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はじめに
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筆者は普段の業務では本機と同じパナソニックのデジタルビデオカメラ「HC-X2」を使用している。理由としてはLUMIXミラーレス一眼との併用が多いので、色合わせがしやすいという点で選んでいるが、根本的にパナソニックの素直な色合いを気に入って使っている。
そのHC-X2より小型ながらも、ほぼ同等の機能を備えた「HC-X2100」をお借りすることができたので、紹介していきたい。
今回のレビューでは本機が先代のHC-X2000から大きく変化していない点を踏まえて、筆者が2週間使った感想や、HC-X2との比較を主に話をしていく。機能の詳細などについては、PRONEWSに掲載されている井上晃氏のHC-X2000レビューや、メーカーホームページを参照してほしい。
HC-X2000からの変化点
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HC-X2100と先代のHC-X2000のスペック表などを見比べても、大きな変化はない。EUのUSB Type-Cの義務化に対応するのが主な目的にも見える。しかし細かく見ていくと、現在の仕様に合わせたアップグレードが見て取れる。
中でもSDXCカードの512GBまでの対応は嬉しい改良だ。HC-X2でも2025年1月現在、128GBまでの対応で、4K60Pでの長時間録画では約1時間20分でSDカードの交換を余儀なくされる。5時間の長丁場でもカード交換を気にせずに済むようになったことで撮影のストレスが緩和された点は歓迎したい。
USB-C対応になったのと同時にいくつか機能も追加された。スマートフォンを用いた有線テザリングへの対応、イーサネットアダプターを介した有線IPストリーミングへの対応など、昨今の配信ブームに対応してきたと思われる。
ただし業務で配信を行う場合は、USB-Cのケーブル抜け防止の観点から、有線LANポートを備えた本機の兄弟機である業務用モデル「AG-CX20」が発売されるので、そちらを検討した方が良いかもしれない。
もう一つの変化点として、HC-X2100から「LEICA DICOMAR」の文字が消えた。先代のHC-X2000ではライカディコマーレンズとしてカタログ等にも記載されていたレンズだが、本機からはその文字がなくなった。筆者も気になり調べてみたが、詳細まではつかめなかった。レンズのスペックがHC-X2000と差異がないところをみると、同じ品質のレンズを使用しているのかもしれない。撮影している限り逆光耐性にも強く、色のりも豊かなレンズだったので、筆者としては問題ないと感じた。
以下、筆者が調べた変化点を記す。
- ビューファインダーの大型化:0.24型液晶→0.39型OLED
- アイカップの大型化
- USB-Cの採用:給電も可能
- USBテザリング接続機能
- USBイーサネットアダプター接続機能:有線IPストリーミング
- SDXCメモリーカード:512GBまで対応
- 低速ズームの改善:約2.8倍の低速ズーム
- 撮影ガイドラインの表示
- タイムコード出力、SDIリモート記録制御に対応
- Wi-Fi 5GHzに対応
- スマホアプリ「HC ROP」がライブビューに対応:リモート操作が容易に
- microP2非対応
- 電源アダプター非対応
- 低ビットレート記録モードの追加:ファームウェア対応
外観
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このカメラの最大の利点は「小型・軽量」な点だと考える。ただし一般的に売られているハンディーカム(例えばHC-VX3)と比べると、3倍程の重さがあるので、慣れないと長時間の撮影は難しいかもしれない。本体グリップの角度も筆者には微妙に合わなかった。体の正面に構えるとレンズが正面より下に向いてしまう。若干手首を自分の方に煽って撮影するか、トップハンドルを握って撮影することになる。気軽に右手一本で撮影するには、手首の負担も大きく難しく感じた。
逆に2連リングを左手で支えてあげれば、ボディの重さや後述する手振れ補正の優秀さも相まって、歩きながらでも非常に安定した撮影ができる。片手で振り回すというよりは、両手でしっかり支えて撮るというのが、このカメラのスタイルだと感じた。
このカメラは小型なのでバッグを選ばない。普段使用している中型のカメラリュックにも入れることができる。バッグからサッと取り出してすぐに撮影に入れる。バッテリーは比較的大型のAG-VBR59を使用しているので、電源を入れっぱなしにしていても容量的には余裕があり、こまめに電源を落とす必要もない。バッテリーマネジメントにあまり気を遣わなくていい点もこのカメラの強みだと思う。
あくまで業務に使用できる民生機の中では「小型・軽量」であるが、それなりに機能の詰まったボディなので、重さや持ちやすさなどについては、可能であれば一度手に持って試してもらいたい。
画質
簡単ではあるが実写フッテージを撮影してきたので、そちらを確認いただきたい。
実写フッテージ(YouTube)
HC-X2100のセンサーサイズは1/2.5インチセンサーで、有効画素数は829万画素と4Kを維持するギリギリしかない。小型軽量なボディを維持するために、センサーを小型化しなければならなかった設計思想は読み取れるが、どうしても画質低下は気になる点だ。
