1/1.3インチのイメージセンサーに、ライカと共同開発の光学系を搭載。フリップ式タッチディスプレイや自撮り棒消しゴム機能など、使い勝手にも配慮された新アクションカム「Insta360 Ace Pro」が登場した。今回は、Insta360の新機軸とも言える本製品について、じっくりと検証してみたので、そのレポートをお届けしたい。
概要
2023年11月21日に、Insta360より、2つの新製品が発売された。
それが、「Insta360 Ace」と「Insta360 Ace Pro」である。
Insta360は、これまで360°の撮影技術をベースに、様々なユニークなカメラを開発してきた。Insta360 ONE RやONE RSでは、モジュールから成る組み立て式のレンズ交換可能な仕様が画期的であった。Insta360 GOシリーズにおいては、世界最小のアクションカムとして企画され、ハンズフリー且つ究極のウェアラブルな視覚表現の獲得に成功している。今回のAceシリーズは、Insta360としては初の正統派アクションカム製品としてのラインナップとなっている。
1/2インチのイメージセンサーを搭載、レンズがF2.4、動画の最大解像度が6KのエントリーモデルのInsta 360 Aceが、55,000円。ライカと共同開発の上位モデルであるInsta360 Ace Proは、1/1.3インチのイメージセンサーとF2.6のレンズを搭載して、動画の最大解像度が8K、価格は67,800円となっている。
今回は、そのうちのInsta360 Ace Proにフォーカスして、レポートをしていく。Insta360 Ace Proは、4K 30fpsのアクティブHDR動画、4K 120fpsや8K 24fpsの動画、4800万画素の静止画、低照度撮影向けのPureVideo、2.4インチのフリップ式タッチディスプレイなどの機能を実装している。
外観等について
Insta360 Ace Proの筐体は、GoProやDJIのOsmo Action 4のような定番のアクションカムの外観を踏襲している。デザインにおいては、レンズ周辺を縁取る赤いフレームや前面左に配置された横遣いのLEDインジケーターランプ、正面下部の独特な凹凸の造形が印象的だ。
大きさは、71.9mm×52.15mm×38.5mm。重さは179.8g。
正面のディスプレイ(フロント・スクリーン)には、撮影時の設定やカメラ情報が表示される。Recや充電等のカメラの状態も、シアン・赤・黄のライン状のLEDインジケーターランプの点灯及び点滅ではっきりと表示されるので、大変視認性が良い。
一方、2.4インチの背面タッチディスプレイでは、映像のプレビューや各種設定が可能となっており、可変フリップ式の造りは、ローアングルや自撮り撮影時のモニターとして威力を発揮する。詳細な操作は、こちらのタッチディスプレイでおこなうことになるが、物理ボタンとしては、ボディ正面の右側面に電源ボタン。上部にシャッターボタンが配置されている。電源ボタンは、撮影モードを素早く変更できるクイックスイッチの機能も兼ねていて便利だ。電源ボタンの下方には、USB Type-Cの端子とmicroSDカードのスロットを内包するカバーが。左手には、専用リムーバブルバッテリー(1650mAh)のスロットがある。
底面は、マグネットとノッチで固定する設計で、標準マウントを設置すると、GoPro互換マウントとなる。また別売りのクイックリリースマウントを使用することで、より多様なアクセサリーに対応できる。
防水仕様は、潜水ケースなしで最大10m。潜水ケース付きの状態で50mまでのIPX8の防水性能を保持している。使用可能環境としては、-20°C~40°Cまでの温度に対応しており、アウトドアのスポーツ撮影にも心強い。
気になる光学系は、ライカとの共同開発で、レンズは、F2.6、35mm相当で16mmの非球面レンズ「LEICA SUPER-SUMMARIT-A 1:2.6/16ASPH.」である。イメージセンサーは、Insta360 X3の1/2インチより大きく、DJI Osmo Action 4と同等の1/1.3インチで、アクションカムとしては大きい部類に入ると言えるだろう。
マイクは3つ搭載されており、オーディオフォーマットは、48kHz、16ビット、AACである。ジャイロスコープは、6軸ジャイロスコープを搭載。
連続駆動時間は、およそ約100分(25°Cのラボ環境で、AIハイライトアシスタントをオフ、4K 30fpsアクティブHDR動画を録画して、テストした場合)。30W急速充電アダプターで充電した場合は、約22分で80%、約46分で満充電となる。5V/3Aを使用した場合は、充電に約63分ほど掛かる。
通常盤の同梱物は、1650mAhのバッテリー、フレキシブル粘着マウント、標準マウント、Type-C to Cケーブルが含まれている。
操作性について
アクションカムとして、スポーツ撮影等でスムーズな撮影を行うために操作性の良さは最も気になるところだ。
