違いはSDIの有無となっている。

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XA55から変わらない機能

まずはXA55から踏襲されているスペックを確認する。

  • 1.0型CMOSセンサー
  • 4K UHD 30P対応、オーバーサンプリングによる高品質なフルHD
  • 25.5mmから382.5mmの15倍ズーム
  • 独立3濃度NDフィルター
  • 2基のSDカードスロットでリレー記録、ダブル記録に対応

スチルカメラを使っている人が気になるのがセンサーサイズではないだろうか。写真を撮っている感覚でいうと、マイクロフォーサーズよりも小さいという印象になってしまうが、映像の場合は1.0型センサーは大型の部類にはいる。いわゆる業務用として使われている4Kビデオカメラで1.0型よりも小さい2/3型センサーを採用しているカメラは多い。

もちろんボケに関してはフルサイズやAPS-Cよりも少なくなるが、前述のように「どこで行われているか」を視聴者に伝える場合は背景が不必要にボケているとかえって邪魔になる。また、1.0型よりも小さなセンサーと比較すると暗所性能もボケの表現にも余裕があるので、映像としては1.0型は十分なセンサーサイズだと言える。特にXA70などキヤノンのビデオカメラは、写真でもおなじみのDIGICの映像用エンジンDIGIC DVを搭載しているので、高感度時のノイズの少なさが期待できる。

XA55からの変更点

次に、XA70での変更点を確認してみよう。

高輝度・高解像度な液晶モニター

XA55では3.0型46万ドットだった液晶モニターが3.5型276万ドットになった。実際に両者を見比べてみるとサイズも大きくなっているが高精細になったのが実感できた。輝度も4段階で調整可能だ(後述)。

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上は3.5型276万ドットのXA70。下は3.0型46万ドットのXA55

大きくなったEVF

XA55では0.24型約156万ドットだったEVFがXA70では0.36型約177万ドットになった。個人的な感覚でいうと2周り大きい、といった印象で、比較するととても見やすくなっている。

監視用途に有用な文字表示機能と600倍ズーム

監視用途として、記録映像に撮影日、時間、タイムコードなどを映像に乗せることができる。また、画質よりも記録できることを趣旨として、XA70/75では最大600倍ズームができるようになっている。

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USB Video Class(UVC)対応

UVCに対応したことで、USBケーブルでPCと接続するだけでWebカメラとして使える。Web会議などで自分を映したり、別のアングル用として使うこともできるが、セミナー会場での配信で、動く登壇者をフォローしながら映すといった用途などにも使えるだろう。

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また、今回からハンドルユニットがオプションではなく同梱されるようになった。基本、必ず使うパーツなので有難い変更だ。

屋外で使ってみた印象

では、実際に屋外に持ち出して使ってみた際に印象に残ったことを書いてみたい。

ボディバランスの良さ

トップハンドルを持ってあえてあちらこちらブラブラと歩いてみたのだが、最初の印象は「軽い!」だった。正確に言うと「それなりに重いはずなのに重くない」になる。実際はR5とRF24-70mm F2.8にリグを付けた状態より2、300グラム軽いだけなのだが、トップハンドルを持った時の前後バランスが丁度良いのだろうと思う。

ハンドルとカメラ底面とで押さえ込んで撮る時もホールド感が良い。これは、イベントのバックステージなど、それなりの時間動き回るような撮影の時には結構キーポイントなのではと思った。

明るいLCD

上述したが、LCDの明るさを4段階で調整できる。日中の屋外で確認する際、液晶バックライトの設定が「通常」になっていると、少々見づらいが、「最高輝度」にすると明らかに確認しやすくなった。EVFに頼る頻度が下がるのは助かるだろう。

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いざという時に心強い15倍ズームレンズ

XA70には35mm換算で25.5mm~382.5mmズームレンズが付いている。スチル用レンズで考えると、24mm~400mmを用意するというのはなかなか難しい。イベントで、柵などでどうしても近づけないが大きめに撮影したいといった際に約380mmまで近づけるのは心強いだろう。比較的小さなボディにこのズームレンズが収まっているのも、魅力の1つだと思う。