冒頭、我が家の黒猫さんを撮影してみた。日中の室内、被写体までの距離は1m程度。多少仏頂面ではあるが可愛い表情が撮れている。普段ミラーレス一眼に慣れている筆者からしてみても、黒猫はカメラ性能を試される意地悪な被写体だと思っている。表情などは綺麗に撮れているが、細かい毛の一本一本を表現しきれていないように見える。ズームしていくとフォーカスの取れている顔回りの毛は上手く描写できているが、フォーカスから外れた部分と背景が混ざり合ってしまって描画の甘さを感じる。映像として必要十分ではあるが、ミラーレス一眼と比較すると物足りなさを感じてしまった。
次のシーンは、ある展示場で撮影した。冒頭は片手でカメラのトップハンドルを握り、列に沿って歩いていく。特に歩き方を意識していた訳ではないが、高性能な手振れ補正により、見れる程度の映像にはなっていた。中に入ると灯はほとんどなく、若干の天井からのライトと、展示物の目が光っている程度の薄暗い空間。流石にここまで暗いとフルサイズミラーレス機でも難しいのではないかという中で撮影したところ、思った以上に撮れていたことに驚いた。センサーの小ささから暗所での弱さを懸念していたが、これだけの暗所でこれだけの映像が撮れていたら、記録という意味合いで言えば十分ではなかろうか。
次のシーンは大雪が降った後の日本庭園を撮影した。屋外であるのと、日光が雪に反射して被写体自体が明るいので、内蔵NDフィルター1/64を使用している。スイッチひとつでNDフィルターが選択できるのは、デジタルビデオカメラ最大の利点だと感じる。
映像で見るとわからないが、実際は非常に眩しい状況の中、NDフィルターでの光量調整により、細かい雪の質感まで描写されていた。
暗所では潰れやにじみが発生していたが、逆に明所での白飛び耐性はかなり高いと感じた。階調も同様で、暗所よりも明所の方が失いにくい。今回の明るい環境下での雪も白つぶれしてしまっている箇所が少なく、写りは上々だった。室内向けというより屋外など明るいところで真の実力を発揮してくれるカメラだと感じた。
最後のシーンは貯水湖にいたカモの集団を撮影してみた。普段使用しているHC-X2の24.5mm~490mmに対し、HC-X2100は25mm~600mmの光学24倍ズームに対応している。近寄ると逃げてしまうので、かなり遠いところから狙ってみたが、これだけズームで寄れるのかと驚いた。600mmで寄った後も、脇を締めてカメラを構えれば手持ちでも十分被写体を追いかけることができる。これはパナソニックのお家芸とも言える手振れ補正制御の素晴らしさだと感心した。
三脚に据えて
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このカメラの特性上、三脚に据えての撮影も視野に入ると思う。実際に載せてみた感想を記す。
Sachtlerのビデオ雲台「FSB 8 Mk II」に載せてみた。ボディが小さいので本体下部にある設定ボタン類が押しにくいのではないかと懸念したが、FSB 8の場合は難なく押せた。FSB 8より幅のある雲台だとボタンが押しにくくなってしまう可能性があるので、ご使用のビデオ雲台と相談しながら使用を決めてもらいたい。
ダイヤルはHC-X2000と同じ2連リングで、フォーカスとズームを操作できる。カメラ本体の大きさが小さいためリングも細く、HC-X2と比較するとダイヤル操作が重く感じる。決して2本の指で操作できない訳ではないが、必要以上にトルク感があり操作しづらい。
本体が小さいので、小さめの三脚での運用ができる点は良いと感じた。筆者の所有しているBEMROのシアンバードカーボン三脚でも問題なく振ることができた。電車などの公共交通機関を使いながらも三脚に据えて撮影したい場合などにも、この小型さは強い武器になると感じた。
FHD MP4記録の低ビットレートモードの追加
発売当初は対応していないが、次回ファームウェアアップデートで、FHD MP4記録の低ビットレートモードが追加されるとアナウンスが出ている。24Pで24Mbpsとのことなので、かなり軽量なファイル形式となり、フットワークの軽い編集が可能になりそうだ。こういったユーザーからの希望を吸い上げて機能に盛り込んでくれるパナソニックの心意気には感謝したい。そしてHC-X2にもファームウェアアップデートで対応していることを筆者は心から願っている。
総括
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小型・軽量・高画質の三拍子揃った機種だと思っていたが、小型軽量にするために、犠牲にした部分も意外と多かった機種だと感じた。昨今ビデオカメラのセンサーサイズも大型化が進み、1インチサイズのセンサーを搭載する機種も大分増えてきたように思える。実際それらのカメラと1インチ以下の小型センサーを搭載したカメラを比較すると画質の違いが気になることもあり、本機も例外でなく撮るシーンによっては画質の粗さが気になる場面もあった。
しかし、このボディの小ささでこれだけの画質であれば、業務にはもちろん、通常の作品撮りやファミリームービーにも十二分に対応できると感じた。HC-X2を手持ちで一日撮影するとかなり疲労困憊になるが、HC-X2100であれば比較的楽に撮影することができそうだ。
屋外での撮影が多い人、荷物を減らしたい人、被写体を追いかけながらの撮影が多い人にはもってこいのカメラである。ぜひ私も自分の現場に投入してみたいと考えている。
あきあかね|プロフィール
1977年生まれ。本業の傍ら2020年よりYouTubeにて映像作品や製品レビュー等を発信している。
近年では副業として企業VP制作や自治体からの依頼で映像制作や配信業務を請け負うサラリーマン映像作家として活動中。
WRITER PROFILE
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