音声は切っても切れない関係
映像制作において、音声は切っても切れない関係がある。
それはBGMであったり、SEであったり、人の声であったり、現場の雑音であったり。映像において音声の役割は情報であり空気感であり、匂いや温度すら表現する手段だ。「無音」ですら、強烈なメッセージを投げ掛ける、意図された「音」である。
さて、今回は映像音声制作論をやりたいわけではなく、「鼻マイク」の話だ。鼻マイクとは、カメラに取り付けるガンマイクの総称である。ここでは、カメラ本体に内蔵されているマイク「内蔵マイク」と区別して、外部マイクとしてカメラ本体に後付けするマイクを「鼻マイク」と呼ぶ。
鼻マイクとは
現場で見る限り、カメラマンが扱うカメラも制作デジも、皆この鼻マイクは取り付けて運用しているように見える。ほぼ必須の撮影アイテムだと言えるし、思考停止に近い理由でとりあえず取り付けているマイクでもある。
さらに、鼻マイクは単一指向性マイクが採用されることが多く、前方に強い指向性を持つため、被写体の音声を中心に拾いやすくなる。
「今日の撮影は本当にインサートしかない」「音要らない」と割り切れる際は内蔵マイクで通すが、それ以外の撮影では基本的には鼻マイクを取り付けてしまう。
- 音声さんが居ないから
- カメラが被写体に一番近いから
- 鼻マイクの音で十分な案件だから
そこまで音にこだわる必要がない撮影というのもある。理想はもちろん音声さんがガンマイクを差し込んだりしてくれることなのだが、ニュース取材やドキュメンタリーなどであれば、ある程度の被写体との距離であれば鼻マイクで事足りる場合がある。
ディレクターやビデオグラファーなどが一人で行うインタビューや密着取材だと、鼻マイクが唯一の収録音源となり、鼻マイクのラフさが臨場感を演出することもある。
前者と後者では「鼻マイクで良い」のか「鼻マイクが良い」のかの大きな違いがあるので同列に扱うべきではないが、鼻マイクを活かすことを前提とした使い方ではある。
- 音声さんはいるけれど、音声機材トラブルなどの保険
筆者の撮影現場だと、これが最大の理由だ。
音声さんが居て、ワイヤレスマイクやガンマイクの音声を適切に現場ミキシングして、カメラのXLR入力で収録する。これがスタンダードなスタイルだ。
基本的には、そのミキサーアウトの音で全て事足りる。実際、何人かのディレクターに「音声さんが収録した以外の音として、カメラの鼻マイクの音を編集で生かしたことがあるか?」と聞いてみたが、「ない!」と断言されてしまった。
ロケの時点で、音声さんが適切に、的確に、収音してくれているのだ。
だが、機材トラブルはいつ起きるかわからない。その時の保険として鼻マイクは生かしているという状況だ。
これは、ワイヤレスマイクをカメラに直接入れる場合でも同様だ。1波だと1CHはWL、2CHは鼻マイクにしておく。これが2波になると、つい最近までは鼻マイク(ノイズ)を諦めていたが、現在のデジは3/4CH収録が標準化しているので、1CH:WL1/2CH:WL2/3+4CH:鼻マイク(or内蔵マイク)——などとすることが多い。このようにしてトラブルや不測の事態への保険を掛けている。
さて、それでは「鼻マイク」に求められる条件はなんだろうか?
