
私の2025年の1回目の機材レビューは「ライカSL3-S」ということになった。「ライカSL2-S」ユーザーでもある私、心が弾まないわけがない。ライカで動画撮影するということを改めて考える良い機会になると感じつつ、マシンスペックというより映像表現の道具という視点で、初めて手にするSL3-Sの動画機能に絞ってレビューしたいと思う。
ライカと言えば写真の世界で知らない人はいない、至高のシステムとも言っていい代名詞的存在だ。それはレンジファインダーで撮るその所作に脈々と受け継がれた良さがあり、デジタル機となって現代的な機能が加わりながらも独自の撮影の世界を提供し続けている。そこから派生して、近代に寄せたコンセプトとして生まれたのが「ライカSLシステム」だ。EVFを搭載するミラーレス機であり、動画撮影もできるわけだ。
初代SLではモデルとしては1機種のみであったが、第2世代となるSL2シリーズではじめて動画機能を強化したSL2-Sが登場した。その第3世代となるSL3シリーズの中の動画機能強化モデルがSL3-Sであり、SL2-Sの後継機となる。

私物のSL2-Sを横に並べて比較してみると、外観はSL2-Sより一回り小さくなり、相変わらず美しいプロポーションが見て取れる。トップ部分には大きなダイヤルが1つ増え、直感的な操作がよりしやすくなった印象だ。トップのサブ液晶に表示される情報もより実用的になっており、軍鑑部サイドにはセンサー位置マークが刻まれている。電源操作がスイッチから自発光リング付きのボタン操作に変更となり、サイド部にはイヤホン端子、マイク端子、HDMI Type Aの端子が並ぶ。LCDモニターは固定式からチルト式になった。






底部を見ると、1/4ネジ穴に対して回りどめピン穴がついた。私のザハトラー三脚のタッチ&ゴープレートを装着してみたが、1点留めであってもプレートが回ってしまうこともこれでなくなる。


センサー解像度はSL2-Sと同じ2400万画素だが、やはり大きく異なるのはLCDがチルト可能となったこと、そして電源がボタン式になったことで、動画機として観察するとより実用的になった印象だ。ライカ自らが挑戦的な姿勢で製品開発を行ってみようとする意思が感じられる。
収録スペックとしては6Kオープンゲート収録や、ProRes内部収録が可能だったりとSL2-Sからはスペックアップしており、AFは位相差AFに刷新されAF精度が向上している。そして、SL2-Sでもそうだったが、低照度環境での高感度特性は特筆もので、その耐性はさらに向上しておりISO 12800程度まで上げても十分に実用に耐えるほどの素晴らしい性能を発揮する(個人差はあるのでご自身で体感してほしい)。
またボディ内手ぶれ補正のIBISも搭載されている。収録メディアはCFexpress Type BとSDXCのデュアルスロットとなり、USB-CにSSDを接続して収録することもできるようになった。

また個人的に素晴らしいと感じているのはSL2-Sと同様、非常にクリアで見やすいEVFを搭載していることだ。その見え性能にはさらに磨きがかかっており、ピーキングを効かさなくてもピントピークがつかめる程のクリアさで、積極的にEVFを使いたくなる品質だ。この見えの体験はぜひとも実機を手に取って実際に覗いてみてもらいたい。
このように基本スペックについてはSL2-Sから順当なアップデートと見られるが、大きな違いとしては、「Leica Looks」が利用できることだ。この「Leica Looks」はSL3、ライカQ3、ライカQ3 43でも使えるが、ライカ特有のカラーサイエンスとなるスタイルが複数用意されており、スマートフォンアプリである「Leica FOTOS」で確認できる。そして、選んだスタイルをカメラボディへ転送することで使用できるというものだ。SL3-Sで動画撮影する意義の一つになるのではないかと筆者はこのレビューを通じて強く感じた。

今回はSL3-SとApo Summicron 50mmが数日と短い間だが貸し出された。そこでシンプルに持ち歩いてV-log的な使用方法で楽しみながら記事としてレビューする。

動画モードでのメニューについて(辛口ですみません)
SL3-Sではメニュー画面として静止画モードと動画モードの大きく2つに分かれており、それぞれで詳細メニューが異なる。このレビューでは動画モードについて言及するが、このメニュー構造については「独特」という言葉がどうしても出てしまう。この点についてはエールを込めて実感を述べたいと思う。
SL2-Sから大きく変わったのは「収録設定を事前にプリセットとして作っておき、その中からセレクトする」という運用方法だ。おそらくこうすることで、コーデックの違い、ビットレートの違い、解像度の違いなど多くのパラメーターにおいて選択可能な組み合わせを自動的に調整されるようにした、ということなのだろうと思う。がしかし、このプリセット運用というのはあまり直感的ではなく、プリセット内の何か設定を変えると他の設定値が自動的に変化してしまい、今現在がどの設定になっているのかわからなくなってしまうのだ。


