「気に入ったカメラで撮ったものが気に入っている編集ソフトで使えない。」クリエイターにとっては不幸なことだ。

現在(2023年1月)Final Cut ProではBlackmagic RAW(以下:BRAW)は使用できない(できなかった)。同社のカメラは高機能で低価格ととても魅力的なカメラを揃えている。

Blackmagic Design社Webより

中でも際立つのはBRAWでのRAWのサポートで、センサーで得た情報をハイビット、4:4:4のデータとして利用できる。しかも圧縮による低データレートで。

この魅力的なカメラを所有している、もしくは検討している方も多いだろう。しかし、その魅力であるBRAWがFinal Cut Proで使用できないことはFinal Cut Proユーザーとしては悲しいことだ。

選択肢が増える

そこに光がさした。「BRAW Toolbox」の登場だ。開発はLateNite Films社。Final Cut Proが好きな方は「CommandPostの開発元」といえば馴染みがあるかもしれない。

ある程度の割り切りは必要だが、Final Cut ProでのBRAWを使った編集が可能だ。また同ツールの機能と併用して、FCPXMLを通じてDaVinci Resolveへ編集データを渡すこともできる。つまりFinal Cut ProでのBRAWオフライン編集用途としても考えられている。高速な編集機能を持ったFinal Cut Proでオフラインをし、繊細でリッチなDaVinci Resolveで仕上げる。魅力的な流れだ。

BRAW Toolboxの紹介

※動作が確認できます。キャプションをオンにしてご覧ください。

事前情報

ちょっと情報を整理しよう。

BRAWのデータを利用できるソフトウェアはDaVinci Resolveを代表とし、Avid社、Adobe社、Grass Valley社、その他、とある。またBRAW SDKを公開しており、それらを利用したアプリ、ユーティリティがある。BRAW ToolboxもBRAW SDKを利用したものだ。Blackmagic Design社(以下:BMD社)の戦略的な手堅さを感じられる。

Final Cut Proの視点でみればBRAWへのチャレンジの歴史はある。BRAW Toolboxがでる前は一般的なムービーデータへ変換するユーティリティがあった。ただこの場合はBRAWの高品質な映像を受け止めるために、変換するムービーに元のBRAWの数倍のデータ量が必要だった。また変換の処理時間が必要だった。

そして、ついにそれらの問題から解放されたBRAWをそのまま扱えるBRAW Toolboxが登場したのだ。

BRAW ToolBoxができること

BRAW Toolboxを利用することで、BRAWのデータを変換することなくFinal Cut Proで利用することができる。画質に関してはBRAW SDKが生み出すものでBMD社品質だ。

もちろん、ディベイヤー時のパラメータも調整できるし、トーン、カラースペースの変換もできる。記録されたメタデータ、タイムコードもサポートされている。編集には問題はないだろう。

速度に関しては処理する内容の割には高速に動作する。もちろん、同じ環境ではDaVinci Resolveに劣る。

BRAW ToolBoxの仕組み

BRAW Toolboxはユーティリティであり、Final Cut Pro自体を強化するものではない。それゆえ、なんらかの「仕組み」がある。仕組みを見てみよう。持論では業務に携わるエディターは開発はできなくても良いが仕組みを知っておくべきだと思っている。これはトラブルに対応するためだ。

簡単に図にしてみた。

BRAW Toolboxの仕組み

BRAW SDKからFxPlugを利用して「エフェクト」としてBRAWのイメージを描く。

音声は単独のデータとして切り出される(この時に追加としてオーディオファイルが生成される)。これはフィルタ処理はオーディオを省くからだ。それをFCPの複合クリップ内で同期し、1つのクリップの体となる。

ここまでBRAW Toolboxで処理される。ちなみにこの形態になっても後処理でRAWパラメータの変更も可能だ。

Final Cut Pro内のパラメータ

実際のワークフローを想定した機能も用意されている。編集時には複合クリップを並べていくこととなるが、それ自体は問題ない。ただ懸念すべきことがある。それはFCPXMLでDaVinci Resolveに編集内容を渡す際だ。先のようにBRAWの箇所はエフェクトを含んだ複合クリップなので、正しくDaVinci Resolveに渡せない。そこでFCPXMLの内容を整理(FCPXMLに記載されている複合クリップの内容をBRAWファイルに置き換え)する機能も用意されている。

「Convert PROJECT to Resolve Friendly FCPXML」機能

動作が重い場合はデコード品質を下げて動作を快適にもできる。オフライン用途にはもってこいだ。

デコード品質の設定

まとめ

BRAW Toolboxは将来のバージョンでは、他のユーティリティのようにムービーデータへ変換する機能を搭載する予定だ。データ量がかさむ方法ではあるが、これはこれでメリットのある方法で、Final Cut Proのnclcを使ったカラーマネージメントを適用させることができるだろう。

BRAW Toolboxはクリエイターを不条理な縛りから解き放ってくれるだろう。「気に入ったカメラで撮ったものを気に入っている編集ソフトで使う」それだけのこと。それを叶えてくれる。

※記載内容はベータバージョンでの評価

BRAW Toolboxの作者へのインタビュー

  • 筆者=私、高信
  • 作者=BRAW Toolboxの作者(Chris Hocking氏)

筆者:

ご自身とあなたの会社について教えていただけますか?