高級で高音質である必要はないというのが共通認識ではないだろうか? ちゃんと良い音を録ろうと思うと、高級なマイクどうこうではなく、音源に対して適切な位置に設置し、適切なレベル管理をしないと、どんなマイクでも意味がないからだ。
そのため「鼻マイク」はカメラに取り付けることを想定して軽量で小型。基本的にはカメラが向いている方向の音声を収録する。比較的安価で耐久性がある。そうした製品が望ましいように思うし、私はそうした条件を満たすマイクを選んでいる。
AZDEN SGM-250LX
筆者が現在、デジの鼻マイクとして使用しているのが、AZDEN SGM-250LXという鼻マイクだ。正確には「L型XLRコンパクトシネママイクロホン」。ファンタム48V専用のエレクトレットコンデンサーマイクだ。
デジやデジタルシネマカメラなどに装着することに最適化しており、音響管はアルミ製で全長約15cmとコンパクト。上記のカメラでの取り回しに最適な長さ約20cmのXLRケーブルを採用している。まさにカメラに取り付けるための仕様にまとめられたマイクだ。
同社からは汎用の超指向性マイクロホン「SGM-250」も従来より販売されているが、SGM-250LXのマイクユニットはSGM-250と同様のものを使用している。
また、SGM-250CX/SGM-250MXといったカメラ用マイクもすでに同社から出ているが、SGM-250LXはマイク端子、つまりXLRコネクタにコンパクトなL型(Low-Profile)コネクタを採用しているのが特徴だ。ストレートなXLRコネクタと比べて端子自体の出っ張りが約35mm短くなり、またケーブルも飛び出さないため、マイク端子ユニット周りがスマートで、カメラバッグに収納しやすくなるというメリットがある。
端子から出ているケーブルの角度も計算されており、真横や真下にケーブルが出ていると隣のコネクタやカメラ本体に干渉する場合があるが、45°に出すことで様々なカメラへの装着に対応できる。
実際に筆者も、ソニー、JVC、キヤノン、パナソニックの各社カメラに装着しているが、どのカメラでもSGM-250LXの斜め出しケーブルが邪魔になったことはない。特にキヤノンのカメラはXLR端子の装着の向きが他社に対して上下逆になっているのだが、もしも真横や真下出しだった場合は、確実に隣の端子やカメラ本体(マイクホルダー)にケーブルが干渉していたため、この斜め45°出しは、本当に正解だと思う。
なお、ケーブル出しの角度はユーザーが任意に調整することはできない。分解してケーブルの角度を変更すると保証対象外となるのでご注意を。
SGM-250LXは、オンカメラマイクとして最適なサイズ感であり、ケーブルの取り回しが最適化されているため、とにかくハンドリングが良いと実感している。
収音特性
さて、気になるのは音質だろう。
最初に言っておくと「鼻マイクに音質を求める必要があるのか?」という疑問があるのだが、悪いよりは良い方がいいし、せっかく購入して取り付けるなら使える音質であってほしい。
そして「良い音とは何なのか?」という根本的な疑問にもぶち当たる…。
スペック表を紐解いてみると、S/N比:76dB。これはミドルレンジのコンデンサーマイクとしては標準的な値で、マイク自体のノイズが低く十分に高音質な部類。流石にクラシックなどの本格的な収音には向かないが、ナレーションレベルなら通用する最低限という感じだろう。
ダイナミックレンジ:112dB、最大入力音圧レベル:130dB。どちらもミドルレンジらしい数値で、ある程度は楽器の収録(ドラムやギターアンプ)などにも対応できるクラス。全体的にバランスの良いスペックにまとめており、マイクの取り扱いに慣れていないユーザーでもある程度はちゃんと録れている、という結果を出してくれるマイクだと言える。
SGM-250LXの指向特性は超指向性(スーパーカーディオイド)で、マイク正面に対しての感度が高く、横からの音を低減。ただしマイク背面に対しても少し感度が高くなっている。
カメラのレンズが向いている方向、つまりマイク正面の音をよく拾い、周辺の音は比較的抑えてくれる。
前方に指向性が極端に狭いわけではないので、被写体との距離にもよるが、2~3ショットぐらいまでであれば均等に音声を収音できる雰囲気だ。