前述の2.4インチのフリップタッチスクリーンは、Vlog撮影、自撮り、スポーツ撮影、バイク走行時等の様々な場面で、アングルの確認や設定に役立つ。また、筐体底面の独自の磁気マウントシステムは、カメラの着脱がスムーズで、アクセサリーの素早い変更が可能となる(ただし、しっかりと固定されているか確認をすることは必要)。
その他、操作性について、特筆すべき項目としては、以下の特徴が挙げられる。
- 音声制御やハンドジェスチャーによる録画の開始と停止、静止画の撮影
- フォトグラブ(4K 60fps以下の動画録画中に、高解像度を維持した状態で、写真をキャプチャーすることができる)
- 録画の一時停止と再開(同一ファイル内で、一時停止や再開を繰り返しながら記録することが可能)
- 録画のキャンセル(シャッターボタンの操作により、録画を素早くキャンセルして、ファイルを削除し、もう一度リテイクすることで、ストレージ使用量を節約できる)
- オートダッシュ(外部電源を接続することで、カメラの電源が自動的に入り、録画を開始する。車載カメラとしての利用に適した機能)
- クラリティーズーム(画面右のズームアイコンをタップするか、タッチディスプレイの画面を2回タップすることで、スムーズに2倍のズームインとズームアウトをすることができる)
また、ユースケースを拡張するための別売りのアクセサリーとして、クイックリリースマウント、潜水ケース、縦横マウント、スクリーンプロテクター、クイックリーダー、多機能自撮り棒、NDフィルターセット、GPSプレビューリモコン等が用意されている。GPSプレビューリモコンを使うと、手元でリアルタイムの映像をプレビューしながら、撮影の設定が可能となる。さらに、正確なGPS情報等のデータを記録して、撮影後に映像に付加することができる。
今回の検証では、多機能自撮り棒を利用してみたが、グリップ、自撮り棒、三脚、マジックアームが一体となったオールインワン設計で、これ一本で様々なアングルをサポートする優れものだった。
動画性能について
動画の解像度は最大8K(7680×4320)24fps。4K(4032×3024)では120fps、1080P(1920×1080)であれば、240fpsまで撮影可能だ。動画のフォーマットは、MP4。コーディングは、H.265とH.264。最大ビットレートは、170Mbpsである。
動画モードには、動画、動画(アクティブHDR)、FreeFrame動画、PureVideo、スローモーション、スターラプス、タイムラプス、タイムシフト、録画を開始する15秒前から記録することができるプリ録画、ループ録画などがある。また、シーン別に5種類のプリセットも用意されており、ライディング、スキー、サーフィン、ダイビング、Vlogの中から適宜、選択して、それぞれを最適なパラメーターで撮影することが容易となる。また、プリセットの名称を変更したり、任意にカスタムのプリセットを設けることも可能だ。
動画モードで、4K 60fps以下を選択した場合、アクション広角、超広角、デワープ、水平維持の画角が選択できる。カラープロファイルとしては、標準、鮮やか、フラットがある。
動画のサイズとフレームレートが4K 30fps以下の場合は、自ずとアクティブHDRが有効となる。日中の明暗差のあるシチュエーションにおいて、ハイライトとシャドウのデティールの再現性を高めて、ダイナミックレンジをカバーする。4K 60fps等の場合は、アクティブHDR撮影は実行されない。
4K 30fps アクティブHDR
4K 60fps
8K撮影は、24fpsであれば可能なので、スポーツには不向きと思われるが、動きの少ないランドスケープの撮影やシネマライクな撮影を志向する場合などでは、アドバンテージがあると思う。
また、4K 120fps撮影も試してみたが、高速の動きを的確に捉えており、スローモーションに適用した場合も、迫力ある映像を実現することができた。
8K 24fps
4K 120fps(スローモーション)
タイムラプス(4K)
手ブレ補正は、オフ、低(一般的なスポーツ向け)、標準(ロードバイク等向け)、高(マウンテンバイク等向け)の4段階が設定されており、補正を強めると、その分、画角は、多少、狭まることになる。FreeFrameモードを選択した場合は、撮影後にInsta360 Studioで手ブレ補正を施すことが可能になるので、後から強度の段階を調整したい場合などは有効である。また、45°水平維持や360°水平維持も選択できるが、カメラを大幅に傾けても、水平が保たれる性能は秀逸だ。ただし、画角はその分、クロップされる。
手ブレ補正(オフ)フリーフレームを使用
手ブレ補正(標準)フリーフレームを使用
手ブレ補正(高)フリーフレームを使用
水平維持 45°
水平維持 360°
