■希望小売価格:オープン(市場想定価格)
V-AF 24mm T1.9 FE:税込103,950円
V-AF 35mm T1.9 FE:税込102,850円
V-AF 75mm T1.9 FE:税込102,850円
ソニーFEマウントの小型軽量なAF式シネレンズが登場
サイズと重さ、フィルター径が統一された、Samyangの本格的なシネマ単焦点レンズ「V-AF T1.9(以下:V-AF)」シリーズが、2023年4月21日にケンコートキナーから発売になる。単なる動画用単焦点レンズではなく、映画で必要とされる操作や描写の統一性を備えている。
絞り開放値がT1.9(F1.8相当)と非常に明るいが、重量はわずか280g(今回リリースされた3本とも同じ重量)で、外径は直径も高さも約72mmと非常にコンパクトだ。焦点距離は24mm、35mm、75mmが発売される。今後、20mmと45mmも発売される予定だ。
メーカー発表時の仕様、概要はこちらをご参照いただきたい。
V-AFシリーズはソニーEマウントで、フルサイズセンサーでもAPS-Cセンサーでも使うことができる。シリーズの焦点距離ラインナップは今後の発売予定を含めると20mm、24mm、35mm、45mm、75mmの5本。映画での使い方で考えると、フルサイズなら最初に24mm、35mmか45mm、75mm、を選ぶと良いのではないだろうか。
APS-Cなら20mm(30mm相当)、35mm(52mm相当)、75mm(105mm相当)が妥当なところか。現在の5本のラインナップで考えると、APS-Cで使うのが表現の幅が広いと考えるべきかもしれない。
いずれにせよ、映画で多用される焦点距離がラインナップされているので、まずは発売される3本から揃えるのがいいだろう。
シネマ用に開発されたAF。とても上品なピント合わせが行われる
シネレンズはこれまでMFしかなかったと言っても良いが、このV-AFは非常に静かで滑らかなAFを搭載している。スチル用レンズのAFは高速さを重視した設計となっているが、同レンズは動画での滑らかなピント合わせをAFでも実現している。筆者が使ってみた印象としては、非常に滑らかで「AFを感じさせないAF」。静かにAFが動き始め、知らないうちに止まっているような印象だ。
映画制作ではMFで様々な表現をすることが多いが、その一方でAFに任せてカメラワークに専念したいことも多い。そのような場合、MFの人間っぽいピント合わせと、これまでのスチル用AFの違いで違和感が出ることもあったが、このレンズのAFは人の温かみを感じさせてくれた。この感じは、ぜひ、実機を触ってみて確認してみてほしい。
また、別売りのパソコンとの接続キットを使うことで、フォーカス速度の微細なカスタマイズも可能であり、プロのニーズに応えるフォーカスシステムだと言える。
前述したように3本とも全く同じ大きさ重さで作られており、AF動作による重心の変化もほぼない。ドローンやジンバルへの搭載を前提にチューニングされているとメーカーでは説明しているが、筆者のようにリグにカメラを組んでマットボックスなどを使うシネマ製作者にも、全く同じ外径は非常にありがたい。
また、非常にコンパクトで軽いということは、ワンマンオペレーションの小規模な映像作品の制作でも高いアドバンテージになるはずだ。映画で必要な広角、標準、中望遠の3本をセットで持ち歩いても840gしかない。もちろん、フィルター径も統一されているので、周辺機材も最小限に収まる。
筆者はあと数年で還暦となるが、ベテランカメラマンの常用レンズとしても、この軽さ、コンパクトさは魅力的に映るはずだ。事実、筆者は、同レンズシリーズだけで仕事をしたいと思っている。同日に発売になるソニーのZV-E1と組み合わせれば、世界最小のシネマセットになるのではないだろうか。
メーカーサイトには、各レンズのブリージング量が公開されている。1mから無限遠に変えた時の像の拡大率が示されるが(下欄参照)、広角の2本はほぼブリージングがゼロで、実際に映画でよく使う構図で撮影しても、ブリージングは全く感じられない。75mmは11.7%と数値的には大きく見えるが、1mから無限までピントを動かすことは稀で、よく使う1mから2mへフォーカスを送った感じでは、ブリージングは全く気にならない。さすがシネマレンズである。
豊かな発色と落ち着いた画質。背景の美しさはさすがシネレンズだ
画質は、シネマレンズに恥じないレベルにある。ピント面のキレの良さは、おそらくスチルレンズしか使ったことがない人には驚きとなるだろう。
ちなみに、映画で必要なレンズというのは、主要被写体(主に役者)へ自然と注意が向けられるような、ピントが合っている部分が浮かび上がる描写力だ。これを現場では『キレがいい』というが、技術的にいうとピント面の解像力の高さを指す。ピント面の解像力を上げると、実は背景のフリンジが強くなるのだが、スチルレンズはこれを嫌って、レンズ枚数を増やして補正するか、ピント面の解像力を落としてフリンジを小さくするなどの対策が行われる。
高価なレンズは前者の「レンズ枚数を増やすこと」で画質を上げるのだが、そのためにレンズが大きく重く、価格も上がってしまう。さらに、背景に補正した影響が出て不自然になりがちだ。2線ボケや年輪状の玉ボケとして現れるわけだ。
背景の補正まで気を配っているのがソニーではGMレンズということになるが、非常に大きく、また、レンズごとに味(発色は背景の感じ)が異なるために、GMの単焦点レンズで映画を撮るのは、ポスプロでの手間を増やすことになりがちだ。また、レンズ枚数が増えた結果、発色が不自然になる傾向が出てしまう。
