TASCAM「CA-XLR2d」というXLRマイクアダプターを試用する機会があったので、今回は普段からミラーレス一眼、主にLUMIX GH6やS5IIを業務で使っているユーザーの立場から、この製品の特徴や使用感などを書いてみたいと思う。この製品のターゲットは概ねXLR端子を持たないミラーレス一眼ユーザーだと認識している。取り付けることでXLRでの音声入力が可能になるとともに、業務仕様での音声操作が可能になる。
ただ、そもそもLUMIXにはDMW-XLR1という純正のXLRマイクアダプターがある(自分もすでに所有している)。そこであえてCA-XLR2dをチョイスすることがあるのか?と思う方もいるかもしれないが、その辺りも含め、この製品の特徴や使ってみた感想を書いてみたいと思う。
そそるデザインと業務仕様の機能性
機能がどうこうの前に、ミラーレス一眼に装着した時の姿がそそる。LUMIX純正のDMW-XLR1と比較すると一回り大きいが、その分一つ一つの機能の視認性も良く、業務ユーザーであればパっと見て理解できる。一方でCA-XLR2dは全部で3種類あり、他の2種類はマルチホットシュー接続のタイプだが、いずれもLUMIX機種のホットシューと互換性がないため、今回は「CA-XLR2d-AN」という3.5mmミニプラグケーブルでMIC入力するものを使用した。
CA-XLR2d-ANに設けられているスイッチやツマミ、機能面は概ねDMW-XLR1と同じ。LINE/MICの切り替え、ファンタム電源(+48V)のON/OFF、リミッターのON/OFFもある。
違いはアッテネーターやLOW CUTの値、また1+2 LINKのON/OFFスイッチがある部分。もっともアッテネーター値に関しては定位をどこに置くかだと思うので、3ポジションで出力レベルを変更できるという意味ではDMW-XLR1と同じだ。特にアナログ出力の場合、各カメラのMIC入力とのインピーダンスを合わせるためにアッテネーターの設定が役立つ。
SELECTスイッチをIN1にした場合、INPUT 1(XLR)の音が1ch(L)/2ch(R)の両方に出力されるが、1+2 LINKのスイッチをOFFにすれば、1ch/2chの音声ツマミを独立して設定可能だ。例えばバックアップの意味で、同じ音声を別々のレベルで同時収録しておくことや、一方をAUTOレベルで撮っておく、といった業務の現場でよくある操作が可能になる。なおLUMIX純正のDMW-XLR1にはこの機能はない。
XLR端子はコンボジャックになっており、その横にミニプラグによるINPUT 3が存在した。ただXLR入力とは排他仕様で、SELECTスイッチをIN3に設定した段階で完全にミニプラグ側の入力に切り替わる。プラグインパワー対応とのことだが、INPUT 1/2/3すべてをMIXして出力できる機能があれば、なお良かったかもしれない。
標準でショックマウント付きマイクホルダーが備わっている部分はいい。ケーブル固定用のツメもDMW-XLR1が並列2本なのに対しCA-XLR2d-ANはL字に独立して2本分のツメがあるので固定しやすい。音響機材を長らく扱っているメーカーだけあって細部において製品の完成度は高い。
LUMIX GH6で試す
カメラはLUMIX GH6、マイクはゼンハイザーMKE 600をチョイスし、さっそくテストしてみた。最初に少し戸惑ったのは、CA-XLR2d-ANとGH6とのレベル取りだ。MKE 600の場合、ATT(アッテネーター)が0の状態でGH6に入力すると、MICレベルだと完全にオーバー、もちろんLINEレベルだと低すぎる、という状態。
結果的に、GH6側の入力をMICレベルに戻した上で、録音レベルを最低の-18dBに設定し、CA-XLR2d-AN側はATTを20dbに設定するのがベストであった。特にアナログケーブルでの接続の場合、気になるのはベースノイズだが、カメラ側の入力レベルを最低にしておくことで、ベースノイズをできるだけ抑え込むことができる。
ところでCA-XLR2dの他の2モデルに関しては、カメラのホットシューから電源を供給できるが(一部できないカメラもある)、CA-XLR2d-ANに関しては単三電池2本で駆動する。LUMIX GH6はUSB-PDでの給電に対応しているため、その電源が利用できないのは業務の現場では少し痛い。駆動時間は条件にもよるが、ファンタム電源使用時で3~4時間、使用なしで6.5時間ということなので、長回しの現場には厳しいかもしれない。基本は途中で電池交換できる現場での運用となるだろう。
そもそも、なぜ純正のDMW-XLR1があるのに、あえてCA-XLR2d-ANを使ってみたいと思ったかと言えば、実は現場で何度かDMW-XLR1の接続エラーを経験したことによる。普段からホットシューをむき出しに運用していた自分が悪いのだが、シューの電子接点が不安定になっていたようだ。市販のアルコールタイプのクリーニングシートで念入りに拭きあげたら通信が正常になったのだが、バタついた現場ではそこまで手が回らないことがある。
またホットシューは別の用途でも結構使うので、シューカバーをいちいち被せていられない。ならば3.5mmミニプラグのケーブルでMIC入力に入れてしまったほうが気軽で確実かもしれない、と思ったからだ。
DMW-XLR1と比較してどうか?
