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ローランド株式会社は、ダイレクト・ストリーミング・ビデオ・スイッチャー「V-80HD」を2024年8月29日に発売した(希望小売価格はオープン、市場想定価格は税込500,000円前後)。

ローランドのビデオ・スイッチャーは、トップ・パネルに物理的な2列(PGM/AとPST/B)のクロスポイント・ボタンを備える「Vシリーズ」のビデオ・スイッチャー(または、ビデオ・ミキサー)と、物理的なオーディオフェーダーを備える「VRシリーズ」のAVミキサーの2つのラインナップがある。

2022年から2023年にかけてのローランドは、「SR-20HD(発売:2022年8月)」「VR-120HD(2023年2月)」「VR-6HD(2023年4月)」「VR-400UHD(2023年6月)」と、新しいVRシリーズのAVミキサーを発売してきた。

一方、Vシリーズは、ビデオ・スイッチャー「V-160HD(発売:2021年7月)」と、ビデオ・ミキサー「V-02HD MK II(2021年9月)」以降、新製品の便りに接することができなかった。

3年ぶりにVシリーズのラインナップへ追加されたローランドV-80HDは、特に、V-8HDやV-60HDなどのVシリーズのビデオ・スイッチャーを利用するユーザーにとって、長く待ち望まれていた製品と言えるだろう。

(1)SDI 4入力HDMI 4入力のバランスがとてもよい

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V-80HDのリア・パネルには、SDI 4系統とHDMI 4系統の合計8系統の映像入力端子が備わっている。

ちなみに、Vシリーズの上位モデルであるV-160HDの映像入力端子は、SDI 8系統とHDMI 8系統の合計16系統。入力系統の数が半分になった(そして、映像出力系統は1つ少ない)V-80HDは「V-160HDの弟分」といった印象だろう。

ライブ配信やウェビナーの現場では、配信卓から距離がある場所に設置したカメラはSDIケーブルで、スライドを表示するためのパソコンなどはHDMIケーブルを用いた、SDIとHDMIが混在する機材構成を組むことは多い。

さらに最近は、カメラだけでなく、つなぐパソコンの台数も増える傾向にあるように感じる。例えば、トラブルが起きたときのことを想定して、予備のパソコンを用意して、二重化するケースもあるだろう。

ただ、SDIとHDMIが混在する現場では、SDIでもHDMIでも受けることができるビデオ・スイッチャーはこれまで限られていた。

ローランドのVシリーズで言えば、近年は真っ先に兄貴分のV-160HDが候補に挙がるが、それ以外ではV-60HD(発売:2017年12月)とV-1SDI(2016年10月)のみだ。

V-160HDのようなSDI 8系統・HDMI 8系統までは必要ないが、とはいえ、SDI 4系統・HDMI 2系統のV-60HDや、SDI 3系統・HDMI 2系統(うち1系統はSDIとHDMIの排他利用)のV-1SDIでは、HDMI入力端子の数は2系統だと心許ない。

また、V-60HDやV-1SDIは発売から年月が経過しており、「イマドキ」で「SDIとHDMIの映像入力端子数のバランスが良い」ビデオ・スイッチャーの選択肢が少なかった。

「HDMI 8系統は必要ないけど、2系統は心許ない」というVシリーズユーザーの声に、「SDI 4系統とHDMI 4系統の映像入力」というバランスの良さを備える、弟分的なV-80HDがこれからは応えてくれそうだ。

(2)HDMI IN 3〜4端子は4K60pまでの映像入力に対応、THRU端子も

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V-80HDのHDMI 4系統のうち、HDMI IN 3〜4端子の2つは4K60pまでの映像入力に対応している(1080pを超える解像度の映像が入力された場合、V-80HD内部で自動的に1080pにダウンスケーリングされる)。

また、HDMI IN 3〜4端子から入力された4K映像信号は、そのままお隣のTHRU端子から出力(4Kパススルー)が可能だ。

例えば、ゲームコンテンツを紹介するライブ配信の現場なら、ゲーム機からの4K出力映像をV-80HDのHDMI IN 3〜4端子に入力し、隣のTHRU端子から演者の目の前に置いたモニターへ送り返せる。

