ソニーのレビューもだいぶやってきたが、今回のテストは志願した口なので、手元に届くのが楽しみであった。と言うのも、発売されたばかりの「α7CR」(次号でレビュー)をどうしても実用レベルでテストしたく…、となると同時期に発売されたこの「FE 16-35mm F2.8 GM II」との組み合わせで撮りたくなるのは必然であろう。その理由はα7CRのレビューで詳しく述べることにする。
FE 16-35mm F2.8 GM IIは言うまでもなく、ソニーが発売しているレンズでトップに位置する「G MASTER」シリーズの新作だ。いわゆるオーナーレビューで星がいっぱい付く、折り紙つきのレンズである。皆さんも購入する前のチェックで必ずと言っていいほど星の数を確認するはずだ。大手量販店の旗艦店などに足を運ばなければ、普通は実機をなかなか試せないので、この星の数はかなり参考にしていると思う。ただサイトによってはやらせもあるので注意されたし。
16-35mmのズームレンジは、広角好きにとってはとても使いやすい。定番的にどのメーカー、グレードでも出している。ただ超広角の場合、中心から周辺に向けてどんどん画質の劣化が起きてくる。色の滲みや画の歪みなど、明らかに中心部との鮮明さとは違うものが見えてしまう。収差問題である。超広角で撮影した時に一番端っこの人はやたら太って見えたり、違う人の顔に見えるくらい肥大化していたり、電信柱が斜めに立っていたりするのが収差のイタズラである。
その劣化をいかにして少なくするのかがメーカーのチャレンジであり、戦いである。映像の隅々まで中心部と同じクオリティが表現されたら究極のレンズではないだろうか。
今回はプロらしくMTF曲線から講釈を述べたいと思う。と書きながら、今まで述べてこなかったのがプロらしくなくなってしまっているのだが…
MTF曲線
この見方を簡単に言ってしまうと、右肩下がりにならず、コントラスト(%)が高位置でフラットに近くなればなるほど周辺での画像の劣化が抑えられているということだ。10本/mmのカーブが100に近いほどコントラストの再現性がよく、ヌケの良いレンズとなる。一方、30本/mmのカーブが100に近いほど解像性のよいシャープなレンズと言える。
データ上で驚くことはズームレンズなのにコントラストが非常に高い位置でキープできている点だろう。ズームレンズはレンズが移動するので単眼に比べて画質が劣ると言われている。何枚ものレンズを組み合わせてクオリティを上げていくのだから、当たり前と言えば当たり前である。レンズが移動した分それぞれで最適点を見つけなくてはならず、16mmから35mmを同じ状態にすることの難しさがやはり存在する。想像するに、開発者の方々は相当な苦労をされているだろうと思う。妥協したくないのがモノ作りの特性なので、なかなかのジレンマだ。
他のレンズとのMFT曲線の比較もしたいところだが、それだけでこの記事が終わってしまうので、それぞれで気になるレンズを調べていただき比べてみたら面白いかもしれない。
ただ初代「FE 16-35mm F2.8 GM」との比較だけはしておこう。MTF曲線上でも明らかに性能が上がっていることが見て取れる。特に端側での向上がハッキリしている。
そして何よりも、このMFT曲線だけでレンズが評価されるのではないと言うことも付け加えておく。データはデータであり、最終的にはどう見えるか(見せたいか)が大切なポイントなので、そこは一つの情報として捉えてほしい。実際、安く曲線上ではあまりよろしくないレンズでも、グッと気持ちを持っていかれることもある。オールドレンズなどはその類ではないだろうか。
独立した絞りリング
講釈ばかりを書いてもと思うので、実際にテストしてみてこのレンズの推しポイントはズバリ、マニュアル絞りリング、静かなAFのモーター音、解像度、そして約20%軽量化した重さであろう。