DMW-XLR1はケーブルを介さない分、CA-XLR2d-ANより音質は当然いいだろうとイメージしていたが、実際に検証してみた結果、音質の差は自分のレベルではほぼわからなかった。むしろベースノイズはDMW-XLR1が若干気になる聞こえ方かもしれない。シャリシャリとしているというか、そんな感じだ。CA-XLR2d-ANのベースノイズのほうが若干柔らかい感じがした。とはいえ音の感じ方は個人差もあると思うので、実際の比較映像を掲載しておく。なお、使ったマイクは共にゼンハイザーMKE 600、互いにレベルを揃えてGH6で4ch同時収録した。
いかがだろうか?背景ノイズ含め大差ないように思える。重要なのは先述した通り、カメラ側のMIC入力レベルを最低で固定しておく部分だ。その上でボリューム調整は基本CA-XLR2d-AN側で行う。
またリミッターの効き具合も比較してみた。マイクに少しい近づいて、数回叫んでみたり、手を叩いてみて検証した。初回にDMW-XLR1の「ALC」、CA-XLR2d-ANの「LIMITER」を共にONにして聴き比べてみたが、DMW-XLR1に比べCA-XLR2d-ANはリミッターの範囲を超えてしまっている雰囲気があった。
おそらくCA-XLR2d-AN「LIMITER」はレベルをAUTOにした場合に効果をより体感できるのかもしれない。そこで、CA-XLR2d-AN側の「LIMITER」をOFFに戻し、GH6メニュー内の「録音レベルリミッター」をONにして再度試したら、かなり強めのリミッターが効き、両者ともほぼ同じ波形を描いた。CA-XLR2d-ANの場合、マニュアル時に大きくリミッターを効かせたい時はGH6側で効かせるほうが良いかもしれない。
補足までだが、各機器のリミッターの効き具合はユーザーが変更できないので、現場レベルでそれぞれチョイスする必要があるだろう。もっとも自分の場合は概ね音声スタッフから受けた音を収録することが多いので、リミッターをONにするとしたら、保険でガンマイク等を付けてレベルオートにした時くらいだ。
DMW-XLR1とCA-XLR2d-AN同時使用で、XLR4ch入力が可能に
LUMIX GH6や最近発売されたS5II(X)は、DMW-XLR1を装着すると4ch収録が可能になるが、3ch/4chにいたってはカメラ内蔵マイクかミニプラグ入力となる。そこで、CA-XLR2d-ANをカメラのMIC入力に接続することで、4chともにXLR受けができる。
XLRユニットがカメラの上に2つ乗っている姿はかなりインパクトがあるが、業務の現場では有効なセットアップと感じる。特に音声スタッフのミキサーから渡される音声出力や、会場LINEからの音声をカメラに集約したい場合がある。全4チャンネルに対し、いちいちカメラ設定に潜らずに業務レベルの操作が物理ボタンやツマミで操作できるのは嬉しい。メニュー構成や配置が2機種とも似通っているので迷いもない。
専用ホットシューに縛られない自由度
DMW-XLR1の場合、カメラのホットシュー以外での設置ができない不便さはあった。特にケージやリグを組む方は苦労していたに違いない。トップハンドルは付けられないわけではないが、DMW-XLR1の上にハンドルを持ってくる必要がありバランスも悪い。その点CA-XLR2d-ANであれば設置の自由度は高く、ケージやハンドル部など、どこでも取り付けられる。特にトップハンドルの先に取り付ければ、業務用カムコーダーライクの使い勝手になる。
SGIMA fpで使ってみる
Lマウントユーザーでもある自分はSIGMA fpも所有している。そこでさっそくCA-XLR2d-ANを付けてみたが、このセットアップは機材好きにはたまらないだろう。