また、ズームスピードについても、可変、固定、速度のロー、ミドル、ハイと変えられるので、必要に応じて様々な設定が可能だ。

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ワイド端
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テレ端

やはり便利だった内蔵NDフィルター

スチル用カメラで動画撮影をする際、どうしてもNDフィルターの付け替えが必要になる。可変フィルタもあるのである程度の範囲内なら対応できるが、基本的にはNDフィルターの脱着は前提で考えなければならない。私がビデオカメラに魅力を感じる理由の1つが内蔵NDフィルターだった。今回使ってみてやはりとても便利だなと実感した。

XA70には回転式ターレット方式の独立3濃度NDフィルターが内蔵されている。多少背景をボカそうと絞りを開けて明るくなりすぎても、ボタン1つで対応できる。絞りの調整だけでなく、明るい場所と暗い場所の行き来が頻繁に起こる場合も圧倒的に楽だ。今後はNDフィルター内蔵のカメラでしか映像は撮影したくないとしみじみ感じた(笑)。

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ボタンを押すだけでNDフィルターが切り替わる
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※画像をクリックして拡大
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※画像をクリックして拡大

傾くEVF

XA70のEVFは上方に45°傾けることができる。スチル用カメラでも背面液晶がバリアングルなのは普通だが、EVFの角度が変えられるのはなかなかない。目線より下でカメラを構え、手ブレさせないようにホールドしたり、順光でLCDが見づらいような場合に、上から見下ろす角度でEVFが使えるのはとても助かる。

ただし、XA70のEVFは、LCDを閉じた状態でないと使えない。LCDをパタンと閉じるだけではあるのだが、開いたままでもセンサーなどで目を近づけると反応するようにしてもらえるとより助かると思った。

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4chオーディオ入力

XA70は高音質リニアPCM 4chに対応。XLR2ch、MIC端子2chもしくは内蔵マイクそれぞれで録音レベル、入力感度、リミッターなどの設定が可能だ。筆者が普段使っているRØDE Wireless Go IIも問題なく使えた。ワンオペで音声もという場合に安心な装備だ。

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手ぶれ補正

手ぶれ補正をオンにすると広角では結構揺れを抑えてくれる印象だ。ただし、歩きのような動きではどうしても残ってしまう。そういう場合は手ぶれ補正を「ダイナミック」にすると、画角は狭まるがかなり滑らかな映像になる。

また、手持ち状態で望遠気味で撮る際の大きめな手ぶれを抑制するための機能が「Powered IS」だ。ボタン(以下の2枚目の画像を参照)を押している間、揺れを抑制してくれる。パンやチルトなどカメラを動かす場合にはあまり効果はない。

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デュアルピクセルCMOS AF搭載

AFについては、挙動はR5のそれと同じような印象だ。激しい動きのテストなどはできなかったが、顔検出AFも搭載して普通に移動しているような動きでは問題なく追従した。

また、MFでピントを調整し、フォーカス位置が合焦位置に近づき合焦領域に入ると自動でAFが働く「AFブーストMF」や、人物の顔を検出した時のみAFが働き検出されないときはMFになることで、顔が一時的に隠れてまた現れるような時に便利な「フェイスオンリーAF」など、動画に特化した機能も搭載している。

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※画像をクリックして拡大

ビデオカメラの利点を体感

今回短い期間ではあったがXA70を試用して、ビデオカメラの利点が体感できたように思う。持った時のバランスや内蔵NDフィルター、382.5mmまでの望遠、4chオーディオなど、イベントの記録やドキュメンタリーの撮影では撮影者の負担を軽減してくれたり、コストを抑えるのに役立つと思う。

普段からビデオカメラを使っている方々にしてみれば当然のことばかりだと思うが、スチル用カメラから動画撮影を始める人は、選択肢の1つとしてビデオカメラでできることを実際に体験しておくことはとても大切だと思う。スチル用カメラとビデオカメラ両方を理解していれば、様々なシチュエーションでの撮影に対応できるだろう。今後はシネマカメラも含め、ビデオカメラも実務で使っていきたいと思う。

XA70/75は2022年11月中旬発売予定。

WRITER PROFILE

小池拓

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。