まずは絞りリングから入るが、勝手にマニュアルを付けてしまいたいぐらい欲しかった機能である。AFがまだなかった頃のオールドレンズは絞りリングが独立しているのが当たり前で、それがなければ一つのF値で固定しなければならない。最近の電子的なコントロールをされているAFレンズでは、カメラに装着してスイッチをONにしないと絞りの動きはチェックできないので、レンズだけを覗き込んでいると絞りが固定化されているように見えてしまうかもしれないが。
で、その絞りリングがある/ないの違いはと言えば、圧倒的に操作性が良くなると言うことだ。それはスチル撮影の時でも同じだが、構えてしまった時に本体側のダイヤルを指先で探すのに意外とタイムラグが発生してしまう。カメラ側に馴れると解消されてくるが、それでも咄嗟の時にはダイヤルがどれだっけ?みたいにあたふたする時も。ましてやテストなどで使ったことがないカメラに持ち替えた時など、頭の整理から入らないとならない。それがレンズ側で処理できるとなると、どのカメラでも操作のおさらいをすることなく撮影に集中できる。
シネマレンズはフォーカス、アイリス(絞り)、ズームレンズであればズームのマニュアルダイヤルは当たり前だが、スチル仕様になるとイージーさを求められるのか、ダイヤルが少なくなっていっている。デザイン的にもギザギザがなくなるので、美しい造形を追求しやすいのだが、懐古主義とかではなく、やはり絞りリングは筆者にとって非常にありがたいものである。
変な話だが、最近はマニュアル車の人気が高まってきているところもマーケティング的には気にした方が良いかもしれない。ちなみに初代の「FE 16-35mm F2.8 GM」には絞りリングがなかったことは記しておく。
このレンズの絞りリングの絞り(羽根)の動きは電子的に操作されているのだろう。リングの回転と羽根の動きはリニアに反応せず、若干遅れて動き出す。よってレンズ単体で絞りリングを回しても羽根は動かない。となると、メンテナンスの時はどうやるのだろうと思ってしまった。
そしてこの羽根にも特徴がある。真円に近い形になるように11枚の羽根で構成されている。コストを掛けないようにするにはどうしても、円に近づけた角のある◯角形ということになってしまうが、光の入り方が真円とは変わるので、ボケやフレア玉に影響が出てくる。より滑らかなボケ玉を期待するならやはり真円に近ければ近いほど良い。その面からもかなり力を入れているのだろう。
さらに「これは良い」というポイントが、絞りリングがクリックON/OFFの切り換えが可能なところだ。クリック"ON"の時は目盛り毎にカチッと正確にストップする。"OFF"の時は無段階で絞りの調節ができるのだ。F値などのセッティング状況を他シーンと合わせていく場合は"ON"で、モニターを通して直感的に微細に好みの露出にこだわりたい時は"OFF"に。この使い分けがしっかりできるのは細かいことだが非常にありがたい機能である。
昔のカメラではF値を決めた後に、どうしても一段までは変えたくないが、もう少し調整したい場合に露出補正ダイヤルで調整していた。"+1、+2、-1、-2"と書いてあるダイヤルである。1/3段ずつ調整ができるので、細かくやっていた方も多いが、それが無段階でできると考えてもらえればよい。特に今はモニター越しにゼブラやヒストグラムを見ながら、自分の好みで露出点を直感的に決めていくことも多いので、無段階調整は使いやすさや表現の幅を広げてくれる。
また絞りリングの誤操作を防ぐ「アイリスロックスイッチ」がよく考えられている。「ロック有効」時には撮影中不用意に絞り値が変わってしまわないよう「A(オート露出)」ポジションに固定もしくは「F2.8」から「F22」の間で動かすことになる。一方、「ロック無効」時には「A」から「F2.8」の間で絞りリングをシームレスに動かすことができる機械的なロックである。
つまり意図せずに回し過ぎてしまって、オート露出になり急激に露出が変化するのを抑えることができるのだ。絞り一段(絞りの目盛り一つ分)の変化は嫌だが何とかリカバリできる。しかしオートの補正で数段の露出変化がもたらされてしまったら、ちょっと厄介になる。肘が何かに当たってしまって誤作動するということはあるので、細かい配慮だがありがたい機能である。
