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Appleは、「MacBook Pro」(16インチ2023)を2023年2月3日より発売を開始した。新型MacBook Proは「M2 Pro」や「M2 Max」チップによる大幅なパフォーマンス向上が話題だが、8K信号を1本で映像・音声を伝送できるHDMI 2.1規格対応の部分でも注目を集めている。そこで映像家の中川西宏之氏と東京・渋谷のポストプロダクション「NiTRo SHIBUYA」にご協力を頂き、実際に8K外付けディスプレイとの接続テストを行った。

インタビュー当日、中川西氏はNiTRo SHIBUYAで自身が撮影・演出・出演・ナレーションを担当したNHK BS 8Kテレビ番組「ダイビングトリップ」の編集作業真っ最中で、合間を縫って応じて頂いた。検証テストにご協力を頂いた日テレ・テクニカル・リソーシズの友松祐季氏からもコメントも頂くことができたので紹介しよう。

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4K・8K対応のポストプロダクション「NiTRo SHIBUYA」。場所は渋谷駅から徒歩3分で、8K EDIT2室、4K EDIT3室、MA 2室、PD 8室を完備
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MacBook Pro(16インチ2023)は、HDMI経由で8K解像度、60Hzの外部ディスプレイ1台または4K解像度、240Hzの外部ディスプレイ1台に対応

MacBook Proからケーブル1本で8Kモニターと接続

――BS8Kのテレビ番組「ダイビングトリップ」の撮影では、どのようなカメラを使われましたか?

中川西氏:

「ダイビングトリップ」は海の生態に迫るテレビ番組で、水中撮影がメインでした。撮影は基本的に8Kで、カメラは「RED HELIUM 8K S35」、ハウジングは「Nauticam」の組み合わせでした。そのほか、キヤノン「EOS R5」やニコン「Z 9」、GoPro「HERO11」は水中と陸上、富士フイルム「X-H2」は陸上、「DJI Air 2S」は空撮に使用しました。

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「ダイビングトリップ ドラゴンに思いをよせて 西オーストラリアの海」の撮影・演出・出演・ナレーションを担当した合同会社SAIの中川西宏之氏。

中川西宏之|プロフィール:1965年、東京都生まれの山梨県育ち。高校卒業後NHK(日本放送協会)へ入局。技術職としてさまざまな番組制作に携わる中で、「撮影」という仕事で生きていくことを心に決める。伊豆大島での厳しい潜水撮影トレーニングを受け、自然番組などの撮影に関わる。勤務地は甲府、東京、沖縄。2008年、NHKを依願退職。オーストラリア、東京などを経て現在の拠点は沖縄。サンゴの海から南極の湖まで縦横無尽に活動。NHK総合「ダーウィンが来た!」、BSプレミアム「ワイルドライフ」などの撮影を担当。近年は8Kの映像制作に取り組んでいる。

――中川西さんはかなり早い時期から8K撮影や編集制作に関わられていますが、自身の8K編集環境について教えてください。

中川西氏:

メインはMac Proです。SDI 4入出力を搭載した「DeckLink 8K Pro」を搭載して、8K映像をSDI 4本に分割して出力。HDMI 4本に変換して、シャープのHDMIケーブル1本または4本での8K入力に対応した「8M-B32C1」をクライアントモニターとして使用しています。
ただこれまでは、DeckLinkのドライバーをアップグレードすると出力ができなくなるなどのトラブルに悩まされることがありました。HDMIケーブル1本で8Kのやり取りができるのであれば嬉しいですね。

――NiTRo SHIBUYAさんはどのような編集機とクライアントモニターで8K接続を行っていますか?

友松氏:

NiTRo SHIBUYAは、8K対応の編集室を2室完備しています。メインマシンは両室とも中川西さんと同じMac ProとDeckLink 8K Proで、8KをSDI 4本出力し、アストロデザインの8Kコンバーター「VC-8429」で12G-SDI4本をHDMI4本に変換して入力してクライアントモニターへの8K接続を行っています。
ポスプロ業界の8K伝送は、HDMI 2.1の標準化が進んでいますが、現状ではSDI 4本からHDMIに変換してクライアントモニターと接続する方法がまだ一般的です。

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日テレ・テクニカル・リソーシズ、ポスプロ技術センターの友松祐季氏

――ポスプロ業界にはHDMI 2.1をサポートしたPCやメディアプレーヤーはこれまでなかったのでしょうか?

