240716_DJI-SDR_top

240716_DJI-SDR_01

超小型軽量なワイヤレストランスミッター

今まで多くのドローンやジンバル製品を提供してきたDJIが、得意のワイヤレス技術と優れた開発力で、また素晴らしい製品を生み出しました。今回は、超小型軽量タイプのワイヤレス映像送受信機「DJI SDR Transmission」です。

同カテゴリに関しては、すでに「DJI Transmissionシリーズ」がラインナップされていますが、当製品はその約半分以下の重量・サイズでミラーレスなど小型カメラの、よりコンパクト・スピーディな撮影を強く意識した商品となっています。

価格とラインナップ

  • DJI SDR Transmission Combo:93,280円
  • DJI SDR Transmission Transmitter(TX):52,580円
  • DJI SDR Transmission Receiver(RX):52,580円
  • Phone Holder Kit:6,710円
  • Tablet Holder Kit:6,710円
  • RX to Phone Connection Cable(USB-C to USB-C、22cm):1,320円

価格を見る限り搭載される機能は、競合となる10万円前後の比較的リーズナブルな製品群と同じようなものになるかと思ったのですが、そこはやはりDJI!
ジンバルやアプリとの連携を軸に、今回も良い意味でこちらの期待を裏切ってくれました。ではまず、主なスペックから見ていきましょう。

主なスペックと「DJI Transmission」との比較

240716_DJI-SDR_02
左は「DJI SDR Transmission」、右は「DJI Transmission」

今回発売されるDJI SDR Transmissionですが、発売中の上位機種「DJI Transmission」と並べてもサイズの違いは一目瞭然で、折りたためるアンテナがビルトインされ、ボディ全体はプラスチック製になり徹底的に軽量化されています。しかしこのサイズでもHDMIやSDIの端子、液晶画面が見えていたりと機能の凝縮感が感じられて、使う前からとてもワクワクします!

240716_DJI-SDR_03
左は「DJI SDR Transmission」、右は「DJI Transmission」

スペックや実際の機能の充実もさすがの一言で、とても盛り沢山となっています。DJI Transmissionとの比較表を作りましたので、まずはこちらを見ながらレビューしていきたいと思います。

    240716_DJI-SDR_4
※画像をクリックして拡大

※商品名に「SDR」が入った方が今回の製品です。わかり辛いのでここからは、今回ご紹介する「DJI SDR Transmission」は「SDR Transmission」、上位機種の「DJI Transmission」は「Transmission」、と区別させていただきます。

ざっと見てわかる通り、全体的な能力はTransmissionの方が上です。伝送距離も最大4km(日本国内)という圧倒的な性能から、Ronin 4Dを始めとした中・大型のシネマカメラユーザーをメインターゲットにした商品であることがわかります。対してSDR Transmissionは、半分以下の重量やサイズから、ミラーレス系の小型カメラを意識した商品となっています。

折り畳めるアンテナは一方向にしか開きませんが、とてもコンパクトになるため個人的にとても好感が持てました。

液晶画面は、タッチパネルになっていてほとんどの操作を画面上で行います。これも小型化に一役買っています。

240716_DJI-SDR_05

驚くのはこのコンパクトさで最大2km(日本国内)という、同価格帯の他機種を圧倒する伝送距離を持つことです。

その秘密はDJIがドローン開発で培ってきた「SDR」技術にあります。

製品名にも入っている「SDR」とは「Software Defined Radio」の略で、ソフトウェア無線と呼ばれる通信技術のことです。DJIが開発したSDR技術は、自社のFPVドローンやTransmissionにも搭載されており、シームレスな自動周波数ホッピング、高い電波干渉耐性と安定性、高浸透性(遮蔽物に強い)、高ビットレートを謳っています。

近い価格帯のワイヤレス製品に比べて圧倒的に電波が通りやすく、また20Mbpsという高ビットレートで、高画質な映像伝送が可能となっています(Wi-Fiだと大体8〜12Mbps程度)。そういった製品群と差別化したいという意図から、名前にあえてSDRを入れたそうです。