一つを変えたら別の何かが勝手に変わってしまう、ということで事前にしっかりとプリセットを作って確認しておかないと事故の原因になりかねない。現場でパラメータ設定を変えようとしても、即座に変えることはなかなか難しいと感じた。
もう一つ、ホワイトバランスのマニュアル設定についてだ。これはSL2-Sも同様なのだが、色温度のステップが500ケルビンステップになっていることだ。例えば、5000、5500、6000という設定は可能だが、通常よく使う5600というケルビン値を選ぶことができないわけだ。せめて100ケルビンステップで調整ができるようにしていただきたいと強く感じた。

せっかくの素晴らしいハードウェアスペックなので、この部分については正直なところもったいない。今後のファームウェアアップデートでの改善を望みたいところだ。
フルフレームモードでは4K30Pまでの設定が可能となり、4K60PにするにはAPS-Cクロップとなる。
このようにいろいろとソフト面においては改善要求を出したくなるのだが…それでもパッと撮って出てくる画はしっかりとしており、不思議な魅力があるカメラであることには間違いはない。裏返せば、まだまだ伸び代が大きくあるカメラとも言える。今後の展開に期待したいところだ。
「Leica Looks」でライカの色世界観を纏った動画撮影を狙う楽しさ
その上でSL3-Sでの動画機としての魅力を高めるのはやはり「Leica Looks」の存在だ。2025年2月現在では、Brass、Chrome、Eternal、Contemporary、Classic、Blue、Selenium、Sepia、というカラースタイルが「Leica FOTOS」アプリのリストに並ぶ。ここにこそライカで映像を撮る醍醐味があると筆者は感じつつ、その中から今回はEternalをセレクトした。今回のレビューではProRes収録の4K24Pとし、Leica Looks EternalのカラースタイルでSL3-Sを手持ちだけで撮ってみた。


撮影したフッテージをiPad Pro M4に直接吸い上げ、Final Cut Pro for iPadで色調整をせずストレートに使用して1時間程度でカット編集しただけの作例である。
まず撮影してみてやはり便利なのは、LCDのフリップ機構だ。アイレベルでの撮影ではEVFを積極的に覗いて撮影していたが、手を伸ばしてハイアングルから狙ったり、ローアングルから狙う時にはLCDフリップの恩恵は計り知れない。また、このフリップ機構はレンズの中心軸上にLCDが来るため狙いが定めやすく、個人的に好みの機構だ。
今回のテストではバッテリーは1本あたり概ね70分程度持った(保った)ので、途中で1回交換を行ったが、概ね標準的なバッテリー持ち(保ち)だった。電源がボタンプッシュ式になったわけだが、短く押すとスタンバイモード、長く押すと完全にOFFということで、スタンバイモードを多用すればもう少しバッテリー持ち(保ち)を良くすることもできるだろう。
このEternalというスタイルはかなりクセの強いスタイルだが、筆者的には好みの雰囲気だ。他のスタイルも魅力的なものが揃っているので、もっと時間があればそれぞれで撮り比べてみたかった。
筆者自身は必ずしもLog収録を行わず、カメラが持つこれらの独特のルックを使用することが多い。なぜなら、Logというものは階調性をより重視してダイナミックレンジを稼ぐための撮影法であり、ポスト作業においてターゲットとするルックへ戻すこと、さらに自らが考えた味を加えることが前提の収録方法だからだ。
つまり撮影時データはあくまでも中間ファイルのような扱いであり、あらかじめターゲットとするルックを頭に入れておく、思い描いておくことが重要でもある。色の世界観を自らでプロデュースする力が必要であり、常に意識しておく必要がある。可能であればビューイングLUTとしてカメラ内または外部モニターに仕込み、Logストレート時の波形、LUTを当てた状態の波形も見ながらじっくりと撮影したいものだ。もちろん必要に応じてLogやRAWも使用することがあるが、目的を持って選択している。
しかしワンマンでシンプルにカメラを持ち歩きドキュメンタリースタイルで撮影するとなると、波形に意識を持っていかれるより、目の前で起こる事象、撮りたくなる一瞬を逃さないよう集中したいのだ。その点、各カメラメーカーが自信を持って用意するカラーサイエンス(ここでの「Leica Looks」)はアナログで、いわば「フィルム銘柄を選ぶ」行為に近いものであり、そのフィルム特性に身を委ね撮影現場で直感的に色を感じながらターゲットを狙う方が自分にとっては正解なのだ。
EVFなどを通じてそのカメラ独特のルックを味わいながら、思いもしない良い描写に出会うこともあれば、想像より良くない見えだったり、全てを現場で完結できる緊張感が私は好きだ。撮影者によって好き好きがあると思うが、そうしたベクトルを持つ撮影者にはわかっていただける感覚なのではないかと思う。
今回のレビュー用撮影では、築地場外市場をSL3-S片手に2時間程度撮って回った。バッテリーはカメラバッテリー2本だけ(SL3-S貸出機についていた1つと、私物のもの1つ)、とにかく機動力良くしたかったので私物のTilta製のVNDをApoSummicronSL 50mmの前玉にクリップオン型マットボックスのmirageを使って装着、マイクとしてはゼンハイザーの小型ガンマイクであるMKE-400-II 508898を装着しただけだ。非常にシンプルな構成で手持ちスタイルでの50mm一本勝負ということで楽しんでみた。ホワイトバランスはマニュアルで5500ケルビンとした。