ISO感度のレンジは、100-6400。夜間等の暗所の場面では、ライカの光学性能と低照度特性に長けたPureVideoモードのコンビネーションで、ノイズ低減とダイナミックレンジの向上を図る。画造りは、ビビッドな印象だ。因みに、PureVideoモードを選択時のみ、低照度手ブレ補正機能を使用することができる。ただし、シャッタースピードの兼ね合いで、フリッカーの発生や露光不足にならないように注意した方が良い。
低照度撮影作例PureVideoモード
低照度作例 4K 30fps(HDR動画)
オーディオについては、風切り音低減、ステレオ、方向性強調の3つのモードがあり、それぞれをテストしてみた。風切り音低減は、些か人工的な印象があるものの、一定の低減効果が確認できる。方向性強調は、Vlog等に有効なモードとなる。一長一短があるので、適宜、シーンに応じて、試しながら使い分けることをお勧めする。
風切り音低減
ステレオ
方向性強調
クラリティーズーム。画面内のズームのアイコンをタップするか、画面を2回タップするだけで、撮影中に2倍のズームイン/アウトの切り替えができる
静止画性能について
写真の解像度は、最大8064×6048(4800万画素)で、競合機を大幅に上回る解像度となっている。フォーマットは、JPG、DNG RAW。撮影モードは、写真、HDR写真、インターバル、バースト写真が選択できる。
AI機能について
AIハイライトアシスタント機能を使用すると、撮影した動画内のハイライト場面を分析、自動的に検出して、カメラ内でプレビューすることができる。その後、Insta360アプリと繋げば、スマホからSNSのプラットフォーム等へ、素早く簡単にシェアすることができる。ここでも、ストレージ等のリソースの節約が考慮されていることが伺える。
また、DJI OSMO Action 4にも搭載されていた自撮り棒消しゴムツールが、Insta360 Ace Proでも採用されており、映り込んでしまった自撮り棒を、AI処理によって、撮影後に削除することが可能になる。360°の撮影では、同社が「見えない自撮り棒」と呼ぶように、視差と死角の影響で、自ずと自撮り棒が映らないのだが、アクションカムの場合では、そうはいかないので、除去する場合は、後処理が必要になる。Ace Proの自撮り棒消しゴムツールを試してみたところ、手元の部分をよく見ると、処理が些か不自然な場合もあるが、自撮り棒自体の除去は、簡単に実行できるので、スポーツ及び三人称視点の撮影やVlog等の自撮り撮影等の場面で活用できることだろう。それから、Insta360アプリの編集ラボに追加されたAIワープを適用することで、「Anime」や「Cyberpunk」など、AIの映像処理ならではの斬新なエフェクトを、手軽に楽しむことができる。利用する場合は、アプリからログインして、Insta360のサーバーに動画データをアップロードして、クラウド上で処理を実行する形となる。
自撮り棒消しゴムツール(適用前の元動画)
自撮り棒消しゴムツールを適用して、映り込んだ自撮り棒を削除してみた
Ace Proで撮影した実写の映像に、AIワープの「Anime」のテンプレートを適用した作例。AI画像処理ならではのユニークなエフェクトを施した動画を、手軽に生成して、楽しむことができる
まとめ
Insta360は、これまで360°撮影のテクノロジーを、VR以外のアクションカメラ的な場面にも活用することで、独自の存在感を発揮していた。ところが、今回のAceシリーズでは、これまで培ってきたエッセンスを活かしつつも、言わば正統派のアクションカムの領域に真っ向から挑戦している点で興味深い。
定評のある手ブレ補正はもとより、水平維持や自撮り棒系ゴムツール、AIハイライトアシスタントなど、ソフト面における様々な高機能を繰り出しながら、ライカとのコラボレーションで、光学面を補強する戦略も見事である。
画質については、4K 30fps以下の場合は自動的にアクティブHDRが有効になり、プロセルルール(CPU内の配線の太さ)が5nmのAIチップによる画像処理で、ノイズを低減し、シャープ且つ、ダイナミックレンジを広くカバーした映像を生成している。ただし、場面や好みによっては、HDRか否かを任意に選択できる方が好ましいと考えるユーザーもいるかも知れない。また、動画のシャープネスについては、最大、高、中、低から選択ができるが、個人的にはデフォルトの、「高」だとシャープ過多な印象だったので、適宜加減することも、イメージクオリティーをキープする上で、使いこなしのコツとなると思われる。また、拡張的な用い方として、Aceシリーズに搭載されている統計ダッシュボード機能を利用することで、GPS、速度等リアルタイムの統計情報を、動画に追加することが可能となる。Apple WatchやGarmin社のデバイスと連携して、データを統合することもできるから、サイクリングやランニング等の映像を、より実用的なコンテンツに仕上げることができることだろう。
Ace Pro、及びAceは、Insta360.com 公式ストアや全国の量販店(一部店舗を除く)と各社オンラインショップ、アマゾン、楽天などで販売中。