友松氏:

HDMI 2.1対応の周辺機器はBlackmagic Design、アストロデザイン、AJAなど数えるほどしかありませんでした。新MacBook Proの登場で、今後は制作現場において、8K素材を8K解像度で確認することが可能になります。

――実際にMacBook Proからクライアントモニターに8K接続した結果はいかがでしたか?

友松氏:

ソニーのブラビア「KJ-85Z9H」へはケーブル1本で8K接続が可能でした。なにも設定は必要なく、つないだだけであっさり映像が表示されました。シャープの「8M-B32C1」へは、8K対応HDMIスイッチャー「DENON AVS-3」を間に入れることで8K接続が可能でした。

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MacBook Proからソニーブラビア「KJ-85Z9H」への8K接続の様子。ケーブル1本で8K映像の接続が可能
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MacBook Proからシャープ「8M-B32C1」への8K接続の様子。8K対応HDMIスイッチャー「DENON AVS-3」を挟むことで8K映像の接続が可能
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ソース機器とモニターの間に挟んだ8K対応HDMIスイッチャー「DENON AVS-3」

8M-B32C1の8K接続の件をシャープに質問してみたところ、「HDMIの相性問題が発生しますが、8K対応HDMIスイッチャーを間に入れることで解消することができます」という回答だった。

――今後は、MacBook Proと8Kクライアントモニターをロケ先のホテルに持ち込んで8K編集なんていうことも不可能ではなさそうですね。

中川西氏:

国内の狭いビジネスホテルでも可能でしょう。8Kモニターの輸送用に専用ハードケースを作ればさらに移動も楽になると思います。シャープの8Kモニターでは相性があるようですが、それでもMacBook Proとの8M-B32C1の組み合わせは注目ですね。

大幅なパフォーマンス向上を期待できるがコーデックの相性もあり

――MacBook Proの処理能力についてはいかがでしたか?

友松氏:

M1とM2の純粋な比較がわかりやすいと思いますので、書き出し速度をテストしてみました。H.265の8Kの素材を使用して、1時間のシーケンスから8K ProRes 422への書き出しを行いました。M2の場合は、DaVinci Resolve Studio 18での書き出しは約2時間、M1の場合は、約3.5時間でした。コーデックの相性もあるので一概には言えませんが、H.265でのM1とM2との比較は明らかな差が確認できました。
ただし、ポスプロでは書き出し速度よりも、編集中の挙動が重視されます。そのあたりは長い目で使っていかなければ、正直お答えすることはできません。

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中川西氏:

Intel Xeonプロセッサ搭載Mac Proから新型MacBook Proに変えて作業をしてみたところ、コーデックにより快適に動いたり、動きにカクツキが見られたりする現象が確認できました。もっとも処理が重いのはキヤノンのコーデックでした。このあたりはコーデックの相性に左右されるので、一概にAppleシリコンだから快適に動く、インテルだから快適に動くというわけでもなさそうです。
MacBook Pro以外の話になりますが、DaVinci Resolve 18で新しく搭載したProxy Generatorは大変注目の機能だと思いました。例えばREDのRAWで撮り、8Kそのままで素材を直接編集してもいいのですが、プロキシを使って軽快に編集をしたいという場合もあります。この場合は映像素材すべてをProxy Generatorに設定しておけば、朝になったらプロキシができています。DaVinci Resolve、MacBook Pro、8Kモニターの8K編集環境の幅を広げてくれる機能だと思います。
最後に、少し前まで8K編集はトラック1台の機材が必要でした。それが今では、MacBook Proと8Kクライアントモニターがあればどこでも作業ができるようになりました。大変ありがたい時代になりましたね。

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HDMI 2.1は、サポートする8Kテレビや8K業務用モニターの種類は増加傾向にあるが、PC側への対応はこれまで皆無だった。しかし、2023年以降はPC側への対応は増えてきそうだ。HDMI 2.1の普及はこれからだが、テレビ制作や映画製作の業界でも注目すべきき規格といって間違いなさそうだ。

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