EOS Rシステム初のMark IIが登場

キヤノンはミドルクラスにRシステム初となるMark IIをリリースする。EOS R5とほぼ同時期、少し遅れて発売されたEOS R6の2型が先にリリースされることはキヤノンの慎重な開発姿勢と見て取れる。R5プロユーザーの筆者としては、好印象に感じられる。

キヤノンはミラーレス市場の分野ではソニーに先行を許しており、大きなインパクトと共に一石を投じる必要があった。そして2020年、EOS R5およびR6の次世代ミラーレス同時発表は未だに鮮明な記憶として残っている。そしてその2台は大成功を収めた。これからはRシステムのミドルクラス2枚看板をそれぞれ慎重に、そして合理的に、加速度的に進化させていく開発に期待を寄せたい。

まずは、初のMark IIとなる本機を手にレポートを行っていこう。

外観の比較

さっそくだが外観の比較をしていこう。EOS 6シリーズの特徴は上面表示パネルがない点だ。

左:EOS R5、右:EOS R6 Mark II

そして今回のEOS R6 Mark IIではスチルムービー切り替えスイッチが搭載されており、それに伴いLockボタンがなくなりON、OFFスイッチに統合された。

試しにR5、R6対応のカメラケージを装着してみた。アクセサリー位置決め穴の配置まで、完全に同一であった。

このあたりの仕様変更はユーザーデメリットでしかないため嬉しい継承デザインと言える。ただし、シンデレラフィットタイプのケージ(SmallRig Black Mambaモデル)では軍艦部の高さの違いで装着できなかった。

上記スイッチの変更と軍艦部の高さがやや増し、ホットシューもマルチアクセサリーシュー化している。

それ以外にはグリップの形状が若干変化しているぐらいで、その他は追求され尽くした操作UIを正当継承している。

強化された機能

続いて強化された機能をおさらいしていこう。この中からRシステムユーザーである撮影監督となる筆者の目線で特に要と思われる点を試作機をもとに検証した。

  • 新開発2420万画素フルサイズCMOSセンサー
  • 電子シャッター40コマ/秒
  • 高速AFスピード0.03秒
  • 「検出する被写体」の「動物優先」に「馬」、「乗り物優先」に「鉄道」と「飛行機」を追加
  • トラッキングAFに自動(人物、動物、乗り物)
  • HDRモード(動体優先)
  • RAWバーストモード、プリ撮影
  • 高周波フリッカーレス撮影(R3同等)
  • デジタルテレコン(スチルJPEGのみ)
  • 6Kオーバーサンプリング高画質記録
  • RAW動画を外部レコーダーに記録可能
  • フルHD180P
  • 長時間録画に対応
  • プレ記録
  • 録画強調表示に対応
  • フォーカスブリージング補正(対応レンズのみ)
  • 検出限定AF
  • 5GHzのWi-Fi接続
  • スマートフォンとの優先接続
  • 撮影可能枚数増(消費電力優先760枚、なめらかさ優先580枚)
  • 操作性の向上
  • 防塵・防滴/ボディ剛性向上

長時間録画に対応

EOS R5・R6では30分制限があったがEOS R6 Mark IIでは最長6時間までの映像収録に対応した。記録フォーマットとしては通常4Kの30Pであれば8bit、10bit問わず記録容量、バッテリーの限り6時間までの撮影が可能であった。

また4K60Pでの撮影においてもクロップ無しで40分前後、クロップ有りで50分程度の撮影が可能だ。これはフルサイズ機としてEOS R3と完全に同等の性能であることを意味し、筐体の小ささから考えるとフルサイズセンサーにおける驚異的な長時間収録性能と言える。逆にR3には余力が十二分に残されているのではないかとすら感じる。ただし、この点ではAPS-C機であるEOS R7には遠く及ばない(※長時間収録性能にフォーカスした過去記事を参照)

一点気になる点があるとすれば、背面液晶との同時表示時には本体への録画ができない点はEOS R5やR3といったハイエンド機には見られない制限だ。これらの制限はもちろんEOS R7にもみられるが、この辺りを実売40万円となったカメラとしてどう捉えるかはユーザーに任せたい。

EOSユーザー待望、録画強調表示に対応

追加機能の大目玉は、個人的には強調表示である。何故ならばEOSの録画表示は右上に小さく「REC」が表示されるだけで視認性は悪かった。ローアングル時などに少し上から覗き込む状態になると、完全に死角となってしまう仕様であった。今でこそ全機種がバリアングル対応となったが、それ以前の埋め込み液晶ではこれ以上逆Recの危険性が高いインターフェースはない。環境によっては歴戦のベテランであってもEOSシステムで逆Recを完全に防ぐことは事実上困難と言っても過言ではなかった。コンシューマーであっても絶対に失敗をしたくない撮影機会などはいくらでもあるだろうから、今回の強調表示対応の意義は非常に大きい。

強調表示が点滅している

また強調表示対応としてはパナソニック、ソニー、富士フイルムに続いての後発となるキヤノンだけありしっかり改良要素を盛り込んできている。ご覧の通りチカチカといった点滅ではなく、多少フェードイン効果を持たせた表示になっている、これなら逆Recミスの防止はもちろん、フレーミングの邪魔になることも色彩感覚に悪影響をもたらすこともない期待以上の仕上がりと感じた。

一点角度を変え言及するとしたならば、強調表示の必要性、重要性にメーカーとして気がついた今、ぜひとも現行Rシステム最上位機種であるEOS R3にも早急なファームウェア対応を行って欲しい。

