
「これを持っておけば、おおよその現場はどうにかなるのではないか?」そんなPTZカメラがOBSBOT社から発売された。
2024年末に発表された本機は年明け1月に割引が適用される初期購入申し込みがスタート、2カ月の期間を経てついに購入者への発送が開始され、私の元にも到着したのである。あれもこれも実現してしまうと期待感に包まれたOBSBOT「Tail 2」はどのようなものなのか、実戦投入に耐えうるポテンシャルを秘めているのか自身の視点で一つひとつ見ていこうと思う。
機能多彩で20万円台を実現
業務現場でPTZカメラが見られるようになって数年が経過したが、その価格は20万円を超えてくるものがいまだ多い。もちろん安価に10万円を切ってくるようなモデルはあるものの、出力される映像の質感がノイジーであったり、白飛び・黒つぶれなどが見られたりと若干の不安があり、機体選びには苦慮することがある。それならばとノイズの少ない1インチセンサーを搭載した機種を選ぼうとなると価格は一気に50万円以上に跳ね上がり、「だったら業務用カメラが買えるではないか」と私などは躊躇してしまう。さらに減価償却の上限を超えてきてしまうのも悩ましい。
今回発売となったOBSBOT Tail 2は20万円台の価格帯でありながら1/1.5インチセンサーを備え、光学含めたハイブリッドズーム12倍ズーム。それだけではなくHDMI/SDI/NDI(別途ライセンスが必要)出力を備え、その上microSDカードへの同時収録も実現した、いわば至れり尽くせりの待望の機種なのである。ライブ配信業務に携わるものであれば「とんでもないものが出てきた」と感じるのも無理はない一品である。
コンパクトに収まる本体と周辺機器

この3機種は弊社で所有し業務で使用しているPTZカメラである。左から順にOBSBOT Tail 2/HDKATOV KT-HD86AN/BirdDog P200なのだが、PTZカメラの小型化がここまで進んだのかと驚く。まるで遠近法を用いての撮影のようにも見えるが、正真正銘横一列での撮影でのサイズ感がこれだ。
Tail 2の本体のサイズは97.5×103.5×155mm。これまでPTZカメラを外部現場に運搬する際はパッケージングに四苦八苦していたのだが、次の写真の通り3台のTail 2をNeewerのソフトケースに収めても余裕のある収納をすることができた。業務レベルのPTZカメラをこれだけコンパクトに収めることができるだけでもありがたい、と感じる人は少なくないだろう。
私の場合、PTZカメラを導入する現場は少人数現場であることが多く、キャリーに収めて搬入する頻度も高いので、このサイズ感は大いに助かる。これまで一台一台をハードケースにしまったり、Pelicanなどの深めの収納ができるケースで運搬していたのだが、これなら一般的なキャリーケースで持ち込みが可能だ。

荷物の軽量化に寄与してくれるのは、何も本体だけではない。Tail 2は自動的に水平を維持してくれる機能も持ち合わせている部分も注目だ。Tail 2は水平に若干不安な場所にカメラを設置したとしても安定した映像が得られる自動水平機能を持ち合わせている。
それは例え、箱馬を重ねた舞台であったり、屋外ライブ配信で急遽用意した高台であったとしても、HDMIやSDIで引き回して得られた映像にはその不安定さが微塵も見られない。つまり、Tail 2用として三脚を用意する際にも水平を調整することができる高価かつヘビーな物を持ち込む必要がないのだ。
本体重量は1066gと大変軽量なので、マジックアームでどこかしらに固定できたならばそれで済んでしまうし、小型化で重心がセンターに寄っているため安定もする。ちなみに、水平角度についてはロール軸微調項目で0.1度単位で修正をすることができ、状況に合わせてセッティングが可能だ。


「ここまでやるか」と思える豊富なインターフェース


前述した通り、Tail 2には豊富なインターフェースが備えられている。
- フルサイズのHDMIポート
- イーサネットポート
- VISCAおよびPelcoプロトコル制御用のRS-232ポート
- データ通信の高速USB 3.0ポート
- 放送品質の信号送信のためのSDIポート
- SDカード
HDMIとSDIは同時出力できるのはもちろんのこと、NDI出力(別途ライセンスが必要)やmicroSDカードへの録画も同時に行うことができ、個人的にはこれがとてもありがたい。過去PTZカメラの映像をパラで収録する際にはHyperDeckやNinjaなどの外部収録デッキやISO収録のできるスイッチャーを持ち込む必要があり、これがまた搬入物量を増やしていく要因となっていた。
むしろ、これが機材軽量化のボトルネックでもあったのでパラ収録が欲しい現場などではPTZカメラを選択できなかったこともあるのだが、Tail 2を用いることで外部収録機分の物量を節約することができる。検証にあたり4K30p設定で夜通し収録してストレスチェックを行ったがこれについては問題なく、発熱などについても内部ファンが動作するなど異常は認められなかった。
ちなみにSDカードの空き容量がなくなるとアラーム音が鳴るので、本番中などにはならないように設定をするなど注意しておくことが必要だ。SDカードのデータの吸い出しについてはUSBでPC/MACと接続することでデータドライブとして認識するので手間がないほか、OBSBOT APPからダウンロードも可能である。
ライブ配信だけではない、映像制作現場でのPTZカメラの活用
Tail 2の魅力については何もライブ配信現場に限ったことではない。これまでそんなこと考えもしなかった活用シーンがいくつもあり、あれもこれもアイデア次第ではできてしまう潜在的なポテンシャルがある。まずは内部バッテリーの存在だ。
Tail 2には5000mAhのバッテリーを搭載しており、電源供給のできない現場でも最大5時間の撮影を行うことができる。これは今までのPTZカメラにはなかった点であり、ある意味これまでのPTZカメラという枠を大きく超えてきたものの一つでもある。この機能を活用することで、これまで収録するために困難を極めたような足場でも容易に撮影できるようになる。しかも前述した自動水平機能があるため、ちょっと不安定なところからでも安定した映像を得ることができる。以下はテストで収録したものになる。