細かい点だが、フォーカスホールドボタンが二箇所になったのも細かい配慮というか、使いやすい。撮影時の態勢によっては手首が捩れる時もあるのだが、フォーカスホールドボタンに限らず90°ズレていたらと思う操作感はいろいろある。特筆すべきでもないが、使い手への配慮を考えたこういう機能は増やしていってもらいたい。
圧倒的に静かなモーター
とにかく焦点モーターが静かである。スチル撮影なら全く気にする必要のない高級機能の一つになってしまうが、動画撮影となるとポイントが異なる。前にも書いているが、しっかりとスタッフが確保できる現場では音声スタッフがいるので気にしないで済むが、ワンオペの動画撮影の場合、カメラ本体もしくは組んだリグにマイクを直付けする。
振動音を拾わないようにショックマウントを緩衝材としたとしても、レンズの焦点音はどうにもならない。衝撃音は静かに穏やかに振り回しをすることで解消できるが、メカニカルノイズは自己努力ではどうにもならない。どんなに慎重に取り回しても、その動作とは関係のない発生源なのでやっかいである。
AFレンズだけれどもマニュアルでのフォーカスを行うのも、その理由も一つある。ただジンバルに乗せてしまった時には、マニュアルでの操作ができない。このようにセッティング状況が非常に限られるシチュエーションで、残念な結果を悔んだことが何回あっただろうか。
現場でピンマイクを付けたり、音声スタッフがいれば別撮りした音からリカバリできるのでそれほど気にしないであろう。ただドキュメンタリー現場ではなかなかそうもいかない。実景だけの撮影であれば尚更である。収録しておきたい環境音に焦点モーターの音が混じってしまう。
また咄嗟の状況でいきなりカメラを回さなくてはならない時はピンマイクを付けられなかったり、予算的に音声スタッフをお願いできないのがほとんどなので、リカバリできない状況もあることを考えたら、いかにリスクを軽減するか、の視点からもモーター音が静かというのは特筆すべきことなのだ。
実際に撮影した映像にもモーター音がしっかりと入ってしまって、忸怩たる思いで使うか使わないかの選択を迫られた記憶もある。その点、このレンズは耳を近づけて、本当に動いているのか確認したくらいだ。ほぼ音がしなかった、と言うか、耳を近づけた状態でも環境音の方が気になる感じで、モーター音は皆無に近く、動画撮影においては非常に重要な点である。
さらにモーター振動も感じなかった。モーター振動はカメラを机に直に置いた状態でAFを動かすと確認できる。モーター音が気になるレンズは、やはり細かな振動も起きている。板一枚で机の下が空洞の場合、その振動音は結構確認できるので、自分のレンズでも試してみると良いかもしれない。意外と出ていますから。
そしてレンズ側での手ブレ補正もしっかりしていて、全てが研ぎ澄まされている感じがした。ただ一緒にテストしたα7CRのボディー側の補正も効いているので、正直、どちらが大きく貢献しているのかはわからない。
はっきりしているのは、頼りになるということだ。手ぶれ補正のことは次回のα7CRのテストレビューで触れるので、詳しくは割愛する。ソニーの凄さを感じた手ぶれ補正であった。
秀逸なAFは体験してみて理解する
そしてソニーのカメラ、レンズでいつも思うことは、AFの精度が非常に素晴らしいところだ。AFが信頼できれば迷わず突っ込んでいける。前述でマニュアルフォーカスがスタンダードと書いているが、どうしてもAFに頼りたい時はある。ジンバルでの撮影しかり、狭い場所でフォーカスを取るまでの動作ができない、移動していく人や物を追いかけるなど結構ある。
何度も書いて恐縮だが、KOMODOのAF機能自体が心許ないので、それらの状況に突っ込んでいく時は勘を頼るしかなくなるのだ。ただ最近の自分のポンコツ具合から、勘頼りはかなりリスキーになってきていて、これはかなり後が怖い。最近はチェックをするまでヒヤヒヤしている。実際に焦点が合ってなく、強めにシャープをかけたり、AIでの補正をしたりしてもリカバリできずにお蔵入りのショットもある。その度にAFの信頼できる機種に変えなくては、と呟いている。