映像製作者期待の最新機能、ブリージング補正

そしてもう一つの目玉機能がブリージング補正であろう。ブリージングというのはフォーカスの移動に伴い画角が多少ずれる症状だが、基本どのレンズでも発生し大口径レンズではより如実となる。1フレ―ムを切り取るスチル撮影では気にする程の症状ではないが、映像制作では重要な要素となりブリージングレス専用設計のシネマレンズが高額供給されている。それをあらかじめ変動する画角分をクロップし、制御してしまう仕組みだ。対象レンズとファームウェアのみで機能する。

今回は同じく新製品発表されたRF 135mm F1.8 L IS USMにて動作検証を行った。

ブリージング補正なし

ブリージング補正あり

ご覧の通り、多少のクロップこそあれどその差は歴然だ。画質の低下も余程シビアに4Kモニターでディテール確認をするなどしない限り、気にはならないレベルだろう。これほど手軽にブリージングレス設計の大口径レンズを運用できるだなんて、いよいよ便利な世の中になったものだと感心した。

シネマ設計のレンズといえば原則マニュアルフォーカスとなり非常に高価なものが多い。しかし今後はEOS Rシステムの高性能なトラッキングAFを大口径の被写界深度で、ブリージングレス運用が可能となる。ソニーα7 IVに続いてキヤノンにも搭載されたブリージング補正機能、ソフトウェアの進化がもたらしたパラダイムシフトと言えよう。

映像制作フローにおける高感度性能

ここからはEOS R6 Mark IIがもっている地力(センサー、処理エンジンの性能)を見ていこう。昨今のカメラは非常に優れた高感度性能を有するが、その中でもEOS R3と同等の画素数センサーといったこともあり期待が膨らむ。Canon Log 3撮影時の推奨最低ISOとなる800から25600までの4K撮影データが以下、可能であれば4Kモニター等で確認をしてみて欲しい。

確かにISO3200を超えたあたりからノイズが目立ち初めるが、驚くのはISO12800を超えても十分に奇麗でディテールもほぼ完ぺきに維持している。これであれば簡単な後処理を施すだけでISO16000あたりでも用途によっては十分に使用できるかも知れない。EOS R3と詳細な比較を行ったわけではないが、感覚値としてこちらも同等レベルと感じた。

EOS R6 Mark II 高感度ノイズ検証 4K

EOS R5では10bitと8bitではノイズの発生傾向が大きく異なる。場合によってはあえて8bitで撮影を行い、後処理を簡略化させる工夫をしてきた。しかしEOS R6 Mark IIでは、R3同様必要なさそうだ。比較しやすいように、Neat Videoでのノイズリダクション画面のキャプチャを用意した。

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感度800、8ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度800、10ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度4000、8ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度4000、10ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度12800、8ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度12800、10ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度25600、8ビットの状態※画像をクリックして拡大
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感度25600、10ビットの状態※画像をクリックして拡大

撮影データを通常プレビューした場合では、ご覧のようにISO25600までディテールを保持しているように見える。Neat Videoのアシスト表示を使用してみると、大きなデータの破綻がみられる素材はISO20000あたりのように感じられる。

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※画像をクリックして拡大

ムービーカメラとしてのEOS R6 Mark II

長時間収録、強調表示、フルサイズカメラとしてEOS R3のサブ機としてまったく遜色がない性能を有していると感じた。場合によっては十分メイン機として運用が可能、特にビデオグラファー初心者にはうってつけの高いAF性能、感度性能、そしてケアレスミスながら重大ミスに繋がる逆Rec対策の強調表示が備わっている。

注意点としては、外部出力などを行いRoninなどのジンバルと合わせてPTZカメラのような運用や配信収録カメラとしての運用は相性が悪いよう制限されてしまっている。また記録フォーマットとしてALL-Iは存在せず基本IPBでの撮影となる点は注意が必要だ。

特に本格的な運用を行う場合、外部RAW出力に必要なATOMOS NINJA V+は別途14万円クラスの外部レコーダーとなるため、RAW収録の機会が多い場合はEOS R5 Mark IIを待つのも選択肢として有力と感じる。しかし高画素化の影響がどう響くかに関しては慎重に検討する必要がありそうだ。今後の情報に期待したい。

まとめ

さて、一通り映像制作目線で紹介を行ってきたが、ソフトウェアの進化によるパラダイムシフトの片鱗がブリージング補正等で垣間見える結果となった。EOS R6 Mark IIはEOS R3に限りなく肉薄した性能を有し、内部RAW収録や外部出力時などの制限を除けば非常に完成度の高いオールマイティー機と言えるだろう。またバッテリーライフなどもかなり改善されており、1台で機動力を生かしつつ本格的なスチル撮影からムービー制作まで可能な充実のカメラだ。

Nick Tsutomu|プロフィール
レストランシェフ引退後、IT系制作会社を経て2022年で個人事業10年目を迎える撮影監督兼カメラマン。ホテル、レストラン、ウエディング、不動産、舞台、イベント、芸能、映画、CMなど多ジャンルにて商業記録問わず小中規模の撮影をメインにスチルからムービー空撮までフレキシブルかつ的確な監修を強みとしている。美容学校写真講師を兼任していた経験やブライダルメイク室との人脈から各ジャンルに適したヘアメイクの斡旋なども行っている。サウナとビールが好き。

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。