また、講演会やセミナーの現場では、講演スライドPCからの出力をビデオ・スイッチャーに入力し、AUXバスをHDMI OUT端子に割り当てて、ステージ上の演台に配置したモニターへ戻すことが多いが、用途があうならV-80HDのTHRU端子を活用することもできるかもしれない。

そうなれば、その分浮いたHDMI OUT1〜3端子には別の映像出力を割り当てることができるという利点も生まれるだろう。

(3)DIRECT STREAM端子がVシリーズに。RTMP配信やSRT入出力が可能に

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V-80HDは、SDI 2系統とHDMI 3系統の映像出力端子とUSB Type-Cの「USB STREAM」端子に加え、ローランドのVRシリーズでは標準となっているRJ-45(LAN)の「DIRECT STREAM」端子がVシリーズで初めて搭載された。

V-160HDと同じUSB STREAM端子はUVC(USB Video Class)およびUAC(USB Audio Class)に準拠しており、ZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン会議ツールや、OBSなどの配信ソフトウェアで、V-80HDを映像・音声デバイスの一つとして選択できる。

また、V-160HDでは「LAN CONTROL」と名付けられた100BASE-Tの外部制御用のRJ-45端子だったが、V-80HDでは1000BASE-Tに強化され、VRシリーズと同じDIRECT STREAM端子として進化。

これにより、外部制御だけでなく、本体から直接RTMP、RTMPSの配信やSRTの入出力が可能となった。

(4)メニュー表示はCUIからGUIへ

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V-80HDのトップ・パネル右上には、V-160HDと同様の4.3インチのTFTカラーLCDが備わっている。

このTFTカラーLCDには、マルチビュー表示、入力映像や静止画などの16分割(または4分割)画面、最終出力映像(Program)を表示するほか、[MENU]ボタンを押すと、映像や音声の入出力や本体の設定を行うためのメニューが表示される。

今回、V-80HDで大きく変わったのは、このメニュー表示の仕組みだ。

これまでのVシリーズは「キャラクター(文字)ベース」のメニュー表示だったが、V-80HDでは(VR-120HDやVR-6HDと同じように)「グラフィカルな」メニュー表示となり、英語だけでなく、日本語や简体中文でも表示されるようになった。

その一方で、従来のVシリーズのビデオ・スイッチャーは、特定のHDMI OUT端子(例:V-160HDならばHDMI OUT 3端子)に外部ディスプレイをつなげば、TFTカラーLCDと同じようにメニューが表示されていた。

V-80HDの場合は、TFTカラーLCDに表示されるメニューは(こちらもVR-120HDやVR-6HDと同様に)「外部ディスプレイに表示されない」という点はオペレーション上の注意が必要だ。

(5)新登場「ASSIGNABLE PADS」音源再生だけでなく、よく使う機能の割り当ても可能

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トップ・パネルに登場した「ASSIGNABLE PADS(アサイナブル・パッド)」は、これまでのVシリーズのビデオ・スイッチャーやVRシリーズのAVミキサーにはない新機能だ。

8つのパッドが用意されており、ASSIGNABLE PADSの[SETUP]ボタンを押しながらパッド[1]〜[8]を押すと、8つのバンク(Bank A〜H)を切り替えることで、合計64の機能をトップ・パネルから呼び出せる。

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VRシリーズのAVミキサー(VR-120HDやVR-6HD)に備わる「AUDIO PLAYER」に似ているが、ASSIGNABLE PADSは、音源の再生だけでなく、シーン・メモリー、マクロ、シーケンサーステップの呼び出し、配信の開始/停止など、多種多様な機能を割り当てることができる。

さらに、V-80HDの発売と同時に、無償で提供されるタイトル/グラフィックス生成ソフトウェア「Graphics Presenter」(Windows専用)をインストールしたPCをUSBで接続すると、Graphics Presenterへ登録した素材をASSIGNABLE PADSから制御することも可能だ。

(6)トップ・パネルが直感的に操作ができ、カスタマイズ性が向上!