AFを積極的に使用してみたわけだが、若干の迷う場面はあるものの総じて実用的な範囲と感じた。SL2-SのAFではいわゆるウォブリングを起こすことが頻繁にあったが、その点では比較的に少なくなった印象だ。人物追尾や動物追尾のカットも作例に入れ込んでおいたのでAFの雰囲気も確認いただきたい。また、手ぶれ補正のIBISもONで撮影している。挙動の癖も感じ取っていただけるのではないだろうか。
今回のカラースタイルであるEternalのルックは、築地場外市場の日常の空気感をうまく引き立ててくれている。若干マゼンタ色を帯びたルックでコントラストが強く彩度も高めのルックだが、ここまでの強い個性を持ったルックをポスト処理で行うとのっぺりとしてディテールが潰れてしまうことが多いと思う。だが、このフッテージではその場の空気感やディテールを損なうことのない質感が得られているように感じる。それはSL3-Sが持つハードスペックが下支えしているからこその結果のように思う。
最後に個人的好奇心としてのテスト
最後に、メーカー公認ではないテストをしてみたいと思う。忖度のないユーザーレビューをしたいためだ。
映像制作を行っていると、どうしてもズームワークを行いたくなるもの。ではSL3-Sボディを使う上でスローズームを行うにはどうするか、考えてみた。
いくつか方法論が考えられる。ライカ純正ズームレンズにリングギアを巻き、フォローフォーカスまたはモーターコントロールをできるようにする、というのが通常だろう。しかしその方法論ではベースプレートでロッド出しが必要になったり電源周りに工夫が必要になる。どんどんシステムが大きくなりせっかくの機動力がそがれてゆく。
そこで、今回ふと、CN-E 18-80mm T4.4をもしマウント変換で装着したらどうなるか、という好奇心が湧いた。私の手持ち機材で思いつきでテストしてみた。結果、なんと、ちゃんとレンズ認識して使えてしまった!

マウント変換アダプターはLマウントアライアンスとしてのシグマ製「MC-21」。その電子接点を介して、レンズプロファイルを認識しているではないか!そしてパワーズームが何事もないように作動したのである。スローズームもこの組み合わせなら何の問題もなく使用できてしまうわけだ。Lマウントアライアンスの素晴らしさを改めて感じる瞬間だ。これには歓喜の声が出てしまった。
映像制作では「このような表現がしたい、このように撮りたい」という狙いから逆算して、それをなるべく無理なく実現できる機材構成を考える思考プロセスになるので、固定概念は一旦横に置いて、使えるものは積極的に使っていくようにしていきたいものだ。そうした観点で様々な使い方ができるシステムというのは試行錯誤の甲斐があり、個人的にそうしたワクワク感が好きだったりする。
ライカSL3-Sは独特の癖はあるものの、「Leica Looks」の恩恵を受けてライカならではの色世界観で撮影ができるムービーカメラとして唯一無二のシステムと言えるのではないか、今回のレビューを通じてそのように感じた。そこに、Lマウントアライアンスによる拡張性があり、ユニークな撮り方を探れる大きな可能性があり、未来的に大きな伸び代が隠れているのだ。
田中誠士|プロフィール
関西大学工学部応用科学科卒。印刷系技術会社にてシステムエンジニアとしてデジタルイメージング及びコンバーティング分野のインテグレーション業務、システム開発に従事。その後2002年に起業し、株式会社フルフィル代表取締役に就任。エンジニア経験および理系出身の知識を活かし、技術企業など法人専門に特化した映像制作やブランディング業務を行う。自らカメラマンとして撮影も行う。また大阪中央区、東京銀座にてクロマキースタジオ「フルフィルスタジオ」を運営する。
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