映画の場合、フォーカスを使って表現をするショットは結構ある。最近はiPhoneなどでもシネマモードがその表現を売りとしていて、近くの被写体から奥の被写体にフォーカスを移動させるテクニックだ。逆もある。その時に大事なのが、フォーカススピードなのだが、早すぎるとチープな感じに見えてしまう。要は一生懸命にAFがピントを探して合わせているように見えてしまうのだ。さらに酷いのは、突発的にバンってフォーカスを合わせてしまうものも見かける。それだけで伝わる印象が変わってしまう。実はフォーカスのスピードが画の見え方、心の動きなどの見え方をかなり左右するので、非常に重要なポイントなのだ。
だからといってダラっとしたAFでは話にならないのだが、理想を言えば、狙っていく時(素早い動きの被写体、連写、トラッキング撮影など)にはクイックに、表現を深める時にはジワッと滑らかに動くAFであろう。メーカーの説明では「4基の高推力なXDリニアモーターを搭載」とあり、読んだだけで圧倒されてしまう。リニアモーターって。この筒の中に?と思ってしまうのだが、ソニーの説明動画を見れば只事ではない様子が感じられる。とにかくすごい。
さらに本体側の設定になるのだが、フォーカススピードも調整できる点がいろいろな可能性を高めている。スチルの場合はクイックなフォーカスだけを意識すればいいだろうが、動画や映画でも使えるゆっくりとジワッと合わせていく設定があるというのは、両方の使い分けができるので、良い選択肢の一つになる。
「FE 16-35mm F2.8 GM II」はメーカー数値で焦点スピードが最大約2倍の高速化がされたとあるが、確かにクイックにフォーカスが決まっていくのと、フォーカスポイントでしっかりと止まる。シュッと動き、パシッと止まる正確な動きは、言われてみればリニアモーターって感じかな。
また「α1との組み合わせでは、最高約30コマ/秒の高速連写が可能」とあるが、1秒間に30コマの移動体の全てにフォーカスを合わせる動きは考えてみればとんでもないことで、マニュアルフォーカスでは全く無理なことである。そこからも動画撮影での威力は計り知れない。テスト中にフォーカスが合わないこともあったのだが、自身の構え方が悪いのだろうと思わされてしまうくらい気持ちよく決まっていく。
またAFで気になるのは、被写体を探しに行ってしまう時だ。被写体を確定させようとレンズが暴れてしまうフォーカスはよく見られる。これがないAFが優れているAFだと思うので、ソニーは瞳AFや動体AFに力を入れてきたので、そこは見事にクリアされているのでどうしても信頼してしまう。
逆に他のメーカーの実機テストで良い感じのAFを見せられた時に、「おお、ソニーに追いついてきたね」と一言出てしまうくらいのポジションではないだろうか。
レンズ内での機械的なブレやノイズがないので、前述した静かなモーターの所以でもあるのだろう。本体側のAF機能に起因するのかもしれないが、中には行き過ぎてから修正をかけてくるタイプもある。行って戻るみたいな動きだ。こればかりはカタログスペックではわからないことなので、AFのレンズは動作の仕方を確認できる環境(販売店やショールーム)が近くにあれば、テストした方が良いと思う。撮影で大事なポイントは最適な露出とフォーカスの正確さなので、後から修正ができないフォーカス精度は後のストレスになる。
もう一点大事なことは、AFを信じられるかだ。筆者の現環境だとAFが信じられないので、マニュアルフォーカスがスタンダードになっている。ある現場で急にパフォーマンスを撮ることになったのだが、サブ機としてα7S IIIで撮ってくれていた映像も提供してもらって一本にまとめた。明らかにα7S IIIの方のフォーカスの方が明瞭だった。気持ち的には残念なのだが、ことなきを得たので改めてソニーのAFの凄さを実感した。