そして今回特筆すべきは、スマートフォン・タブレットへの有線接続が可能になったことです。同梱のケーブルに、USB-C to USB-C、USB-C to Lightningケーブルがあり、Roninアプリをインストールした状態でケーブルを繋ぐと、「RavenEyeに接続」項目からすぐにモニタリングが可能になります。これにより、タブレットやスマートフォンが、完全なモニタリングモニターに変身します。

240716_DJI-SDR_06

今まではタブレットやスマホをモニター化するにはWi-Fiで無線接続し、専用のアプリで起動する形でしたが、Wi-Fi環境では伝送距離が短く、接続状態が不安定で遅延も多いため、あくまで参考程度のモニタリングとしてクライアントワークには不向きでした。

有線接続が可能になったことにより再接続時に操作が不要で、伝送距離や接続安定性が劇的に向上します。またタブレットやスマホは、同型の撮影用モニターに比べてとても軽量で内蔵バッテリーもあるため、撮影環境の効率化・スピードアップも期待できます。モバイル機器の完全なモニター化を心待ちにしていたのは、私だけではないと思います!

さらに、有線で同時接続できるのはモバイル機器だけではなく、HDMI・SDIからの同時出力が可能で、トランスミッターからは最大2台のモバイル機器にWi-Fi無線接続も可能で、非常に多彩なモニタリング環境の構築が可能となっています。

同時接続可能な機器数については以下の通りです。

240716_DJI-SDR_07

接続にはコントロールモードと、ブロードキャストモードがあり、コントロールモードの方が伝送距離が長く安定性は高いのですが、レシーバーの接続台数は2台まで。3台以上接続したい場合はブロードキャストモードを使用します。これはTransmissionシリーズと考え方は同じで、状況に合わせて使い分けます。

240716_DJI-SDR_08

電源はLバッテリーのほか、有線ではUSB-C PD入力にも対応しているので、モバイルバッテリーやVマウントバッテリーなどでも使用でき、モバイル機器の有線接続時には逆に給電も可能です。ジンバルとの親和性も高く、Transmissionと同じく付属のアダプターを介してカメラ底部にマウントすることができ、USB-Cケーブルで接続すれば使用できます。これにより、非常に軽量なジンバルのワイヤレスモニタリング環境が実現します。

注意点としては、SDR TransmissionとTransmission間の互換性はないため、混ぜて使うことはできません。そしてDJI Focus Proとも直接の連携はできないので、フォーカス波形の表示、アクティブトラック等は非対応となっています。ここはやはり、Transmissionとの棲み分けとなっているようです。

Transmission同様、起動時からクーリングファンの元気な音が聞こえますが、「Standard・Low・High」モードから速度選択でき、Transmitterのみ搭載の「Rec Low」モードでは接続したカメラのREC操作に連動して、自動でLowモードに切り替えてくれる便利機能が備わっています。これによって同録時の音声問題にも対応できます(対応カメラ限定機能)。

他製品との比較

240716_DJI-SDR_09

今回レビューするにあたり、他社製トランスミッターと使い比べてみました。

比較したのは、型は古めですが高スペックな「T社 500 XT」(FullHD専用機)、近い価格帯の「H社 4K」です。

スペック比較の参考

    240716_DJI-SDR_10
※画像をクリックして拡大

スペック上では各社得意分野が違っていて、T社は圧倒的に低遅延で高画質、H社は低価格ながら4K対応といったところです。

SDR Transmissionはその中でも伝送距離を中心に、耐干渉性・高浸透性が得意分野なので、以下のような条件で比較テストをしました。

テスト項目(東京都内)

  1. 建物の上下階の縦の移動(コンクリートが厚めのオフィスビル)
  2. 同じ階の部屋を跨いだ横移動(同ビル内)
  3. 物理的な遮蔽物が比較的少ない、ある程度見通しの良い都内の大通り(片方は陸橋の上)
  4. 同じく見通しの良い湾岸の公園

これらを、モニタリングしながら映像が完全に途切れるまでの距離で比べました。カタログスペックの数値は、「遮蔽物のない見通しの良い条件」のため、実際の撮影でそのような環境というのはほぼあり得ません。ということで、意地悪な条件でどのくらいの差が出るのかというテストです。