ただ実際の運用面から考えると難点はある。そもそもSIGMA fpには単体でヘッドフォンジャックがない。またCA-XLR2dのミニプラグ出力はヘッドフォン出力とMIC出力を兼ねているので(スイッチで切り替え)、基本ここはSIGMA fpへの出力に使うことになる。つまりこの状態だと収録時の音声モニタリングができない。
方法としては、SIGMA fp純正の電子ビューファインダーEVF-11や、市販のフィールドモニター等のヘッドフォンジャックを利用するなどが考えられるが、マウントするためのケージが必要になるなど、いよいよ本格的になりそうだったので、今回は遊ぶ程度で終わりにした。ただ本格的にSIGMA fpを業務用途で使う場合は面白い組み合わせになりそうだ。
総括
昨今、ミラーレス一眼を動画機として業務の現場で使う場面は劇的に増えた。業務視点から見ると映像端子はSDI、音声端子はXLRというのが理想的だ。CA-XLR2dシリーズはそんなユーザーのニーズを見据えた製品と感じる。特に今回紹介したCA-XLR2d-ANはミニプラグケーブルによるMIC入力タイプなので、専用端子を必要とせず、基本的にMIC入力のあるカメラであれば機種を選ばず使えるだろう。ケージやリグを組む際の設置の自由度も高い。XLR入力に加え、手元で専用スイッチを操作できる快適性は業務では欠かせない。
しかしながらLUMIXユーザー、特にGH5以降のユーザーはDMW-XLR1の存在があり、あえてCA-XLR2d-ANをチョイスする、というのはニッチなことかもしれない。ケーブル接続に加えて市場価格もCA-XLR2d-ANのほうが高いではないか?という見え方もする。
自分のようにDMW-XLR1のホットシュー接続での通信エラーを数回経験している方であれば、もしかしたらミニプラグ接続のほうがインスタントで確実ではないか?という印象はあるかもしれない。今回検証した限りでは音質的にも不安がなく、時にDMW-XLR1と同等かそれ以上の働きをしてくれる。
また、GH6やS5II(X)といった4ch収録可能なLUMIX機種をフルに活かす意味でも、CA-XLR2d-ANを使えば、小型のミラーレスがXLR4ch収録可能な業務用カムコーダーに仕上がる。
一方で、CA-XLR2d-ANは他のモデルと違い、基本的に単三電池運用というのは状況により注意しなければならない点だ。テストでじっくり使っていた際(テスト時はファンタム電源ON)、比較的早い段階で電池残量を示すLEDが点滅を始める印象があった。例えばUSB-PDに対応した外部電源ユニットなどがあれば運用の幅は広がるかもしれない。
またCA-XLR2d-ANに限ったことだが、仕様上、出力が1系統しかないので、使うカメラによっては収録時のモニタリングが課題になる。個人的にINPUT 3の必要性をさほど感じないので、ここをヘッドフォン出力に切り替えることができたら良かったかもしれない。
さらに希望を言えば、CA-XLR2d自体にSDカードスロットがあり、昨今話題になっている32bit floatでの音声収録が、このユニット自体でできたら神デバイスになる予感がある。タイムコードシンクロやRECトリガーに対応したら、など、モノ自体がいい仕上がりなだけに、欲もキリないほど出てきてしまう。
とはいえ、特別な端子をもたないミラーレス一眼を業務の現場で使っている方はまだまだいるだろう。LUMIXで言えばGH4以前の機種など現場で根強く頑張っているカメラもある。CA-XLR2dはミラーレス一眼を業務用カムコーダーのように使いこなすという意味では、ポイントを突いたとてもユニークな製品である。