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そして、V-80HDでもクロスポイント・ボタンの割り当ては、V-160HDと同様に柔軟性がある。

トップ・パネルの[INPUT ASSIGN]ボタンを押しながら、PGM/Aクロスポイント[1]〜[8]ボタン、またはPST/Bクロスポイント[1]〜[8]ボタンを押すことで、HDMI IN 1〜4、SDI IN 1〜4、STILL 1〜32(本体に保存した32枚の静止画)、ビデオプレイヤー(V.Player)、SRT inの映像ソースを、それぞれのクロスポイントへ自由に割り当てることができる。

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また、トップ・パネル上部にあるAUDIO INPUT LEVEL[1]、[2]、[3/4]、[USB IN]つまみは、リア・パネルのAUDIO IN 1、2、3/L、4/R端子およびUSB STREAM端子から入力される音声を操作できる。

パネルに印字された音声入力を操作することも可能だが、これらのつまみはAUDIO MIXERの[SETUP]ボタン、もしくはAudio Knob Assignメニューから変更をすることもできる。

AUDIO INPUT LEVEL[1]、[2]、[3/4]、[USB IN]つまみへの割り当ては、初期設定の「Audio In 1〜3/4」「USB In」のほか、「Bluetooth In」「Audio Player」「HDMI 1〜4」「SDI 1〜4」「V.Player/SRT In」も含まれる。

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そして、右側の[AUX 1]、[AUX 2]つまみと[MAIN]つまみも、AUX 1、AUX 2バス出力や全体の音量(Main Bus)の調整ができ、これらのつまみも自由に割り当てが可能だ。

[AUX 1]、[AUX 2]つまみと[MAIN]つまみに割り当てられるのは、初期設定の「AUX 1 Bus」「AUX 2 Bus」「Main Bus」のほか、「USB Out」(USB STREAM端子から出力する音量)および「Stream&Record」(DIRECT STREAM端子からのRTMP、RTMPS、SRTの配信と、SDXCカードへの録画・録音に出力する音量)である。

私個人としては、AUDIO INPUT LEVEL[1]、[2]、[3/4]は初期設定のまま使用し、[USB IN]つまみはASSIGNABLE PADSに登録した音源の調整用として「Audio Player」を、[AUX 1]、[AUX 2]つまみには「USB Out」と「Stream&Record」、[MAIN]つまみには「Main Bus」を割り当てることが多かった。

操作する人の好みや現場の状況によって、それらへ設定するオススメは変わるが、映像面だけでなく、音声面でもトップ・パネルで操作するボタンやつまみを機能カスタマイズできるのはとても便利だ。

(7)オーディオ周りの設定状態の視認性が向上

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V-80HDの音声入力端子は、リア・パネルにコンボタイプ(XLR、TRS標準)のAUDIO IN 1、2端子とRCAピンタイプのAUDIO IN 3/L、4/R端子が備わった。

これに加え、USB STREAM端子からのUSB Audio(UAC)、HDMI IN 1〜4端子、SDI IN 1〜4端子、Bluetooth(Bluetooth Audio)、ASSIGNABLE PADSから操作されるAudio Player、V.Player、およびSRT入力からの音声もミキシングが可能だ。

一方、音声出力端子は、XLRタイプのAUDIO OUT 1、2端子とステレオ標準タイプのPHONES端子が備わる。

さらに、HDMI OUT 1〜3端子、SDI OUT 1〜2端子、USB STREAM端子、Bluetoothに対し、「AUX 1 Bus」「AUX 2 Bus」「Main Bus」3つの出力バスを割り当てることが可能だ。

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これら音声入出力の設定状態は、[AUDIO LEVEL]ボタンを押すことで、TFTカラーLCDを通じて確認をすることができる。

[AUDIO LEVEL]ボタンはすでにVR-120HDへ備わっていたものだが、これまで、Vシリーズのビデオ・スイッチャーでは、カラーLCDから音声入出力の設定状態をひと目で確認する方法がなかった。

例えば、設定が正しくされているかを確認したいとき、また、設定ミスによる音声トラブルが発生したとき、どのオーディオチャンネルがONなのか(またはOFF/MUTEなのか)などの状態を"瞬時に"確認するために、iPad専用リモート・コントロール・アプリケーションやmacOS/Windows用リモート・コントロール・ソフトウェアに頼ることが多かった。