また雨上がりの葉っぱの上の水滴を撮ったのだが、立ち位置的にモニターを見れないので、勘とレンズを信じて収めた。信じて良いAFだと思う。
ちょっと意地悪いテストで、境界が見つけにくい被写体でのAFの効き具合を試してみた。H鋼の端には捉えやすい電線の接合部があり、鋼の内側を舐めるようにチルトしていったのだが、これは流石に識別が難しいようで追いつかなかった。これは本体側の問題かもしれないが、この分け目のない単色の被写体はどのAFでも辛いかもしれない。ただ変に見つけようとしたり、合わせようとジャンプしたりしなかったので、それは動画撮影では生きてくる。
ソニーのフラッグシップレンズとしての期待感に応えているのか
ソニーのフラッグシップレンズの期待感って、当たり前に綺麗に撮れなければダメなのだろう。これは簡単なことのようで、実は非常に大変なことなのだ。例えばお安い価格帯のエントリーレンズは、使ってみたら「結構良いじゃん」と言われる驚きを与えられるのだが、ソニーやキヤノンの高級機は美しく綺麗に撮れることが当たり前のラインから始まるので、がっかりさせないクオリティを担保してからの発売になるだろう。
特にエントリーモデルや中国製レンズのクオリティが上がってきているのと、動画や写真が容易にアップされる時代では、隅々までじっくりと見ることができるので、目の肥えている人たちを価格も含めて納得させる説得力を求められるのは言うまでもない。
手ブレの評価は本体の手ぶれ補正との絡みもあるので、レンズ単体でのお伝えは難しいのだが、ボケやフレア、周辺での収差、フォーカスブリージング、ズーム操作に伴う軸ずれやフォーカスシフトなど、レンズ側に依存する範疇は気になるところだ。
フォーカスブリージングはかなり抑えられている。手持ち状態だったので若干の上下動はあるが、画面端の画角変化はあまりない。またズームによる軸ズレやフォーカスシフトも気にならない。正確に言うと、フォーカスシフトのテストは撮影時に画に違和感がなかったのであえてしていない、いや忘れたというべきだろうか。逆に言うと、忘れても良いくらいに気にならなかったのだと思う。言い訳がましいが。
ネガティブポイントが気になるレンズは、撮っている時にすでに違和感があるものだ。なので、撮影中に試行錯誤が始まってしまって収拾がつかなくなることもある。本来はそれらを感じず、スッと撮影を終えてしまう、撮っている時の安心感が一つの基準にもなると思う。その辺はかなり練り込んで最上位機のプライドを見せたのだろう。
そしてMTF曲線でも触れたが、実写でも曲線通りの結果がちゃんと出ていると感じた。中心から端に向けて画質の劣化が生じるのはどうしても避けられないので、曲線にもそれが現れるわけである。左から右に向けて上下せずにフラットな曲線が望ましいとしたが、実際の画でも納得させられた。
やはりレンズは球面であり、何枚ものレンズをかまし、それらを通して焦点を合わせるので、光が真っ直ぐに入力してくる中心部と屈折して入力されてくる端部では差異が出てきて当然である。それを如何に補正できるかがレンズの宿命だと思う。それが諸収差やブリージングなどに現れてくるので、端部も中心部と変わらない画質が実現できた時というのは、今の形状ではなくレンズの概念が変わっているかもしれない。
それらを踏まえながらの映像チェックだが、やはり相当にクリアな鮮明さを維持できている。流石に16mm側になると若干収差も感じられるが、35mm側だとかなり良い結果に満足している。普段はSuper35センサーを使っているのでレンズの限界を感じづらいが、フルフレームセンサーだとフルにレンズの球面を使ってくるのでよりシビアに粗が見えやすくなる。ただスチル撮影だとフルスペックで使い切れるので、相当な画質が期待できる。強力な手ブレ機能も働き、NDを使わずにシャッタースピードで調整だけでも水の流れをシルキーに撮影することができる。
フレアの頃合いと彩りは?