また、後方に少し感度が上がっているため、例えばカメラマン(ディレクター)自身がインタビューする場合でも、ある程度自然にインタビュアーの声を拾ってくれる。
周波数特性——得意とする音域だが、SGM-250LXは正面に対してはローからハイまでフラットな特性を持っている。インタビューから楽器、料理作りの音まで、オールマイティに対応できるだろう。
これは「鼻マイク」の用途から考えて正しい方向だと思う。
極端なことを言えば、鼻マイクの周波数特性など気にしている(知っている)ディレクターやカメラマンなど居ないだろうし、下手すれば検聴すらせずにマイクを向けているだろう。
それで編集の段になって「思ったように録れていない…」と不満が出るよりは、満遍なく全領域で音が録れていることの方がありがたい。
もちろん、この場合インタビューならば人の声以外のローからハイまでの音もしっかり収音されることになる。編集時にある程度整音することが、鼻マイクを活かす前提になる。
私の撮影現場のひとつに大学の行事撮影があるが、こちらは日常的には音声さんが帯同しないので、鼻マイクの音声を使うことが多い。大学の特別講義やイベント取材などは鼻マイクが拾っている音声を使っている。ニュース映像的な扱いなので、講義やイベントの全編の音声を丁寧に収録しておく必要はない。
最近、大学所有のカメラ機材の更新があり、その際にはAZDEN SGM-250LXを採用してもらった。実際に取材で使用したのだが、3~4mの距離で静かな環境であれば、かなり芯のあるクリアな声が録れた。少し整音すればさらに聞き取りやすくなるだろう。
久々に「使うための音声」をSGM-250LXで収音し、聞いた気がするが、改めて使い易い音質のマイクだと感じた。
なおリポーターありの撮影や、講義内容が重要な場合は、別途音声さんを手配している。
まとめ
耐久性は、まだ壊れたことがないから何とも言えない(笑)。
従来からのSGM-250CXは、もう9年近く使っているし、今回紹介したSGM-250LXはサンプル機の時代から使わせてもらっていて 2年半ほど現場で酷使しているが、壊れたりノイズが出たりしたことはない。マイク本体やケーブルの信頼性は高いと言っていいと思う。
言い方は悪いが「鼻マイク」は、その取り扱いを気に掛ける対象ではないので、頑強で常に問題なくフラットに音が録れてくれていれば良い。
日頃から「鼻マイク」の音をモニタリングすることもしないため、いざその音を使うという時に、「壊れていた…」「ノイズだらけだった…」では困るので、そんな無責任なユーザーに対しても安心を提供してくれるだけの堅牢性がSGM-250シリーズにはある。
そして、AZDENの「中の人」とお話をしていると、そうした不遇な扱いを受けるマイクであることを理解した上で、設計・製造していることが窺い知れる。
そういえば、SGM-250LXには、SGM-250CXやSGM-250MXに付属していたショックマウントマイクホルダー"SMH-X"やマイクポーチが同梱されていない。
毎日のように業務仕様のカメラにマイクを取り付けてガシガシ使うヘビーユーザーを想定しているのだから、マイクをポーチに丁寧に片付ける…なんて甘っちょろい環境は、SGM-250LXには役不足なのだろう。実に現場向きのマイクだと思う。
今回のレビューについて
AZDEN SGM-250LX、というか「鼻マイク」を上げも下げもしなかった内容になったが、鼻マイクってそういう存在ではないだろうか?
ランアンドガンの現場だと、もう少し鼻マイクの重要性は上がっていると思うのだが、私のようなテレビロケ中心、音声さんありきの現場だと、毎日頑張っているにもかかわらず、忘れられた存在になる…。
そんな存在だが、いざというときにはちゃんと仕事してくれていないと困るし、助けてくれてマジ感謝!と言える存在であってほしいと思っている。
そう考えると AZDEN SGM-250LXは、コンパクトで取り回しが良く、堅牢。音質にもこだわった上で、使用環境やユーザーをしっかりと想定したスペックにまとめられているオールマイティーな、安心して使えるマイクだと評価している。