作者:

こんにちは。私は、CommandPost、BRAW Toolbox、Gyroflow Toolboxの開発者であるChris Hockingです。オーストラリアのメルボルンを拠点に、映画・テレビ制作会社であるLateNite Filmsの共同設立者です。
BBCの子供番組でアニマトロニクスの操作と修理を始めた後、ライブプロダクションの照明デザインとテクニカルプロダクションマネージメントに移りました。モスクワサーカスの南アフリカと台湾でのツアーの照明デザイナーや、ソニーミュージックの国内外の大物アーティストの照明など、本当に楽しい仕事をさせてもらいました。
また、メルボルンの受賞歴のある編集会社The Butcheryと仕上げ会社The Refineryでポストプロダクションスーパーバイザーとして、何千ものハイエンドコマーシャル、いくつかのショートフィルム、長編映画、ドキュメンタリーを監督したこともあります。
LateNite Filmsでは、SBS2のシリーズ「The Wizards of Aus」のシリーズプロデューサー、Foxtelのミニシリーズ「Lamb of God」のメルボルンベースのおとぎ話ユニットの共同プロデューサー、Peking Duk、Cosmo’s Midnight、Rufus du Sol、American Doubles、Casey DonovanやGuy Pearceなどのアーティストのミュージックビデオを共同プロデュースしています。
ミュージックビデオを水中で撮影したり、スタントパフォーマーを崖から投げ落としたり、ストップモーションの骸骨を実写の短編映画の主役にしたり、毎日いろいろなことをしています。編集とサウンドデザインの実績も多数あります。
Fremantle Australiaの「Neighbours-Erinsborough High」スピンオフシリーズは、Final Cut Pro Xで編集、グレーディング、サウンドミキシングを担当しました。

筆者:

なぜBRAW Toolboxを作ろうと思われたのですか?

作者:

「Color Finale Transcoder」は、BRAWファイルをProResに迅速かつ簡単に変換することができ、すべてにおいて非常に洗練されたWorkflow Extensionを経由しています。これは素晴らしいアプリケーションで、購入を強くお勧めします。
また、素晴らしい「EditReady」もあります。パワーと豊富なコントロールでBRAWをProResに変換することができます。これもまた、購入されることをお勧めします。
しかし、映像をトランスコードすることの問題は、余分な時間と余分なストレージを必要とすることです。
Final Cut Proのハードコアユーザーである私たちは、クライアントから2~4TB相当のBRAW映像が入ったSSDを渡されます。そのためFinal Cut Proで編集を始めるにはProResに変換しなければならないことに不満を感じていました。
私たちはDaVinci Resolveを気に入って使っていますが、Final Cut Proは多くの理由から私たちが選んだ編集ツールなので、BRAWファイルにネイティブでアクセスできるソリューションが欲しかったのです。
どういうわけか、AppleはBRAWのサポートを優先順位付けしておらず、BlackmagicがFinal Cut ProにBRAWサポートを実装するのを手助けする気もないようです。
BRAW ToolboxによってBRAWファイルを直接Final Cut Proに読み込み、RAWをフルコントロールし、すべてのカメラのメタデータにアクセスできるようになりました。

筆者:

次はどんなものを作ろうと考えられていますか?

作者:

BRAW ToolboxとGyroflow Toolboxの成功次第では、CommandPostの拡張と改善を続けるだけでなく、CommandPostよりニッチな"Toolbox"(Sony Timecode Repairなど)を、独自のワークフロー拡張を持つ独立したアプリに「スピンオフ」させたいと考えています。また、OpenAIのWhisperやChatGPTのような技術を使って、編集者の生活をどのように楽にできるのか、とても興味があります。

筆者:

ありがとうございました。

筆者補足

BRAW Toolboxは公開された初期から見させていただいているが、自分たちの使用を前提としているためか、初期の頃から実用性の高いものであった。実装する機能のアイディアも現場での経験によるものからと思うが、素晴らしいものだ。

BRAW Toolbox:2023年1月末にはMac App Storeでの販売を目指しており、最初の1週間は$39.99、2023年2月13日以降は$79.99で販売されるとのこと。

CommandPost:コアなFinal Cut Proユーザーに人気のユーティリティ。多数の機能拡張のほか、FCPの隠された機能を有効にします。

Gyroflow Toolbox:カメラ内や外部センサーのジャイロ情報をもとにGyoflowで修正した手ぶれデータをFCPに適用するツールです。

WRITER PROFILE

高信行秀

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。