フレアは良い感じの納めどころではないだろうか。当然フレアが入り込まない方がしっかりとした正しい画になるのだが、印象的な画を引き出すにはフレアを入れ込むことも表現方法である。筆者はどちらかと言うと積極的にフレアを求めていくタイプなので、そのフレア度チェックも結構行っている。そしてこのフレアこそそのレンズの特性が出てくるので、皆さんもチェックポイントにしてみたらどうだろうか。
絞り羽根の枚数が奇数の場合の光条は羽根枚数の2倍、偶数の場合は羽根枚数と同じになる。FE 16-35mm F2.8 GM IIは11枚の羽根を使っているので、22本の光条が出てくる。それが見事に均等間隔で浮き出されていて、その美しさで光の存在を改めさせられる。個人的な好みだが、光条の本数が少ないと、まつ毛のエクステが取れてしまった感じに見えリッチ感が薄れてしまうが、光条の見え方もそうではないだろうか。
ただ楊枝が乗ってしまうほどのボリュームもどうかと思うので、良く見せられる"適度"がセンスになってくるのだろう。絞り形状をより円に近づけることでの11枚なのだろうが、結果として光条にも良い効果を出している。
そして一般的なフレアはやはりちゃんと抑えられている。フレアがもっと伸びてくるのかと思うと、ある一定の範囲内で収束させている感じがする。屈折やコーティングでの技術なのだろうが、ここも各メーカーの個性を出してくるところだろう。その意味ではやはり優等生な結果を出してきている。
またフレアも抑え過ぎてしまうと面白みがなくなってしまう。誰もが正しい(正統派な)画を見ていて気持ちが良いのは当たり前である。特に風景画などはそれを求めるのがスタンダードだろう。パキッと曇りがなく、余計な光の差し込みで被写体が飛んでしまうなどはNGであろう。ただフレアが出ないレンズはないと思うし、仮にそれがあったとして、皆がそればかりを使うようになったら、映像も写真も個性がなくなってしまい、誰が撮っても同じで、つまるところ生成AIで良いという結果にもなり得てしまう。フレアなどの撮る側の個性が一番出やすい領域は、変にならないところでの落とし所が大事だと思う。
このレンズはそのアンニュイな線上の上を明確に行っているので、明瞭に美しく撮りたい方には最適だと思う。
彩度に関しては、色が鮮やかでハッキリとした被写体は、見事に再現されている。もしかしたら実物より彩りが鮮明かもしれないと思えるくらいだ。しっかりと色を捉えていると思う。この辺はキヤノンが強いと思っていたが、これを見てしまうと考え方が変わってしまった。
そしてソニーのレンズでいつも思うことは、デジタル特有の安っぽい色滲みが少ないことだ。本体とレンズのどちらに依存しているのかわからないが、感心するところだ。ソニーのレンズは他社の本体にはオフセット問題があるのでサードパーティ製のアダプター自体が存在せず装着できない。なので、そもそも本体とレンズの組み合わせはグレードの違いでしか確認できない。それでも満足できる結果があるので、目を瞑るところなのだろう。個人的には何度も書くが、マウント問題は囲い込みの理屈から、ユーザビリティへと変わってほしいのだが。
また余談だが、ChatGPTにソニーレンズのオフセット問題を尋ねたら、基本的には難しいが、アダプターで解決できるかもしれないと。アダプターメーカーを教えて欲しい…
24p(正確には23.976p)でジンバルに載せ、移動しながら流していった画でも中心部の説得力は高い。端側が追いついてはいないが、それはフレームレートとシャッタースピードによる要因が大きいと思う。ただ滲みなどは少なく雰囲気が良いので、個人的には◯である。またフレームレートの高い方が移動しながらや動的被写体には向いていることはわかっているのだが、24コマ(映画)はスタイルとして貫いているところなので、その中で何ができるのかを模索しながらやっているため、これはこれであり。
最短撮影距離(ズーム全域)0.22mとボケの具合
このレンズで驚いた点がある。それは最短撮影距離である。0.22m、つまり22cmなのだが、数字を見た時にずいぶん寄れると思ってはいたのだが、撮影していてハッと思ったのは、こんなに寄ってたんだ、という驚きであった。0.22mなのでかなり短距離ではあるが、体感的には0.1m、つまり10cmくらいまで突っ込んでいた感覚だ。モニター越しに被写体を見ているので、寄れるところまで寄ってしまった結果ではあるが、顔を上げた時にその近さに驚いた。と同時に、ズームレンズで良くここまでと感心した。
約20%の軽量化の効果は
そして2世代目になってさらに軽くなった。先代の約680gから約547gへの軽量化である。たった133gかと数字的には見えてしまうかもしれないが、筆者からしたら「133gも!」という感想である。
寸法は長さが短くなり、レンズ構成も1枚少なくしたことで約20%の軽量化を実現したようだ。レンズが1枚減るというのは心理的にはレススペック的に思ってしまう。ただ多ければ良いと言うわけでもなく、ガラスが多くなったり、厚くなったりすることは光のレス要因にもなり得るので、最適点を見つけて構成してくことと、レンズの技術的進歩が貢献してくるのだろう。もちろん画質も良くなるアップグレードでなくてはならないのだが、前述のMTF曲線からも技術向上での進化であることは理解できる。
さらに短くなり軽量化されたことで重量配分が変わってしまい、バランスが悪くなり持ちづらくなるということはない。軽量化してもバランスの最適値を見つけ出しているのだろう。例えになるが、BMWが前後軸の重量配分を50:50(理想的配分)にこだわり、走りに対して徹底していることと同じようなことだと思う。また次回で詳しく述べるが、腰の事情もあり、機材が軽くなっていくことはとてもありがたいことである。
このレンズを選ぶ理由は何であろう?