一方のピント面の解像力を落として全体のバランスを取る方法が、かつての廉価版のレンズでは用いられるが、映画ではキレの悪い画質となってしまう。最近のレンズは安くても高機能レンズを組み込むことでピント面が甘いものはほぼないので、映画でも使いやすくなったが、その一方で、高機能レンズの弊害としての背景ボケの不自然さが目立つ。
いずれにせよ、高機能レンズや補正レンズを多用せずにピント面の解像力を維持すると、背景にフリンジが強目に現れる傾向があるのだが、それをどこまで和らげて背景を自然に見せるかがメーカーごとの味付けになる。
Samyangは低価格レンズのメーカーと言われることが多いが、一貫して発色や背景描写が美しいレンズを作っていると筆者は思っている。極端な言い方をすればSamyangらしい描写というべきなぐらい、統一された発色や解像感を持っている。その技術がこのレンズにも搭載されている。
レンズ交換したことに気づかれない。統一された画質はシネマに必要な性能
Samyangの画質を筆者が言葉にするとしたら、「アジアの空気を感じさせる」「優しい落ち着いた発色」「それでいて深みのある色」「ピント面の美しさ」「背景ボケの自然さ」だと思う。
V-AFは、描写の統一性を高めており、レンズ交換したことを観客に気づかせないだろう。このあたり、ビデオグラファーにはピンとこないかもしれない。映画の中では、同じ部屋では同じ発色、背景の感じでないと、画角を変えただけなのに場所や時間が変わってしまったような印象になってしまう。それを避けるために、映画では焦点距離が変わっても同じ視線(レンズ)で見ているように映像を整えなければならない。
通常はポスプロで画質の統一性を整えるわけだが、同じシリーズのシネレンズを使えばその手間がなくなる。絞り値のT表示もこのために採用されている。F値はレンズ口径と絞り面積の比で、T値は実際にレンズを通過する光の減衰比だ。つまり、同じF1.8でも鏡筒の長いレンズと短いレンズでは通過する光量が違うために、F値が同じでも明るさが異なってしまう。つまり、F値で撮影する場合には、レンズを変えるたびに光の通過量を考慮して設定し直さなければならない。
一方、T値はそのレンズの光の通過量なので、レンズが変わっても同じT値なら同じ明るさになる。
V-AFはT値で明るさが統一されているので、厳密な露出管理が可能になる。
α7Cが最新のシネマカメラに見えてしまう。レンズ性能がカメラの良さを引き出す
実際に撮ってみた印象では、Log撮影して画質調整をしたかのような、撮って出しがフィルムルックに見える。今回は、α7Cで作例を撮ったのだが、とにかくシネマカメラになったかのような劇的な描写の面白さ・美しさに驚かされた。
レンズ自体は非常に素直で、それほど派手な発色や強い解像感があるわけではないが、オールドレンズのような柔らかさがある一方で、非常に高いピント面の解像感があった。
逆光によるフレアやゴーストも皆無で、強い光源を撮影しても、光源の周りにフレアも出ないし、斜め方向からレンズに光を当ててもフレアによるコントラスト低下も感じられないし、ゴーストも出ない。
まぁ、映画の場合は、フレアやゴーストをあえて出したいこともあるので、その場合には、このレンズは使えない。そのくらい、高性能なレンズだと言える。
電気接点付きアクセサリーマウント、シネマ仕様のMFユニットなどが今後登場の予定。
V-AFのもう1つの特徴は、レンズ前方と側面にタリーランプがあることと、レンズ前面がアタッチメント取り付けができるマウントになっていることだ。
タリーは通常が青、録画時が赤に点灯する。ミラーレスカメラにはタリーがない製品が多いため、このタリーは非常に助かる。タリーは主にカメラマン以外に録画中であることを伝えるものなので、この仕様は非常にありがたい。
また、この独自マウントには電気接点があり、シネマ仕様のMFユニットが付けられる。シネマでは業界標準になっている0.8ピッチのギアに対応しており、一般的なフォローフォーカスに対応している。
また、同社からはレンズマウント部で支える独自のフォローフォーカスセットとなる『シネキット』が出されており、V-AFでも使うことができる。レンズ自体をマウントするというユニークな仕様で、レンズ交換を行うには、このセットからカメラとレンズの両方を切り離す必要があって、これまでの映画制作の流れと違う。だが、これからの縦位置・横位置混在の撮影では、フォローフォーカスを分解や調整することなく、縦横の切り替えがあっという間に行える。レンズ交換には一手間だが、縦位置が調整不要ですぐに撮影開始できるのは、非常にありがたかった。
レンズ名 | V-AF 24mm T1.9 | V-AF 35mm T1.9 | V-AF 75mm T1.9 |
レンズ名 | V-AF 24mm T1.9 | V-AF 35mm T1.9 | V-AF 75mm T1.9 |
開放T値 | T1.9 | T1.9 | T1.9 |
イメージサークル | Φ43.3mm | Φ43.3mm | Φ43.3mm |
画角(フルフレーム) | 83.7° | 63.6° | 32.9° |
画角(スーパー35) | 60.9° | 43.8° | 21.9° |
最短撮影距離 | 0.19m | 0.29m | 0.69m |
フォーカスブリージング(∞~1m) | 0.7% | 3.1% | 11.7% |
フロント部直径 | 70mm | 70mm | 70mm |
フィルター径 | 58mm | 58mm | 58mm |
絞り羽根枚数 | 9枚 | 9枚 | 9枚 |
フォーカスリング回転角 | 300° | 300° | 300° |
サイズ | Φ72.2×72.1mm | Φ72.2×72.1mm | Φ72.2×72.1mm |
重量 | 280g | 280g | 280g |