スマートフォンによるカメラコントロール、そしてさらに進化したというAIトラッキング機能を用いて作成をしたが、これらの映像を極めて少人数かつ少ない時間で行うことができるのはこのカメラだからこそでもある。
夜間シーンは細い路地裏で街灯1本しかないような場所で、室外機の上にカメラを乗せて撮影をしているがしっかりとオートトラッキングが効いているのがわかる。周辺に見られる白いモヤは室内から屋外に移動した際に出るレンズ内の曇りで、これについてはレンズウォーマーやカイロなどを準備して十分対策をすれば避けられるだろう。
頼れる存在になってきた、AI追尾+ワイヤレス機能
Tail 2には過去発売されたAir同様にWi-Fiを用いた映像管理ができるわけだが、Tail 2を用い遮蔽物のない環境でこれを試したところ、およそ50m前後離れてもモニタリングができた。カメラ距離80mほどから距離を伸ばすにつれてフリーズ箇所がちょくちょく増え100mほどになると実用では難しくなった。以下の映像はカメラから25mほど離れた位置からモニタリングをしながら撮影をしている様子である。
最大倍率はおよそ10倍程度の設定で傘をさしながら歩く・走るの動作を行ってみた。
カメラからの距離が近すぎた場合、前を横切る際に人物を捉えきれずにロストする場面はあったが、一定の距離を保った場面では遮蔽物に隠れるまでは追尾をしようとしてくれているのがわかる。その動きはカメラマンが行うものと比べたら雲泥の差があるものの、最低限の動きで捉えることを考えたら十分である。
また、私が日頃お世話になっている洗足学園音楽大学の中庭で撮影した際には、それよりも遠い80mの距離で人物の追尾を行ったが、こちらも追尾については問題がなさそうである。
ただ、アプリ上で人物追尾の設定をする際は慣れがないと難航するかもしれない。モニタリングしているアプリ上で追尾したい被写体をドラッグして囲うか、もしくは被写体が手を挙げてジェスチャーコントロールをすることで追尾被写体を人物と認識させることができるが、これが少しずれて胸元などになってしまった場合には表情などはロストした状態での撮影になってしまう。これについては何度もテストを重ねて現場に臨んでほしい。アプリにはマニュアルと呼べるものがほぼないので、実践で掴んでゆくほかない。
舞台に立つ演者に向けてのAIトラッキングのテストは?
最後に実際に舞台に立つ演者に向けてのAIトラッキングのテストを行ってみた。会場は比較的暗めのよくある市民向けの多目的ホールで小さなレールスポットライトが複数並ぶのみの、簡易的な照明環境である。今回は松坂市のブランド大使を務める岡美保子さんの協力のもと収録を行った。
音声についてはSENNHEISER MKE 400-IIを接続し、被写体までの距離は7mほど。前半では人物追跡の画角をウエストショットになるサイズ感で設定。後半ではサイズ感を手動ズームで固定して追尾のみを行った。Tail 2はAI追尾する際の画角をフルサイズやウエストショット、バストショットなど設定に合わせて寄り引きをしてくれる驚きの機能があるのだが、実戦に投入できるものなのか見ていただきたい。
ちなみに、暗所でのノイズの乗り方や背後のプロジェクターの視認についても注目してほしい。


以上のようにTail 2は瞬間的に被写体に惑うときはあるものの、実に自然に人物追尾を行なってくれた。今回搭載されたAI追尾は人間に限っただけではなく、30種以上の動物種と200のオブジェクトを識別できる能力を持ち、AI搭載の追尾の限界をさらに押し広げている。追尾速度についてもプリセットから選ぶことができるほか、パン軸/チルト軸のいずれかをロックしたカスタム設定をすることができ、制作のニーズを高めてくれている。
改めてになるが、Tail 2の活用シーンはこれまでのPTZカメラを大きく超えていることがよくわかった。
いくたもの制作シーンで活用する術が見える
ここまで言ってしまうのはもしかしたら過ぎた言葉かもしれないが、中小規模の撮影・配信現場やカンファレンスの現場において、OBSBOT Tail 2はかなりの影響力を持つ一品になることは間違いない。もちろん動画の中で話した画質と色味の調整部分やアプリを使ったオペレーションの若干のわかりにくさや不完全さはあるものの、それをものともしない高い汎用性は見過ごすことができない。
AI追尾機能は果たしてカメラを振る人々の職を奪うかと言われたら、現時点ではまだ成熟しきってはいない。ただ、今の映像界隈を取り巻く様子を見ていると、クオリティよりも、低予算かつ早いサイクルで映像を世に送り出せていけるかということの方が需要が高まっているように感じる。映像の二極化と考えるならば、Tail 2は明らかに後者側にリーチした決定的な製品に仕上がっていると見てもいいだろう。今後のこのジャンルの進化には目が離せそうになさそうだ。
前田進|プロフィール
1980年生まれ。CATV局キャスター出身のライブ配信エンジニア。2021年に株式会社映像制作MOTIONを設立。現在は数多くの映像制作現場に関わるかたわら、洗足学園音楽大学 非常勤講師として映像・配信に関する後進の指導にあたっている。
▶MOTION(公式サイト) MOTION(YouTube)
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