G Masterシリーズはいつの時でも選択肢には入ってくるのだが、価格面でのハードルをいつも感じてしまっていた。ソニーのカメラを使用する時には、レンズが他のカメラでの使用ができないこともあり、コスパが良く、定評のGシリーズに頼ってしまっていた。それはそれで良い結果が出るので満足なのだが、やはり上位機を手にし、実際に撮ってみると振り出しに戻ってしまう。そこでどうしたら自分を納得させられるのかを考えてみる。
選択する上で、映りの良さは当たり前のことなので、他の選考点はなんだろう?やはりずらっと書いてきた通り、操作性と信頼性ではないだろうか。
つまりかなり強い推しだが、絞りリングの操作性は本当に求めている機能であり、さらに圧倒的に静かなモーター音も心的ストレスをだいぶ軽くしてくれる。ドキュメンタリーでの撮影後の"やってしまった感"はなるべく味わいたくない。そうなると無難なところでの撮り方になってしまうのだが、こういうレンズであれば撮り方も工夫をしていける可能性が高まる。
ただ最終的には自分の撮りたい表現で撮れるかがポイントであることは変わらない。そこはスペックやデータではなく、実機と実写で確かめるのが良いだろう。筆者も購入後に「あれっ?」と思い、買い直した経験はたくさんある。その時に思うことは「試してから買えば良かった」と。
ただ販売店での実機確認はせいぜいカメラの付属モニターになってしまうだろうから、そこもまた限界があるのだが。小さいモニターなら何でも綺麗に見えてしまい、ピンズレなどはまずわからないので。お店の方には面倒がられるかもしれないが、大きいモニターに接続して確認させてもらうとか、ソニーであればお近くのソニーストアという手もある。
ソニーのイヤホンなどにも言えるのだが、雑味がなく非常に良くできていて、誰でもクッキリと鮮明に感じられる非の打ち所がないほどにきちんとまとめられている。誰もが否定できないセッティングであり仕上がりである。画を見て、「これはソニーだよね」と言えるくらいだ。
ただ少し辛く言えば、非常に美味しい薄出汁の日本料理なのだが、とても美味しいけどパンチがないと言うか。スパイシーさには欠けるので、自分で撮るという感覚より、ちゃんと撮れてくれてありがとう的な感覚だ。それは悪いことではないので、レンズを選ぶ側がどう考えるか次第だろう。筆者はドキュメンタリーというカテゴリでもあるので、積極的に選んでいく一本ではある。
また静止画(写真)は引きで全体像を見られ、作者の伝えたいものなどの情報を推察され、その後にかなりの寄り(拡大)で非常に繊細なディテイルまで見られてしまう。逆に言えば、そこが表現力や個性を埋め込めるところでもあるので、撮り手の期待に沿えるようメーカーとしても力の入れどころだと思う。美しい画を撮るバックボーンには撮り手、作り手の追求する努力が隠れているのだと改めて感じる。この辺はスチル撮影をメインとしながらも、動画撮影でも十分威力を発揮できるように設計されているレンズは非常に我々の味方になる。
松本和巳(mkdsgn)|プロフィール
東京と北海道旭川市をベースに、社会派映画、ドキュメンタリー映画を中心とした映画制作を行っている。監督から撮影まで行い、ワンオペレーションでの可能性も追求している。2021年8月に長崎の原爆被爆者の証言ドキュメンタリー映画を劇場公開。2022年4月に子どもの居場所を取り上げた「旅のはじまり」、8月には長崎被爆者の証言映画第二弾、広島の原爆被爆者の証言映画がテアトル系で公開。2023年1月には生きやすいライフスタイルを提案する「-25℃ simple life」、3月には保護犬を生み出さないために犬と人の関係を追った「dog and people」が公開される。テアトルシネマグループと一緒に「SDGsシェアプロジェクト」も立ち上げ、先ずは「知ってもらう」をテーマに社会課題の映画化を行なっていく。
mkdsgn