ちなみに、今回のV-80HDは28チャンネル・デジタル・オーディオ・ミキサーが搭載され、ひと昔前のVシリーズと比べて高機能となったいま、現場で設定・確認を必要とするオーディオチャンネルも増えた。これらの設定状態を、メニュー操作を繰り返しながら一つずつ確認するのはもはや至難の業だし、オペレーションに時間もかかり、慣れも必要だ。

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もちろん、これまで通りiPad専用リモート・コントロール・アプリケーションやmacOS/Windows用リモート・コントロール・ソフトウェアを活用して、音声入出力の設定や管理を行うこともできる。

しかし、[AUDIO LEVEL]ボタンを押すことで(リモート・コントロール・アプリケーションを準備しなくても)V-80HD本体のカラーLCDでそれぞれのオーディオチャンネルの状態や、レベルメーターをまとめて確認できるのはとてもありがたい。

なお、この[AUDIO LEVEL]ボタンを押すと「ALL」「HDMI/SDI」「Audio IN」「Audio OUT」「Custom」タブが表示される。個人的に気に入ったのは「Custom」タブ。8チャンネル分の音声入出力を"任意で"選択して、必要な音声入出力チャンネルだけを一覧に表示することができる。こちらも、操作する人の好みや現場の状況によって上手に活用したいところだ。

専用のアプリとの連携で、より操作性が広がる

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ローランド「V-80HD」は、SDIとHDMIの入力系統を両方備えたことで、特に、SDI 4系統・HDMI 2系統のV-60HDを長い間使ってきたユーザーが安心して乗り換えることができる後継モデルと言えるだろう。

V-80HDはV-160HDの弟分ながらも、Vシリーズのビデオ・スイッチャー「V-160HD」の良さと、VRシリーズのAVミキサー「VR-120HD」の良さがかけ合わさった。

これまでVRシリーズにしかなかったDIRECT STREAM端子が備わったことで、V-80HDは本体から直接RTMP、RTMPSの配信やSRTの入出力が可能となり、フロントパネルにはSDカードスロットが備わり、SDXCカードへMP4(H.264)形式での録画・録音ができるようになった。

また、USB HOST端子はUSBメモリーや外付けSSDなどUSBストレージを接続したり、USBテンキーを接続すれば映像切り替えなどの操作をコントロールすることも、スマートフォンを接続してテザリングをすることもできる。

もはや、VシリーズとVRシリーズは機能の差や有無で区別をすることができなくなってきたくらい、V-80HDは多くの機能が盛り込まれたビデオ・スイッチャーとなった。

V-60HDからの乗り換えはもちろん、これまでHDMIの機材構成がメインだったV-8HDのユーザーや、V-1HDやVR-1HDを使ってきたユーザーが、ライブ配信やウェビナーの配信のクオリティー向上のためのステップアップとして、V-80HDを選ぶのもアリだろう。

リア・パネルにあるSDIとHDMIなどの入出力端子の数だけでなく、トップ・パネルのボタンやつまみの直感的な操作やカスタマイズの柔軟性様々な外部制御機器による操作の拡張性を備える、バランスがうまくとれたビデオ・スイッチャーとなったと感じる。

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最後に、V-80HDの発売とともに無償で公開されるタイトル/グラフィックス生成ソフトウェア「Graphics Presenter」に関心を寄せる人も多いだろう。残念ながら、V-80HDとGraphics Presenterを一緒に検証することが叶わず、この記事ではV-80HDとGraphics Presenterの連携についての紹介をすることができなかった。

Graphics Presenterをいち早く体験できる(対応される)のは、この"V-80HDのみ"。その他、対応が予定される機種(V-160HD、V-8HD、VR-120HD、VR-6HD)へのアップデートはGraphics Presenterの公開から少し間をおいてからとなる。

Graphics Presenterのレビューは、V-80HDの発売とGraphics Presenterの公開がされたあと、PRONEWSから折を見て紹介されることに個人的にも期待をしたいところだ。

WRITER PROFILE

ノダタケオ

ノダタケオ

ライブメディアクリエイター。スマホから業務機器(Tricasterなど)までライブ配信とウェビナーの現場を10年以上こなす。