結果としては、以下のようになりました。

    240716_DJI-SDR_11
※画像をクリックして拡大

T社・H社共に遮蔽物がない場合はほぼカタログスペック通りの飛距離は出ていました。流石に2km近くはなかなか出ませんでしたが、総じて他2社より大きく飛距離が出ました。遮蔽物があるとやはり電波の減衰は大きく、特に建物の上下移動では1階程度が限界でした(もちろん条件によりますが)。

大通りに関しては、立ち並ぶビル群の電波干渉もかなりあったと思いますが、他の倍以上の550mはかなりすごいと思います。

今回直接比較しておりませんが、ビル内の同じ階の移動時、T社の最新機種でカタログスペックが1500フィート(約450m)でも届かなかった場所でも全く映像が途切れなかったという場面もありました。

実験の結果からも、SDR技術による高い耐干渉性・浸透性がもたらす伝送性能は素晴らしいということがわかりました。それがこの価格、サイズで実現されているということは驚異的です。

使用感

とにかく軽い・小さいということが楽しくて、カメラのどこに設置しようかといろいろと考えてしまいます。固定場所は底部の1/4ネジ部分1カ所になりますが、ネジ穴の両サイドに位置決めピン用の溝が空いているので、固定もしやすいです。

ジンバルには付属のアダプタープレートを介して装着しますが、もしサイドハンドルなどに外部モニターを出したい場合は、トランスミッターにスルーアウト端子がないためスマホなどをWi-Fi接続するか、受信機も一緒に装着しないといけません。せっかく小型軽量でジンバルに装着できるのに、ここは少し残念なポイントではあります。

遅延が80ms(0.08秒)ということで、実際に体感としてどのくらいの遅延感なのかを、動画で撮影してみました。

数値的にも他機種に比べて極端に遅くもないし特別速くもない、という感じですが、フォーカスプラーのシビアなフォーカシングが必要な場面でもない限り個人的には問題ない範疇かなと思います。

再接続性も良く、電源を入れればすぐに接続してくれます(DFSサーチ中は少し時間がかかります)。

個人的に一番感動したのは、やはりスマホやタブレットを完全にモニター化できるというところです。Roninアプリのインストールが必須になりますが、接続すればすぐに映像が表示されるので、とても快適です。画面上では各種オーバーレイ機能(REC表示やピーキング、ウェーブフォームなど)、LUT表示などが可能です。

ここでも残念なポイントですが、HDMIやSDI出力時はLUTを当てて出力する機能がありません。そのためLog撮影時などは、カメラからLUTを当て込んで出力をするか、LUT対応のモニターなどを挟んで当てるということが必要になります。

Roninアプリとの連携は素晴らしく、ジンバル接続時にはForce Mobileによるジンバル制御が可能になります。これは以前からWi-Fi接続で可能でしたが、モバイル機器を有線接続すると、制御範囲が映像伝送距離と同等となるため、以前よりはるかに離れた場所からでも操作可能になります。
※ちなみに同じような用途のForce Proという製品もありますが、遅延はSDR Transmissionの方が大きいです。

まとめ

240716_DJI-SDR_12

とにかく軽い・小さい・よく飛ぶということにひたすら感動しました。機能の充実も素晴らしく、よりうまく使いこなすためにいろいろ実験したくなる機材だと思いました。

アプリを介してのスマホやタブレットの充実したモニタリング環境からも、この商品の主なターゲット層は、小型軽量なミラーレス系の小中規模撮影です。ワンオペを始め、カメラや各機材の小型化による撮影現場の速度感も年々上がってきているように思います。そこではモニタリング環境の簡略化は必須事項になります。そこにこういった製品を投入してくれることは、非常に有難いと感じるのは私だけではないと思います。

DJIはこれで、ジンバル、フォーカス、ワイヤレス伝送と、小型カメラ以外はほぼ全て連携されるようになりました。しかも低価格です。これらのトータルソリューションが、DJIが温めてきたビジョンであると感じます。いっそ全てDJI製品で揃えてしまうというのも、撮影現場のクオリティアップに大きく貢献してくれる可能性が高いと思います。

もちろんSDR Transmission単体でも、価格に対して十分すぎるくらいの機能が詰め込まれているため、様々な撮影条件で幅広く対応してくれる心強い製品であると感じました。

少しでも気になった方は、是非一度お手にとって試してみていただけたらと思います。

北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。

WRITER PROFILE

編集部

編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。